Rotstufen!!─何もしなくても異世界魔王になれて、勇者に討伐されかけたので日本に帰ってきました─

甘都生てうる@なにまお!!

文字の大きさ
157 / 173
第5章 堕天使は聖教徒教会の

30話7Part 宣戦布告⑦

しおりを挟む
「......はっ、あ......終わった、か......?」


 ......聖火崎と別れてから10分後。或斗は館中央を縦断する大きな廊下にて、はっとして自身の周りを見回した。

 ......聖火崎の指示に従って館内の殲滅をさくさくと進めた或斗が抱いた南方領主の館の感想は、中は案外広くは感じなかった。というものだった。

 バスケのコート10面分はあるであろう広さの館だが、むしろ閉塞感さえ覚えるレベルで窓が少なく、自然光の入らない"要塞"のような館だった。

 下界は時間的な昼夜はあれど、光は常に夕方のような赤いものが降ってくる世界で暗くも明るくもならず、いつ空を見上げても赤い雲が全面を覆っていて晴れる事はない。

 そんな、決して心地好いとは言えないような自然光しか得られない下界で、"赤くてもいいから日の光が欲しい"と思わせるような場所が深い洞窟や地中以外にあったとは......と、或斗は敵の殲滅中にずっと考えていた。

 そしてそんな事を考えている間に、いつの間にか自身の周囲には血の海と肉塊の散る惨状が出来上がっていたのだ。


「ぅ、ぁい゛っ......」


 赤くなった腕では綺麗にならない事を承知の上で、或斗は顔についた返り血を腕でサッと拭い、次に自身がいつでもどこでも召喚できる武器·モルゲンシュテルンを収納魔法でそっと懐(マギーインベントリ)に仕舞った。

 そして、自身の後方から聞こえてきたまだ存命している騎士の声に反応して、後ろを振り返る。


「っこ、の......しんにゅ、う、しゃめ......」


 上手く呂律が回らないのか、噛み噛みになりながらも騎士は或斗を精一杯睨んでからそう、力強く言葉を吐いた。

 見れば、出血こそ多量なものの、そこそこ重傷なだけで直ぐに死にはしない程度の傷を騎士は負っていた。

 未だに武器を取ろうとする騎士に、或斗はそっと声をかけてやる。


「......全く、強情なものですね......そこまでの傷を負っているのなら、痛いはずでしょう?プライドだとか仁義だとかそういうのには構わず、泣き喚けばいいのに」

「ひ、ぎっ......ぁ、」


 先の見えぬ長い廊下に、自身の声と足音、そして騎士の咆哮の声が響くのを感じながら、或斗は騎士に歩み寄り、顎の下を片手でぐっ......と掴んで、強く力を込めた。

 みぢ、と音がなりそうなレベルで首を絞め、


「そこで、強情で骨のある貴方に質問です。貴方の上には、南方領主、騎士団長、伍長、それ以外に誰がいますか?」


 人の好い笑顔を貼り付けながら、優しくそう訊ねかけた。


「ぁ、っ......ひゅ、......ぅ」


 掠れた、呻くような声しか出せないながらも、騎士は必死で或斗の事を丸腰で威嚇していた。自身の筋肉質な太い腕で、自身の首を絞め付ける青年の細腕を力一杯引き剥がそうとしながら。

 しかし、


「ぁ、っ!?」

「答えて貰えないんですね......残念です」


 無情にも青年の方が力が圧倒的に強く、為す術もないままぎりぎりと絞められている。

 それなのに、質問に答える気などさらさらない、と顔に書いてあるかのように尚も睨んでくる騎士に、或斗は態としょんぼりして見せた。

 その直後に、


「......なら、こうしましょう」

「っ、!っぐ、」


 首に手を置いたまま或斗が手にしたのは、


「 ......!」

「貴方のお仲間の短剣です。普通に出回っているものと比べて、切れ味がいいのが特徴ですね」


 南方の地方騎士団が持っている、普遍的な物よりもよく斬れる短剣だった。

 特殊な加工がしてあり刃こぼれもしにくい、とても鋭利な短剣。その短剣の刃を、或斗は何故か硬い床でガッ、ガッ、ガッ、と傷つけた。


「......よし、これで準備は整いましたね♪」


 床に打ち付けられ、短剣の見事な曲線を描いていた刃は見るも無惨な、ギザギザした質の悪いノコギリのような刃になった。

 それを小さな窓からほんの少しだけ届く赤い光にかざしてうっそりと笑う或斗に、騎士はただただ鬱血した顔で眼を付けることしか出来ない。

 そんな騎士の脚に、


「っと、はいっ♪」

「っぁ!?」


 或斗は短剣を思い切り突き刺した。


「~~~~~~~!?!!!」


 騎士の全身を覆っていた硬質な鎧に、いとも容易く穴を開けた目の前の青年。騎士は痛みに悶え苦しんで足を必死でじたばたさせる事しかできなかった。

 ありえないくらいに刃こぼれした短剣のせいで刺し口は汚く、神経が余計に傷つけられて騎士の身体を激痛が蝕んでいく。

 刺し口から溢れた血が廊下にじわぁ......と血が広がるのにも構わず、或斗は続ける。


「答えて下さい。さっきと質問は同じですから」

「ぃ、ぎっ......ぁぁっ......!?」


 答えようとしない騎士の様子を見兼ねて、或斗がそのまま短剣をゆっくりと自身の方に刺したまま寄せた事で傷口はどんどん広がっていく。

 ぬちゃ、と質の悪い刃でずたずたにされた肉が溢れる血に混じる音がじっとりと響き、押し広げられた傷口からはとめどなく血が出てくるのに、騎士は死なない。


「ほら、ちゃんと聞いてますから、答えて」

「ふ、ひゅ......ぁ、......」


 ......或斗がかけているエリアヒール回復魔法のせいで、1人分の致死量をとっくに超えた血が出ていても、いつまでも死ねないのだ。

 短剣が刺さったまま傷口が治っては、或斗が脚の中を刃で抉ったり混ぜたりするせいで繋がっていた神経がまた断ち切られ、その度に脚に新たな痛みが与えられてずっと痛い状態が続く。

 痛みに慣れる事ができない、そんな中でもそれでも意識を失わずにいられているのには、流石としか言いようがない。

 その事に内心感心しつつも、或斗は続ける。


「早くしてくださいよ~、俺、結構短気な方なんですよ~?」

「ひぎっ、は、......」


 抉って、治して、斬って、治して、刺して、治して、混ぜて、治してのループを10数秒ほど続けた後、


「っぁ、ぅら、ぃぅっ......」


 ようやっと口を割った騎士が、質問に対する答えを息も絶え絶えに口にした。


「緩めてあげますから、もう1回!」

「っは、」


 その様子を見兼ねて、或斗は首を絞める力を少し弛めてやった。


「ぅあ、アズライール、様っ......大天使の、アズライール様がいるっ......」

「......、......」


 騎士の返答に少しだけ俯いてから、


「......ありがとうございます♪」

「あ゛っ......」

「お仲間と、天国......いや、冥府で仲良くお過ごし下さいな」


 或斗は騎士の胸に刃こぼれしていない綺麗な短剣をすっと刺して手を合わせてから、館を後にしたのだった。



 ────────────To Be Continued──────────────


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

処理中です...