ポメ・ポメ・パニック!〜犬猿幼なじみとあま〜い主従関係!?〜

鶴機 亀輔

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第9章

不意打ちのやさしさ1

 健太くんと高坂さんがいなくなり、ぼくはため息をついた。

 プリクラを取ろうとして機械を選んだり、取り終わって帰っていく人たちを、ぼんやり見つめる。

 ――隼人のそばにいたいからゲームセンターなんて来たけど、結構疲れるな。点滅したり、ギラギラ光るネオンはまだいいけど、音がいっぱいゴチャゴチャしていて聞き分けできない。

 無理やり好きじゃない音を延々と聞かされて頭が痛くなってきた。

 周りの人たちは楽しそうに友だちや恋人と話ししているのに、ぼくだけ憂鬱な気分でひとりベンチに座っている。

 なんだか場違いな感じがして余計に落ちこんだ。

「どうせ、来てくれるわけないよ」

「誰が来ないって?」

 おもむろに顔を上げれば、ぶすっとした顔の隼人が目の前に立っていた。

「……なんで来たの?」

「『ガキンチョと梨花に行けって命令された』って言われたいわけ?」

 質問を質問で返される。

 元気なときだったら「それ以外にある!?」って牙を剥いた。

 でも頭の中で数え切れないくらいの音や音楽、人の声がグワングワンとまざりあって気持ち悪い今は、そんな喧嘩腰にもなれなかったのだ。

「そういうわけじゃないよ。君が来てくれて、うれしいと思ってる」

「……帰る?」

「うん」

 このまま内村くんたちと合流しようと立ったら、ひどいめまいがして、足もとが異様にふらつく。

 あっ、まずいかも……と思ったけど、地面を踏ん張る力が入らなくて身体は重力に従い、前へ傾いた。

「渉!」

 床に倒れる前にぼくの身体は、隼人に抱きとめられた。

 獣医になるため猛勉強しているけど、ツーリングが好きでスポーツも不得意じゃない。中肉中背、普通体型のぼくと比べて女の子みたいに細くて華奢なのに、やっぱり女の子と違って力がある。

 そのまま男ふたりで床に転がったりせずに済んだ。

 大好きなにおいに包まれる。 

 ちょうど固い胸もとに耳を寄せる状態になった。服越しに、隼人の心音が、かすかに聞こえてきた。

 苦手な音は変わらず鳴り響いているのに、それだけで不思議なくらい気分が落ち着いた。

 少し顔を上げてみたた、眉根を寄せたあいつが「平気?」と心配そうに尋ねてきて、胸がきゅうと締めつけられる。

「ありがとう。もう少しだけ、こうしてもらっていてもいいかな?」

 ヒューマン・トランスフォーマーでも女の子だったらかわいく甘えられたり、長年信頼しあっている友だちだったら違和感なくすんなり伝えられたのかな?

「平気だよ、ごめん」

「謝るくらいなら無理すんなよ」

「うん、そうだね」

 支えとなってくれている隼人から離れ、自分で立とうとしたら、またふらついてしまったのだ。

 結局、隼人の手を借りてベンチに戻る形になってしまった。

 黒髪をかき上げた隼人が、あからさまに、ため息をつく。

「……隼人、早く内村くんたちと合流しなよ」

「はあ? どういうこと」

「風邪とかで体調不良ってわけじゃないんだ。いつものやつ。音がうるさくて、ちょっと具合が悪いだけ」

「だったら、なおさら帰れないって」

 横にドカッと腰を落とし、UFOキャッチャーで取った景品か何かが入っている箱を、開け始める。

「そんな状態のおまえを置いて、梨花やガキンチョのとこへいけると思う?」

「それは……そうだよね。何言ってるんだろ」

 内村くんたちは、ぼくたちが付き合っていると思っているし、健太くんはぼくが隼人に片思いしているって気づいてるんだ。

 このまま、ぼくを置いていったりしたら、「人でなし」とか「冷たいやつ」って非難轟々の嵐。隼人が責められるのに気が回らない。

 前髪や横髪に触れていると隼人が「おまえさあ」と声をかけてくる。
 
「梨花やガキンチョに言われたから来たと思ってるんだろうけど、オレは自分の意思でここまで来た。嫌いなやつに構っていられるほど暇じゃない」

「だったら、なんで……?」

 顔を横に向けたら、両耳にやわらかなクッションがあたる。問答無用で入ってきた鼓膜をつんざかんばかりの雑音が軽減された。

 ヘッドホンをかぶせてくれた幼なじみの目を見つめながら次の言葉を待つ。

「おまえのことが嫌いじゃないから」

「何それ……」

 ――「おまえのことが好きだからだよ」

 そんな言葉をもらえるんじゃないかと淡い期待を寄せた自分が恥ずかしい。

 隼人に「幼なじみだから」とか「赤ん坊の頃から面倒見てる弟みたいな存在」なんて言われたら、今よりもっと傷つくくせに、小さい子どもみたいに、いじけてる。

「渉は、目ぇ離すと、すぐに危なかっしいから、ほっとけないわけ。ガキの頃から機械とか電子音がガンガンにかかってるとこ、苦手なのに無理してゲーセンなんか来るし。なんで無理したわけ?」

 そんなの決まってる。

 顔を合わせれば喧嘩ばかり。

 ほかの人たちみたいに話せないもどかしさや同じ間違いを繰り返す自己嫌悪、思ってもいない言葉をぶつけてしなう悔しさ、トゲのような言葉が胸に刺さって感じる悲しみから犬に変身しちゃう。

 そんなきみと会いたいけど会いたくない。そばにいたいけどいたくない。

 矛盾ばっかりの気持ちにさせる隼人と今日、会ったらうれしくないのにうれしくて、離れたいけど離れたくなかったんだ。
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