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一章
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しおりを挟む僕は先程乗車した、馬車の中にいる。
「ゆっくりでいいですから、食べれるだけでも、食べてくださいね…」
心配そうにスクルドはいう。
見るからに美味しそうな調理パンと、爽やかな果物の香りがする恐らく果汁100%の飲み物、それらを空いていた手へと渡される。
思わずゴクリと喉が鳴る。
何日かぶりかの食事。 僕は生きる事を、何度も諦めようとしてるのに、身体はいつも生きたがる…。
なんだか情ない気持ちになる。
本来なら、食を与えてくれた神に、感謝の祈りを…、となるのが普通なのだが、一人で食事を続けてきた僕にそんな習慣はなかった。
おずおずと、飲み物を口にすると、甘くて少し酸味のある優しい味がする。 とても美味しい…。
けれど、久々の食事に体が驚いたのか、うまく飲み込めなくて、少しむせてしまった。
パンの中身も、柔らかく焼かれた肉と、シャキシャキとした食感のする野菜に、少し酸味のあるまろやかなソースのおかげか、肉の脂っぽさが消されていて美味だった。
胃が小さくなっていたのか、半分も食べられない。 残したくはないのだ。
食べれない苦しみを知っているのだから…。
フリストが「無理はするなよ? 久々の飯にしてはこれは重いよな。 俺まだ足りないし貰ってもいいか?」と、言うと、僕の手からパンを受け取ると、ペロリと食べる。
「サンキューな~!」等と、朗らかに笑ってくれた。
そんなやり取りの中、フリストが御者に指示を出すと、スクルドと名乗った少女の家に、向かっているらしい。
「さっきは悪かったですね…。 魔法具で馬車や家に送れるのですけれど。 フリストったら、あんなふうに運ぶなんて、…視察も兼ねていたのもあって、サーフェスさんを一人で送るわけにもいかなくて……、え…?」
不自然に彼女の言葉が止まった。 その直後に馬車も止まり、スクルドに向かって何か嫌なものが来る、そんな感覚がした。
これは危険なもの…、命の刈り取られる危険がある予感。
僕も何度となく味わった。 それを感じたから生き延びた。 背筋の寒くなる感覚が、どんどん迫ってきている。
彼女の視線も、そちらにある様に感じた。
なぜだか僕には昔からそんな感覚がある。
ある意味、悪意にさらされ続けた、自衛の為に身についたのだろう。
彼女を狙ってるとも思えたけど、これは自分を排除したい人間が、送った刺客なのかもしれない。 その考えに到ると、反射的に彼女に覆いかぶさり、衝撃を待つ。
「な…、何を…」
スクルドが、呆然とした様子で、そうつぶやいた気がした。
『助けてくれたのに、巻き込んでしまったのかもしれない。 ごめんね…。
今度こそ本当に死ぬのかも、しれないな…。
誰にも見向きされなかった僕に、優しい世界を見せてれた…、彼らの為に命尽きるなら、僕の生に意味はあったのかもしれない……』
次の刹那、背中に激痛が走った。
「助けて…くれて、あ、り…がと…」
なんとかそれだけ、伝えようとして、僕は意識を手放した。
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