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番外編 週末を二人で
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仕事を終えて帰宅した、週末の夜。一人暮らしの部屋は暗く、待っている人もいない……はずだった。
「あ、友仁おかえりー」
俺の定位置であるリビングのソファに寝転がって、持ち込んだ携帯ゲーム機で呑気に遊びつつ、恋人の玲生はそう言った。
「来てたのか」
「うん。今日バイト休みだったし」
一体何にそんなに熱中しているのか、玲生は画面から顔を上げずにそう言った。俺の家でくつろいでくれるのは良いのだが、日に日に遠慮がなくなっているような気もする。
「そういえば玲生、夕飯はもう済んだのか?」
「まだ」
「なら出前でも取るか」
俺がそう言った途端、玲生はようやくこちらに視線を向けた。
「それ友仁の奢り?」
「そのつもりだが……」
「やった! じゃあオレ寿司食べたい」
「……お前、少しは遠慮しようって気はないのか」
「え、ダメなの?」
わざとらしいくらいの上目遣いで、玲生が俺を見上げる。こんな露骨な態度に絆されてしまう自分を情けないと思う気持ちと、玲生の言うことなら何でも叶えてやりたいと思う気持ちが、己の中で共存している。これが惚れた弱みというやつなのだろうか。恋をすると人は愚かになるというのは、こういう事なのか。
「……ダメとは言ってない」
俺は小さくため息を吐いて、玲生が占領しているソファの手前にあぐらをかいた。適当な出前でも調べようとスマホを開いた瞬間、背後から玲生が手元を覗き込んでくる気配を感じる。
「友仁ー」
「なんだ?」
「ねえ友仁、こっち向いて」
「おい、襟を引っ張るんじゃない。首が締まる……」
少し苛立ちながら振り向いた瞬間、唇に柔らかいものが触れた。
「隙あり」
面白そうに笑う玲生の顔が、すぐそこにある。身を乗り出してきた玲生にキスされたらしいということに、数秒遅れて気がついた。
「……いきなり何するんだ」
「油断してるなーと思って」
ふふん、と得意気に言う玲生の指先が俺の唇をなぞる。それだけで、いろんな事がどうでもよくなっている自分がいた。
「お前な……」
「あ、そうだ。あのさ友仁、届くまでの間先に風呂入ってて良い?」
「……好きにしてくれ」
「やったー」
俺が答えるなり、玲生はそそくさとソファを降りて、慣れた足取りで風呂場へと消えていった。
「…………はあ」
何度目か分からないため息を吐いて、俺は締めたままだったネクタイを緩めた。玲生のやつ、好き放題にふるまって俺を煽るくせに、自分にその気がない時はああやってスルリと逃げ出してしまう。だが、そういうところも可愛いと思っている時点で、俺の負けなんだろう。それになにより、俺のそういう内心も、玲生にはきっと見透かされている。
腰を上げて、ソファに座り直すと、ほんのりと玲生の体温が残っていることに気づく。ほとんど無意識に座面を撫でながら、自分も大概な人間だなと思う。
玲生の言動には振り回されてばかりだが、それでも、この週末をあいつと過ごせるのは、悪くない気分だった。
¥
「はー、ごちそうさま」
空になった寿司桶の前で手を合わせ、玲生は満足そうな息を吐いた。どんな時でも、「いただきます」と「ごちそうさま」は必ず言う。玲生のそういう所は、素直に好感が持てる。
「コーヒー淹れてくる」
「あ、オレの分も!」
「……淹れてやるから、テーブルの片付けはしろよ」
「そんくらい言われなくてもするって」
ツンとした口調で言い返して、玲生は手慣れた様子で空いた食器や桶をまとめてキッチンに向かい、代わりに取ってきた台拭きで、丁寧にテーブルを拭き始めた。さすがに飲食店で働いているだけのことはあって、手際が良い。
「すげーいい匂いする。なんか分かんないけど高い豆使ってそう」
「カフェで働いてるわりに適当だな」
「だってオレバイトだし。豆の品種とか味の違いとか全然分かんない」
