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明るさと暗さを帯びた花束
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はるか遠くの国の王様は、心に悲しい傷を負った優しい人でした。
その傷は、幼い頃好きだった人が自分に何も告げずに去ってしまってついたのでした。それでも彼はその人のことがずっと好きでした。
「王様、お願いします。会うだけでもいいんです、どうかうちの娘を…」
🌻「知らないよ、俺は女の人が好きじゃないんだから。…帰ってくれる?」
「で、ですが」
🌻「帰れ、これは命令だ」
「わ、分かりました。」
そう言うと頭を深く下げて立ち去る富豪の丸い後ろ姿を俺は見届け、部屋に戻ろうとしたら
「王様、少しは街の様子を見てきてはいかがですか?」
🌻「なんで?偵察の部隊は居るんだから俺が行く必要ないよね?」
「息抜きも兼ねて、見てきてください。今日は珍しく街も賑わっていますよ?芸者が来ているのではありませんかね」
🌻「俺、あまり芸事に興味無いんだけど」
「そう仰らず、行ってらっしゃいませ」
そう言いながら外出用のターバンを巻き、口元を隠した俺の背中を押したのは昔から俺に仕えている老いた臣下の奏(かなえ)
🌻「わぁーったよ、行くよ。行けばいいんだろ?」
と文句を言いながら裏門に向かった俺を笑う声が聞こえた。
…本当だ、今日はやけに賑わってるな。音楽も流れているし…はぁ、適当に見て帰るか
「おい、聞いたか?お前」
「あぁ、聞いた聞いた。絶世の美しさを持ってるって噂の華の踊り子が今日来てるんだろ?早く行こうぜ」
「華の踊り子って、女神のように美しくて舞も絶品らしいな」
「でも、まだ誰も見ていないらしい。どこにいるんだろうな」
「探そーぜ、そんでお近付きになりてぇな」
下品な話し方をする男たちを尻目に、話題に上がっていた踊り子を探すことにした。
…そう言えば、あの子も踊るのが上手だったなぁ…
はぁ、嫌なこと思い出しちゃった。考えるのやめよ
🌻「…どうせ、化粧で誤魔化したくらいなんだろ?絶世なんて大袈裟な表現だな、まったく」
とブツブツ文句を言いながら歩いていると、不意に肩を軽く叩かれ、後ろを向いた。そこには、口元を覆った綺麗な男がいた
💠 「あの、すみません」
🌻「な、なんですか」
つい敬語になってしまうくらい、俺は緊張していた。今までどんなに大切な外交でも一切緊張なんてしてこなかったのに
💠 「この辺りで自由に踊ってもいい場所は何処ですか?初めて来たもので、よく分からないんです。」
🌻「えーっと…ね、こっちだよ。着いてきて」
頭に叩き込まれている地図を必死に思い出し、彼を導くことにした。
💠 「ふふ、ありがとうございます。連れて行ってくださるなんて、後でなにかお礼をしなくては」
🌻「…考えておくね」
…と味気ない会話を交し、それ以降は無言で歩いた。目的地に着くと、誰も商売をしていなかった。
🌻「ここだよ、良かったね。独占し放題だよ」
💠 「本当だ、良かった。これでのびのびと踊れます。」
踊る?…そう言えば、ここを探していた理由もそんな理由だったな。彼が、もしかしてさっき奴らが言ってきた華の踊り子なのかな
💠 「そうだ、良かったら俺の踊りを見ていってください。評判は良い方なんで、退屈はしませんよ?」
🌻「…そこまで言うなら、見ていってやってもいいよ」
💠 「ふふ、ありがとうございます。よいっしょ」
そう言って口元を隠していた布を取って、俺の目を踊り子は見つめた。…え、まって、すごい美人じゃん…あの子も成長したらこんな風に綺麗になっていたりするのかな
💠 「ご親切な貴方様に最大の感謝を込め、最高の踊りを披露することをこの花に誓いましょう」
チュッと紫色の花にキスをして俺に花を差し出してきた。一瞬受け取るべきか悩んだが、アメジストと琥珀の織り交ざった瞳に負け、受け取ってターバンに刺すことにした
踊り子はそんな俺を見てニッコリと笑い、また布で口元を隠してしまった。
🌻「隠しちゃうの?口元」
💠 「はは、時折見える方が色っぽくて素敵でしょう?」
🌻「ふふ、もう十分色っぽかったけど」
💠 「…っ、ありがとうございます、嬉しいです。…それでは、始めましょう」
華やかなひと時を、それだけを告げて目を閉じた踊りの子の纏う雰囲気がガラリと変わった。
目を開けると共にシャンシャンシャンと小道具の鈴を鳴らし、華やかなひと時が始まった。綺麗な布を翼のように煌めかせ、手品のように出した花弁を頭上に広げ、踊りに合わせて花弁は風に乗る。そうすると、たちまち彼を飾る宝石となり俺の視界に映るもの全てが煌めいて見えた。
鈴の音に誘われて、たちまち人が周りに集まり始めた。
「わぁ、お母さんみてみて!すごく綺麗ね!」
「本当、あんなに綺麗な人がこの国に来てくれるなんて」
騒ぐ群衆なんて耳に入らなかった。俺の目に入る美しい彼が全てだった。
💠 「~♪」
時々音楽に織り込まれる鼻歌すらも美しい。踊りに興味なんて一切なかった俺が、たった一人の存在によって何かが変わった。
心が暖かい何かによって満たされていくみたいだった。
💠 「~♪~~♪」
不意にパチッと目が合って少し顔を赤らめて笑うその仕草に心踊った。
彼は花なのだ。俺は、そんな花に誘われてまんまと導かれた蝶なのだと思った。魅力という蜜を吸わせ、もっと自分を見てくれと言わんばかりに綺麗に咲いている彼に俺は
恋に落ちたのだ
時間も忘れて彼をずっと見ていた。しかし、時の流れはいつでも残酷で彼の踊りも終わってしまった。
💠 「はぁー、はぁー…ありがとうございました。」
もう日も暮れてすっかり人も少なくなり、まばらな拍手を聞き終えて彼は深くお辞儀をすると荷物を纏め始めた。
ハッとして彼に声をかけた。
🌻「ね、ねぇ」
💠 「…あ、この国の最初のお客さん!最後まで見ていてくれてありがとうございます。こんなに長く見ててくれた人は初めてだったので嬉しいです。」
🌻「…綺麗だった。本当に綺麗だったよ」
💠 「ありがとうございます、あの…」
🌻「ん?」
💠 「この辺りに、宿はありますか?」
🌻「今夜泊まるとこ探してるの?」
💠 「はい、お恥ずかしいのですが早く踊りたくてつい、探すことを忘れていました。」
えへへ、と笑う彼は何処かあの子を思い出させて胸の奥がギュッとした。
🌻「…あのさ、もし良かったら俺のところに泊まりに来ない?色々話も聞きたいし」
そう言うと目を大きく開けて
💠 「その、ご迷惑でしょうし申し訳ないです。」
眉を下げて困ったように笑う彼は、やっぱりあの子に似ていて
🌻「お礼、してくれるんでしょ?泊まりに来て」
💠 「わ、分かりました。」
そう言うと急いで荷物を纏めて、その作業が終わったのを見届けると、歩き出した俺に慌てて着いてきた。
…彼は、俺が想っていたあの子なのかな。でも、初めて来たって彼は言ってた。…そっくりさんか
あぁもう!なんで俺名前も覚えてないの!
そうモヤモヤと考えていると、後ろから彼の声がした。
💠 「あ、あの。」
🌻「なぁに?」
💠 「あなたの、お名前はなんて言うんですか?なんてお呼びすればいいですか?」
🌻「…俺は、明。明って呼んでくれて構わないよ」
💠 「明って言うんですか。俺は暗です。」
🌻「暗はさ、普段はどんなふうに暮らしているの?」
💠 「俺は、世界中を踊り子をしながら旅をしています。何か、大切なものを思い出さなきゃいけなくて」
🌻「…大切なことって?」
急に足を止めた俺を不思議そうに思ったのか、暗は俺の顔を覗きに隣に来た。悲しそうな顔をして
💠 「…それが、分からなくて」
🌻「え?」
💠 「…外じゃ大きな声で言えないんです。……俺の人生は」
🌻「分かった。また今度聞かせて」
💠 「…はい」
暗い話題はしたくなくて、話を切り上げようとした。その時、
「王様ーー!」
前の方から、俺の臣下たちが走ってきた。あぁー、心配かけたんだろうな…
「こんなに遅くまで何を…って、何者だ貴様!」
と臣下含め兵士が暗に矛先を向けた。
🌻「やめろ、その人は俺の客人だ!」
「客人?こんな得体の知れない者が…」
「王様、冗談はおやめ下さい!」
誰一人として俺の話を信じない臣下に内心とてもイラつきながら宥めているが、暗の方を見ると刃物を突き付けられているのに顔色一つ変えずにニコッと笑っている
💠 「俺は、踊り子をしている暗と申します。本日、王様が宿を提供してくれるとのことで着いてまいりました。」
なんて話す。大した度胸だけど、逆に怖い
🌻「俺が今日一日いなかったのは、奏が息抜きで街に行ってきてほしいと言って街に行っていたからだ。そして暗に出会った、だから暗を招待した。これで分かったか?早く武器を下ろせ」
そう言うと一斉に臣下たちの顔が青ざめていくのが分かった。我先にと武器を下ろし、暗に頭を下げる。
「も、申し訳ない」
「お怪我はありませんか」
身の代わりが早いな、こいつら
💠 「大丈夫です、何処も痛くないですよ。」
あっさり許してしまう暗が心配になった俺は、急いで夕食を準備するように家臣に言いつけ、暗を引きずるように部屋に連れていった。
🌻「はぁー、ほんっと疲れた」
💠 「すみません、俺がいきなり来たせいで…」
🌻「あ?…あー違う違う、あれは俺が帰り遅くなっちゃったのとあいつらの頭に血が上りやすいのが悪い」
💠 「…ふふ、明様はお優しいんですね」
🌻「優しいなんて言うの、暗が初めてなんじゃない?冷たいの方が言われ慣れてるよ、俺」
💠 「そうなのですか?俺にはすごく親切にしてくださったじゃないですか。それだけで十分お優しい方だと思いますよ。」
飾り気のない暗の言葉が、俺の中の暗い霧を晴らしていく…まいったな、俺ベタ惚れじゃん
🌻「敬語、使わなくていいよ。暗は特別に」
💠 「で、ですが俺はただの踊り子で…」
🌻「こーら、王様命令」
💠 「…分かったよ、明」
よしよし、これで良い。…そろそろ夕食か、一緒に食べたいな
🌻「暗、そろそろ夕食の時間なんだけど一緒に食べない?」
💠 「明様…明は俺と一緒に食べてくださるんですか?」
🌻「久しぶりに、一緒に食べたい人が暗なんだよ。」
💠 「俺で良ければ」
🌻「暗じゃなきゃ嫌だ」
そう言うと、暗は一瞬恐ろしい程に冷たい顔になったがすぐに切り替えて笑った。…変なの
💠 「美味しかった、ご馳走様でした。」
手を合わせ、満足そうな顔で料理を食べ終えた暗を見て、俺は一緒に食べてよかったなと心底思った。
🌻「久しぶりに食事が美味しく感じたよ、ありがとう」
💠 「…うん」
🌻「ねぇ暗、お願いがあるんだけど」
💠 「何だ?俺に出来ることなら何でもするが」
🌻「この後お風呂に入ったらさ、俺楽器持ってきて弾くから暗踊ってくれない?」
💠 「…っ、あぁ喜んで」
若干の躊躇いがあったけど、疲れているのだろうと思って追求することはしないことにした。
~数十分後~
ふふ、今日はいつもより短めに入ったから奏不思議そうにしていたなぁ~
久しぶりに楽器も持ってきたことだし、俺の得意な曲で踊ってもらお~
ふとノックしようとした手が俺の悪戯心によって止まった。暗、驚かせたいな…
こっそり扉を開けると暗の姿が見えた。良かった、逃げ出したりとかはしてなかった。…ん?なんだあの小瓶
暗が手にしていたのは、不思議な液体の入った小瓶。…何だろう、常備薬とかかな。でも、じゃあ何であんな無表情なんだろ。飲む気配とかも全くないし
ガチャッ
💠 「!?…あ、おかえり明」
🌻「ただいま、暗。お風呂入っておいで」
💠 「あ、あぁ…ありがとう。行ってくる」
小瓶をサッと懐の小袋に隠してとっととお風呂に向かう暗に、少しの不信感を抱いた。…何か、俺に隠してる?
扉が閉まり、一人の空間になって考えるには最適な環境になった。
…暗は、あの子なのかな?それとも、本当にただただ雰囲気が似てるだけの他人?…俺はあの子が好きなのか暗に惚れたのか分からない…どっちにしろ、二人に失礼だな。
…この楽器、懐かしいなぁ俺が唯一真面目に習った楽器。下手くそな俺の曲に合わせて馬鹿にしたりしないで上手に踊ってくれた優しいあの子…。会いたいな…何も言わずにいなくなっちゃったけど、やっぱりあの子は好き、大好き。
🌻「~♪~~♪」
指は覚えているもんなんだなぁ…しばらく触っていないのに迷わないもん、あの時の俺が頑張ったおかげだなぁ…
🌻「~~~♪」
💠 「明、た…だい…ま」
🌻「あ、おかえ…りぃ!?」
💠 「…なんだ、これ…なんだ俺…泣いて…」
帰ってきて早々ポロポロと涙を流す暗に俺は狼狽えてしまう。なんか俺した?いや、心当たりは全くない…なんで!?
🌻「どうしたの、暗。何か嫌なことあった?」
💠 「ち、違うんだ…俺、なんか胸…苦しくて…」
🌻「…暗、今日はもう寝よう?もし良かったら明日踊ってくれる?」
💠 「あ、あぁ…ありがとう。もちろんだ」
そう言っても涙の止まらない暗を俺はベッドまで連れていき、隣に寝るように促した。
🌻「はい、ここで寝て。」
💠 「いや、…俺は床でいい。…俺なんか…」
🌻「…も~、だぁめ。あんなに綺麗に踊る身体なんだよ?もっと大切にしなきゃ」
💠 「…ありがとう」
🌻「ふふ、暗…君、やっぱり俺の初恋の人に似てる」
💠 「初恋?」
🌻「うん、ある日突然いなくなっちゃったんだよね。その子」
💠 「そうなのか…」
🌻「元気にしてるかなぁ…あは、暗だったりしてね」
💠 「俺はこの国も街も初めて来たんだ、違うと思うぞ」
🌻「ふふ、でも今の俺の好きな人は違うんだけどね」
💠 「誰なんだ?」
🌻「ふふ、もう少ししたら暗にも分かるんじゃないかな」
そう言って暗を抱きしめるようにして横になった。あぁ、昼間くれた花の匂いがする。良い匂い…
🌻「暗、明日が来るのが楽しみだよ。」
💠 「……っ」
息を飲む声が聞こえた。そんなに驚くこと俺言ったっけ?まぁいいや、寝よ寝よ
🌻「おやすみ、暗」
💠 「…おやすみなさい、明」
意識が飛ぶほんの一瞬、俺の腕に冷たい雫が落ちたような気がした。
次の日、暗よりも早く目が覚めたので昨日暗が持っていた小瓶を探すことにした
あの小袋を探せば小瓶はきっとあるはず、あの小瓶が暗を悩ませているのなら、処分するか聞き出さなきゃ
えっと…あった!暗は…よし、まだ寝てる。
透明なんだな、中身。匂いは…
🌻「!?」
これ…かなり強い毒薬?だよね。なんでこんなものを…
💠 「うぅ…ん…」
まずい、暗が起きちゃう!
