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話す本条
しおりを挟む「神楽、おまえは勝手だ 勝手に親近感かんじて 勝手におれに失望して 勝手にスッキリしてやがる」
今度はおれの番だと言わんがばかりの本条
「あんなこと言われりゃ誰でもそうなる」
こんな当然のこともわからんのか本条め
わたしの中でいつのまにか『くん』は敬称略になってた
「前に言ったことあるよな おれが何回か転校してきたこと」
「知ってる 望んでない転校のこと」
「その転校にもな理由《わけ》がある 親の都合って言えば聞こえはマシだけどな」
「ちがうの?」
少し間があったけど なんか決意した表情にも見えた本条
「オレには弟と妹がいるんよ」
「知ってるし わたしにも妹と弟いる」
「だよな、あの時は世話になった 弟は海斗《かいと》 妹は咲《さき》って言うんだ 神楽のことかわいいお姉ちゃんだって言ってたわ」
そんな情報はいまいらんし
「おれと弟たちとはな、父親が違うんだ
かあさんはおれを産んでから父さんと別れてる
だからおれはホントの父親のことは顔も知らない
弟たちの父親のことは覚えてる 一緒に暮らしてた時期あるからな それでも今はもういない」
複雑そうな家庭の事情 あんなに仲よかったのにホントの兄弟じゃなかったんだ
「それってまた別れたってこと?」
「あぁ かあさんは三人の子どもがいるシングルマザーってことになる」
「そうだったんだ だから弟くんたちとは歳離れてんだ」
「そうだな カイトは8歳でサキは5歳 おれが小さい頃から面倒みてた」
「わたしとこも一番下のはそんな感じ 弟は7歳だから産まれてからわたしがめんどうみてた」
本条もわたしも兄妹のめんどうみたり なんか似てるって感じる
「かあさんがおれを産んだのは19の時だったんだ」
「え!? じゃあおかあさんまだ36!?!? 若すぎん!? わたしの再来年だよ!?」
「だよな だから今も男がいる 恋人ってやつ もしかしたら三人目の父親になるかもしれん男が」
「ちょっとまって本条…あたまこんがらがる」
情報量多いって
「それな 話しててオレも普通じゃないなって思うし」
そう言って寂しそうに笑う本条のこと見て同じように笑えうことなんてできない
それが本条の日常ってことなんだろうけど
「かあさんもやっぱ一人の女性って思うんなら自分の幸せ求めて当然だと思うし 母親だって考えたら身勝手だなって思うことも多々あって家じゃ口争い絶えないんよな」
「犠牲になるのは子どもだもんね」
「フフッ 神楽でもそう思うか?」
「だから 本条みたいに笑えないし」
そう言いながらも本条のリアクションに笑みを浮かべて見せるわたし こういうとこも本条は本条なりの理解をしてるってことなんだろうな
「おれの転校もかあさんの男次第だった あっちの男、こっちの男ってな いまどきマッチングとか言ってどこの誰とでも出会っちまえるからな」
それはいくらなんでも子ども振り回しすぎん?
6年生で転校した時なんて修学旅行の楽しさ台無しにされてんだよね本条は…
「かあさんは素直で優しくて、寂しがりやで すぐに本気になって、
おれが大きくなってカイトたち任せれるって安心して一日帰って来ないこともあった おれだっていろんなことわかる年齢なってる かあさんの幸せ カイトやサキの幸せ いつの間にか自分の幸せなんて一番後まわしにになってた」
「転校のつらさだって前に話したよな 仲良かった友だちとの別れとか」
「うん 聞いた 幼なじみもできんもんね」
「いつ転校なるかわからない かあさんがその時どこの誰とつきあってかなんてわかんないし だけど確実に男がいることはわかるし…」
「だったら友だち作らないでおこうと?」
「まぁな 親しくなりすぎないように とかおれからできるだけ関わりにならないようにって なんなら弟たちのめんどうもあるから友だちと遊んだりもできなかったしな」
そういうのうっすらだけど思ってた
だけどそれってどうなの?って思ってた
はがゆかった わたしのことじゃないのに
「だったら『赤毛のアン』は? そんなんで日々を楽しく、身近にある幸せ 喜びなんて見つけれんやん?」
「それがおれには読書だった 神楽も言ってたよな?本を読んでる間は幸せだったって おれは自分の幸せを見つけてる 本で楽しませてもらってるし喜びも得てる これはアンに教えてもらったことじゃないのかな?」
「え? それって自己満じゃん 自己完結じゃん」
「そう 結局一人なんだよ 人ってさ 自分が満足してりゃいいんじゃない?」
「だからわたしとの関係も断とうと?」
「仲良くなりすぎるのが怖かった 神楽はなんだか知らないけどおれにはグイグイ来るように感じた それは仲良くなっちまいそうだった おれが一番気をつけてること それ自身一番傷つくのはおれ自身なんだよ」
「だからどれだけ世話になっても距離を取っておきたかった 親しくなんかなりたくなかった さっきみたいに神楽のこと知りたくなかった おれのこと知ってほしくなかった 全部ぜんぶ放っといてほしかった」
ここまで聞いてわたしは安心した
「なぁ~んだ 本条もふつうの人だったんだね
よかった 確かにぜんぜんちがわなかったわ」
「どういうことだ?」
「本への理解も解釈もすごかった 感心した そこになんかムカついたし嫉妬した だって本好きなことでは誰かに負ける気がしなかったから」
「だけどさ 結局自分の殻に閉じ籠もって世界を狭めてた わたしもそうだった 分厚い殻に閉じ籠もってた なんなら中からまだ殻を厚くしようとしてたかも でもホントはそういうの本にとって失礼なことなんだなって 本が【孤独】を誘ってる みたいで」
「だからさ、ごめん わたしは先に行くわ
わたしの殻はいつの間にか割れてたみたい
だって今本条のこと見て気づけたから 本条が殻に閉じ籠もってるってハッキリ見えたから」
「どういうことだよ どうすりゃいいんだよ
今のおれにはなんにもできない おれが動けないのはおれの事情じゃない!」
「一つ言っとく わたしの殻を破ったのは間違いなくわたし自身だ! だけどねきっかけをくれたのは紛れもなく本条、あんただ!!!」
「本条が『赤毛のアン』読んでるの知って 勝手に共感して 勝手に興味持って 勝手にわたし動いてた
今までの嫌だったこと男子のこと、コンプレックスのこと、全部勝手に忘れてわたしは勝手に動いてた!」
「本条は言ったよね 『おまえは勝手だ』って
ほんとそうだった わたし勝手だった だから
これからも勝手に本条にかまってやる!!!」
無茶苦茶だって思った 自分の言ってること
だけど どうせ勝手だったらとことん勝手になってやる!って思った
「 【自分を破壊する一歩手前の負荷が自分を強くしてくれる】…か。 なるほどな」
ん? 本条がなんか呟いた
どっかで聞いたことあるような…思い出せないけど
「誰だっけ? その言葉」
「ニーチェ てか知ってんのかよ神楽」
そっくりそのまま返したい言葉だった
あんたそんなのまで読んでんだ!?って
「きっとたまたま。 中2の頃漁るように本読んでたから わたし 強くなりたかったから 今思えばその強さと勘違いしてたのが殻だったんかな…」
「なに勝手に成長してんだよ」
そう言って笑う本条
「勝手だって言ってんでしょ わたし」
わたしだってここなら笑えた
「強いよ神楽 確かに実践してる おれのが悔しいくらい」
噛み締めるように話す本条くん
「さっきの言葉 『つらいことがあってもそれを乗り越えようとする時にこそ成長がある』ってわたしは理解して覚えてた 知ってても覚えててもそれが出来るとはかぎらないんだけどね」
「神楽の解釈で合ってるようにおれも思う」
「そんな言葉だけサラッと出てキザなやつー」
わたしは妙に可笑しくて笑った
重たい空気が晴れたような気がした
同じように笑う本条を見て少しホッとした
本条と話す中で知れたこと
きっと、お互いの言いたくなかったこと 知られたくなかったこと お互いの恥部 そういうもんをぶつけ合った
いろんな感情が出てきた 溢れてきた 現在《いま》のわたしたちじゃどうすることもできない怒りや悲しみ虚しさや諦め まだ17歳のわたしたちでもこれだけの感情を背負ってた そのどれか一つでも解決した訳じゃない なんならいつまで続くかわからない
それなのに今日わたしと本条は話した
そこに存在したのは【理解】だった
でも、そのことによって一つ消えたものがあった
消えたもの それは【孤独】だった
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