14 / 20
Act1.帝光学園
それぞれの思惑1《Side 桐生彩都》
しおりを挟む
そうして騒ぎは沈静化した。
「ミシェル!」
ポニーテールの男子が信濃さんのところへ駆け寄った。
「謙ちゃん」
花がほころぶような笑みを浮かべ、信濃さんは男子生徒と手と手を取り合う。
親密なふたりの様子に僕は、あれ? と思い、近くにいた伊那は石のように固まってしまった。
「大丈夫、どこか怪我してない?」
「わたしは平気よ。桐生さんたちに守ってもらったから」
しかし「謙ちゃん」と呼ばれた生徒は、信濃さんの言葉が耳に入っていないのか、鋭い目つきで僕らのほうを睨みつけてきたのだ。
「またですか、桐生さん。なんで、こんな騒ぎを起こしたんです!?」
「上杉くん、待ってよ。きみまで風紀委員長様みたいに因縁をつけてくるわけ?」と太郎ちゃんが僕らの前に立つ。
「なんで、そんな人を庇ったりするんですか、佐藤くん? 結果的に桐生さんが、オレの彼女兼婚約者であるミシェルを巻き込んだのは本当じゃないですか」
「彼女兼婚約者……だよな、信濃さん、かわいいし」
どこか遠くを見つめている伊那が、ぶつぶつと独り言を口にしている。一目惚れした女の子に相手がいて傷心状態になっているのだ(いつものことだけど……)。
ルークが「ドンマイ、伊那」と落胆している彼の背中を容赦なく叩いている。
「あなたたちって、ろくなことをしないですよね! まるで疫病神みたいに災厄を振りまいているし。一体、学園に何をしに来てるんですか!?」
「任務を遂行するため」とは言えないので「勉強をするためです」と答える。
便乗して、おちゃらけたルークが「タイマン相手を見つけるため」、まじめなな顔をした太郎ちゃんが「友だちと過ごすため」、伊那が「かわいい彼女を作るため」と言えば、上杉くんが口元をひくつかせた。
「あんたら、ふざけてないでねえ……!」
顔を真っ赤にして上杉くんが拳を震わせていると、ルークが意地悪い顔をして笑い、伊那に至っては目の下を指で下げ、舌を出した。
「謙ちゃん、いいの。もうやめて。桐生さんたちの言っていることは本当よ。副会長様の親衛隊である、あの人たちのほうが喧嘩を売って、先に手を出したの」
「だけどミシェル」
「よせ、上杉」と荊棘切さんも制止の声をあげる。「信濃の無事が確認できたんだから、よしとしろ」
「ですが!」
まさか主人である荊棘切さんに注意されるとは思っていなかった上杉くんが、うろたえた様子でいる。
しかし荊棘切さんは、すでに次の仕事をこなすためか、僕らのほうへ目線をやった。
「桐生」
胸が高鳴る。彼に名前を呼ばれてうれしく思う気持ちと、何を言われるのだろうという恐怖を感じながら、「はい」と返事をした。
「副会長様の親衛隊が、おまえたちに絡んでいたという言葉を職員の方や、ほかの生徒から聞いてはいる。職員室で待機してもらっているスクールポリスの方も再度監視カメラでの確認を行い、あの三つ子たちから任意の事情聴取をすると言っていた。だが公正さをかねるため被害者であり、現場にいたおまえや、おまえの友だち、付き人の意見も聞かせてもらわなくてはいけない。昼休みから放課後に掛けて、生徒会室へ来てもらい、ひとりずつ話を訊かせてほしいんだ。了承いただけるだろうか?」
「おい、荊棘切。助けてもらった礼は言う。借りもいずれ返すが、なんでおれたちが、そんな七面倒くさいことをしなきゃいけねえんだよ!」
機嫌の悪い伊那は、あからさまに「やりたくない」というオーラを出している。
ところが……「そんなことを言わないで、守家くん。私の顔を立てると思って荊棘切くんに協力してくれない?」
微笑を浮かべた土井先輩の一声により「もちろん、土井先輩の頼みなら、いくらでもやりますよ」と手のひらを返すように態度を変えたのだ。
そんな彼の様子に僕と太郎ちゃんはあきれ果ててしまう。
頭の後ろで手を組んだルークは、「伊那は女の子にコロッと騙されるな。ウケるー」とケラケラ笑っている。
「助かる。順番としては守家、友禅、佐藤、桐生の順でやらせてほしい。異存はないな、桐生」
「もちろんです、荊棘切さん」
「時間帯については生徒会の公式サイトからメールを送る。では、後ほど」
そうして颯爽と生徒会メンバーの人と、その付き人たちが帰っていった。
昼休みになると、僕と太郎ちゃんはAクラスの廊下に出た。ふたりで午前中に受けた授業や、お昼ご飯についてを話していると、Jクラスからやってきた伊那とルークの姿が見える。
「ルーク、ちゃんと彩都のことを守れよ」
「もちろん、わかってるよ、伊那。任せてー」
「それじゃ、ちゃっちゃと必要なことだけ話してくるわ」
「うん、いってらっしゃい」
そうして伊那の背中を見送っていると「桐生くん!」と声を掛けられる。
「また、来たよ」とルークが小さく耳打ちをしてきて、ひそかにため息をつきながら、声がしたほうへ振り向く。
「水無月先輩……」
三年生がいる棟から走ってきたのか、先輩は息を切らし、額に汗をかいていた。
昼休みで場所を移動したり、食堂や購買に向かう生徒たちの視線が刺さった。
「ぼくの親衛隊がきみに手を出したって訊いたよ。怪我はしてない?」
「ミシェル!」
ポニーテールの男子が信濃さんのところへ駆け寄った。
「謙ちゃん」
花がほころぶような笑みを浮かべ、信濃さんは男子生徒と手と手を取り合う。
親密なふたりの様子に僕は、あれ? と思い、近くにいた伊那は石のように固まってしまった。
「大丈夫、どこか怪我してない?」
「わたしは平気よ。桐生さんたちに守ってもらったから」
しかし「謙ちゃん」と呼ばれた生徒は、信濃さんの言葉が耳に入っていないのか、鋭い目つきで僕らのほうを睨みつけてきたのだ。
「またですか、桐生さん。なんで、こんな騒ぎを起こしたんです!?」
「上杉くん、待ってよ。きみまで風紀委員長様みたいに因縁をつけてくるわけ?」と太郎ちゃんが僕らの前に立つ。
「なんで、そんな人を庇ったりするんですか、佐藤くん? 結果的に桐生さんが、オレの彼女兼婚約者であるミシェルを巻き込んだのは本当じゃないですか」
「彼女兼婚約者……だよな、信濃さん、かわいいし」
どこか遠くを見つめている伊那が、ぶつぶつと独り言を口にしている。一目惚れした女の子に相手がいて傷心状態になっているのだ(いつものことだけど……)。
ルークが「ドンマイ、伊那」と落胆している彼の背中を容赦なく叩いている。
「あなたたちって、ろくなことをしないですよね! まるで疫病神みたいに災厄を振りまいているし。一体、学園に何をしに来てるんですか!?」
「任務を遂行するため」とは言えないので「勉強をするためです」と答える。
便乗して、おちゃらけたルークが「タイマン相手を見つけるため」、まじめなな顔をした太郎ちゃんが「友だちと過ごすため」、伊那が「かわいい彼女を作るため」と言えば、上杉くんが口元をひくつかせた。
「あんたら、ふざけてないでねえ……!」
顔を真っ赤にして上杉くんが拳を震わせていると、ルークが意地悪い顔をして笑い、伊那に至っては目の下を指で下げ、舌を出した。
「謙ちゃん、いいの。もうやめて。桐生さんたちの言っていることは本当よ。副会長様の親衛隊である、あの人たちのほうが喧嘩を売って、先に手を出したの」
「だけどミシェル」
「よせ、上杉」と荊棘切さんも制止の声をあげる。「信濃の無事が確認できたんだから、よしとしろ」
「ですが!」
まさか主人である荊棘切さんに注意されるとは思っていなかった上杉くんが、うろたえた様子でいる。
しかし荊棘切さんは、すでに次の仕事をこなすためか、僕らのほうへ目線をやった。
「桐生」
胸が高鳴る。彼に名前を呼ばれてうれしく思う気持ちと、何を言われるのだろうという恐怖を感じながら、「はい」と返事をした。
「副会長様の親衛隊が、おまえたちに絡んでいたという言葉を職員の方や、ほかの生徒から聞いてはいる。職員室で待機してもらっているスクールポリスの方も再度監視カメラでの確認を行い、あの三つ子たちから任意の事情聴取をすると言っていた。だが公正さをかねるため被害者であり、現場にいたおまえや、おまえの友だち、付き人の意見も聞かせてもらわなくてはいけない。昼休みから放課後に掛けて、生徒会室へ来てもらい、ひとりずつ話を訊かせてほしいんだ。了承いただけるだろうか?」
