Rotstufen!!─何もしなくても異世界魔王になれて、勇者に討伐されかけたので日本に帰ってきました─

甘都生てうる@なにまお!!

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第3章 (元)魔王と勇者は宇宙樹の種子と

17話5Part 女子高生は片思い中...?

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「ここが......こうで、ここがこれ!あとは答えを確認......あ、やったぁ!合ってる!!!」


 ......その頃、奈津生 帝亜羅なつき てぃあらは丑の刻をも過ぎようとしているほどの真夜中にも関わらず、一心不乱に机に向かっていた。

 英単語をひたすらノートに書き、丸つけをしてすべてが正答であったことに椅子に座ったまま喜びの舞を踊っている。たった今腕を振り上げて行った大きなガッツポーズもその一貫だ。

 ......ふと、彼女のスマホが鳴った。机の端にあるスマホを手に取り、緑色の部分をフリップして電話に出る。


「もしもし、梓ちゃ『帝亜羅あああああああ!!! 』


 その瞬間、帝亜羅の耳に小さなスマホに電波を介して届けられたとは思えないほどの大声が響きわたり、キーン......と鳴りがした。

 電話の相手は雅 梓みやび あずさだ。アニメと漫画と歌い手をこよなく愛する腐女子?で、帝亜羅と鐘音と常に一緒にいる日本の女子高生だ。とはいっても帝亜羅のようにラグナロクや魔界の事情は何1つ知らないが。

 そんな彼女のスマホ越しでも見えてくるような狼狽ぶりを声から感じとった帝亜羅は、相手の様子に慌てふためきながらもそうなっている理由を聞いた。


「え、あ、梓ちゃん、どうしたの?」

『まつりんが、まつりんがあぁ!!!』

「え、と......まつりん?」


 ......梓の言う"まつりん"とは、日本中を虜にする歌い手界のトップスターで、タレントや演技もこなす芸能界の新星·葛飾 まつりかつしか まつりの事だ。日本の1部の人同様、梓も葛飾の大ファンである。

 未だにスマホ越しに聞こえてくる梓の呻き声をBGMに、そういえば......と帝亜羅はここ最近の記憶を漁ってみる。心当たりがあるのだ、梓がとてつもなく狼狽している理由に。



 ......それは昨日、それも今は日付けが変わってすぐなのでつい数時間前、帝亜羅が夕食の後片付けの総仕上げに机を拭いている時の事であった。


「......あら?不祥事かしら、しなさそうな感じなのに......」

「お母さん?どれ?......あ、」


 そう母親が呟いているのが耳に入り、帝亜羅も1度手を止めてテレビを見た。丁度ニュースキャスターが今日のトレンドニュース一覧を読み上げている最中で画面に表示された、

『歌い手葛飾まつり、電撃引退を発表』

 というニュースが帝亜羅の目に留まった。どうやら母親もそのニュースに目を留めていたようで、彼女のことが別段好きな訳でもないが詳細を少しだけ首を長くして待っているのが帝亜羅の目に見てとれた。

 葛飾まつりに関するニュースの1個前のニュースの詳細をニュースキャスターが読み上げるまでの数分間が、やけに長く感じたのはきっと気の所為だろう。


『......でした。つづいては、あの国民的大スターの歌い手·葛飾まつりについてのニュースです。』

「あ、きた!」

『これは昨日彼女が公式ツミッターで投稿したこの動画から始まりました。』


 そう言ってテレビ画面には1つの動画が映される。流れるような紫髪を重力のままに垂らし、左右の耳に銀色の輪ピアスを付け、明るいエメラルドグリーンの瞳を爛々と輝かせていた。......紅白やHNS歌謡祭で見かける葛飾まつりだ、間違いない。

 そしてその彼女はそのまま満面の笑みを浮かべて、カメラに向かって勢いよくピースサインを突き出した。


『こっんにっちわぁ~っ!!!どーもっ、葛飾まつりだよ!!今回は、大事な連絡があるから、全垢で動画を投稿したぜ!オフィシャル民の皆も、個人垢民の皆も大丈夫だ!!......実はわたくし葛飾まつりは、今回のツアーが終了したら引退することに決定しました!!』


 綺麗な紫髪を尚もさらさらと揺らし続けていた。その様子はミステリアスな雰囲気もあるのに明るく可愛らしい。


『理由は単純に、星に帰ることにしたから!!いやー、帰ってからしてもいいんだけどね?多分歌い手活動ができるほど余裕を持った時間が持てないのです......うぅ......』


