Rotstufen!!─何もしなくても異世界魔王になれて、勇者に討伐されかけたので日本に帰ってきました─

甘都生てうる@なにまお!!

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第2章 Alea iacta est!(本編本格始動の章です)

9話4Part 天界の事情等について堕天使と勇者が色々説明するそうですよ、ほのぼのした日常とは裏腹に下界の事情は結構重いのです

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「るしふぇる!起きてー!!」

「ん......う、るさい......」


 内側から鍵を閉めたはずの部屋に幼女が入ってきているあたり、一緒に寝ていた或斗が鍵を開けたのだろう。あまりにも起きない自分にしびれを切らして。部屋の鍵を開ける魔法を、こんな幼子が使うわけもないだろうし。


「起きてー!!」

「......わかった、起きるから......その呼び方やめて......」

「んー?なんてよべばいいの?」

「......瑠凪、仮名。それで呼んで......」

「わかったー!!るなー!!起きてー!!」

「......ん......あ、あったかい......」


 そして或斗も起きてすぐのようで、自身の横のスペースは微かに暖かい。幼女の叫びを完全に無視してそこにどうしても縋ってしまうのは、やはり自分の性だろう。


「るなー?そこに誰かいるのー?」

「ん......?今はいないよ......でもさっきまでいた......僕の大事な仲間......」

「ほえー......」

「瑠凪......或斗の事そこまで信頼してんだなぁ......」


 ......ふと、幼女と、或斗と、それ以外の人物の声がした。この声は......


「ん......え、ま、望桜?」

「おう。おはよ」


 望桜の頭の中はいつもの事ながら、お花畑であり、現在はパニックでもある。......推しの、完全に気が抜けてる瞬間をこの目で見られた......もう死んでもいいわ、尊い。

 そして望桜が部屋に入ってきたことで幼女はどこかに行ったようだ。案外人見知りなのかも。


「い、今の......聞いて......た?」

「ああ、聞いてたぞ」

「......う、はっず......//」

「......やべぇ、ちょっと外見とくわ」

「え......あ、うん......」


 ......東京、目黒区中目黒。

 二十四節気でいえば季節は白露、秋の初めだ。昼間の気温はまだまだ夏な一方で、朝晩の冷え込みはなめていてはすぐに風邪をひいてしまうレベル、例年の平均から見ると今年の9月の気温は、ありえないくらいかなり低いらしい。それにしてもまじで推しが尊い。

 そして例年より平均気温が低いということは、冬物の実装もそろそろしておいた方が良いだろう。

 天気は比較的良いのだが、湿気が低く、乾燥した昼間。熱中症の心配は高湿気の時よりは減るが、まだまだ侮ってはいられない。水分補給は必須だ。今年はなんとまあ例外だらけ......


 ......聖火崎家では現在、本来ならばただの石っころである果実が、生命と人格を持って活動している、というちょっとしてるようでかなりの大問題が起きている。


「......ちょっと瑠凪、まず天界の事情やらなんやらを1から説明しなさいよ。そうしないと話が進まないわ」

「え?1ヶ月と3日と4時間半くらいかかるけど......」

「なんでそんなに具体的なんだい?」


 だから今は、皆で討論をしながらこの子の扱い等について考えている。主な参加者は望桜、的李、瑠凪、聖火崎のみだ。帝亜羅、梓、翠川は幼女と共に遊んでいるので不参加で、鐘音と太鳳、葵はそもそも興味がないので不参加。或斗は朝食の準備中。幼女に対して良いイメージをもっていない瑠凪が参加しているのは、天界での肩書きと妙に懐かれているから。


「まあ、軽いところ......ていうか、聞きたいのは天界の事情より、天使と天界人の特徴だろ?いいよ、説明してあげる。まず天使ね。天使は全員、瞳の色が黄色」

「それは知ってるわよ」

「そして......瞳の色には濃い薄いがあって、色が橙色に近けれぱ近いほど多量に神気を貯めていられる」

「ほお......んじゃ、或斗よりは瑠凪の方が強い、と......」


 ......確かに、瑠凪と或斗で比べたら、瑠凪の方が瞳の色は濃い。......そういえば、ちょっと前にうちに訪ねてきた2人組み、瞳の色は確か......黄色だったな。大穴を開けた犯人はあいつらか。多分だけど。


「そゆこと。あ、だけど位に比例して瞳の色が濃いわけじゃないよ?高位な天使でも量が少ないのはたくさんいる。ガブリエルとセラフィエルがいい例だよ。あいつら8大天使だけど神気許容量は位入り内最低位の1個手前の、大天使レベルだからね」

