キョリとリセイ~恋人は愛の香り~

国府春学

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銃弾

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 翌日は早朝から銃と剣を使った戦闘訓練が行われ、昼前に終了となった。
 昼食をとってしばし自由時間を持ったのちに、ラシェル隊は国境警備に戻るという。
(シェスともう少し話したいな)
 国境は遠いので今日別れたらしばらく会えないだろう。もともと、近衛隊と軍は役割が異なり、接点が少ない。

「シェス」
 ルートリヤは、食事を終えた後、席を立ったシェスリタに声をかけた。
「どこか行く予定ある?」
「いや、べつに」
「じゃあ、二人で散策しない? 懐かしいでしょ、この辺り」
「あぁ」


 春の都は、温かな風と花の香りに満ちている。異なる制服に身を包み、並んで歩くルートリヤとシェスリタは、母校である士官学校の庭を訪れていた。本来部外者は敷地内に入れないが、軍人になった卒業生は特別に許可されている。
「ねぇ、ここ懐かしいよね」
 庭のすみのベンチに腰を下ろし、ルートリヤは空を見上げた。春の陽が木漏れ日となって柔らかく降り注いでいる。
 シェスリタは小さくうなずいた。しっかりした生地の軍服に包まれた細い肩と、当時と変わらず華奢な腰をルートリヤは見つめる。
「あの頃と変わってないね。折れちゃいそう」
「喧嘩売ってんのか」
「うそうそ、たくましくなったよ」
 ぽんぽん、とあやすように肩を叩く。こんな風に触れるのは久しぶりだ。昨日、今日と忙しくてお互い緊張が取れなかったから。
「最近はどんな本読んでる?」
「宿舎の図書室にあるのはだいたい。そうだ、皇太子様の詩集を読んだ。赤い薔薇の表紙の」
「俺も読んだよ、それ」
 シェスリタもルートリヤも読書が好きだ。
「シャルル様にあんな詩才がおありだなんて知らなかった」
「意外だよね」
 俺の兄だよ、とルートリヤは言わない。
 その事実はこれまで誰にも打ち明けたことがなかった。
(シェスも、俺にはないしょにしてること、たくさんあるんだろうな)
 ルートリヤが思いを巡らせたそのとき。
「危ないッ」
 シェスリタが突然、ルートリヤを軽く突き飛ばした。
「えっ」
 スローモーションの視界の中、弾けるような音とともに、シェスリタの身体から鮮血が噴き出す。
 銃弾が、心臓に近い位置を撃ち抜いたのだった。
「シェスッ!」
 軍属とはいえ、リアルな銃撃を見たことがなかったルートリヤは、血に濡れた友の身体を、感覚のない手で抱き起す。
 蒼白な顔をした学生が数名、駆け寄ってきた。
「申し訳ありません、銃が暴発して……!」
「ごめんなさい、ごめんなさいっ」
 武器を点検していた際の事故だったらしい。
「いいから、すぐに軍医を呼んで! 応急措置の手伝いをお願い」
 ルートリヤは冷静さを取り戻して、指示を出した。
(死なせるわけにはいかない!)
 とっさに自分をかばってくれたシェスリタが、こんなことで命を落とすなんて、あってはならない。
(シェス……)
 閉じた瞳と伏せた睫毛を見下ろし、ルートリヤは神に祈った。
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