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第4章
ぼくとミドリの休日デート1
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ぼくらは最寄り駅から電車に乗って秋葉原までやってきた。
あらかじめスマホで調べてあった情報をもとに人形の洋服を取り扱っている店や専門店に立ち寄る。
オシャレやメイクをばっちし決めている女の子や女性陣の中に、地味な容姿をした冴えない表情の男がいる。どこからどう見ても奇妙な光景だ。
「あの男、何しに来たの?」「女をあさりに来たナンパ師?」と思われていないか、彼女たちの視線に内心ヒヤヒヤしながらも、ミドリの洋服をさがす。
しかし詳しくネットで調べたり、下見をしっかりしなかったのが悪いのか、どの店もゴスやロリータ、パンク、着物、ドレス、コスプレ衣装が圧倒的に多い。おまけに女の子のスカートが半数以上を占めている!
たとえ男ものがあってもミドリが普段着用している私服とは、はるかにイメージが異なる。
「妹たちが喜びそう」と機嫌よく笑っているミドリに「着てみる?」と話を振る。
すっぱい梅干しを口にしたような顔つきをしたミドリが左右に首を振った。
完全にリサーチ不足だ。
なんとか替えのパジャマを一着手に入れたところで昼どきになった。
個室チェーン店昼ご飯をとりつつ、ワイヤレスヘッドセットをつけて人と会話しているふりをしながら、テーブルの上にいるミドリへ声を掛ける。
「なんか普通にネット通販とか、人形用の服を作っている人に頼んだほうが、よかったかな?」
「だよね。みんな、なんかTHE・お人形の衣装って感じで普通のカジュアルコーデが見つからないねえ。白のティーシャツに紺のジャケット。グレーのニットにオフホワイトのパーカーやジーンズって、こっちの世界だと逆に珍しいのかな? 人形のおれが言うのも、おかしいんだけど」
ドールを持っている人たちは、どうしているのだろう? と疑問に思い、SNSを開く。が、調べ方が悪いのか、なかなかぼくたちのほしい情報が見つからない。
「おもちゃ屋さんで買うのも難しそうだし、やっぱり、ぼくが作ろうか?」
「でも、そうしたら洋服の布地の代金が掛かるし、優馬の本当にやりたいことができなくなっちゃうよ!?」
「ミドリ……」
「よくよく考えるとさ、人形のおれじゃ仕事も、バイトもできないから優馬のお金を全部頼ることになっちゃうよね。ごめんね、デートだって浮かれてて、そこまでちゃんと考えなかったよ」
別段給料は悪くないし、今までコツコツと貯めてきた貯金である。
人形である彼は水も、食料も必要としないし、トレイも使わない。
病気に掛かったり、掛からないように見てもらう動物を飼うよりも、ずっとお金が掛からないくらいだ。
だからミドリの洋服を買っても相対的に見ると出費は痛くない。
「おれ、家の中にいるのがほとんどだし、ワイシャツとスラックスだけで大丈夫。洗濯してもらうときはパジャマかバスローブに着替えておくから安心して」
気を遣ってミドリが笑う。
でも、ぼくは知ってる。ミドリがオシャレ好きで洋服を買ったり、着たりするのが好きだってこと。
中学時代のぼくは引きこもりで、ほとんど家の外へ出ることはなかった。
そんなぼくの姿を見かねた母の手引きでミニチュアの世界を知り、ドールハウスを作るのに夢中になった。
だけど材料は全部、母が昔連れて行ってくれたなじみの店でそろえるばかり。ドールハウスに使う材料を買うとき以外は、通販やネットショップを利用し、母と子どもの頃から行っていた店以外には寄りつかない。
だけど彼と友だちになってから出かける機会が増えた。
社交的でアグレッシブ。外の世界が好きな彼は、駅ビルのショップやモールなんかで服を見て実際に試着するのを楽しんでいた。ときには服のサイズを見つけてもらうように店員さんに話しかけ、コーデのアドバイスをもらったり、世間話をしたりする。
ぼくには到底できない芸当だし、真似しようとも思わない。
そもそも町中に出かけること自体が苦手だ。
人混みはザワザワガヤガヤして疲れる。人の目が気になるし、通りすがりの人から容姿についてバカにされたり、悪口を言われそうで怖い。盗撮されてSNSで「街で見かけたブス」とか「ダサい服装してた男」として拡散されるのも、LIMEの仲間内で写真を共有されて笑われるのもいやだから。
何より、運悪く中学時代の連中と鉢合わせるんじゃないかと考えるだけで心臓がバクバクする。背格好や容姿の似ている人を見かけるだけで身体が震え、足がすくんでしまう。
ミドリに誘われない限りは外に出たいなんて思わない。
黙々と家でミニチュアを作りたいくらいだ。外へ出たとしても、いつも常連として行っている手芸用品店や百円ショップ、DIY用の木材を販売しているホームセンターへ行きたい。
ただ――心から楽しそうに笑う彼の姿をそばで見たいから、町中へ出かけるのも、人混みも苦じゃないんだ。
彼がいて、ぼくに話しかけてくれる。
それだけで魔法が掛かったみたいに世界は輝いて、すてきなものへと変わる。
午後に行くショップをスマホで見ながら、ぼくは覚悟を決めた。
「いらっしゃいませ」
店員の女性は人形のドレスのストックを補充しながら、前出しをしている。
「す、すみません」
「はい、なんでしょう」
あらかじめスマホで調べてあった情報をもとに人形の洋服を取り扱っている店や専門店に立ち寄る。
オシャレやメイクをばっちし決めている女の子や女性陣の中に、地味な容姿をした冴えない表情の男がいる。どこからどう見ても奇妙な光景だ。
「あの男、何しに来たの?」「女をあさりに来たナンパ師?」と思われていないか、彼女たちの視線に内心ヒヤヒヤしながらも、ミドリの洋服をさがす。
しかし詳しくネットで調べたり、下見をしっかりしなかったのが悪いのか、どの店もゴスやロリータ、パンク、着物、ドレス、コスプレ衣装が圧倒的に多い。おまけに女の子のスカートが半数以上を占めている!
たとえ男ものがあってもミドリが普段着用している私服とは、はるかにイメージが異なる。
「妹たちが喜びそう」と機嫌よく笑っているミドリに「着てみる?」と話を振る。
すっぱい梅干しを口にしたような顔つきをしたミドリが左右に首を振った。
完全にリサーチ不足だ。
なんとか替えのパジャマを一着手に入れたところで昼どきになった。
個室チェーン店昼ご飯をとりつつ、ワイヤレスヘッドセットをつけて人と会話しているふりをしながら、テーブルの上にいるミドリへ声を掛ける。
「なんか普通にネット通販とか、人形用の服を作っている人に頼んだほうが、よかったかな?」
「だよね。みんな、なんかTHE・お人形の衣装って感じで普通のカジュアルコーデが見つからないねえ。白のティーシャツに紺のジャケット。グレーのニットにオフホワイトのパーカーやジーンズって、こっちの世界だと逆に珍しいのかな? 人形のおれが言うのも、おかしいんだけど」
ドールを持っている人たちは、どうしているのだろう? と疑問に思い、SNSを開く。が、調べ方が悪いのか、なかなかぼくたちのほしい情報が見つからない。
「おもちゃ屋さんで買うのも難しそうだし、やっぱり、ぼくが作ろうか?」
「でも、そうしたら洋服の布地の代金が掛かるし、優馬の本当にやりたいことができなくなっちゃうよ!?」
「ミドリ……」
「よくよく考えるとさ、人形のおれじゃ仕事も、バイトもできないから優馬のお金を全部頼ることになっちゃうよね。ごめんね、デートだって浮かれてて、そこまでちゃんと考えなかったよ」
別段給料は悪くないし、今までコツコツと貯めてきた貯金である。
人形である彼は水も、食料も必要としないし、トレイも使わない。
病気に掛かったり、掛からないように見てもらう動物を飼うよりも、ずっとお金が掛からないくらいだ。
だからミドリの洋服を買っても相対的に見ると出費は痛くない。
「おれ、家の中にいるのがほとんどだし、ワイシャツとスラックスだけで大丈夫。洗濯してもらうときはパジャマかバスローブに着替えておくから安心して」
気を遣ってミドリが笑う。
でも、ぼくは知ってる。ミドリがオシャレ好きで洋服を買ったり、着たりするのが好きだってこと。
中学時代のぼくは引きこもりで、ほとんど家の外へ出ることはなかった。
そんなぼくの姿を見かねた母の手引きでミニチュアの世界を知り、ドールハウスを作るのに夢中になった。
だけど材料は全部、母が昔連れて行ってくれたなじみの店でそろえるばかり。ドールハウスに使う材料を買うとき以外は、通販やネットショップを利用し、母と子どもの頃から行っていた店以外には寄りつかない。
だけど彼と友だちになってから出かける機会が増えた。
社交的でアグレッシブ。外の世界が好きな彼は、駅ビルのショップやモールなんかで服を見て実際に試着するのを楽しんでいた。ときには服のサイズを見つけてもらうように店員さんに話しかけ、コーデのアドバイスをもらったり、世間話をしたりする。
ぼくには到底できない芸当だし、真似しようとも思わない。
そもそも町中に出かけること自体が苦手だ。
人混みはザワザワガヤガヤして疲れる。人の目が気になるし、通りすがりの人から容姿についてバカにされたり、悪口を言われそうで怖い。盗撮されてSNSで「街で見かけたブス」とか「ダサい服装してた男」として拡散されるのも、LIMEの仲間内で写真を共有されて笑われるのもいやだから。
何より、運悪く中学時代の連中と鉢合わせるんじゃないかと考えるだけで心臓がバクバクする。背格好や容姿の似ている人を見かけるだけで身体が震え、足がすくんでしまう。
ミドリに誘われない限りは外に出たいなんて思わない。
黙々と家でミニチュアを作りたいくらいだ。外へ出たとしても、いつも常連として行っている手芸用品店や百円ショップ、DIY用の木材を販売しているホームセンターへ行きたい。
ただ――心から楽しそうに笑う彼の姿をそばで見たいから、町中へ出かけるのも、人混みも苦じゃないんだ。
彼がいて、ぼくに話しかけてくれる。
それだけで魔法が掛かったみたいに世界は輝いて、すてきなものへと変わる。
午後に行くショップをスマホで見ながら、ぼくは覚悟を決めた。
「いらっしゃいませ」
店員の女性は人形のドレスのストックを補充しながら、前出しをしている。
「す、すみません」
「はい、なんでしょう」
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