足音を立てないように俺はそっと部屋を出た。
~数分後~
とりあえず、部屋に戻ってきたけど。…暗、まだ寝てる…。とりあえず、小瓶は戻しておいて暗が起きるまで俺も横になろう。
そう思って、暗の横に腰かけて、眠りについたその瞬間、物凄い勢いで暗が俺の上に馬乗りになった。
💠 「はぁ…はぁ…」
🌻「暗…君は一体…何者なの?」
💠 「…俺は…俺は…お前を…殺しに来た。盗賊団の…奴隷だ」
…やっぱり、変だと思った。立ち止まった人じゃなくてわざわざ俺に声をかけたのはきっと最初から俺が狙いだったんだろうな…
あれ、でも待てよ?何で俺が出てくると分かったんだ…
🌻「暗…」
💠 「…あのな、明。俺の話を聞いてくれるか?」
🌻「うん、聞くよ…いくらでも」
俺は、命乞いとかは全く考えずに暗の話を聞くことにした。
💠 「明、俺はな…7年前以前の記憶が全くないんだ。俺にある最古の記憶は屈強な男たちに取り囲まれて泣きながら踊っている…そんな記憶だ。」
屈強な…一体どんなに怖い生活を…
💠 「なにか思い出そうとする度に変な薬を飲まされて、打たれて…俺の体はもう薬漬けなんだよ」
🌻「…」
💠 「俺の仕事は主に、踊って…歌って…ご機嫌取りをする…どこかの国の風俗みたいなものだ。誰にも体は許してはいないが…
毎日辛くて辛くて、逃げ出したくてたまらなかった…はは、逃げる勇気も無いのにな」
嘲笑するように、諦めるかのようなその真っ黒な瞳に俺は何も言えず、話を聞くことしか出来なかった。
💠 「奴らに決して逆らわず、この7年間を生きてきた。いつか開放されることを待ち望んで…。
ある日、奴らは俺にこう言った。この国の王を殺せ、そうしたらお前を解放してやると。藁にもすがる思いだった、怖くて怖くてたまらなかったが俺はとにかく逃げ出したかった。…そして、教えられた通りに現れたお前に声をかけ、その後は立ち去ったお前を群衆に紛れて殺すはずだった。なのに…なのに…」
話しながら、暗の真っ黒な瞳から涙が溢れてきて元の美しい瞳が少しだけ顔を出した。
💠 「お前は…立ち去らず、最後まで俺の踊りを見てくれた…綺麗だと、言ってくれたんだ…。今まで散々バカにされ、コケにされ…笑われてきた俺の何かが報われた気がした。…優しく笑ってくれた明を…殺したく…なくなってしまったんだ…違うな、最初から俺はお前を殺したくなかったっ…」
🌻「暗…君はやっぱり誰よりも綺麗だよ」
💠 「…綺麗なんて言葉、俺に使うなっ…俺はただ最低な臆病者だ…やめてくれ」
🌻「でも、こうして俺に全てを話してくれたじゃない。それだけで、十分暗は綺麗だって俺は思うよ」
そう言うと、俺の胸に頭を擦り付けながらわんわん泣き出した暗を俺は自分に出来る精一杯の優しい力で抱きしめた。暗の泣く声がもっと大きくなった…きっと、今まで泣けなかったのだろう…怖かったのだろう…
🌻「いくらでも泣いていいよ…」
💠 「ふぅ…ぅ、うぁ…ああぁぁぁっ、」
・
・
・
・
🌻「落ち着いた?暗」
💠 「…あぁ」
🌻「暗…あのさ、あの小瓶は一体…」
💠 「あぁ、これか」
そう言って差し出した小瓶に、俺は驚いた。いつの間に持っていたんだ?
🌻「そう、それ…」
💠 「これは…もし失敗した時にお前に飲ませろって渡された毒薬だ。まぁ、今から俺が飲むんだけどな」
🌻「…えっ」
💠 「明、ありがとう…。醜い俺を救ってくれて…愛しているぞ」
そう言って小瓶の中身を一気に飲み干した暗…でも俺は止めなかった。だって…
💠 「!?、これ…ただの…水?」
🌻「はぁ~、入れ替えといてよかったぁ」
💠 「っ、明…お前」
🌻「俺が飲まされるにしろ、暗が飲むにしろ中身捨てといて問題は無いでしょ?だから、捨てといたよ」
なんて言うと、また暗の瞳から涙が溢れてきた
💠 「なんで…っ、なんで…お前、あれが毒だって気付いていたんだろ?なんで俺に飲ませなかった!殺してくれたら…俺は…」
🌻「楽になれたって?」
💠 「…っ」
🌻「言っとくけど、俺があの毒を水と入れ替えたのも、毒薬のまま暗に飲ませなかったのも、分からない?」
💠 「…」
🌻「俺、暗が好き。」
💠 「は?」
🌻「今確信したよ、暗…君は俺の初恋の人で、今も好きなのは暗だよ。」
💠 「違…だって俺は、記憶が」
🌻「ううん、絶対に暗だよ。思い出したもん、俺に渡してくれたあの花…あの子が…昔の君が俺にくれたのと同じ花だもん。笑顔もあの子の面影があるしそれに、記憶が無いのも薬かなんか飲まされてるんだったら、飛んでもおかしくないよ。」
💠 「…あの花は…俺が好きな花で…偶然だろ…」
🌻「…何をそんなに躊躇ってるのか俺、分からないけどさ。愛してるって水飲む前に言ってくれたじゃん。」
💠 「…っ/////」
ボンッと音が聞こえそうな程に顔を真っ赤に染めた暗に、俺は苦笑した。…忘れていたのか
🌻「…苦しくて、暗い人生を送ってきたなら俺がこれから楽しくて、過去を忘れるくらい楽しくて明るい日々を俺は一緒に過ごすよ。…だからさ、暗」
💠 「…っ、ふ…うぅ…」
あぁ、泣かないで!俺は暗の笑顔が見たいよ
🌻「暗、俺が暗を…幸せにするから…俺と」
「そこまでだ」
🌻💠 「「!?」」
「あぁ、なんて切なくて感動するお話なのでしょう。本なら泣いているでしょうな」
🌻「奏…何を持っているんだ」
「これですか?ふぉっふぉ、これは毒の塗りこまれた剣ですよ。」
いつもとかなり様子が違う奏に驚きながらも、暗を庇うように俺は起き上がった。
「全く、お前も使い物にならないな。踊り子よ、命令しただろう?殺せと」
💠 「…っ、あいつらの…トップはお前だったのか…」
「ふぉっふぉ、そうですぞ?様々な国の王を殺し、財産を搾り取るだけ搾って壊滅させる…それが、私の率いる盗賊団です」
🌻「…今回は俺ってことね」
「はい、その通りです。この国は資材が山ほどありましたし、すぐに潰すには惜しいと思い黙っておりました。…しかし、その踊り子が計画を狂わせた!そのせいで、…あなたは…いや、お前たちは今死ぬのだ」
💠 「…っ明…」
🌻「暗、下がってて」
「美しい愛に、私が終止符を打ってあげよう…さらばだ!」
とても老体とは思えない身のこなしに、驚いているとあっという間に俺の心臓の近くに剣先がきた
「しねぇぇぇぇぇぁぁ!!」
🌻「…っ…え…」
心臓にささる、そう思ったその瞬間俺の体は後ろに倒れて、目の前に暗の体が立ちはだかった。…刹那、暗の身体は剣に貫かれ俺の顔に生温かい液体がかかった
