27 / 53
本条と公園へ
しおりを挟む帰りの電車を降りたわたしたちはトボトボと駅の階段を上がり改札へと向かう
少し疲れたのと電車が少し混んでたので黙り込んでた電車の中 上り階段も行きより足取りは重かった
それでもわたしは今日一番の決意を実行するため本条くんに声をかけた
「あのさ本条くん 『片想い』読み終わった?」
「あぁ 終わった 今日までに読んでおこうと思ってたしな」
「じゃさ 帰りにちょっと本の話しせん? こっからならうちのが近いからさ荷物うちに降ろして本条くんち行く途中にある公園とかで」
さらっと言ってるようでなんかすごくドキドキしてた
「あぁ そうだな おれもあの本は思うとこあったし誰かに話したい気分だったからな」
内心ホッとしてた なんかここで断られたりしたらホントに買い出しだけ来たみたいになる
いろいろ聞きたいこと話したいことがあるわたしはとりあえず一安心してた
二人で自転車に荷物を積んで押しながら歩いてた
わたしの家に向かって
しばらくして家について荷物を降ろす
ふと二階の自分の部屋の方を見るとカノンがカーテンの隙間からこっち見てた 玄関開けたり閉めたりで気づいたんだろうけど目ざといやつ
そんなこと本条くんは気づいてなかったけど
荷物を降ろして身軽に自転車を押す
買い出しの荷物がなくなったことで学校を思わせるものがなくなり わたしはより一層プライベート感が増してた
「『カラフル』あれからまた読んだ 最初読んだのは5~6年生くらいだったかな 今読んだら印象変わってた」
「うん 変わるよな おれもあれは三回くらい読んでる 読むたび印象が変わるってさ まさにカラフルじゃね?」
うまいこと言うじゃん!って思った
案外本条くん自身もそう思ってたりして
「プラプラってどんなやつか想像しなかった?」
わたしは読み返すまで忘れてたプラプラって名前
名前忘れてても印象的なキャラだった
「した!した!てか登場人物みんな想像すんの楽しいんよな」
わかる! 頭の中に世界広がるんよね
本読む楽しみの一つだよね
「出てくる人も最初めっちゃやなやつって思っててもなんか憎めなくなるって言うか みんなそれぞれ抱えてるっていうか」
わたしは登場人物をあげながら話した
「きっとそのとき読んだ年齢でもまた印象変わってくんだよな 神楽だって前に読んだ時よりは大きくなってんだし」
「そうだね~ もっと大人になっても読んでるのかな~」
何気なく思ったこと口に出しただけなのに 本条くんは少し考えて返事をした
「大人になったらそんな時間あんのかな なんかに追われて余裕ないかもな」
追われる…か 本条くんが放った言葉はわたしの中の何処かにひっかかった
「そんなんだったら大人になんのやだわ」
本を読む楽しみすら奪われちゃうとしたら 大人ってなんの楽しみもないんじゃないか?なんてわたしはこの時思った
公園まで待ち切れないわたしは自転車を押しながらずっと話してた
本条くんも学校で見る本条くんとはやっぱり違ってた
『カラフル』だけについて話しながら歩いてたら公園に着いた あっという間だった やっぱめっちゃ楽しい!!
夏よりも陽が落ちるのが早くなったこと実感させるオレンジ色に包まれた公園
小高い丘にある公園は狭いながらも日常とは区別された空間を創り出していた
落ち着ける場所にわたしたちは陣取った
「じゃさ 『片想い』はどうだった? わたしさすがにあれは全部読み返してないんだけど内容は覚えてる 『カラフル』は人にはいろんな一面があるって感じさせてくれたのと対照的に『片想い』はそもそもの人がいろんな人いるんだって思わせてくれた」
わたしはまだまだ話足りないって感じで話し出した
だって話足りないし時間も足りないかもって思ったから
「ほんと神楽は話したいんだな いつもあんだけ友だちとも話してんのに」
「友だちと話してても本の話題なんか出ない 花凜ちゃんが少し読んでるくらいで他は本よりスマホ」
「そうだろうな いまどきそうだろ おれたちのが変人扱いだろ」
うんうん大きく頷いて納得してる素振りみせる本条くん こんくらいの冗談学校でもしてみたら?
