KILLER〜血まみれの手を持つ永遠の美少女〜

鶴機 亀輔

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KILLER〜血まみれの手を持つ永遠の美少女〜

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「……ねえ、またなんだって」と女生徒のひとりが勉強するふりをしながら口を開いた。

「知ってる、知ってる! 食べられちゃったんでしょ!?」

 彼女と対面する形で座っていた少女はシャーペンを持ったまま顔を寄せ、小声で相づちを打つ。

「そうなんだよ。これで十二人目になるんだって。怪我人も含めたら、三十人超えだって!」

「怖いねー……もうひとりじゃ夜中、出歩けないよ」

「決まって満月の夜に姿を現すんでしょ?」

「そうみたい。新種の怪物――アンデッド! もう怖すぎだよ……」

 そうして、ふたりが眉を寄せているところへコツコツと神経質そうな、くつ音がする。

「おふた方、図書館では、お静かにしていただけませんか?」

 返却された本を書庫に返し終わった少女は腰に手をあて、抑揚のない話し方をして彼女らに声をかける。

はなちゃん、ごめん」

「見逃してー」

 話題を振った少女が肩をすくませ、相づち打ち会話に参加した少女が顔の前で両手を合わせた。

「テスト期間にみんな勉強に集中するためにここへ来るんだし、本を読んだり、レポートを提出するための資料をさがしている人もいるの。今後は気をつけるように」

 しゃべっていた少女たちの気の抜けた「はーい」という返事を聞き届けると鋭い視線を送り、きびすを返す。

 そうして彼女は静かに受付のデスクへ戻り、椅子に座った。背筋をまっすぐのばし、バラと百合の花が描かれたブックカバーがかけられた文庫本を手に取り、目線を落とす。

かきさん、相変わらず厳しいね」

「だよね。めちゃくちゃ怒ってた!」

「品行方正で成績優秀。校則も遵守してて、まじめって言葉がぴったりな人だもんね」

「部活の後輩が本を水筒のお茶で汚しちゃったんだけど、鬼みたいな形相して、こっぴどくしかったんだって」

「マジか……目つけられて図書室から追い出されないにしよう」

「ほんと、それ。おしゃべりするときは廊下で話そう」

 注意された女子生徒を目にした、ほかの女子たちがヒソヒソ声で話す。

 話題の中心となっている花絵はというと……「ここが図書館じゃなければ、アンデッドについての話について、もっと聞けたのに!」と内心、非常に残念がっていたのだ。

 漫画家である超能力を母から受け継いだ彼女は子どもの頃からアニメや漫画、小説、映画やドラマを親しんできた。

 いつかは自身も絵を描く仕事につきたいと思い、勉強の傍ら絵を描いてきたのだ。高校に上がってからは父とともに母のアシスタントにつき、小遣い稼ぎもしている。

 そんな彼女が好きなのは、アンデッド。なかでもゾンビが好きだった。

 今から千年前の二十世紀、世界的にブレイクした男性歌手が赤い衣装に見を包み、ゾンビたちと踊り、歌うMVを見てから彼女の頭の中は寝ても覚めてもゾンビ一色になったのである。

 ゾンビを取り扱っている古今東西のコンテンツを目にし、ゾンビについて書かれた文献を読みあさり、ゲームを遊んだ。

 ゾンビが町を闊歩するイラストを描き、漫画を作成した。奇妙で不気味なゾンビと退廃的な世界観を耽美に描き、賞を獲得し、両親や祖父母からも賞賛の声をもらった。

 そんな彼女のここ最近の目標は、ゾンビの魔獣とパートナー契約をすることだ。

 半年前からトウキョウのシブヤ地区で満月の夜が近づくたびにゾンビが見かけられている。監視カメラにもゾンビたちが夜の道を闊歩している姿が映っている。

 そうして、ゾンビの姿が映るとすぐに監視カメラの映像が乱れ、彼らがいた場所に人間の死体が落ちているのが、お決まりだ。

 亡くなった人間は、まるで獣に食べられたみたいに腹は穴が空き、脂肪や筋肉、胃や腸がなくなっている。ときには手足もバラバラにされ、骨や中の骨髄まで食われている状態だったり、頭蓋を割られて脳を食われて損壊がひどい状態で発見される。

 マスコミは日夜おもしろおかしく「ゾンビの百鬼夜行! 夜中、目にした人間を手当り次第に襲う!?」という新聞やネット記事を出し、ニュースやSNSで騒動になり、警察と自衛隊にバッシングの荒らしだ。

 しかし、どんなに恐ろしい魔獣も契約さえすれば、主人を傷つけるような真似は絶対にしない。

 むしろ、しつけのなってない犬や、うり坊といるイノシシ、山から降りてきた猿、動物園から脱走したライオンなどよりも、ずっと安全だ。

 よりリアルなゾンビを見たいという欲望、不死になり人間を襲う気分に関する好奇心、そして世間をにぎわせている凶悪な魔獣のいうことをきかせられるのは自分だけという優越感に浸りいという思いから花絵はゾンビ型の魔獣に興味を示していた。何よりもパートナーとなったゾンビと写真を撮り、ネットに上げれば承認欲求満たせるだけでなく、名前を売れる。ビジネスとして成り立つ。

 そんなことを考えていれば下校時刻のアナウンスが流れ、帰り支度を済ませた生徒たちかた図書室を出ていった。

 花絵は受付のデスク閉じた本を置き、下に置いてあったリュックを手に取り、チャックを開ける。

「いっけないーんだ。エログロ小説を学校に持ち込んだりして。校則違反だよ」

 頭上から鈴を転がすようなかわいらしい声がし、おもむろに顔を上げる。

おり……」

 明るい茶髪ヘアの少女は、ピンク色のネイルが塗られた両手で文庫本を手にしていた。扇で口元を隠すみたいにして、大きなどんぐりのような目だけをのぞかせる。

「ふうん、フォークとケーキっていう捕食者と被食者の話なんだ。ケーキみたいに甘い人間を食べたいだなんて、おもしろいね。容姿のいいゾンビみたい」

「ちょっと返してってば!」

 手をのばし、つま先立ちになりながら、取り返そうとしたところで本を上に上げられてしまう。

「うわっ……!」

 花絵がバランスを崩し、倒れそうになったところで背中に詩織の手が回る。

 そうして花絵は、のけぞった状態になり、詩織の髪が顔にかかる。

 そうして彼女たちはキスをした。

「ん……っ、」

 血色のよい桃色をした唇とグロスリップの塗られた赤い唇が角度を変えて重なり合う。

 詩織は、そのまま花絵を図書室のデスクへやさしく押し倒した。

 まな板の上の鯉になった花絵は詩織の首に腕を回す。もっと深い口づけをしてほしいとせがむように彼女を引き寄せ、ささやかなふくらみのある胸と豊満な胸がブレザーの固い布越しに押しつぶされる。

 詩織は目を細め、赤くぬめった舌を出し、花絵の唇を味見するかのように舐めあげた。

 すると花絵は薄い唇を開き、彼女の舌を自らの口内へと招いたのだ。

 いつ戸締まりの確認をしに見回っている教師や、駆け込みで図書の返却や貸し出しに来る生徒が、やってくるかわからにスリルを味わうように互いを求め合う。

 唇を解放すると花絵は息を切らしながら、唾液でテラテラと光り、ぽってりとした唇で弧を描いた。

「……学校内で不順同性行為をしてる詩織に言われたくないよ。スケベ」

「そんなふうに口答えしていいの?」

 楽しそうに笑みを浮かべながら詩織は、花絵の服を着た上半身に手を這わせる。

「あっ……! やめてよ、こんなところで盛らないでってば……」と眉を寄せた花絵は、詩織の肩を押し返そうとし、足をばたつかせる。

 だが詩織はムッとした顔つきをして、身体の両サイドにある花絵のタイツを履いた足を逃げられないように、両手で掴んだ。

 まるで男のように強い力だ。あれ? 詩織って、あんまり握力なかったような……と、おっかなびっくりしながら花絵は目を丸くする。

「盛ってるのは、どっちよ? 小説の中に出てくるゾンビみたいなキャラに興奮してたんでしょ」

「そっ、そんなんじゃないってば!」

「どうかしらね」と詩織は鼻で笑い、顔を横に背ける。「近頃、世間を騒がせているゾンビの魔獣をパートナーにしたいとか思ってるんじゃないの?」

 図星を突かれて花絵は言葉に窮した。

 目線を戻し、そんな彼女をじっと見つめていた詩織が唇を開く。

「いいんじゃないの」

「へっ?」

「ゾンビのパートナーを持つの。今までそんな人間なんて誰もいなかったし、ギネスに登録されて、話題作りができたり、漫画の企画も編集部に通るかもしれないわよ」

「詩織、反対しないの?」

 以前なら、「そんな恐ろしいこと、やめなさいよ! 契約をする前に食べられちゃったら、どうするの!?」と口を酸っぱくして注意してきた彼女が、すんなり肯定してくれたことに花絵の目は点となる。

