47 / 173
第2章 Alea iacta est!(本編本格始動の章です)
✨13話1Part ちょっとした回想回なのです!望桜の記憶(ここ2,3年の)のダイジェストみたいな感じの回です!
しおりを挟む──────────下界西暦19429年、パラノイアブルク
「...... Disfitrente,13402-й, Citri ......Ах,Я не хочу ......Ох ...... Я хочу спать в постели, прямо сейчас ...... (......ディスフィトレンテ、13402人目、シトリー............と、あーめんどくさい......あ"あ"ー......ベッドで寝たい、今すぐに......)」
窓から覗く深紅の空、八咫烏のなく声と自身の走らせる羽根ペンの音だけに耳を傾けながら、13代目魔王の側近に大抜擢された大悪魔ベルフェゴールは自身の執務室の中で頭を抱えていた。
目の前にある自身の作業机には魔界大陸の地図と各地方の悪魔全員の名前を記録した名簿らしき紙が溢れんばかりに広がっている。そして自身は今、その名簿のおおよそ3470枚目(もはや正確な数がどこか分からない)であろう名簿の、誤字脱字なく記録してあるかの確認をしている。これも全ては13代目魔王である異世界人·緑丘望桜の命によって行われている行為だ。
......そう、13代目魔王として約100年前に召喚された異世界人の望桜は、魔界語が読めない。本来なら自身の軍勢の管理も、各地に先陣切って指示を出す役割の魔王がやるべきことだろう。
しかし先程も言った通り、望桜は魔界語が読めないのだ。だから望桜の命令で各地の代表の悪魔がその地域の住人をまとめた書類を望桜が確認しても、そもそも内容がわからないのだから軍勢の把握ができない、できるわけがない。だからこうして軍の中で次に偉い側近という位に就いているベルフェゴールに回ってきたのだ。
(はあ......100年で魔界統一をするなんて軍師の才能はあるのだろうが、悪魔としては下の下の下だし、そもそもただの人間が魔力を少し吸って小悪魔程度の魔力と寿命を持つようになっただけの奴に、どうして魔王なんか任せたんだろう......全く理解ができないのだよ)
と頭の中で何回審議したことだろう、最初見た時は魔力こそゴミだが元気が良く、悪魔を従えることができるの貫禄も一応持ち合わせていて側近としてこの魔王の元で側近という位に就くことができて良かった、そう思っていた。ベルフェゴールは元々幹部だったから軍の中でも結構融通をきかせることができるため、側近というよりかは"魔王代役"に近い職務をこなすことも難しくはなかった。
そしてなにより望桜には魔王としての魔力の器と言語知識が無いが、軍師的才能だけはずば抜けており、リーダーシップ等に問題は無い、むしろ歴代魔王の中では最速で魔界統一を達成し人間界侵略も目前だ。
(幹部も規定数は全員集めたし、人数的なやつも軽く纏まっているのだからもう書類の確認はしなくていいよね......)
そう考えて、窓から目視できる魔界大陸最西端の街·イーズオルドベルより遥か西にある、人間界大陸を近くにあった双眼鏡を使って見た。霞がかってはいるが、戦火があがっている様子はない。あたりまえだ、まだ魔王軍は進行を開始していないのだから。
「...... О, застой магической силы ранит мою голову. Я хочу, чтобы вы начали быстро прогрессировать ...... (......はあ、魔力の停滞で頭も痛い。はやく進行を開始してほしいのだよ......)」
机の上の書類を綺麗にまとめ、椅子に座り目を瞑ってから5分も経たずにベルフェゴールは睡魔に敗れた。......第13代目魔王軍がラグナロクから撤退する2年前、この頃勇者選抜が行われていたのである。そして2年後に......
「魔界統一しちまったから......よし、それじゃあテンプレ通りに聖邪戦争を始めるとしようか」
......望桜のこんな一言から第拾参弦聖邪戦争が開戦したのだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「......結局倒される所までテンプレ通りかよ俺......」
「ま、まあ仕方ないのだよ」
望桜が口にした言葉に、的李は決まりが悪そうに小さく頷きながら答えた。
......第拾参弦聖邪戦争が開戦した日から3年と15日ほど経った頃のこと、結局侵攻し仮占拠してから1年経たずに奪還され、現在1LDKマンションの一室を借りてリビングでガラステーブルを囲み望桜と的李はテーブル上1面に広がった紙を見ていた。
履歴書用紙数枚を筆頭に、その下に大量のレシート、明細書、そしてその中に預金通帳が息を潜めて埋まっていた。
「......ていうか、16日前のことをうだうだ言い続ける暇があったら、」
そう言って的李はスカスカの本棚の下の方を軽く漁って、1冊の本をもってきた。
「これでも見て次のバイトを探し給え」
......ハローワーク求人情報の載った本だ。ハローワークとでかでかと書いてある下に"行こう、まだ間に合う。"というキャッチコピーが中見出しとして記載してある。
「はあ......お前は結局俺が奨めた古本屋にずっとバイト行ってるもんなあ......」
「まあ、深刻な働き手不足の所だったからそう簡単にはクビにならないのだよ」
「お前が羨ましいよ......俺の方は1度雇ってから"もう数は足りてるから"ってクビになったり、即潰れちまったり......」
「ど、ドントマインドとしか言えないのだよ......」
「かといって的李だけバイトしてもらっても、的李んとこは時給が低いから2人で生活してく分には少ねえしな」
「全くなのだよ......」
望桜のバイト先が見つからず、かといって的李の給料だけでは2人で生活していく上で必要な額の最低ラインまではかなり足りない。......さて、どうしたものか......そう2人が途方に暮れていた時期......秋の台風シーズンもこれからで雨が連日降り続いていた時期のことだ。
望桜がまたバイトをクビになってとぼとぼと歩いて帰宅していた途中、ふと立ち止まって空を見上げた。1面を灰色の雲が覆っていて、時折ぽつぽつと小雨が降る。
「はあ......」
自身の心の中だけでなく空まで曇っている、心も表情も澱んでいる様に望桜は大きくため息をついた。それだけでも少し軽くなったような心地がする。切り替えの速さも望桜の長所のひとつだ。また次を探せばいい、とゆっくり歩み始めた時だった。
「......ぁ、にゃ~ぁ、んにゃ~ぁ......」
「......ん?」
チリン、チリンという可愛らしい鈴の音と、それに続いて人の声が聞こえてきた。
望桜はその場所にそーっと近づいて、その声の主を見た。......その瞬間、心の中でキタキタキタキターッ!!!と叫び、それがそのまま口からとび出そうになって慌てて手で押えた。
「にゃ~、あはは......ん、誰?」
「え?あ、......」
そして声の主は望桜の気配に気づき、後ろをゆっくり振り返り始めた。その子の目の前にあるダンボールには痩せ細った子犬が、元気そうに尻尾をふってはっはっと荒い息を繰り返している。両方可愛い!......ってか、なんで犬ににゃー?
そして......
「............わお」
......望桜を声の主の濃い黄色の瞳が捉えた。それと同時に望桜も声の主の顔をはっきりと視認した。藍色の髪にパーツが黄金比の顔、だけど一概に"美人"として括るのは少し違うような雰囲気を纏っていて、それがむしろ望桜の好みドストライクだ。
「......あのー......」
「え?ああ、いやー......ちょっとバイトクビになったばっかで途方に暮れてて......?」
「そこは俺聞いてないんだけど......あ、バイト先探してます......?」
誰?と聞かれて咄嗟に今の状況を答えてしまった望桜の頭の中は、その時は物事を正常に判断できないくらいにはとち狂っていた。そしてそれを聞いた目の前の少年......ともいえるしどちらかと言えば小柄な大人、という感じの子は、少し困惑しながら望桜に1枚の紙を手渡した。......Melty♕HoneyCats?駅近で見た事あるような無いような......
「......俺のバイト先なんだけど、人員足りてなくて......あ、やるつもり無かったら返してくれていいよ「有難い......」
「......?」
「......ひとつ聞いてもいいか?」
「別に構わないけど?」
「ここ、バイトをすぐにクビにしたり、店潰れたりしない?」
先程までの頭のおかしいハイテンションから一変して、不安げな様子の望桜の問いに、目の前の子は少しだけ声を上げて笑ったあと、
「人員不足だからそう簡単にはクビにしないんじゃないの?ww......よろしければ、ぜひ一緒に働きましょう!お兄さんっ!」
そう言って軽く小首を傾げて見せた。
「ぐふっ!!」
「ちょ、大丈夫!?」
「可愛い......!」
「はあ!?初っ端から酷い!!俺男!!」
「わかってる!!そこが可愛い!!」
「ド変態じゃんか!!」
こうして曇天の下、2人歩道で出会ったのが望桜の"可愛い中性男子に囲まれて一生平和に暮らしたい"という願いの、半分叶って半分駄目になるきっかけであった。
───────────────To Be Continued──────────────
0
あなたにおすすめの小説
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜
リョウ
ファンタジー
僕は十年程闘病の末、あの世に。
そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?
幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。
※画像はAI作成しました。
※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
転生したみたいなので異世界生活を楽しみます
さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。
誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。
感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
溺愛兄様との死亡ルート回避録
初昔 茶ノ介
ファンタジー
魔術と独自の技術を組み合わせることで各国が発展する中、純粋な魔法技術で国を繁栄させてきた魔術大国『アリスティア王国』。魔術の実力で貴族位が与えられるこの国で五つの公爵家のうちの一つ、ヴァルモンド公爵家の長女ウィスティリアは世界でも稀有な治癒魔法適正を持っていた。
そのため、国からは特別扱いを受け、学園のクラスメイトも、唯一の兄妹である兄も、ウィステリアに近づくことはなかった。
そして、二十歳の冬。アリスティア王国をエウラノス帝国が襲撃。
大量の怪我人が出たが、ウィステリアの治癒の魔法のおかげで被害は抑えられていた。
戦争が始まり、連日治療院で人々を救うウィステリアの元に連れてこられたのは、話すことも少なくなった兄ユーリであった。
血に染まるユーリを治療している時、久しぶりに会話を交わす兄妹の元に帝国の魔術が被弾し、二人は命の危機に陥った。
「ウィス……俺の最愛の……妹。どうか……来世は幸せに……」
命を落とす直前、ユーリの本心を知ったウィステリアはたくさんの人と、そして小さな頃に仲が良かったはずの兄と交流をして、楽しい日々を送りたかったと後悔した。
体が冷たくなり、目をゆっくり閉じたウィステリアが次に目を開けた時、見覚えのある部屋の中で体が幼くなっていた。
ウィステリアは幼い過去に時間が戻ってしまったと気がつき、できなかったことを思いっきりやり、あの最悪の未来を回避するために奮闘するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる