キョリとリセイ~恋人は愛の香り~

国府春学

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恋の思い出

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 王立士官学校にいたときのことは、今でも良い思い出だ。小国ヴェルソナデルの貴族の家に生まれたルートリヤは、亡き母の望んだとおり士官学校を出て、近衛隊長になった。百五十七名の同期がいる中、首席で卒業した彼は、卒業して五年経った今でもときどき当時のことを懐かしく振り返る。

(校舎は古代のお城そっくりに造られてて、考え事ができる庭があって、初めて触る銃は冷たくて、建国記念日の学食が美味しかったなぁ)

 訓練は厳しかったし、教官は恐ろしかったのに、彼の中には明るい思い出しか刻まれていない。卒業後、軍人となった同期が職務の重さに耐えかねて辞職していく中、着々と出世して二十歳そこそこで王宮警護の職に就いた。
「またお前の顔を近くで見て暮らさなきゃならないのか」
 二つ上の皇太子には、冗談めかして言われた。
 公には知られていないことだが、ルートリヤは彼の腹違いの弟だ。国王が認知しなかったため、そのことはごく一部の者しか知らない。皇太子シャルル=ノースは国王そっくりの金髪碧眼で、ルートリヤは似ても似つかぬダークブルーの髪に紫の瞳だから、誰も二人が異母兄弟だとは思わないだろう。
 
ルートリヤもいまさら、決まりごとの多い王室に入りたいとは考えていない。城の近くの屋敷の自室で、書き物をしていたルートリヤは、引き出しの奥から、学生時代の日記を見つけて、手を止めて読み耽っていた。
『今日、同じクラスの、すごくきれいな顔をした奴と初めて話した』
 その相手の名は、シェスリタ=ロースティ。
 水の流れのような艶やかな黒髪の、毛先だけがスプリングノートだった。図書館で借りていた本に挟まっていた髪をつまんで、「これ、君の?」と尋ねたら彼は真っ赤になった。白い肌に、ダンディライオンの色の瞳が映える。

「ごめん」
「いいよ」

 二人はそれから、よく話すようになった。
 士官学校の生徒とは思えないくらい華奢なシェスリタは、剣技や馬術の成績はいまいちだった。一方、作戦や情報処理、暗号解読といった頭脳を使う授業の成績はよかった。
 ルートリヤは身長も高く、幼い頃から運動神経もよかったので、武術全般が得意だった。暗号解読は苦手で、分からないところはシェリスタに教えてもらっていた。寮の部屋も二年目には同室になり、ともにいる時間も増えた。

「ねぇ、シェスはなんで軍人になろうと思ったの?」
 もうとっくに愛称で呼ぶようになっていたルートリヤはある夜、風呂上がりのラフな格好で友に尋ねた。
「うーん……、強くなりたかったからだな」
 シェスリタは、読んでいた本から目を上げて答えた。
 一瞬、ルートリヤの引き締まった身体の上で視線が戸惑って、弾かれるようにぱっと離れる。
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