37 / 42
第9章
不意打ちのやさしさ1
健太くんと高坂さんがいなくなり、ぼくはため息をついた。
プリクラを取ろうとして機械を選んだり、取り終わって帰っていく人たちを、ぼんやり見つめる。
――隼人のそばにいたいからゲームセンターなんて来たけど、結構疲れるな。点滅したり、ギラギラ光るネオンはまだいいけど、音がいっぱいゴチャゴチャしていて聞き分けできない。
無理やり好きじゃない音を延々と聞かされて頭が痛くなってきた。
周りの人たちは楽しそうに友だちや恋人と話ししているのに、ぼくだけ憂鬱な気分でひとりベンチに座っている。
なんだか場違いな感じがして余計に落ちこんだ。
「どうせ、来てくれるわけないよ」
「誰が来ないって?」
おもむろに顔を上げれば、ぶすっとした顔の隼人が目の前に立っていた。
「……なんで来たの?」
「『ガキンチョと梨花に行けって命令された』って言われたいわけ?」
質問を質問で返される。
元気なときだったら「それ以外にある!?」って牙を剥いた。
でも頭の中で数え切れないくらいの音や音楽、人の声がグワングワンとまざりあって気持ち悪い今は、そんな喧嘩腰にもなれなかったのだ。
「そういうわけじゃないよ。君が来てくれて、うれしいと思ってる」
「……帰る?」
「うん」
このまま内村くんたちと合流しようと立ったら、ひどいめまいがして、足もとが異様にふらつく。
あっ、まずいかも……と思ったけど、地面を踏ん張る力が入らなくて身体は重力に従い、前へ傾いた。
「渉!」
床に倒れる前にぼくの身体は、隼人に抱きとめられた。
獣医になるため猛勉強しているけど、ツーリングが好きでスポーツも不得意じゃない。中肉中背、普通体型のぼくと比べて女の子みたいに細くて華奢なのに、やっぱり女の子と違って力がある。
そのまま男ふたりで床に転がったりせずに済んだ。
大好きなにおいに包まれる。
ちょうど固い胸もとに耳を寄せる状態になった。服越しに、隼人の心音が、かすかに聞こえてきた。
苦手な音は変わらず鳴り響いているのに、それだけで不思議なくらい気分が落ち着いた。
少し顔を上げてみたた、眉根を寄せたあいつが「平気?」と心配そうに尋ねてきて、胸がきゅうと締めつけられる。
「ありがとう。もう少しだけ、こうしてもらっていてもいいかな?」
ヒューマン・トランスフォーマーでも女の子だったらかわいく甘えられたり、長年信頼しあっている友だちだったら違和感なくすんなり伝えられたのかな?
「平気だよ、ごめん」
「謝るくらいなら無理すんなよ」
「うん、そうだね」
支えとなってくれている隼人から離れ、自分で立とうとしたら、またふらついてしまったのだ。
結局、隼人の手を借りてベンチに戻る形になってしまった。
黒髪をかき上げた隼人が、あからさまに、ため息をつく。
「……隼人、早く内村くんたちと合流しなよ」
「はあ? どういうこと」
「風邪とかで体調不良ってわけじゃないんだ。いつものやつ。音がうるさくて、ちょっと具合が悪いだけ」
「だったら、なおさら帰れないって」
横にドカッと腰を落とし、UFOキャッチャーで取った景品か何かが入っている箱を、開け始める。
「そんな状態のおまえを置いて、梨花やガキンチョのとこへいけると思う?」
「それは……そうだよね。何言ってるんだろ」
内村くんたちは、ぼくたちが付き合っていると思っているし、健太くんはぼくが隼人に片思いしているって気づいてるんだ。
このまま、ぼくを置いていったりしたら、「人でなし」とか「冷たいやつ」って非難轟々の嵐。隼人が責められるのに気が回らない。
前髪や横髪に触れていると隼人が「おまえさあ」と声をかけてくる。
「梨花やガキンチョに言われたから来たと思ってるんだろうけど、オレは自分の意思でここまで来た。嫌いなやつに構っていられるほど暇じゃない」
「だったら、なんで……?」
顔を横に向けたら、両耳にやわらかなクッションがあたる。問答無用で入ってきた鼓膜をつんざかんばかりの雑音が軽減された。
ヘッドホンをかぶせてくれた幼なじみの目を見つめながら次の言葉を待つ。
「おまえのことが嫌いじゃないから」
「何それ……」
――「おまえのことが好きだからだよ」
そんな言葉をもらえるんじゃないかと淡い期待を寄せた自分が恥ずかしい。
隼人に「幼なじみだから」とか「赤ん坊の頃から面倒見てる弟みたいな存在」なんて言われたら、今よりもっと傷つくくせに、小さい子どもみたいに、いじけてる。
「渉は、目ぇ離すと、すぐに危なかっしいから、ほっとけないわけ。ガキの頃から機械とか電子音がガンガンにかかってるとこ、苦手なのに無理してゲーセンなんか来るし。なんで無理したわけ?」
そんなの決まってる。
顔を合わせれば喧嘩ばかり。
ほかの人たちみたいに話せないもどかしさや同じ間違いを繰り返す自己嫌悪、思ってもいない言葉をぶつけてしなう悔しさ、トゲのような言葉が胸に刺さって感じる悲しみから犬に変身しちゃう。
そんなきみと会いたいけど会いたくない。そばにいたいけどいたくない。
矛盾ばっかりの気持ちにさせる隼人と今日、会ったらうれしくないのにうれしくて、離れたいけど離れたくなかったんだ。