「彼女が精いっぱい、がんばっているのを応援するのも恋人の務めよ。がんばって」

 胸がいっぱいになった花絵は身を起こし、「詩織……大好きだよ!」と目の前の愛する人に思いきり抱きついた。

「私も、あなたが好きよ」

 花絵の足首から手を離した詩織は、ゾンビ好きな恋人の背に腕を回す。

 そうして、ふたりは、ふたたび口づけをしようとしたのだ。

 が――ガラッと豪快に図書室の扉が開いた。

 きゅうりを蛇と勘違いし、飛び上がる猫みたいに花絵は座っていたデスクから飛び退いた。音のしたほうへ目線をやると、そこには胸に大きな書物を抱えた背の低い美少女の姿があった。

りょうさん!」

 腰まである黒檀のような黒髪のウェーブヘアに、紅茶色の瞳。ビスクドールのような整った顔立ちに長い手足をした少女が、冷たい目つきで花絵と詩織を見据えた。

「――そこで何をしているの、あなたたち」

「え!? え、ええっと、こっ、これはですね、目に入った逆まつ毛を親友に取ってもらっていたところでして」と気が動転した花絵は、どもりながら苦しい言い訳を口にする。

 しかし御陵と呼ばれた美しい少女は、そんなことはどうでもいいという態度をとった。静かに図書館の中へ入り、デスクの上に本を置いたのだ。『オカルト図鑑』と書かれた分厚い本に、花絵は、ぎょっとする。

「返却をお願いします」

「は、はい……」

 慣れた手つきで返却処理をしながら、内心――なんで詩織とイチャイチャしてたのに御陵さんが邪魔しに来るわけ!? タイミング悪すぎじゃない? と毒づく。

 黄色いキャビネットの中へ重たい本を移し、明日またやろう、とため息をついて花絵はリュックを背負った。

「以上で終わりです。ありがとうございました。本を借りる際は、また明日、お寄りください。行こう、詩織」

「うん、帰ろっか」

 閉室中の札をデスクに置き、詩織と手をつないだ花絵は、御陵の横を通り過ぎる。

 その瞬間、「あなたたち、ゾンビの話をしてたわね。絵描さんが、ゾンビのパートナーをほしがっているとか」

 ほとんど彼女と会話をしたことがなかった花絵はドキッとしながら、「そうですけど……」と視線を泳がせて、歯切れ悪く答える。

「バカなことは、やめなさい」

「はい?」

 思わず、すっとんきょうな声をあげ、花絵は御陵のほうへ顔を向けた。

「アンデッドをパートナーにできると思ったら大間違いよ。愚かなことは考えず素直に、ほかの聖獣や魔獣を選びなさい」

 何、こいつ? 教師みたいに偉そうな口きいちゃって!

 むしゃくしゃしながら花絵は「ご忠告ありがとうございます! 閉館作業を行うので早急に退出してください」となかば叫ぶようにして、図書室から御陵を追い出すことに成功したのだ。