「おい、荊棘切。助けてもらった礼は言う。借りもいずれ返すが、なんでおれたちが、そんな七面倒くさいことをしなきゃいけねえんだよ!」
機嫌の悪い伊那は、あからさまに「やりたくない」というオーラを出している。
ところが……「そんなことを言わないで、守家くん。私の顔を立てると思って荊棘切くんに協力してくれない?」
微笑を浮かべた土井先輩の一声により「もちろん、土井先輩の頼みなら、いくらでもやりますよ」と手のひらを返すように態度を変えたのだ。
そんな彼の様子に僕と太郎ちゃんはあきれ果ててしまう。
頭の後ろで手を組んだルークは、「伊那は女の子にコロッと騙されるな。ウケるー」とケラケラ笑っている。
「助かる。順番としては守家、友禅、佐藤、桐生の順でやらせてほしい。異存はないな、桐生」
「もちろんです、荊棘切さん」
「時間帯については生徒会の公式サイトからメールを送る。では、後ほど」
そうして颯爽と生徒会メンバーの人と、その付き人たちが帰っていった。
昼休みになると、僕と太郎ちゃんはAクラスの廊下に出た。ふたりで午前中に受けた授業や、お昼ご飯についてを話していると、Jクラスからやってきた伊那とルークの姿が見える。
「ルーク、ちゃんと彩都のことを守れよ」
「もちろん、わかってるよ、伊那。任せてー」
「それじゃ、ちゃっちゃと必要なことだけ話してくるわ」
「うん、いってらっしゃい」
そうして伊那の背中を見送っていると「桐生くん!」と声を掛けられる。
「また、来たよ」とルークが小さく耳打ちをしてきて、ひそかにため息をつきながら、声がしたほうへ振り向く。
「水無月先輩……」
三年生がいる棟から走ってきたのか、先輩は息を切らし、額に汗をかいていた。
昼休みで場所を移動したり、食堂や購買に向かう生徒たちの視線が刺さった。
「ぼくの親衛隊がきみに手を出したって訊いたよ。怪我はしてない?」
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
溺愛極道と逃げたがりのウサギ
イワキヒロチカ
BL
完全会員制クラブでキャストとして働く湊には、忘れられない人がいた。
想い合いながら、…想っているからこそ逃げ出すしかなかった初恋の相手が。
悲しい別れから五年経ち、少しずつ悲しみも癒えてきていたある日、オーナーが客人としてクラブに連れてきた男はまさかの初恋の相手、松平竜次郎その人で……。
※本編完結済。アフター&サイドストーリー更新中。
二人のその後の話は【極道とウサギの甘いその後+ナンバリング】、サイドストーリー的なものは【タイトル(メインになるキャラ)】で表記しています。
冷酷なミューズ
キザキ ケイ
BL
画家を夢見て都会へやってきた青年シムは、「体液が絵の具に変わる」という特殊な体質を生かし、貧乏暮らしながらも毎日絵を描いて過ごしている。
誰かに知られれば気持ち悪いと言われ、絵を売ることもできなくなる。そう考えるシムは体質を誰にも明かさなかった。
しかしある日、シムの絵を見出した画商・ブレイズに体質のことがばれてしまい、二人の関係は大きく変化していく。
うちの魔王様が過保護すぎる
秋山龍央
BL
主人公・折本修司(オリモトシュウジ)は転生恩恵女神様ガチャにはずれて異世界に転生して早々、つんでいた。
「異世界で言葉が分かるようにしてくれ」と頼んだところ、相手の言葉は分かるが自分は異世界の言葉は喋れない状態となり、
「平和な国に転生したい」と頼んだところ、平和で治安のいい国に転生をすることはできたものの、そこは人間のいない魔族だけの国だったのである。
困っていた主人公の元に、異世界の"魔王"である紅の髪と角を持つ男があらわれて――
「まさか――そっくりだとは思ってたけれど、お前、本当にシュウなのか?」
異世界転生魔王様×異世界転生主人公
幼馴染年下攻めだけど年上攻めです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる