沈黙(アルファポリス版)

玄道

文字の大きさ
6 / 10

6

しおりを挟む
翌日も、また翌日も家庭訪問は続いた。
こんなことは今までに無かった。何かあったのだろうか。
家中の部屋は厳重に防音されているので何を話しているのかは見当もつかない。


眞衣が家庭訪問をするようになって四日経った。
何故かシャワーを許可された。初めて浴室に入った。意外と綺麗な事に感心する。ベスがいなくても身の回りの事はできているのか。それとも知らぬ間に別のお手伝いさんを買ったのか。
適温のシャワーが傷にぴりぴりと染みる。初めてのシャワーは針の雨だった。
涙は出なかった。ちゃんとケアはしている筈なのに何故か血が滲んだ。
シャワーを止める。
ジ──────────。
機械音がする。
浴室の中を見渡す。
──人形?少なくとも雌鬼の趣味ではない。
振る。
カチャカチャと音がする。
カメラか。
ついにそこまでするようになったのか。
──生かさず殺さず。
『子供は親を選んで産まれてきた』なんて腐りきった妄言を吐く連中を残らず串刺しにしてやりたくなった。ルーマニアの伯爵のように。
その光景を想像する。


広場一面に並ぶ杭。
連行されていく良識の奴隷達。
その表情には(何故私達が)と書かれている。
下準備として浴びせられるガソリンの匂い。
幾多の被虐待児から放たれる罵声。
善人達が杭に刺し貫かれ、絶叫が木霊する。
放り投げられる松明。
燃え盛る焔。
折り重なる断末魔リゲティ
肉と服の焦げる臭い。
立ち上る煙が空を闇に染める。
私達虐げられた子供の魂の如く。
さようなら、き人達。
地獄でまた会いましょう。
私達はもう少しこの煉獄で痛みに泣きながら過ごさなければならないから。
早くそちらに逝きたいのですけれど。
──お互い、何の罪を犯したのでしょうね?それとも人類は皆咎人とがびとなのでしょうか?


たっぷりと嗜虐しぎゃく的な妄想に浸った後、酷い自己嫌悪に苛まれて涙を流しながら浴室を出た。
いつかこの映像を観る者には恥辱の涙に映るのだろうか。
──目に見えたものが真実とは限らないのだと思った。
廊下に飾られた肖像画を一瞥する。
お祖父様鬼の総大将
孫がこんな目に遭ってるのに、今夜も献金パーティー?お祖父様?
無言でそう問いかけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...