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「…てかさ、紫雫しずくは腹減らないの? こんな格好してるせいか、まじヤバい…。腹減ってきた。でも人間の使う紙とかないし、飯と交換とかしてくれねぇよなぁ…」

「君よりは僕、燃費良いのかなー、あはは」

 なんて、からかわれる様に言われるけど、ほんとにパワーたんないや、狐の姿のが保ちそうじゃね?

 そんな事を考えていたら、ぽふんと気の抜けた音と共に、俺の姿が獣になった。

「まだ対して山から進んでないのに、気合い…足んなくない? タルいのに僕は、この姿で頑張ってるのに…。仕方ないなぁ! あはは…、あれ?」

 ぽふんと紫雫しずくの姿が狐に寄り添うようなカラスになる。

「おまっ! タイミング的に、あんまり人のこと言えないじゃんか!」

 
 狐の姿のはずなのに、なんとなく俺…半眼になってる気がする。

 やっぱり人の姿はお腹すくし、あんまり保てないなぁ。

 少し木の陰で休んで、餌探そうと俺と紫雫しずくは約束し、少し眠る。


 油断していたのだろうか。気がついたら、ふかふかした物の上に寝かされていた。

 大したことなかったはずなのに、以前怪我したところにまで包帯が巻かれていた。

 どんだけ無抵抗だったんだよ、俺ら!?

 紫雫しずくの奴も途中目を覚ましたらしいけど、俺に付き添うようについてきたらしい。逃げてもおかしくないのに、いつもやる気ない態度を見せているのに、律儀なやつだ。

 俺はそう思いながらも、周囲を警戒する。ずっと開いている扉からは、なんだかわからないけど美味しそうな匂いがした。

「こんなものしか今は用意できないけど、食べれるかな? カラスくん、狐くん…」

 そう言って、綺麗に伸ばした茶色の髪と瞳を持つ人間。青い胸元まで肩紐のあるつなぎの様なスカートに、インナーなのか白いシャツを着ている女性。

 そんな彼女は、頬を染めながら、俺達に鶏のささみらしきものを俺らに差し出す。

 ただ火を通しただけの、素材の味しかしないささみ肉。

 それだけで、虫やミミズで食いつないできた俺らには、かなりのご馳走だった。

 人間である彼女に目一杯牙を剝いていたはずなのに、空腹に負けて、夢中で食べてしまう俺ら。

 そんな俺らを見てニコニコ笑う彼女。

『意味わかんねー……。こんなことして、お前になんの特があんだよ…』

 そんな事を感じつつ、ささみを食べていると、不意に頭を撫でられた。

 無意識に血の味がしそうな程に、強く噛み付いてしまった。
 捕食中に触るお前が悪いだろう?

 そう感じながらも、「驚かせちゃってごめんね…」と淋しげに言う女性に、何も言えない罪悪感を感じてしまう俺だった。


 人間なんか嫌いなんだと免罪符の様に掲げる俺と、助けてくれたのに、感謝すら出来ないのかと思ってしまう俺。

 涼しい顔して、女性の肩に乗る紫雫しずく。どちらがあるべき姿なんだろうな。

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