玲生はそう言って肩をすくめながら、シンクの方にやって来て、手際よく食器を洗い始めた。対する俺は、ドリッパーから少しずつカップに注がれていくコーヒーを見つめている……つもりで、気づけば隣に立つ玲生のことばかり意識してしまっていた。
玲生がここに入り浸っているのは、寝床や食事が目当てなだけで、俺には大して興味はないのかもしれない。それを思うと寂しくもあるが、それでも玲生がここにいてくれるだけで、俺にとっては十分に嬉しいことだった。
「友仁」
玲生に名前を呼ばれて視線を向けると、なぜかこちらを見つめていた玲生と目が合った。いつの間にか食器は全部洗われて、水切りカゴに綺麗に並んでいる。
「ねえ友仁。さっきからなに意識してんの?」
「……別に。意識なんてしてない」
「嘘だね。オレそういうの分かるから」
そう言って、玲生はいきなり俺の背中に手を回してきた。
「おい……っ」
「オレが隣にいるから、気になっちゃった? かわいいね友仁」
クスクスと笑いながら、玲生は俺にしっかりと抱きついて、頬を擦り寄せてきた。すぐそばにある柔らかそうな猫っ毛から、シャンプーの香りがふわりと漂ってくる。意識しないようにしようとすればするほど、心臓が高鳴るのが分かった。
「緊張してる。友仁オレのこと大好きだもんね?」
「……そうだよ。悪いか」
開き直った俺の言葉を聞いて、玲生は少し驚いたようだった。
「どうしたの? なんか今日素直じゃん」
「意地張ったって、どうせお前にはお見通しなんだろ」
玲生のことが好きなのも、隣にいるだけで意識してしまうのも、全部本当のことだ。だったらいっそ、ストレートに伝えた方が良いに決まってる。
「玲生……好きだ」
シンプルな告白と共に、玲生の体を抱き寄せる。そのまま少し熱い頬に触れて、キスをしようとした。……のだが。
「コーヒー冷める前にもらってくね」
唇が触れる寸前で顔を逸らし、玲生はまたしても俺の腕の中から抜け出して行った。リビングへと去っていくその手には、コーヒーの入ったマグカップがしっかり握られている。
「……はあ」
素直になろうがなるまいが、結局また俺は、玲生の態度に翻弄されている。それでも、好きになってしまったのだから、どうしようもない。
俺はひとりため息を吐きながら、自分のコーヒーを淹れるために、もうひとつのマグカップを手に取ったのだった。
一通り片付けを済ませて自分のコーヒーを手にした俺は、ソファの前の床にあぐらをかいて、さっきのゲームの続きに興じている玲生のそばに座った。ソファに腰を下ろして足元を見ると、ちょうど玲生のつむじが目に入る。
「さっきから何をそんなに必死でやってるんだ」
「昨日発売されたゲーム。俺が小学生の頃からやってるやつの新作なんだよね。……っていうかコレ、友仁の方が世代なんじゃないの? やったことない?」
そう言って玲生が見せてきた画面を覗いてみる。映画のような美しい背景の中に、少々アンバランスなデフォルメされた生き物たちが、ちょこまかと動き回っている。その光景を見て辛うじて思い出したが、たしかかなりの人気作だったはずだ。
「……タイトルだけは知ってる」
「まじ? 友仁ってあんまゲームとかしない子供だったの? 勉強ばっかしてた感じ? 友達いる?」
失礼極まりない言葉を並べ立てられ、俺は思わず顔をしかめた。その内容が、ほぼ図星だったせいもある。
「あれ、友仁怒っちゃった? もしかしてまじで友達いないの?」
目を逸らす俺の顔を覗き込むように、玲生が俺の膝に手を置いて身を乗り出してくる。
「友仁ー? 拗ねるなよー」
ゲームの画面をオフにして放り出すと、玲生はソファの上に座り直して、俺に体を寄せてきた。
「おい、コーヒーが溢れる……」
「ね、友達なんかいなくても良いじゃん。オレがずっと一緒にいてあげるよ」
カップを持つ俺の手に触れて、玲生が耳元で囁く。その吐息の甘さに、一瞬息ができなくなるほど強く、心臓が跳ねた。
「玲生……」
「友仁かわいい。……好きだよ」
好き。そのたった2文字の言葉だけで、心の全てが満たされていくようだった。玲生からその言葉をもらえるだけで、それだけで何だって出来るような気持ちになる。
「友仁、こっち向いて」