 画面に表示されたあからさまな泣き真似をする葛飾に、帝亜羅はその報道を嘘ではないかと疑ってしまいそうになった。それほどに普段梓からしつこく、正直鬱陶しいほど見せられ続けた葛飾まつりの普段のテンションと何ら変わりなく、引退を喜んでいる感じも、悲しんでいる感じもなかったからだ。しかしニュースで報道される以上、最後に"嘘でした!!"的なものでもないのだろう。

 ......そしてその普段見せられ続けた動画の中で、質問コーナーがいくつかあった。その中で"出身地はどこですか"という質問に対して、葛飾は"系外惑星のどれかだよ!!"と答える何とも頭のおか......不思議な回答を繰り出したことがあった。多分今回の引退理由である"星に帰るから"もそれを考慮した考えだったのだろう。本当は田舎に引っ込むだけだったりして?、と帝亜羅は明るすぎる葛飾のことを心の中でほんの少しだけ、軽く小馬鹿にした。


『そしてツアー終了まではあと1週間ほど、短い期間だけれどその間にも3年間の皆との思い出を振り返って、もっともっともーっと仲を深められたらいいなと思います!そして引退の日には涙の別れを......ではなく、"またね"って感じでお別れしてくれると嬉しいな!』


 泣き真似をやめて再び満面の笑みをカメラの方を向いて浮かべる葛飾。その直後に手を大きく降った。そんな彼女の周りには最後まで白い羽が舞落ち続けていた。......そして動画は終わった。


『いやー、まさに"電撃引退"。でも彼女にはまだ明るい未来がきっと待っています、引退後の彼女の益々の発展を祈ります。では続いて......』



 ......その瞬間、帝亜羅は梓が酷く狼狽している理由を全て理解した。


「落ち着いて梓ちゃん!!まだあと1週間あるよ!!」

『う、うわああああ......』

「梓ちゃん......」


 ピロリン



「......ん?」


 そして帝亜羅のスマホに一件の通知が入った。

『未だ続く謎の白い光の出現、今度は神戸で』

 時事について知るために入れてあるニュースアプリの通知で、かれこれ1ヶ月ほど目撃され続けている"謎の白い光"についてのものであった。特に興味のない帝亜羅は今までに入っていた他の通知と共に全て消した。


『......ぐすん』

「だ、大丈夫......?」

『うん、多分......なんかごめんね、特に何も無いのにこんな遅くに電話かけちゃって』

「いいよ、寝ようとしてた訳でもないし」

『そっか......ほんとごめんね!そろそろあたし寝るわ、お休み帝亜羅!』

「うん、お休み!」


 そして梓は鼻声で就寝の挨拶をし、通話は終わった。元気になった風ではあったが、結局梓は最後まで鼻をすすっていたらしく、帝亜羅の耳には音がずっと聞こえてきていた。とりあえず梓が一時的には落ち着きといつもの元気さを少しだけ取り戻したことに安堵して、もうすっかり手につかなくなってしまったためノートと参考書を閉じて何も考えずに暫しぼーっとする。

 ......そしてそれも束の間、再び帝亜羅のスマホが鳴った。先程よりゆっくりめにスマホを手に取り電話に出た。


『......あ、帝亜羅』

「ど、どうしたの?鐘音くん......?」


 ......電話の相手は鐘音。帝亜羅の想い人であり望桜の同居人、そして帝亜羅の知らない世界の悪魔だ。


『前に帝亜羅、ラグナロクに行ってみたいって......言ってたこと、ある......よね......?』

「あ、うん。そうだよ。ら、ラグナロク......ていうより、下界?の、人間界に行ってみたい......なって」


 お互い何かを妙に意識してたどたどしく受け答えをする2人。

 ......前に帝亜羅は鐘音と2人で帰る途中、ラグナロクに行ってみたいという思いを零した事があった。ラグナロク......ウィズオート皇国に行ってみたい、それは東京で或斗の書いた地図を見た時から思っている事だ。自分の知らない世界の人間達が築き上げた文明、それを見てみたいと漠然と思っていたのだ。


『あの......ラグナロクの東側にあるヴァルハラってとこに3日間泊まるんだけど......その......一緒に行かない?』

「あ、行く......!!」

『で、今すぐなんだけど......』

「あ、そうなの!?だったら......ごめん、また後でかけ直すから」

『分かった』


 出発の時刻を聞き、帝亜羅はまだ母親に確認を取っていない......そもそも今聞いたばかりなので、それの確認に行こうと思い部屋を出て母親の部屋に向かった。


「あの......お母さん。起きてる?」

「あら、どうしたの?帝亜羅」


 ベッドサイドランプの仄かな明かりで読書している帝亜羅の母親·奈津生 悠里なつき ゆうりにおずおずと近づいていき、その背に帝亜羅は声をかけた。悠里はゆっくり振り返って帝亜羅の顔を捉えると、本をぱたんと閉じた。


「あ、あのね?その......お友達が、旅行に行くんだって。それで、その......一緒に、行かない?って」

「お友達って......望桜さん達?いいじゃない!何事も経験よ、ぜひ行ってくるといいわ!それで、いつ出発なの?」

「......今から」

「......え、ええええ!?」


 おそるおそる訊ねると、悠里は案外あっさり快諾してくれた。しかし問題は、出発する日時なのだ。それを告げると、悠里はやはり大声を上げて驚いた。行くこと自体は許してくれても、時間的には無理があるんじゃ......と半ば諦めて問いかけた。


「......あのね、ど、どうしても行きたいの。でも、だめなら......」

「......別に構わないわよ!」

「えっ!?」


 しかし、またもやあっさり快諾した母に、今度は帝亜羅が大声を上げてびっくりしてしまった。


「だって......帝亜羅は今まで、たくさん頑張ってきたもの。私が朝から晩まで働き詰めだったときにも、まだ小さかった颯太そうた旺梨おうりの面倒も見てくれた。それに夜遅くまで勉強してるのも私は知ってる」


 ......帝亜羅は6年前......10歳の頃、父親を亡くした。その当時はまだ母親である悠里は働いておらず、すぐに入れるような仕事は賃金の安いバイトだけだった。そして帝亜羅の弟達、当時2歳と4歳だった颯太と旺梨の面倒を帝亜羅は毎日学校を早退し、時には休んだりしながら見たのだ。貯金もなくて、保育園等に入れることも出来なかったから。

 あの頃の努力も今現在の日々の努力の事も、無論母が遠の昔に知っていたことを帝亜羅は知らなかった。そんな悠里の胸の内を垣間聞いた瞬間、帝亜羅は無自覚にも涙を一筋流していた。


「っ......!おかあ、さん......」

「そんな娘がどうしても行きたいって言ってるのよ?私にはそのお願いを蹴ることが出来ない。......結局デズニーランドにも横浜マリンパラダイスにも行けてないしね」

「っ!!あ、ありがとう......!」

「だから、楽しんできなさい!」

「分かった!!ありがとうね、お母さん!!3日後には帰るから!!」


 そう言って帝亜羅は悠里の部屋を出て自室に戻り、2つほどMINEの通知が入っていたスマホを手に取った。1つは、

『帝亜羅!どう?行けそう?』

 と鐘音からMINEが入っており、もう1つは東京滞在の時にMINEを交換した聖火崎から1枚の画像が届いていた。

 帝亜羅がトークを開きその画像を見てみると、そこには望桜達悪魔組日本の人間が居ない時に聖火崎と帝亜羅と翠川で行った女子会の際、3人で撮ったものだった。

 それは思わず頬が緩んでしまうようなとてもほのぼのとしたもので、帝亜羅と共に写っている満面の笑みを晒す2人が異世界の勇者だなんて帝亜羅には到底思えないし、仮に梓にそう言って見せたって2人の力を自分の目で見るまでは信じられないだろう。......聖火崎さん、今どうしてるのかな......

 そんなことを考えながら帝亜羅はキャリーケースに変えの服やタオル等の必要なものを詰め、革風の黒色のリュックにスマホとハンカチやミニポーチ、それからラグナロクのことをメモするためのミニノートと筆箱、或斗からもらった地図を入れた。

 上下の寝間着を脱ぎ黒色の長袖インナーを着て、その上から薄灰色のリメイクTシャツ、茶色のコートを羽織り黒色のスキニーパンツを履いた。全体的に落ち着いた色に統一してあるのは、明るい水色やマゼンタの服だとなんとなく浮くんじゃないかな、と思ったからだ。

 そしていつも通りの丸ビーズ付きのものではなく、焦げ茶の無地のゴムを使い1部の髪を後ろに持っていって結んだ。いわゆるハーフアップだ。


「......よし」


 総仕上げに姿見で自身のコーディネートを一通り確認した後、リュックを背負いキャリーケースを抱えて外に出る。


「行ってきまーす!!」

「はい、いってらっしゃい!」


 悠里からの掛け声を背に、帝亜羅は自宅近くのバス停へと走って向かった。流れていく景色は丑三つ時過ぎにも関わらず意外と明るく、おかげで足元もしっかり見えたので帝亜羅が転けて一張羅が無惨なことになることは避けられた。

 そして丁度停まっていたバスの行き先を確かめ、それが三木中町に停留する事を確認し、


「うん、あってる」


 そう1言呟いてそのバスに乗り込んだ。......無論、鐘音にかけ直す前に望桜宅に向かってしまったので、到着した時望桜達にたいそう驚かれた。



 ──────────────To Be Continued───────────────
  


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