💠 「は…は…、く、…ふ…これ以上…俺の大切な…ものを…奪わ…れて…たま…もん…か…」
ドサッと俺の体に覆い被さるように暗は倒れてきた。
「…庇ったか…無駄な足掻きをしおって…」
🌻「暗っ!暗っ!しっかりしろ、暗!」
「心配するな、もう時期逝く王よお前も後を追わせてやる!」
剣を振りかざし、襲い来る衝撃をぎゅっと待った。しかし、その衝撃は来なかった
「かはっ、…ドサッ」
💠 「は…はっ…ざ、まぁみろ…正当…っ防衛だ」
倒れたのは…俺では無かった。よく見ると、俺の腰にあった短剣だった。あの一瞬で、暗は武器を見つけて奏を刺したのだ。
「ぐっ…貴様…死にかけの奴隷の分際で…」
💠 「…く、ごぼっ…かはっ…はは、残念だったな…俺は…お前なんかよりも…ごほっ、長生きするんだよ…っ、ごほっごほっ」
喋る度に溢れ出る血を俺は止血しようと、薄目のターバンを暗の体に巻いた。
💠 「ありがと…な、明。これで少しはあのクソジジイよりも長生き…できる…」
「この…奴隷…がぁ…は、残…念だったな…この、毒薬は…お前の…身体を蝕み…ゆっく…りと殺す…んだ…」
そう言うと、奏は息絶えた。あんなに長く仕えていたのに悲しみは全く湧かなかった
それよりも、暗がっ
💠「ごほっごほっ…はぁ…は…」
🌻「おい!誰か医者を呼べ!そして解毒剤を用意しろ!」
そう叫ぶと、臣下たちが一斉にそれぞれ動き出した。…ありがたい、後でみんなに礼を言わなければ
💠 「明…めい…あぁ…めいく…ん…」
🌻「!?、…暗?」
めいくん…それは、あの子が俺を呼ぶ時の呼称…
🌻「やっぱ…暗だったんだね…っ、」
💠 「めいく…ごめ…おれ…あのひ…あいに…いこうとした…ら…ゆ…かい…されて」
🌻「…っそうだったんだね、謝らないで…暗はっ…何も…悪くない…」
💠 「ずっ…と…あやま…たかった…ただ…いま…ていい…たか…た」
🌻「暗がっ…帰ってくるのが…っ、どんなに時間がかかっても…っ俺がおかえりって言うよ…ねぇ…行かないで…俺を…一人にしないでっ…お願い…お願い…」
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。せっかくまた会えたのに…俺の前からいなくなるのは…神様お願いします、俺から暗を奪わないで…っ、暗を失わないで済むなら何を失ってもいい、お願い…お願い…
🌻「暗、暗…っ、俺暗のこと愛してる…っ、うぅ…」
愛してる、そう告げると光の灯ってなかった目に一瞬光が灯ったかと思うと幸せそうな顔で…
💠 「うれし…おれも…あいしてる…さいご…に、めいくんに…あえて…よかった」
そう言うと、暗は穏やかな笑みを浮かべて目を閉じ、何も喋らなくなった
🌻「最後なんて嫌だ!帰ってこなきゃ絶対に許さない!脈は…まだある、持ちこたえなよ…暗」
そして俺は暗を横抱きに大切に抱えて担架を持って駆けつけた臣下たちのもとへと急いだ。
~2年後~
あれから、暗は一命を取り留めたものの、目を覚まさずにずっと眠っている。どうやら、解毒が奇跡的に間に合ったのと暗の身体にあった薬への抗体が最悪の事態を免れたらしい。でも、皮肉なことに長年の薬漬けの影響が副作用として目が覚めるのに時間がかかるらしい。あの日の傷跡も消え、起き上がるのにも問題は無いはず…あとはゆっくり待つだけだと俺はずっと暗が帰ってくるのを待っている。
風通しの良い部屋で、時折風に乗って花弁が舞って入ってくるこの部屋を、暗と俺の二人の寝室にすることにした。
今日も俺は暗のために花束を持って寝室へ行く。いつでも、暗にプロポーズが出来るように
🌻「暗~見てよこれ、暗が好きな花だよ。紫陽花って言うんだね…暗、花言葉調べたよ。家族って意味があるんだね。…俺、暗と早く家族になりたいな…」
そう言うと、暗の傍らに紫陽花をそっと置いた。
🌻「あともうひとつ、これは俺が花のこと勉強してるうちに好きになった花なんだ。向日葵って言うんだって…意味も、俺たちにピッタリだと思うんだよ」
大輪の向日葵を紫陽花の横に並べて寝かせる。…まるで、俺たちみたいだな…
🌻「ねぇ暗…っ俺、暗を誘拐した盗賊団やっつけたよ?暗と二人で花を育てたくて…庭も作ったし…勉強もした…後…何をしたら起きてくれる?…っ、ねぇ…暗っ」
うんともすんとも言ってくれない想い人を前に、抱えていた想いが一気に溢れ出す。
🌻「ぐすっ…はは、こんな情けないところ見られたくないなぁ…。そうだ、俺今日は楽器も持ってきたんだよ?…俺が、1番好きな曲…弾いてあげるね」
🌻「~♪♪~~~♪」
あの日暗が泣いたのはきっと、心の奥底にいた暗の心が覚えていたからなんだろうな。…暗、また踊ってくれるかな
🌻「♪~~~♪♪~」
踊れなくてもいい、それよりも俺は…
🌻「暗の笑顔が見たいなぁ…」
💠 「…は、はは…踊って…ほしいくせに…」
🌻「!?…暗!」
💠 「…ただいま…明」
🌻「…っ、は…あはは…っおかえり…暗!」
上手く力が入らないのか起き上がれない暗を俺は横抱きにして額をお互いに合わせて泣きながら笑いあう
🌻「…ふふ、暗」
💠 「明…っ、明…」
お互いの涙が顔を伝っていって、それが口に入って、少しそれがしょっぱい。暗も同じことを感じたようで、唇を舐めて困ったように眉毛は八の字に下がっていた。
…すごく可愛い
そして俺は、暗に昔から送りたかった言葉を送ることにした。
🌻「っ、子供の時からずっと暗が好き。暗だけをずっと見ているよ、俺と結婚して家族になってください」
💠 「うん、…俺も明と家族…になりたい。俺も明だけを見ている。…俺で良ければ結婚して欲しいっ…」
🌻「暗じゃなきゃ嫌だ」
💠 「ふふ、俺も明じゃなきゃ嫌だな」
クスクスと笑いあって俺は暗の顔中にキスの雨を降らした。擽ったそうに、そして幸せそうに暗は笑ってくれた。ふと、バードキスが終わって目がお互いにあった。
💠 「口…にしてほしい」
🌻「仰せのままに、俺の花嫁さん♡」
そうして俺と暗は、再会と誓いの口付けを交わした。時間を忘れて、俺たちはお互いの蜜を味わうことにした。
🌻「ぷはっ、はぁ…ふふ、結婚式を挙げるの楽しみだね、暗♡」
💠 「ふふ、うん!素敵な式にしような、明♡」
その後、世界中で一番暖かくて幸せな二人だけの結婚式を挙げたのは俺たちだけの秘密
その傷は、幼い頃好きだった人が自分に何も告げずに去ってしまってついたのでした。それでも彼はその人のことがずっと好きでした。
「王様、お願いします。会うだけでもいいんです、どうかうちの娘を…」
