デルタコープス

玄道

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敵対者としての親(2)

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 午後八時 ホテル
 
 シャワーを浴び、スマホを確認すると、ラインの通知が溜まっていた。

 昭典あきのり、昭典、啓子けいこ

 そんなに気になるなら、そんなに殺したいなら自分で行けよ。自分で殺れよ。

  病室のベッドで生かされながら、娘に殺意を抱き続ける狂王が。

 通話ボタンをタップする。

『利奈、どげぇか』

 父──昭典は、母語が抜けない。

 背後から、男女の爆笑と、軽快なBGM。

「連絡しないってことは、手掛かりなしってことです」

『そうか』

 その声に、怒気を、否、殺気すら滲ませる昭典。

 癌に侵されながら、その殺意は純度を増していた。癌が、そのまま殺意になって彼の肉体と混じり合っている。そんな気さえする。

『理沙は、どげえしちん連れてこいな』

「はい」

『あんバケモンは、俺が始末つけちゃるんやけんな』

 ──やはりか。

「お父さん、やめて」

 こちらの声にも、鋭いものが混じる。

『忘れたんか、わが。理沙はわが殴りよったんぞ』

 再び、平和な世界の爆笑。

 そうよ。だから理沙は殺されかけたのよ、実の父親にね。

 理沙は、あの時声を堪えながら、暴力を浴びながら、昭典を睨み続けていた。それが、更なる暴力を招いた。

 喉元の毒を飲み込む。

「あれは……私が悪いんやん。姉ちゃん、撮られるんは嫌いやったんに」

『わが、理沙んごたるこつ言うな? お?』

 これ以上いけば、臨界点だろう。

「すみません、父さん」

『とにかく、理沙は連れち来い。早よせいよ』

 そう言って、通話は切れた。 

 このまま、見つけられない方が互いの為だろう。どちらかが死ぬなら。

 同胞同士殺し合うのなら。

 テレビを点ける。

 同じ番組を流す。

 ネットで、同じ動画をリピートできると言うのに、切り抜き動画にキャプションとナレーションを付けたそれは、別物だった。

 現実なのに、虚構でしかなくなっていた。

 全部、この世の全部が編集できたら。世界の醜さも、痛みも修正して、消してしまえたら。"全て嘘っぱちだ"と言ったら。

 そうすれば、理沙も思わなくなるだろうか。

 産まれたくなかったなどと。

 この地獄現実に。
 
 テレビの中、少年がプールに落下する。

 爆笑が起きる。

 テレビを消す。

 リモコンを持つ手が、瘧のように震えていた。
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