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「申し訳……ありません……ご主人様……誓って金輪際門限は破りません……だからどうか……後生ですからどうかお慈悲を……」
「あの、何か聞こえます?若菜様?」
「さあ?幻聴じゃね?てめえ馬鹿だからな。顔はいいのにな」
どんなに惨めに許しを乞うても無駄だとは、理解していた。
その日、突然の暴風雨の影響で、バスは止まり、私は徒歩で帰宅した。祖父の秘書である渡辺氏は、休暇を取っていたため不在であった。
制服も何もかもずぶ濡れになり、挙げ句傘は何処かへ飛び去っていった。
私もいっそのこと風に拐われて何処かへ行ってしまいたかった。メリーポピンズのように。
濡れた制服は、着たままアイロンを当てられた。
お陰様で制服は乾いたので、明日も登校できる。今日のささやかな幸運だ。
ただ、発熱と今回の負傷、そして火傷の痕はどうにかならないかと困り果てた。
──城に助けを求めるしかない。シンデレラのように。
翌日。
「すみません、発熱したので寝かせてください」
教室より楽しみな保健室のベッドに横たわる。
家での疲れも苦しみも痛みも、何もかも忘れられる。やはり学校しか私の安息の地は無いと、改めて思った。
今回も、即座に眠りに入った。
夢の中でも、私は学校にいた。
何故か誰もいない。
窓が……開かない?
廊下が異様に長い?
夢だから、と自分を納得させる。
とにかく歩き続けた。
喉が渇く。お腹が空く。何故か寒い。
慣れてはいるが、辛いものは辛い。
何もかも失くした気分だった。夜の砂漠で遭難するというのは、こんな気分か。
ふと壁を見ると、校内新聞に父母の顔が載っている。冗談にしてはきつすぎた。
目眩がする。
意識が飛びかけたその時。
開かないと思っていた教室の扉が、開いた。
「どうしたの!?三村さん!!」
「──────佐藤先生、おなか、へった……」
夢の中だというのに、意識が暗転する。
「気が付いた?」
これで何度目だろう、この部屋でこの顔を見るのは。
「盛大に鳴ってるわよ、はいお握り。梅食べられる?」
「──ありがとうございます。いただきます」
丁寧にフィルムを剥がし、一口頬張る。コンビニのお握りの美味しさを感じた。こんなに美味しいものだとは知らなかった。初めての味だった。少しずつ口に含み、ゆっくり咀嚼する。
「お腹空いてるのにがっつかないのね」
「噎せて米粒出したくないんで」
「あなたって娘は」
お握り一つに二十分もかけてしまう自分が、惨めだった。
涙が滲む。
「ご馳走さまです」
「足りた?ごめんね、慌てて買ってきたから。時間が時間だからお弁当、どこも売り切れで」
「────はあ?」
そこまでするのか。産まれてから、人の善意というものに縁遠かった私は、反射的な拒否反応を示した。
「もう………………嫌」
先生が、黙って私を抱き締める。やはり、少し冷たかった。
佐藤先生は──眞衣は何が『嫌』なのか、誤解しているようだった。
「あの、何か聞こえます?若菜様?」
「さあ?幻聴じゃね?てめえ馬鹿だからな。顔はいいのにな」
どんなに惨めに許しを乞うても無駄だとは、理解していた。
その日、突然の暴風雨の影響で、バスは止まり、私は徒歩で帰宅した。祖父の秘書である渡辺氏は、休暇を取っていたため不在であった。
制服も何もかもずぶ濡れになり、挙げ句傘は何処かへ飛び去っていった。
私もいっそのこと風に拐われて何処かへ行ってしまいたかった。メリーポピンズのように。
濡れた制服は、着たままアイロンを当てられた。
お陰様で制服は乾いたので、明日も登校できる。今日のささやかな幸運だ。
ただ、発熱と今回の負傷、そして火傷の痕はどうにかならないかと困り果てた。
──城に助けを求めるしかない。シンデレラのように。
翌日。
「すみません、発熱したので寝かせてください」
教室より楽しみな保健室のベッドに横たわる。
家での疲れも苦しみも痛みも、何もかも忘れられる。やはり学校しか私の安息の地は無いと、改めて思った。
今回も、即座に眠りに入った。
夢の中でも、私は学校にいた。
何故か誰もいない。
窓が……開かない?
廊下が異様に長い?
夢だから、と自分を納得させる。
とにかく歩き続けた。
喉が渇く。お腹が空く。何故か寒い。
慣れてはいるが、辛いものは辛い。
何もかも失くした気分だった。夜の砂漠で遭難するというのは、こんな気分か。
ふと壁を見ると、校内新聞に父母の顔が載っている。冗談にしてはきつすぎた。
目眩がする。
意識が飛びかけたその時。
開かないと思っていた教室の扉が、開いた。
「どうしたの!?三村さん!!」
「──────佐藤先生、おなか、へった……」
夢の中だというのに、意識が暗転する。
「気が付いた?」
これで何度目だろう、この部屋でこの顔を見るのは。
「盛大に鳴ってるわよ、はいお握り。梅食べられる?」
「──ありがとうございます。いただきます」
丁寧にフィルムを剥がし、一口頬張る。コンビニのお握りの美味しさを感じた。こんなに美味しいものだとは知らなかった。初めての味だった。少しずつ口に含み、ゆっくり咀嚼する。
「お腹空いてるのにがっつかないのね」
「噎せて米粒出したくないんで」
「あなたって娘は」
お握り一つに二十分もかけてしまう自分が、惨めだった。
涙が滲む。
「ご馳走さまです」
「足りた?ごめんね、慌てて買ってきたから。時間が時間だからお弁当、どこも売り切れで」
「────はあ?」
そこまでするのか。産まれてから、人の善意というものに縁遠かった私は、反射的な拒否反応を示した。
「もう………………嫌」
先生が、黙って私を抱き締める。やはり、少し冷たかった。
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