🌻「知らないよ、俺は女の人が好きじゃないんだから。…帰ってくれる?」
「で、ですが」
🌻「帰れ、これは命令だ」
「わ、分かりました。」
そう言うと頭を深く下げて立ち去る富豪の丸い後ろ姿を俺は見届け、部屋に戻ろうとしたら
「王様、少しは街の様子を見てきてはいかがですか?」
🌻「なんで?偵察の部隊は居るんだから俺が行く必要ないよね?」
「息抜きも兼ねて、見てきてください。今日は珍しく街も賑わっていますよ?芸者が来ているのではありませんかね」
🌻「俺、あまり芸事に興味無いんだけど」
「そう仰らず、行ってらっしゃいませ」
そう言いながら外出用のターバンを巻き、口元を隠した俺の背中を押したのは昔から俺に仕えている老いた臣下の奏(かなえ)
🌻「わぁーったよ、行くよ。行けばいいんだろ?」
と文句を言いながら裏門に向かった俺を笑う声が聞こえた。
…本当だ、今日はやけに賑わってるな。音楽も流れているし…はぁ、適当に見て帰るか
「おい、聞いたか?お前」
「あぁ、聞いた聞いた。絶世の美しさを持ってるって噂の華の踊り子が今日来てるんだろ?早く行こうぜ」
「華の踊り子って、女神のように美しくて舞も絶品らしいな」
「でも、まだ誰も見ていないらしい。どこにいるんだろうな」
「探そーぜ、そんでお近付きになりてぇな」
下品な話し方をする男たちを尻目に、話題に上がっていた踊り子を探すことにした。
…そう言えば、あの子も踊るのが上手だったなぁ…
はぁ、嫌なこと思い出しちゃった。考えるのやめよ
🌻「…どうせ、化粧で誤魔化したくらいなんだろ?絶世なんて大袈裟な表現だな、まったく」
とブツブツ文句を言いながら歩いていると、不意に肩を軽く叩かれ、後ろを向いた。そこには、口元を覆った綺麗な男がいた
💠 「あの、すみません」
🌻「な、なんですか」
つい敬語になってしまうくらい、俺は緊張していた。今までどんなに大切な外交でも一切緊張なんてしてこなかったのに
💠 「この辺りで自由に踊ってもいい場所は何処ですか?初めて来たもので、よく分からないんです。」
🌻「えーっと…ね、こっちだよ。着いてきて」
頭に叩き込まれている地図を必死に思い出し、彼を導くことにした。
💠 「ふふ、ありがとうございます。連れて行ってくださるなんて、後でなにかお礼をしなくては」
🌻「…考えておくね」
…と味気ない会話を交し、それ以降は無言で歩いた。目的地に着くと、誰も商売をしていなかった。
🌻「ここだよ、良かったね。独占し放題だよ」
💠 「本当だ、良かった。これでのびのびと踊れます。」
踊る?…そう言えば、ここを探していた理由もそんな理由だったな。彼が、もしかしてさっき奴らが言ってきた華の踊り子なのかな
💠 「そうだ、良かったら俺の踊りを見ていってください。評判は良い方なんで、退屈はしませんよ?」
🌻「…そこまで言うなら、見ていってやってもいいよ」
💠 「ふふ、ありがとうございます。よいっしょ」
そう言って口元を隠していた布を取って、俺の目を踊り子は見つめた。…え、まって、すごい美人じゃん…あの子も成長したらこんな風に綺麗になっていたりするのかな
💠 「ご親切な貴方様に最大の感謝を込め、最高の踊りを披露することをこの花に誓いましょう」
チュッと紫色の花にキスをして俺に花を差し出してきた。一瞬受け取るべきか悩んだが、アメジストと琥珀の織り交ざった瞳に負け、受け取ってターバンに刺すことにした
踊り子はそんな俺を見てニッコリと笑い、また布で口元を隠してしまった。
🌻「隠しちゃうの?口元」
💠 「はは、時折見える方が色っぽくて素敵でしょう?」
🌻「ふふ、もう十分色っぽかったけど」
💠 「…っ、ありがとうございます、嬉しいです。…それでは、始めましょう」
華やかなひと時を、それだけを告げて目を閉じた踊りの子の纏う雰囲気がガラリと変わった。
目を開けると共にシャンシャンシャンと小道具の鈴を鳴らし、華やかなひと時が始まった。綺麗な布を翼のように煌めかせ、手品のように出した花弁を頭上に広げ、踊りに合わせて花弁は風に乗る。そうすると、たちまち彼を飾る宝石となり俺の視界に映るもの全てが煌めいて見えた。
鈴の音に誘われて、たちまち人が周りに集まり始めた。
「わぁ、お母さんみてみて!すごく綺麗ね!」
「本当、あんなに綺麗な人がこの国に来てくれるなんて」
騒ぐ群衆なんて耳に入らなかった。俺の目に入る美しい彼が全てだった。
💠 「~♪」
時々音楽に織り込まれる鼻歌すらも美しい。踊りに興味なんて一切なかった俺が、たった一人の存在によって何かが変わった。
心が暖かい何かによって満たされていくみたいだった。
💠 「~♪~~♪」
不意にパチッと目が合って少し顔を赤らめて笑うその仕草に心踊った。
彼は花なのだ。俺は、そんな花に誘われてまんまと導かれた蝶なのだと思った。魅力という蜜を吸わせ、もっと自分を見てくれと言わんばかりに綺麗に咲いている彼に俺は
恋に落ちたのだ
時間も忘れて彼をずっと見ていた。しかし、時の流れはいつでも残酷で彼の踊りも終わってしまった。
💠 「はぁー、はぁー…ありがとうございました。」
もう日も暮れてすっかり人も少なくなり、まばらな拍手を聞き終えて彼は深くお辞儀をすると荷物を纏め始めた。
ハッとして彼に声をかけた。
🌻「ね、ねぇ」
💠 「…あ、この国の最初のお客さん!最後まで見ていてくれてありがとうございます。こんなに長く見ててくれた人は初めてだったので嬉しいです。」
🌻「…綺麗だった。本当に綺麗だったよ」
💠 「ありがとうございます、あの…」
🌻「ん?」
💠 「この辺りに、宿はありますか?」
🌻「今夜泊まるとこ探してるの?」
💠 「はい、お恥ずかしいのですが早く踊りたくてつい、探すことを忘れていました。」
えへへ、と笑う彼は何処かあの子を思い出させて胸の奥がギュッとした。
🌻「…あのさ、もし良かったら俺のところに泊まりに来ない?色々話も聞きたいし」
そう言うと目を大きく開けて
💠 「その、ご迷惑でしょうし申し訳ないです。」
眉を下げて困ったように笑う彼は、やっぱりあの子に似ていて
🌻「お礼、してくれるんでしょ?泊まりに来て」
💠 「わ、分かりました。」
そう言うと急いで荷物を纏めて、その作業が終わったのを見届けると、歩き出した俺に慌てて着いてきた。
…彼は、俺が想っていたあの子なのかな。でも、初めて来たって彼は言ってた。…そっくりさんか
あぁもう!なんで俺名前も覚えてないの!
そうモヤモヤと考えていると、後ろから彼の声がした。
💠 「あ、あの。」
🌻「なぁに?」
💠 「あなたの、お名前はなんて言うんですか?なんてお呼びすればいいですか?」
🌻「…俺は、明。明って呼んでくれて構わないよ」
💠 「明って言うんですか。俺は暗です。」
🌻「暗はさ、普段はどんなふうに暮らしているの?」
💠 「俺は、世界中を踊り子をしながら旅をしています。何か、大切なものを思い出さなきゃいけなくて」
🌻「…大切なことって?」
急に足を止めた俺を不思議そうに思ったのか、暗は俺の顔を覗きに隣に来た。悲しそうな顔をして
💠 「…それが、分からなくて」
🌻「え?」
💠 「…外じゃ大きな声で言えないんです。……俺の人生は」
🌻「分かった。また今度聞かせて」
💠 「…はい」
暗い話題はしたくなくて、話を切り上げようとした。その時、
「王様ーー!」
前の方から、俺の臣下たちが走ってきた。あぁー、心配かけたんだろうな…
「こんなに遅くまで何を…って、何者だ貴様!」
と臣下含め兵士が暗に矛先を向けた。
🌻「やめろ、その人は俺の客人だ!」
「客人?こんな得体の知れない者が…」
「王様、冗談はおやめ下さい!」
誰一人として俺の話を信じない臣下に内心とてもイラつきながら宥めているが、暗の方を見ると刃物を突き付けられているのに顔色一つ変えずにニコッと笑っている
💠 「俺は、踊り子をしている暗と申します。本日、王様が宿を提供してくれるとのことで着いてまいりました。」
なんて話す。大した度胸だけど、逆に怖い
🌻「俺が今日一日いなかったのは、奏が息抜きで街に行ってきてほしいと言って街に行っていたからだ。そして暗に出会った、だから暗を招待した。これで分かったか?早く武器を下ろせ」
そう言うと一斉に臣下たちの顔が青ざめていくのが分かった。我先にと武器を下ろし、暗に頭を下げる。
「も、申し訳ない」
「お怪我はありませんか」
身の代わりが早いな、こいつら
💠 「大丈夫です、何処も痛くないですよ。」
あっさり許してしまう暗が心配になった俺は、急いで夕食を準備するように家臣に言いつけ、暗を引きずるように部屋に連れていった。
🌻「はぁー、ほんっと疲れた」
💠 「すみません、俺がいきなり来たせいで…」
🌻「あ?…あー違う違う、あれは俺が帰り遅くなっちゃったのとあいつらの頭に血が上りやすいのが悪い」
💠 「…ふふ、明様はお優しいんですね」
🌻「優しいなんて言うの、暗が初めてなんじゃない?冷たいの方が言われ慣れてるよ、俺」
💠 「そうなのですか?俺にはすごく親切にしてくださったじゃないですか。それだけで十分お優しい方だと思いますよ。」
飾り気のない暗の言葉が、俺の中の暗い霧を晴らしていく…まいったな、俺ベタ惚れじゃん
🌻「敬語、使わなくていいよ。暗は特別に」
💠 「で、ですが俺はただの踊り子で…」
🌻「こーら、王様命令」
💠 「…分かったよ、明」
よしよし、これで良い。…そろそろ夕食か、一緒に食べたいな
🌻「暗、そろそろ夕食の時間なんだけど一緒に食べない?」
💠 「明様…明は俺と一緒に食べてくださるんですか?」
🌻「久しぶりに、一緒に食べたい人が暗なんだよ。」
💠 「俺で良ければ」
🌻「暗じゃなきゃ嫌だ」
そう言うと、暗は一瞬恐ろしい程に冷たい顔になったがすぐに切り替えて笑った。…変なの
💠 「美味しかった、ご馳走様でした。」
手を合わせ、満足そうな顔で料理を食べ終えた暗を見て、俺は一緒に食べてよかったなと心底思った。
🌻「久しぶりに食事が美味しく感じたよ、ありがとう」
💠 「…うん」
🌻「ねぇ暗、お願いがあるんだけど」
💠 「何だ?俺に出来ることなら何でもするが」
🌻「この後お風呂に入ったらさ、俺楽器持ってきて弾くから暗踊ってくれない?」
💠 「…っ、あぁ喜んで」
若干の躊躇いがあったけど、疲れているのだろうと思って追求することはしないことにした。
~数十分後~
ふふ、今日はいつもより短めに入ったから奏不思議そうにしていたなぁ~
久しぶりに楽器も持ってきたことだし、俺の得意な曲で踊ってもらお~
ふとノックしようとした手が俺の悪戯心によって止まった。暗、驚かせたいな…
こっそり扉を開けると暗の姿が見えた。良かった、逃げ出したりとかはしてなかった。…ん?なんだあの小瓶
暗が手にしていたのは、不思議な液体の入った小瓶。…何だろう、常備薬とかかな。でも、じゃあ何であんな無表情なんだろ。飲む気配とかも全くないし
ガチャッ
💠 「!?…あ、おかえり明」
🌻「ただいま、暗。お風呂入っておいで」
💠 「あ、あぁ…ありがとう。行ってくる」
小瓶をサッと懐の小袋に隠してとっととお風呂に向かう暗に、少しの不信感を抱いた。…何か、俺に隠してる?
扉が閉まり、一人の空間になって考えるには最適な環境になった。
…暗は、あの子なのかな?それとも、本当にただただ雰囲気が似てるだけの他人?…俺はあの子が好きなのか暗に惚れたのか分からない…どっちにしろ、二人に失礼だな。
…この楽器、懐かしいなぁ俺が唯一真面目に習った楽器。下手くそな俺の曲に合わせて馬鹿にしたりしないで上手に踊ってくれた優しいあの子…。会いたいな…何も言わずにいなくなっちゃったけど、やっぱりあの子は好き、大好き。
🌻「~♪~~♪」
指は覚えているもんなんだなぁ…しばらく触っていないのに迷わないもん、あの時の俺が頑張ったおかげだなぁ…
🌻「~~~♪」
💠 「明、た…だい…ま」
🌻「あ、おかえ…りぃ!?」
💠 「…なんだ、これ…なんだ俺…泣いて…」
帰ってきて早々ポロポロと涙を流す暗に俺は狼狽えてしまう。なんか俺した?いや、心当たりは全くない…なんで!?