プリクラを取ろうとして機械を選んだり、取り終わって帰っていく人たちを、ぼんやり見つめる。
――隼人のそばにいたいからゲームセンターなんて来たけど、結構疲れるな。点滅したり、ギラギラ光るネオンはまだいいけど、音がいっぱいゴチャゴチャしていて聞き分けできない。
無理やり好きじゃない音を延々と聞かされて頭が痛くなってきた。
周りの人たちは楽しそうに友だちや恋人と話ししているのに、ぼくだけ憂鬱な気分でひとりベンチに座っている。
なんだか場違いな感じがして余計に落ちこんだ。
「どうせ、来てくれるわけないよ」
「誰が来ないって?」
おもむろに顔を上げれば、ぶすっとした顔の隼人が目の前に立っていた。
「……なんで来たの?」
「『ガキンチョと梨花に行けって命令された』って言われたいわけ?」
質問を質問で返される。
元気なときだったら「それ以外にある!?」って牙を剥いた。
でも頭の中で数え切れないくらいの音や音楽、人の声がグワングワンとまざりあって気持ち悪い今は、そんな喧嘩腰にもなれなかったのだ。
「そういうわけじゃないよ。君が来てくれて、うれしいと思ってる」
「……帰る?」
「うん」
このまま内村くんたちと合流しようと立ったら、ひどいめまいがして、足もとが異様にふらつく。
あっ、まずいかも……と思ったけど、地面を踏ん張る力が入らなくて身体は重力に従い、前へ傾いた。
「渉!」
床に倒れる前にぼくの身体は、隼人に抱きとめられた。
獣医になるため猛勉強しているけど、ツーリングが好きでスポーツも不得意じゃない。中肉中背、普通体型のぼくと比べて女の子みたいに細くて華奢なのに、やっぱり女の子と違って力がある。
そのまま男ふたりで床に転がったりせずに済んだ。
大好きなにおいに包まれる。
ちょうど固い胸もとに耳を寄せる状態になった。服越しに、隼人の心音が、かすかに聞こえてきた。
苦手な音は変わらず鳴り響いているのに、それだけで不思議なくらい気分が落ち着いた。
少し顔を上げてみたた、眉根を寄せたあいつが「平気?」と心配そうに尋ねてきて、胸がきゅうと締めつけられる。
「ありがとう。もう少しだけ、こうしてもらっていてもいいかな?」
ヒューマン・トランスフォーマーでも女の子だったらかわいく甘えられたり、長年信頼しあっている友だちだったら違和感なくすんなり伝えられたのかな?
「平気だよ、ごめん」
「謝るくらいなら無理すんなよ」
「うん、そうだね」
支えとなってくれている隼人から離れ、自分で立とうとしたら、またふらついてしまったのだ。
結局、隼人の手を借りてベンチに戻る形になってしまった。
黒髪をかき上げた隼人が、あからさまに、ため息をつく。
「……隼人、早く内村くんたちと合流しなよ」
「はあ? どういうこと」
「風邪とかで体調不良ってわけじゃないんだ。いつものやつ。音がうるさくて、ちょっと具合が悪いだけ」
「だったら、なおさら帰れないって」
横にドカッと腰を落とし、UFOキャッチャーで取った景品か何かが入っている箱を、開け始める。
「そんな状態のおまえを置いて、梨花やガキンチョのとこへいけると思う?」
「それは……そうだよね。何言ってるんだろ」
内村くんたちは、ぼくたちが付き合っていると思っているし、健太くんはぼくが隼人に片思いしているって気づいてるんだ。
このまま、ぼくを置いていったりしたら、「人でなし」とか「冷たいやつ」って非難轟々の嵐。隼人が責められるのに気が回らない。
前髪や横髪に触れていると隼人が「おまえさあ」と声をかけてくる。
「梨花やガキンチョに言われたから来たと思ってるんだろうけど、オレは自分の意思でここまで来た。嫌いなやつに構っていられるほど暇じゃない」
「だったら、なんで……?」
顔を横に向けたら、両耳にやわらかなクッションがあたる。問答無用で入ってきた鼓膜をつんざかんばかりの雑音が軽減された。
ヘッドホンをかぶせてくれた幼なじみの目を見つめながら次の言葉を待つ。
「おまえのことが嫌いじゃないから」
「何それ……」
――「おまえのことが好きだからだよ」
そんな言葉をもらえるんじゃないかと淡い期待を寄せた自分が恥ずかしい。
隼人に「幼なじみだから」とか「赤ん坊の頃から面倒見てる弟みたいな存在」なんて言われたら、今よりもっと傷つくくせに、小さい子どもみたいに、いじけてる。
「渉は、目ぇ離すと、すぐに危なかっしいから、ほっとけないわけ。ガキの頃から機械とか電子音がガンガンにかかってるとこ、苦手なのに無理してゲーセンなんか来るし。なんで無理したわけ?」
そんなの決まってる。
顔を合わせれば喧嘩ばかり。
ほかの人たちみたいに話せないもどかしさや同じ間違いを繰り返す自己嫌悪、思ってもいない言葉をぶつけてしなう悔しさ、トゲのような言葉が胸に刺さって感じる悲しみから犬に変身しちゃう。
そんなきみと会いたいけど会いたくない。そばにいたいけどいたくない。
矛盾ばっかりの気持ちにさせる隼人と今日、会ったらうれしくないのにうれしくて、離れたいけど離れたくなかったんだ。
あなたにおすすめの小説
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第3話を少し修正しました。
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
※第22話を少し修正しました。
※第24話を少し修正しました。
※第25話を少し修正しました。
※第26話を少し修正しました。
※第31話を少し修正しました。
※第32話を少し修正しました。
※第33話を少し修正しました。
────────────
※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!!
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる
蒼井梨音
BL
箱入り公爵令息のエリアスは王太子妃候補に選ばれる。
キラキラの王太子に初めての恋をするが、王太子にはすでに想い人がいた・・・
僕は当て馬にされたの?
初恋相手とその相手のいる国にはいられないと留学を決意したエリアス。
そして、エリアスは隣国の王太子に見初められる♡
(第一部・完)
第二部・完
『当て馬にされた公爵令息は、今も隣国の王太子に愛されている』
・・・
エリアスとマクシミリアンが結ばれたことで揺らぐ魔獣の封印。再び封印を施すために北へ発つ二人。
しかし迫りくる瘴気に体調を崩してしまうエリアス……
番外編
『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子の胸に抱かれる』
・・・
エリアスを当て馬にした、アンドリューとジュリアンの話です。
『淡き春の夢』の章の裏側あたりです。
第三部
『当て馬にされた公爵令息は、隣国の王太子と精霊の導きのままに旅をします』
・・・
精霊界の入り口を偶然見つけてしまったエリアスとマクシミリアン。今度は旅に出ます。
第四部
『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子といばらの初恋を貫きます』
・・・
ジュリアンとアンドリューの贖罪の旅。
第五部(完)
『当て馬にした僕が、当て馬にされた御子さまに救われ続けている件』
・・・
ジュリアンとアンドリューがついに結婚!
そして、新たな事件が起きる。
ジュリアンとエリアスの物語が一緒になります。
書きたかったことが書けた感じです。
S S
不定期でマクシミとエリアスの話をあげてます。
この2人はきっといつまでもこんな感じなんだと思います。
番外編
『僕だけを見ていて』
・・・
エリアスはマクシミのことが大好きなのです。なんか、甘めの話を書いてみたくなりました。
『ホワイトデー♡小話』(前後編です)
・・・
エリアスからのプレゼントのお返しをするマクシミのお話です。
ホワイトデーなので、それっぽく書いてみました。
エリアス・アーデント(公爵令息→王太子妃)
マクシミリアン・ドラヴァール(ドラヴァール王国の王太子)
♢
アンドリュー・リシェル(ルヴァニエール王国の王太子→国王)
ジュリアン・ハートレイ(伯爵令息→補佐官→王妃)
※扉絵のエリアスを描いてもらいました
※本編はしばらくお休みで、今は不定期に短い話をあげてます。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
悪役の僕 何故か愛される
いもち
BL
BLゲーム『恋と魔法と君と』に登場する悪役 セイン・ゴースティ
王子の魔力暴走によって火傷を負った直後に自身が悪役であったことを思い出す。
悪役にならないよう、攻略対象の王子や義弟に近寄らないようにしていたが、逆に構われてしまう。
そしてついにゲーム本編に突入してしまうが、主人公や他の攻略対象の様子もおかしくて…
ファンタジーラブコメBL
シリアスはほとんどないです
不定期更新
龍の寵愛を受けし者達
樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、
父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、
ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。
それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて
いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。
それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。
王家はある者に裏切りにより、
無惨にもその策に敗れてしまう。
剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、
責めて騎士だけは助けようと、
刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる
時戻しの術をかけるが…