「ほおー......」

「話が逸れた。天使は、基本的に同じ神気を扱う人間相手には、とても有利なんだよ」

「それは......なんでなのかしら?」

「特定の方法でじゃないと神気が補充できない人間達と違って、"神の使者"っていう立場である天使達は、少しずつ自身の体内で神気を生成できる。量は少しずつだけど、塵も積もれば山となるだし、後々大きく有利な展開を運べるようになるからね」

「自身の体内で神気を生成できるからか......じゃあ、なんで悪魔とかの魔力を扱う相手には有利じゃなくなるんだ?体内で生成できるなら、人間同様特定の方法でのみ魔力の補充ができる悪魔相手でも、有利に事は進められるはずだろ?」

「ああ、それは悪魔の魔力波で天使が体内で生成する量の神気は相殺されるからだよ。そもそも魔力と神気は相反する力で、お互いの力でお互いを消し合う......なんて言ったらいいかな、魔力対神気だと、両方の効果を消し合うっていうかなんていうか......あ、ほら、堺市役所屋上の時、帝亜羅ちゃんは葵の詠唱後に失神してたでしょ?」


 ......確かにあの時、葵が詠唱を唱えて空気中の魔力濃度がより一層濃くなった頃、帝亜羅は意識を失っていた。


「あー、確かに意識は失ってたのだよ」

「人体や神気媒体の体に魔力は悪影響を及ぼすんだよ。でも下界の人間の中でも、聖職者とか騎士とか戦士とか、神気を体内に貯めてる人達は、その体内の神気で魔力の影響を消すことによって意識を保ってたりする。まあ、魔人とか居たりするから、例外も然りだけど。天使も一緒だよ。体内の神気で魔力の影響を消してる」

「へえ~......」


 他には吐き気がしたり頭痛がしたりと、とにかく人体や天使に悪影響しか与えないもの、それが魔力だ。そして体内の神気を消費すれば、悪影響は一時的になくなるんだとか。

 ......その説明後、まともに説明するべき内容が終わったのだろう、瑠凪はまだ幼女から目を背け、スマホゲームをし始めた。小さな機体から、部屋に少し響く程度の銃声が鳴っている、今流行りのPUBGとかいうやつだろうか。


「にしても、なんで瑠凪はそんなに詳しいのよ。悪魔でしょ?」

「あれ、聖火崎には言ってなかったっけ~?僕は元熾天使だよ~」

「え?......ちょっとなんでそんな大事なこと言わなかったのよ!どうりで妙にあの子が懐いてるのね!」

「......鬱陶しいことこの上ないけどね~」

「あなたが昨日寝室で眠ってる時、あの子がるしふぇる、るしふぇるってうるさくて、何回仮名を教えても聞かなくて、寝不足よ。あなた本当に懐かれてるわよ......あ、あとは或斗にも地味に懐いてるわね」

「まー或斗も元智天使だしね......てか、その"ルシフェル"って名前、天界でだけしか使ってなかったし、天使時代は下界の人からは天使様って呼ばれてたから、知ってる人は少なくとも10000年以上前から天界にいるものってことになるんだけど......」

「......つまりそのくらい前から成熟しきってた果実ってことだな」


 瑠凪の説明のおかげで、一応あの子の正体を仮確定することができた。あの子は下界のどこかで亡くなった幼女の、体に寄生した宇宙樹の種。でも寄生の精度的なものがありえないほど高く、普通の幼子と同じように物を与えたり、遊んだりして過ごさせても問題はなさそうだ。今のところは、だが。

 ......10000年以上も前から、既に天界の宇宙樹·ユグドラシルの元に"果実"として存在し続けていた種子があの子らしい。......やはり信じられない。あんなに生き生きとして、遊んで、体は確かに温かいのに、ただの種子、種。


「......あ、一応あの子にはフレアリカっていう名前があるらしいわ」

「宿主の名前だね」

「そんなこと言うなよ......」

「......とりあえず、経過観察でいいと思うのだけれど、君達はどうなんだい?」


 ......ふいと的李が問いかけてきた。話し合いは時間的にも頃合いだし、正体がわかったところで今どうこうできることも無いし、経過観察でどうか、とのことだ。

 別に俺はそれでいいと思うんだよな。今のとこ困るようなこともないし、賑やかになっていいと思う。ただ問題は......


「......ねえ、経過観察なら誰が家で面倒を見るの?そこら辺に放置じゃいけないと私は思うんだけど」


 聖火崎が望桜の思っていたことを聞いてくれた。そう、経過観察するにしても、誰かが幼女·フレアリカのことを預かっておかなくてはならない。

 今のご時世、見た目3、4歳くらいの子供を外に放置とか、そんなことしたらこの場にいる全員犯罪者だ。そして何より、フレアリカが万が一にも何かしらの問題に巻き込まれる、または問題を起こしたりなんてしたら大変だ。


「......まあ、あなた達に預けるわけにはいかないわよね」

「なんでだ?」

「こんな悪魔共と一緒に居させてたら、この子が悪い子に育っちゃうもの」

「どこでついたんだよその考え方!!悪魔だって子供に必要最低限くらいの躾はするだろ!!」


 瑠凪が聖火崎の言葉に反応し、机を叩いて立ち上がって反論した。それでもなおスマホはもう片方の手に鎮座している。


「1番悪影響を与えそうな人に言われてもねえ......」

「なんだよ!!別に万引きしろとかそこら辺の人刺してこいとか教えたりしないよ!!」

「その教育はどこの親もやらないわよ......それに、望桜達は結構切りつめて生活してるんでしょ?不健康な生活されても困るわ、私が預かる」

「それは助かるな。うちは十分に飯とか食わせてやれないかもだからな、葵も増えたし」

「そこまで切りつめてはいないのだよ......まあ、この件は聖火崎に一任ということで......そろそろ朝食を頂こうではないか」

「そうだね」

「はい、解散ー!!」


 話し合いの結論として、聖火崎がフレアリカのことを預かることになった。同じ神気媒体だし、住んでる家的にもフレアリカが1番満足した状況で暮らせることだろう。そう皆の中で決定して、いつも通り朝食を摂って各々好きな事をしたり街に繰り出したりと自由にすごした。



 ───────────────Now Loading───────────────



「ちよー!!あいす!あいす食べたい!!」

「もう今日の分は食べたでしょ、ほら、おうちに帰るわよ」

「あいー!!」


 フレアリカと夜街を歩く聖火崎。夜になっても幼女の元気さは、衰えることを知らなかった。ずっと元気で、そのせいか聖火崎の方が疲労困憊だ。それを顔と態度にださないように、気をつけながら幼女の手を引いている。

 見た目は4歳くらいなのだが、高さ100cmの机の後ろから余裕で顔が出せるほどには背丈がある。120cmぐらいか、服を買ってあげないと、と歩きながら考えていた。

 ......刹那、見慣れた姿の子が向こうから歩いてくるのが見えた。周りにはなぜか人が1人も居ない。それ故にその姿をより鮮明に捉えることができた。


「......あら?」

「......あ、聖火崎さ~ん!!」

「てぃあらー!!」


 綺麗な茶髪と桃色の瞳の、下界の内情を知る唯一の日本の人間であり女子高生の、奈都生帝亜羅である。

 帝亜羅との合流にフレアリカは大喜びだ。小さな体でめいっぱいの喜びを表現している。


「帝亜羅ちゃんも出かけてたのね、一緒に帰らない?」

「はい!」

「......にしても、人居ないわね」

「そうですね......まだ夜8時なんですけど......」


 ......そう、周りに人っ子1人居ないのだ。道を歩いているのは聖火崎、帝亜羅、そしてフレアリカの3人だけ。いくら夜のご飯時といえど、3人だけ、というのはおかしい。


「妙ね......」

「ひとすくない?」

「うん、人少ないね」

「......がぶりえる!がぶりえるがいるの!」

「ガブリエル?昼間瑠凪が言ってた8大天使の1人じゃない」

「そうなんですか?......うう」


 8大天使、と聞いてこの間のアリエルとラファエルによって殺されかけたことを思い出す帝亜羅。......あの2人同様、いきなり襲ってきたらどうしよう......


「フレアリカ、ガブリエルはどこにいるのか分かる?」


 聖火崎も聖弓顕現の構えをし、一応戦闘に備えながら、フレアリカに場所がわかるかと訊ねた。


「わからない!でも、がぶりえるいる!」

「そう......」

「聖火崎さん......」

「安心して、いざとなったら私が2人を守るわ」

「いえ、そうじゃなくて......」

「......もしかして、なんかもにょっとする、とか?」

「はい......」


 もにょっと、は結界の境界面が近い証だ。......やられた、人っ子一人居なかったのは皆がありえないくらい揃って屋内に居るとか、非現実的であり実際にありそうなことが起ってそうなっているとばかり思っていた。

 ......が、違った。実際は帝亜羅と合流した時点で、いや、フレアリカと2人で歩いていた時点で既に結界によって隔離されていたのだ。......してやられた。


「おーおー!!まさか獲物が3つも同時に狩れるなんてね!さすがは"天軍の総帥"様の加護だ!」

「あれ!ちよあれ!!」

「......そう、あれがガブリエルね......」

「せ、聖火崎さん......」


 大声で叫びながら颯爽と現れたのは、天界の8大天使の1人、ガブリエルであった。その瞳は人情を宿していながら、道路脇で固まる3人を冷たく見つめていた。



 ──────────────to be continued───────────────



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