🌻「どうしたの、暗。何か嫌なことあった?」
💠 「ち、違うんだ…俺、なんか胸…苦しくて…」
🌻「…暗、今日はもう寝よう?もし良かったら明日踊ってくれる?」
💠 「あ、あぁ…ありがとう。もちろんだ」
そう言っても涙の止まらない暗を俺はベッドまで連れていき、隣に寝るように促した。
🌻「はい、ここで寝て。」
💠 「いや、…俺は床でいい。…俺なんか…」
🌻「…も~、だぁめ。あんなに綺麗に踊る身体なんだよ?もっと大切にしなきゃ」
💠 「…ありがとう」
🌻「ふふ、暗…君、やっぱり俺の初恋の人に似てる」
💠 「初恋?」
🌻「うん、ある日突然いなくなっちゃったんだよね。その子」
💠 「そうなのか…」
🌻「元気にしてるかなぁ…あは、暗だったりしてね」
💠 「俺はこの国も街も初めて来たんだ、違うと思うぞ」
🌻「ふふ、でも今の俺の好きな人は違うんだけどね」
💠 「誰なんだ?」
🌻「ふふ、もう少ししたら暗にも分かるんじゃないかな」
そう言って暗を抱きしめるようにして横になった。あぁ、昼間くれた花の匂いがする。良い匂い…
🌻「暗、明日が来るのが楽しみだよ。」
💠 「……っ」
息を飲む声が聞こえた。そんなに驚くこと俺言ったっけ?まぁいいや、寝よ寝よ
🌻「おやすみ、暗」
💠 「…おやすみなさい、明」
意識が飛ぶほんの一瞬、俺の腕に冷たい雫が落ちたような気がした。
次の日、暗よりも早く目が覚めたので昨日暗が持っていた小瓶を探すことにした
あの小袋を探せば小瓶はきっとあるはず、あの小瓶が暗を悩ませているのなら、処分するか聞き出さなきゃ
えっと…あった!暗は…よし、まだ寝てる。
透明なんだな、中身。匂いは…
🌻「!?」
これ…かなり強い毒薬?だよね。なんでこんなものを…
💠 「うぅ…ん…」
まずい、暗が起きちゃう!
足音を立てないように俺はそっと部屋を出た。
~数分後~
とりあえず、部屋に戻ってきたけど。…暗、まだ寝てる…。とりあえず、小瓶は戻しておいて暗が起きるまで俺も横になろう。
そう思って、暗の横に腰かけて、眠りについたその瞬間、物凄い勢いで暗が俺の上に馬乗りになった。
💠 「はぁ…はぁ…」
🌻「暗…君は一体…何者なの?」
💠 「…俺は…俺は…お前を…殺しに来た。盗賊団の…奴隷だ」
…やっぱり、変だと思った。立ち止まった人じゃなくてわざわざ俺に声をかけたのはきっと最初から俺が狙いだったんだろうな…
あれ、でも待てよ?何で俺が出てくると分かったんだ…
🌻「暗…」
💠 「…あのな、明。俺の話を聞いてくれるか?」
🌻「うん、聞くよ…いくらでも」
俺は、命乞いとかは全く考えずに暗の話を聞くことにした。
💠 「明、俺はな…7年前以前の記憶が全くないんだ。俺にある最古の記憶は屈強な男たちに取り囲まれて泣きながら踊っている…そんな記憶だ。」
屈強な…一体どんなに怖い生活を…
💠 「なにか思い出そうとする度に変な薬を飲まされて、打たれて…俺の体はもう薬漬けなんだよ」
🌻「…」
💠 「俺の仕事は主に、踊って…歌って…ご機嫌取りをする…どこかの国の風俗みたいなものだ。誰にも体は許してはいないが…
毎日辛くて辛くて、逃げ出したくてたまらなかった…はは、逃げる勇気も無いのにな」
嘲笑するように、諦めるかのようなその真っ黒な瞳に俺は何も言えず、話を聞くことしか出来なかった。
💠 「奴らに決して逆らわず、この7年間を生きてきた。いつか開放されることを待ち望んで…。
ある日、奴らは俺にこう言った。この国の王を殺せ、そうしたらお前を解放してやると。藁にもすがる思いだった、怖くて怖くてたまらなかったが俺はとにかく逃げ出したかった。…そして、教えられた通りに現れたお前に声をかけ、その後は立ち去ったお前を群衆に紛れて殺すはずだった。なのに…なのに…」
話しながら、暗の真っ黒な瞳から涙が溢れてきて元の美しい瞳が少しだけ顔を出した。
💠 「お前は…立ち去らず、最後まで俺の踊りを見てくれた…綺麗だと、言ってくれたんだ…。今まで散々バカにされ、コケにされ…笑われてきた俺の何かが報われた気がした。…優しく笑ってくれた明を…殺したく…なくなってしまったんだ…違うな、最初から俺はお前を殺したくなかったっ…」
🌻「暗…君はやっぱり誰よりも綺麗だよ」
💠 「…綺麗なんて言葉、俺に使うなっ…俺はただ最低な臆病者だ…やめてくれ」
🌻「でも、こうして俺に全てを話してくれたじゃない。それだけで、十分暗は綺麗だって俺は思うよ」
そう言うと、俺の胸に頭を擦り付けながらわんわん泣き出した暗を俺は自分に出来る精一杯の優しい力で抱きしめた。暗の泣く声がもっと大きくなった…きっと、今まで泣けなかったのだろう…怖かったのだろう…
🌻「いくらでも泣いていいよ…」
💠 「ふぅ…ぅ、うぁ…ああぁぁぁっ、」
・
・
・
・
🌻「落ち着いた?暗」
💠 「…あぁ」
🌻「暗…あのさ、あの小瓶は一体…」
💠 「あぁ、これか」
そう言って差し出した小瓶に、俺は驚いた。いつの間に持っていたんだ?
🌻「そう、それ…」
💠 「これは…もし失敗した時にお前に飲ませろって渡された毒薬だ。まぁ、今から俺が飲むんだけどな」
🌻「…えっ」
💠 「明、ありがとう…。醜い俺を救ってくれて…愛しているぞ」
そう言って小瓶の中身を一気に飲み干した暗…でも俺は止めなかった。だって…
💠 「!?、これ…ただの…水?」
🌻「はぁ~、入れ替えといてよかったぁ」
💠 「っ、明…お前」
🌻「俺が飲まされるにしろ、暗が飲むにしろ中身捨てといて問題は無いでしょ?だから、捨てといたよ」
なんて言うと、また暗の瞳から涙が溢れてきた
💠 「なんで…っ、なんで…お前、あれが毒だって気付いていたんだろ?なんで俺に飲ませなかった!殺してくれたら…俺は…」
🌻「楽になれたって?」
💠 「…っ」
🌻「言っとくけど、俺があの毒を水と入れ替えたのも、毒薬のまま暗に飲ませなかったのも、分からない?」
💠 「…」
🌻「俺、暗が好き。」
💠 「は?」
🌻「今確信したよ、暗…君は俺の初恋の人で、今も好きなのは暗だよ。」
💠 「違…だって俺は、記憶が」
🌻「ううん、絶対に暗だよ。思い出したもん、俺に渡してくれたあの花…あの子が…昔の君が俺にくれたのと同じ花だもん。笑顔もあの子の面影があるしそれに、記憶が無いのも薬かなんか飲まされてるんだったら、飛んでもおかしくないよ。」
💠 「…あの花は…俺が好きな花で…偶然だろ…」
🌻「…何をそんなに躊躇ってるのか俺、分からないけどさ。愛してるって水飲む前に言ってくれたじゃん。」
💠 「…っ/////」
ボンッと音が聞こえそうな程に顔を真っ赤に染めた暗に、俺は苦笑した。…忘れていたのか
🌻「…苦しくて、暗い人生を送ってきたなら俺がこれから楽しくて、過去を忘れるくらい楽しくて明るい日々を俺は一緒に過ごすよ。…だからさ、暗」
💠 「…っ、ふ…うぅ…」
あぁ、泣かないで!俺は暗の笑顔が見たいよ
🌻「暗、俺が暗を…幸せにするから…俺と」
「そこまでだ」
🌻💠 「「!?」」
「あぁ、なんて切なくて感動するお話なのでしょう。本なら泣いているでしょうな」
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いつもとかなり様子が違う奏に驚きながらも、暗を庇うように俺は起き上がった。
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🌻「暗、下がってて」
「美しい愛に、私が終止符を打ってあげよう…さらばだ!」
とても老体とは思えない身のこなしに、驚いているとあっという間に俺の心臓の近くに剣先がきた
「しねぇぇぇぇぇぁぁ!!」
🌻「…っ…え…」
心臓にささる、そう思ったその瞬間俺の体は後ろに倒れて、目の前に暗の体が立ちはだかった。…刹那、暗の身体は剣に貫かれ俺の顔に生温かい液体がかかった
💠 「は…は…、く、…ふ…これ以上…俺の大切な…ものを…奪わ…れて…たま…もん…か…」
ドサッと俺の体に覆い被さるように暗は倒れてきた。
「…庇ったか…無駄な足掻きをしおって…」
🌻「暗っ!暗っ!しっかりしろ、暗!」
「心配するな、もう時期逝く王よお前も後を追わせてやる!」
剣を振りかざし、襲い来る衝撃をぎゅっと待った。しかし、その衝撃は来なかった
「かはっ、…ドサッ」
💠 「は…はっ…ざ、まぁみろ…正当…っ防衛だ」
倒れたのは…俺では無かった。よく見ると、俺の腰にあった短剣だった。あの一瞬で、暗は武器を見つけて奏を刺したのだ。
「ぐっ…貴様…死にかけの奴隷の分際で…」
💠 「…く、ごぼっ…かはっ…はは、残念だったな…俺は…お前なんかよりも…ごほっ、長生きするんだよ…っ、ごほっごほっ」
喋る度に溢れ出る血を俺は止血しようと、薄目のターバンを暗の体に巻いた。
💠 「ありがと…な、明。これで少しはあのクソジジイよりも長生き…できる…」
「この…奴隷…がぁ…は、残…念だったな…この、毒薬は…お前の…身体を蝕み…ゆっく…りと殺す…んだ…」
そう言うと、奏は息絶えた。あんなに長く仕えていたのに悲しみは全く湧かなかった
それよりも、暗がっ
💠「ごほっごほっ…はぁ…は…」
🌻「おい!誰か医者を呼べ!そして解毒剤を用意しろ!」
そう叫ぶと、臣下たちが一斉にそれぞれ動き出した。…ありがたい、後でみんなに礼を言わなければ
💠 「明…めい…あぁ…めいく…ん…」
🌻「!?、…暗?」
めいくん…それは、あの子が俺を呼ぶ時の呼称…
🌻「やっぱ…暗だったんだね…っ、」
💠 「めいく…ごめ…おれ…あのひ…あいに…いこうとした…ら…ゆ…かい…されて」
🌻「…っそうだったんだね、謝らないで…暗はっ…何も…悪くない…」
💠 「ずっ…と…あやま…たかった…ただ…いま…ていい…たか…た」
🌻「暗がっ…帰ってくるのが…っ、どんなに時間がかかっても…っ俺がおかえりって言うよ…ねぇ…行かないで…俺を…一人にしないでっ…お願い…お願い…」
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ。せっかくまた会えたのに…俺の前からいなくなるのは…神様お願いします、俺から暗を奪わないで…っ、暗を失わないで済むなら何を失ってもいい、お願い…お願い…
🌻「暗、暗…っ、俺暗のこと愛してる…っ、うぅ…」
愛してる、そう告げると光の灯ってなかった目に一瞬光が灯ったかと思うと幸せそうな顔で…
💠 「うれし…おれも…あいしてる…さいご…に、めいくんに…あえて…よかった」
そう言うと、暗は穏やかな笑みを浮かべて目を閉じ、何も喋らなくなった
🌻「最後なんて嫌だ!帰ってこなきゃ絶対に許さない!脈は…まだある、持ちこたえなよ…暗」
そして俺は暗を横抱きに大切に抱えて担架を持って駆けつけた臣下たちのもとへと急いだ。
~2年後~
あれから、暗は一命を取り留めたものの、目を覚まさずにずっと眠っている。どうやら、解毒が奇跡的に間に合ったのと暗の身体にあった薬への抗体が最悪の事態を免れたらしい。でも、皮肉なことに長年の薬漬けの影響が副作用として目が覚めるのに時間がかかるらしい。あの日の傷跡も消え、起き上がるのにも問題は無いはず…あとはゆっくり待つだけだと俺はずっと暗が帰ってくるのを待っている。
風通しの良い部屋で、時折風に乗って花弁が舞って入ってくるこの部屋を、暗と俺の二人の寝室にすることにした。
今日も俺は暗のために花束を持って寝室へ行く。いつでも、暗にプロポーズが出来るように
🌻「暗~見てよこれ、暗が好きな花だよ。紫陽花って言うんだね…暗、花言葉調べたよ。家族って意味があるんだね。…俺、暗と早く家族になりたいな…」
そう言うと、暗の傍らに紫陽花をそっと置いた。
🌻「あともうひとつ、これは俺が花のこと勉強してるうちに好きになった花なんだ。向日葵って言うんだって…意味も、俺たちにピッタリだと思うんだよ」
大輪の向日葵を紫陽花の横に並べて寝かせる。…まるで、俺たちみたいだな…
🌻「ねぇ暗…っ俺、暗を誘拐した盗賊団やっつけたよ?暗と二人で花を育てたくて…庭も作ったし…勉強もした…後…何をしたら起きてくれる?…っ、ねぇ…暗っ」
うんともすんとも言ってくれない想い人を前に、抱えていた想いが一気に溢れ出す。
🌻「ぐすっ…はは、こんな情けないところ見られたくないなぁ…。そうだ、俺今日は楽器も持ってきたんだよ?…俺が、1番好きな曲…弾いてあげるね」
🌻「~♪♪~~~♪」
あの日暗が泣いたのはきっと、心の奥底にいた暗の心が覚えていたからなんだろうな。…暗、また踊ってくれるかな
🌻「♪~~~♪♪~」
踊れなくてもいい、それよりも俺は…
🌻「暗の笑顔が見たいなぁ…」
💠 「…は、はは…踊って…ほしいくせに…」
🌻「!?…暗!」
💠 「…ただいま…明」
🌻「…っ、は…あはは…っおかえり…暗!」
上手く力が入らないのか起き上がれない暗を俺は横抱きにして額をお互いに合わせて泣きながら笑いあう
🌻「…ふふ、暗」
💠 「明…っ、明…」
お互いの涙が顔を伝っていって、それが口に入って、少しそれがしょっぱい。暗も同じことを感じたようで、唇を舐めて困ったように眉毛は八の字に下がっていた。
…すごく可愛い
そして俺は、暗に昔から送りたかった言葉を送ることにした。
🌻「っ、子供の時からずっと暗が好き。暗だけをずっと見ているよ、俺と結婚して家族になってください」
💠 「うん、…俺も明と家族…になりたい。俺も明だけを見ている。…俺で良ければ結婚して欲しいっ…」
🌻「暗じゃなきゃ嫌だ」
💠 「ふふ、俺も明じゃなきゃ嫌だな」
クスクスと笑いあって俺は暗の顔中にキスの雨を降らした。擽ったそうに、そして幸せそうに暗は笑ってくれた。ふと、バードキスが終わって目がお互いにあった。
💠 「口…にしてほしい」
🌻「仰せのままに、俺の花嫁さん♡」
そうして俺と暗は、再会と誓いの口付けを交わした。時間を忘れて、俺たちはお互いの蜜を味わうことにした。
🌻「ぷはっ、はぁ…ふふ、結婚式を挙げるの楽しみだね、暗♡」
💠 「ふふ、うん!素敵な式にしような、明♡」
その後、世界中で一番暖かくて幸せな二人だけの結婚式を挙げたのは俺たちだけの秘密
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