 職員室に鍵を返すため、道ズンズン歩きながら「超、ムカつく! マジあり得ない」と花絵は鼻息を荒くした。

「ねえ、花絵。さっきの人、誰?」

「御陵つむぎさん。うちのクラスの転校生」

「きれいな子だったよね。仲いいの?」

 詩織が尋ねると花絵は「まさか!」と大声を出す。「いつもひとりでいるし、ほかの子が話しかけても、あの通り。お高くとまってるんだよ」

「そうなの?」

「そうだよ。『友だちは必要ない』ってクールぶってるし、笑ったところだって一度も見たことないもん。大嫌い!」

「そっか」

 微笑を浮かべる恋人に、花絵は満面の笑みを浮かべる。

「ねえ、詩織。そんなふうに嫉妬しなくても大丈夫だよ。わたしが好きなのは詩織だけだもん」

「……そう、そうよね。」

「うん、そうだよ。詩織が、しわくちゃのおばあちゃんになっても大好き!」

「私も花絵がどんな姿になっても好きよ。たとえ、お相撲さんみたいな格好になってもね」

「えー! 何それ」

 冗談を言い、軽口を叩きながら帰路につく。

 そんな彼女たちの後ろ姿を紬は、鋭い目つきで、じっと睨みつけていた。



   *



「今日の授業はここまでだ」

「はーい、ありがとうございます」

 対面での試験対策に向けた授業を終えた花絵は帰り支度をする。

 塾講師に挨拶をし、扉をくぐって外に出る。

 昨今のゾンビ事件のせいで親が送迎を担当することになり、車で送り迎えをしてもらっている花絵は腕時計型端末を起動させた。「少し遅れる」という母からのメールを確認し、ため息をつく。

「そうだ!」と花絵は表情を明るくさせ、即座に受付に向かった。



 花絵は電車に揺られていた。

「母が急に熱を出して来れなくなった」と塾長に嘘の報告をし、母親には「電車の遅延で詩織の親が来られなくなったから詩織を迎えに行ってくる。シブヤまで来て」とメールを出したのだ。

 彼女は、シブヤでピアノを習っている詩織に電話し、後で落ち合うことにした。

 電車を降りると花絵は駅の改札を通り、外へ出て、迷うことなく歩を進める。行き先はニュースで報じられたゾンビの出没地帯だ。

 ――ふんだ! 何が『バカなことはよしなさい』よ。絶対にゾンビの魔獣をパートナーにして、鼻持ちならない御陵さんを見返してやるんだから。

 現場へ近づくにつれて次第に人の数は減っていく。

 空には大きな丸い赤い月が浮かんでいる。

「ここね」

 警察が見回りをしているという話を聞いたが、辺りには人っ子ひとりいない。

 のどを鳴らして花絵はゾンビの大群が歩いていた場所を進んだ。

 アスファルトの濃い灰色をした地面は、ところどころ赤黒く変色していた。

「ゾンビさん、ゾンビさん、どうかいらっしゃいましたら、わたしのパートナーになってください」と歌うように話しながら花絵はゾンビの姿をさがした。

 すると、どこからともなく男の断末魔が聞こえる。

 花絵はぶるっと身体を揺らし、硬直する。

「きっとゾンビが現れたんだわ!」

 彼女は早足で声がしたほうへ向かった。

 そうしてビルの隙間を縫い、角を曲がると……「こんばんは、花絵」

 大量のゾンビ集団を引き連れた詩織がいたのだ。

 制服に身を包んだ彼女の口もとと手は赤く染まり、足元には右腕を失い、イモムシのように身をよじらせ、うめいている男のサラリーマンがいた。痛みに目を白黒させ、必死の形相をしている男をゾンビたちは取り囲み、次の瞬間、男の悲鳴と骨の折れる音や服が破れ、肉を噛みきり、引きちぎる音がした。