「『片想い』読んでまずこれを書かれたのいつだ?ってなった 2001年!?ってなってホントびっくりした まさに現在《いま》起こってるジェンダーの問題じゃん すげぇって思った こんなふうに物語として書けるんだって思ったわ」
少し興奮気味に話す本条くん
読んだ余韻が残ってると話すときこういう感じになるのわかるんよね
「だよね 知らなかったこといっぱい出てきた
美月さんの生き方苦しかったろうな なんて想像したの覚えてる 仕事とか夫婦とかそんなんも考えさせれたよ あとわたし陸上やってるから睦美さんのとこすごく興味深かった」
「おれも読むまで知らなかったことだらけだった その知らないことで苦しんでる人がいることも知れた
美月のことや睦美のこと 生まれつきどうしようもないことに翻弄されてる」
「睦美さんの悩みなんて本筋とは関係ないかもだけどすごく切実で理不尽で不当で読んでてつらかった」
「たしか【性分化疾患】のことだっけ そんな身体があるなんて『片想い』読むまで知らなかったもんな
それでスポーツの世界じゃいろいろと規定されてたり 今のジェンダーの心が女性って言ってるだけにみえる人たちとはまた一線を画す問題だもんな」
「ほんとにね 物語の中とは言え同じスポーツやってる身として読んでてつらかった 睦美さんがなんかしたんじゃないし ただ生まれつきそうだったわけ…
それでも一生懸命に陸上に向き合ってる姿勢、わかる…」
自分じゃどうしようもないこと、生まれつき…
当人にしかわからない苦悩なんよね
自分に置き換えなくても考えれることなんだろうけど わたしは身につまされる思いだったの
「【性分化疾患】っての知ってからわたしも気になって自分でも確認したんよね このまま陸上この先やってるかなんてわかんないけどさ そういうのあるって知ったら念の為って思って」
「えっ…? 確認??」
えっ?って言って一瞬こっちを見た本条くん
すぐに顔を逸らす
「えっ…?」
えっ?本条くんの反応に一瞬状況がわからなかったわたし でもそれはほんの一瞬だった
すぐに顔を逸らした本条くんを理解したわたしは心の中で《しまった》を繰り返してた
お互い顔をそむけて下を向いてる状況をなんとかしなきゃとわたしが話しかけた言葉は普段から本条くんに抱いて疑問だった
「えと あの 本条くん… あ、あのさ なんで学校じゃあんなに無愛想なん?」
このタイミングで聞こうなんて思ってなかった
もっと本について話してたかった
まるでその場を取り繕うかのように聞いてしまった質問は ほんとはもっと大切なわたしの心の声だった
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
結婚する事に決めたから
KONAN
恋愛
私は既婚者です。
新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。
まずは、離婚してから行動を起こします。
主な登場人物
東條なお
似ている芸能人
○原隼人さん
32歳既婚。
中学、高校はテニス部
電気工事の資格と実務経験あり。
車、バイク、船の免許を持っている。
現在、新聞販売店所長代理。
趣味はイカ釣り。
竹田みさき
似ている芸能人
○野芽衣さん
32歳未婚、シングルマザー
医療事務
息子1人
親分(大島)
似ている芸能人
○田新太さん
70代
施設の送迎運転手
板金屋(大倉)
似ている芸能人
○藤大樹さん
23歳
介護助手
理学療法士になる為、勉強中
よっしー課長
似ている芸能人
○倉涼子さん
施設医療事務課長
登山が趣味
o谷事務長
○重豊さん
施設医療事務事務長
腰痛持ち
池さん
似ている芸能人
○田あき子さん
居宅部門管理者
看護師
下山さん(ともさん)
似ている芸能人
○地真央さん
医療事務
息子と娘はテニス選手
t助
似ている芸能人
○ツオくん(アニメ)
施設医療事務事務長
o谷事務長異動後の事務長
ゆういちろう
似ている芸能人
○鹿央士さん
弟の同級生
中学テニス部
高校陸上部
大学帰宅部
髪の赤い看護師
似ている芸能人
○田來未さん
准看護師
ヤンキー
怖い
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる