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第四地獄層――契約保管域。血色螺旋が開いた扉の先には柱廊が並び、天井の不可視光が霧のように書架を照らしていた。書架は外周へ渦巻く回廊状で、棚ごとに黒鎖が張られ、「提出・返却・抹消」の札が呪符で燻る。足を踏み込むたび、鎖が低く共鳴し「嘘」「誓」「贖」の音節を囁く。カミラ、ノクス、バルドーは赤鎖の繋がりを最小限に絞り、棚番号を探した。母の写本が示す“螺旋の芯”に該当する区画――第四層中央、石柱番号Ω-03。
そこには高さ三メートルの黒檀棚がそびえ、鎖に巻かれた厚い契約原本が一本、格別に重い錠で封じられていた。バルドーが息を飲み、影紋短剣で鎖を打った。鉄鎖は嘶きを上げて粉砕。彼は拳で埃を払うと、蔵書を胸へ引き寄せた。表紙は暗金の革。中央に皇帝枢密印を変形させた紋章、その下に〈道連れ呪詛・至上位〉と古冥界語で刻まれている。背表紙には黒インクが滴り、署名欄が塗り潰され真っ黒だった。
「原本は在ったが、署名が真っ黒だと?」ノクスが眉を吊り上げる。黒インクの下から影紋の脈動が滲み出し、名前の輪郭を捩じ曲げている。カミラは右腕の痛みを無視し、写本の血色頁を原本へ押し当てた。対称式――逆位相術式が双方向に共振し、頁が高周波の白光を撒き散らす。白光が道連れ呪詛の文面を一行ずつ上書きし始め、呪詛鎖に繋がる赤黒刻印がカミラの腕から浮き上がる。
「これより冥示の名において道連れを解除する――詠唱省略、波形反転!」
刹那、白雷のような衝撃。刻印が弾かれ、血色頁に吸い込まれる。腕の焼ける痛みが霧散し、黒羽契約鎖が赤鎖へ代わりに締まる。遠く慟哭回廊の瘴気が嘶く音が止み、魂の叫びが一瞬、静寂を迎えた。バルドーとノクスが同時に息を吐く。彼ら自身に潜んでいた余波も消えたのだ。
だが冥示が原本へ光を注ぐと、塗り潰された署名欄の下から新たな痕跡が浮かんだ。鮮やかな金の縁取り――皇帝枢密印の副紋、その中心へ極小の影紋が重ね押しされている。ノクスが震える指で示した。「署名ごと影紋で抹消……書けるのは枢密院印章局の内側にいる者だけだ」 つまり黒幕は帝国中枢、皇帝の影に潜む何者か。
解放の安堵は瞬時に緊迫へ変わった。カミラは写本を懐へ戻し、原本を灰羽札で小型封筒に縮封。皇帝印を剥がせる者が追ってくるのは必至だ。脱出には奈落外周の崩壊坑道へ出る緊急ルートしかない。バルドーが扉の向こうを見やり、ノクスが灰羽符へ魔力を注ぎ始める。
「呪詛は無効化した。けれど真犯人は名を捨て、帝国の影に溶けている――今度は私たちが追う番」
カミラは深紅の瞳を伏せ、闘志の灯を揺らした。緊迫は解放へ、解放は謎を呼び、謎は闘志を燃え上がらせる。契約原本を携え、三人は崩壊坑道への扉へ駆けた。鎖の鳴る音が深層にこだまし、第四地獄層の灯が背後で暗転した。
そこには高さ三メートルの黒檀棚がそびえ、鎖に巻かれた厚い契約原本が一本、格別に重い錠で封じられていた。バルドーが息を飲み、影紋短剣で鎖を打った。鉄鎖は嘶きを上げて粉砕。彼は拳で埃を払うと、蔵書を胸へ引き寄せた。表紙は暗金の革。中央に皇帝枢密印を変形させた紋章、その下に〈道連れ呪詛・至上位〉と古冥界語で刻まれている。背表紙には黒インクが滴り、署名欄が塗り潰され真っ黒だった。
「原本は在ったが、署名が真っ黒だと?」ノクスが眉を吊り上げる。黒インクの下から影紋の脈動が滲み出し、名前の輪郭を捩じ曲げている。カミラは右腕の痛みを無視し、写本の血色頁を原本へ押し当てた。対称式――逆位相術式が双方向に共振し、頁が高周波の白光を撒き散らす。白光が道連れ呪詛の文面を一行ずつ上書きし始め、呪詛鎖に繋がる赤黒刻印がカミラの腕から浮き上がる。
「これより冥示の名において道連れを解除する――詠唱省略、波形反転!」
刹那、白雷のような衝撃。刻印が弾かれ、血色頁に吸い込まれる。腕の焼ける痛みが霧散し、黒羽契約鎖が赤鎖へ代わりに締まる。遠く慟哭回廊の瘴気が嘶く音が止み、魂の叫びが一瞬、静寂を迎えた。バルドーとノクスが同時に息を吐く。彼ら自身に潜んでいた余波も消えたのだ。
だが冥示が原本へ光を注ぐと、塗り潰された署名欄の下から新たな痕跡が浮かんだ。鮮やかな金の縁取り――皇帝枢密印の副紋、その中心へ極小の影紋が重ね押しされている。ノクスが震える指で示した。「署名ごと影紋で抹消……書けるのは枢密院印章局の内側にいる者だけだ」 つまり黒幕は帝国中枢、皇帝の影に潜む何者か。
解放の安堵は瞬時に緊迫へ変わった。カミラは写本を懐へ戻し、原本を灰羽札で小型封筒に縮封。皇帝印を剥がせる者が追ってくるのは必至だ。脱出には奈落外周の崩壊坑道へ出る緊急ルートしかない。バルドーが扉の向こうを見やり、ノクスが灰羽符へ魔力を注ぎ始める。
「呪詛は無効化した。けれど真犯人は名を捨て、帝国の影に溶けている――今度は私たちが追う番」
カミラは深紅の瞳を伏せ、闘志の灯を揺らした。緊迫は解放へ、解放は謎を呼び、謎は闘志を燃え上がらせる。契約原本を携え、三人は崩壊坑道への扉へ駆けた。鎖の鳴る音が深層にこだまし、第四地獄層の灯が背後で暗転した。
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