 信じられない光景に花絵は己の目と耳を疑う。

 呆然としながら「詩織……何をしてるの?」と抑揚のない声色で訊く。

「食事よ。みんなで、お夕飯を食べているの」

 そういう彼女らの近くには、女物の下着や学生カバン、血まみれの切り裂かれた洋服や指輪などが散らばっていた。

 犬や猫がウェットタイプのご飯を食べるような音がする。肌が腐り、うじの出ている身体をしたゾンビたちが、たかっている。

 その中心には首から下のない女性の頭と変な方向に向いている手足が、かすかに見えた。

 腰を抜かした花絵は、こちらにゆっくり近づいてくる恋人の姿を無言で見上げた。

「花絵は私が、おばあちゃんになっても愛してくれるんでしょ? だったら、ゾンビとして人間を食べる私のことも受けて入れてくれるよね」と小首をかしげる。

 いつもと変わらない様子でいる詩織の姿に、おびえながら「わたしも、その人たちみたいに食べるの? 詩織」と問いかけた。

「やだ、そんなことするわけないじゃない。安心して。私、好きな人を食べたりするようなことはしないわ」

「そっ、そう……」

 ほっと花絵が安心し、息をついた瞬間、詩織の周りにいたゾンビが花絵の手を両サイドから拘束する。

「何をするの!?」

 腰をかがめた詩織は、べったりと血のついた両手で、身動きのとれなくなった花絵の両頬を包んだ。

「食べない変わりに花絵には私たちと同じゾンビになってもらうわ。じゃないと一緒の時間を生きられないもの」と口の端を上げて詩織は、微笑する。

「そんな、やめて……詩織!」

「大丈夫。やり方は吸血鬼と同じよ。私が首筋を噛めば、あなたも仲間入り。痛いのは一瞬だけだから我慢してね」

 そうして詩織はのどを鳴らし、花絵の首筋へと唇を寄せた。

「だから言ったでしょう。バカなことは考えるなって」

 闇を切り裂くような閃光が走り、轟音がすると詩織の従えていたゾンビが吹き飛び、爆発四散した。

「その子を離しさなさい、アンデッド」

「御陵さん……」

 絶望に染まり、涙を流していた花絵の瞳が紬の姿をとらえる。両手に銀の銃を構えた彼女は、花絵を拘束していたゾンビの頭を打つと、ゾンビは砂になって姿を消した。

「あら、やっぱり、あなた、エクソシストや悪魔祓いだったのね」

 パキパキと枝がを折れるような音がすると詩織は女子高生から大柄のゾンビへと変貌し、紬と対峙する。

「残念、はずれよ」

「何?」

「私も、あなたと同じ、アンデッド。愛する人を死に追いやった罰として、永遠に少女の姿のまま、この世の終わりまで生きる使命を与えられたものよ」と紬が言うと同時に爆発音がし、ゾンビたちの身体が次々と炎に包まれていく。

「これは!」と叫んだ化け物や花絵の足元には大きな魔法陣が書かれていた。

「聖なる結界による効力で、この結界内に足を踏み込んだ邪悪な低級アンデッドは火で焼かれ、灰燼と化す」

「おのれ、貴様!」

 ゾンビとなった詩織が紬に襲いかかろうとする。

 だが紬はゾンビの親玉である詩織よりも速く、彼女の懐へ飛び込んだ。詩織だったものの額に銃口を突きつけられる。

「でも、あなたと私は違うわ」

 そうして引き金を引くとゾンビの親玉の頭は吹っ飛んだ。

 紬の手や顔に飛沫した血が付着する。

 頭をなくしたゾンビの親玉の身体がふらつき、地面に倒れる。

「詩織……」

 震える手で花絵が触れようとしたが、ゾンビの身体は砂となり、風に吹かれて飛んでいってしまった。

 すると紬の身体についた血も嘘のように消える。

「無駄よ。その子は人間に化けて人を食らうアンデッドになる道を選んだの。もう人間として生き返ることはないわ」

「なんで詩織はゾンビになんてなったの……?」

 放心状態の花絵を立ち上がらせ、紬はハンカチで彼女の頬についた血を拭ってやる。

「さあね……ただ人間は永遠に一緒にいることはできないわ。仲のいい家族でも、いずれ別れのときが来る。ましてや年の若い恋人や友人が天寿をまっとうするまで交流を保つのは難しい。ゾンビ好きのあなたと一緒にいるためにさき詩織は人間であることをやめたのかも」

 赤色回転灯の回る車がやってきて、サイレンが、けたたましく響いた。

「花絵!」

「……お母さん」

 止まったパトカーから花絵の母親が降り、警察官の男女が駆けつける。

 男の警察官は紬から話を訊き、女の警察官は茫然自失状態の花絵に「怪我はない?」と尋ねる。

 堂々とした態度で強面の警察官に事情を伝える紬の姿を目にした花絵が唇を開いた。

「御陵さん、あなた、一体何者?」


 警察官と話し終えた紬は花絵のほうに身体を向ける。

「私はKillerキラー。永遠の若さと命を得た代わりに人間たちへ害を与えるアンデッドを屠り、この手を赤い血で染める者よ」

 少女はウェーブのかかった長い髪をなびかせ、闇の中に紛れ、花絵の前から去っていったのだった。

 新たな獲物をさがすために――。
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