玲生に促されるまま、顔を向ける。その瞬間、唇と唇が重なった。
「ん……」
蕩けそうなほど甘い玲生の吐息を感じながら、カップを持っている手を片方離して、玲生の手を握り返そうとした。その時。
「ん?」
カチャリという硬い音がして、冷たい金属のような物が、手首に触れる感覚があった。
「玲生、一体何を……」
触れ合っていた唇を離して自分の手元に目を向けた瞬間、俺はとんでもない光景を目にした。
「……なんだこれは」
カップを持つ俺の両手は、なぜか手錠で拘束されていた。意味が分からずに眼前の顔を見返すと、小さな鍵を手に持って、楽しそうに笑っている玲生と目が合った。
「今日は友仁とコレで遊びたいなーと思って、来る前に買ってきたんだよね。おもちゃだけど、結構それっぽく見えるでしょ?」
そう言いながら、俺の手からカップをもぎ取ってローテーブルに置き、玲生はその手で俺をソファの上に突き飛ばした。
「うわっ」
強引に押し倒されたかと思ったら、その途端に玲生が腹の上に跨ってきた。
「うぐ……」
けして細身ではない玲生に体重をかけられると、食後の腹にはかなり堪える。顔をしかめる俺を、玲生は面白そうに覗き込んでくる。
「玲生、お前なんのつもりだ……」
「んー? いっつも乗っかられてばっかりじゃつまんないから、今日はオレが全部してあげようと思ってさ」
そう言って、玲生は俺の頬をするりと撫でた。
「友仁も、今日ずっとその気だったよね……? オレも友仁としたいと思って、ちゃんと準備してたんだよ」
頬に触れていた玲生の手が胸や腹の上を滑って、下腹部の際どい部分をくすぐった。
「……っ」
「ふふ。友仁はそこで見ててよ」
びくりと体を震わせた俺に微笑みかけて、玲生は体を起こして膝立ちの姿勢になった。そして躊躇うことなくルームウェアのズボンの紐を解き、自らの下半身を露わにした。丈の長いシャツに隠されて決定的な部分は見えないが、むしろそれが欲情を煽る。無意識に唾を飲み込んだ俺を見下ろして、玲生は満足そうに笑った。
「いいね、なんか興奮してきた」
そう言いながら、玲生はソファの隅に置いていた自分の鞄に手を伸ばし、そこから引っ張り出したローションの中身を自らの手に取り出した。そして十分に濡れた指を後ろに回し、自らの深い部分に触り始めた。
「ん……っ」
ここからは直接見ることは出来ないが、玲生が手を動かす度に、くちゅくちゅという濡れた音が響いて、溢れ出したローションが白い太ももを伝い流れていく。そのあまりにも淫らな光景に、俺はすっかり目を奪われてしまった。
「は……ははっ、オレがひとりでしてるとこ見るの、興奮する? まじ変態だね……」
「……お前が言うか」
玲生から目を離せないまま言い返す。その間も、玲生は指の動きを止めない。
「はあ……ん……」
少しずつ乱れていく玲生の呼吸と、その体に触れられないもどかしさに煽られて、俺自身にも熱が集まってくるのが分かった。
「友仁のそこ、すごいね……触ってもないのに、めちゃくちゃ元気じゃん」
「……っ、うるさい、お前もだろ」
どうすることも出来ないまま、はっきりと存在を主張しているそこに視線を注がれて、頬がカッと熱くなる。だが、玲生の体だって既に似たような状態で、すっかり立ち上がったそこがシャツの裾を押し上げて、その先端を濡らしていた。
「友仁がいっつもやらしい事するから、オレも敏感になっちゃって……んんっ」
びくっと体を震わせて、玲生が少し疲れたように大きく息を吐いた。
「も、友仁も準備万端みたいだし、良いよね……?」
呼吸を荒げながら指を引き抜いて、玲生はその手で俺のズボンと下着に手をかけた。
「おい……っ」
焦って制止する俺の声も聞かず、ローションと一緒に取り出していたコンドームを、露わになった俺の昂りへと被せて、煽るように先端をひと撫でした。
「……っ、玲生お前……!」
「……あとは、直接入れて広げてよ」
玲生がそう囁いた直後。
「~~~……っ」
昂った部分が、蕩けそうなほど柔らかいものに包まれて、咄嗟に爪先が震えた。
「んぁ……は、あっ」
見れば、整った顔を少し苦しそうに歪ませながら、玲生が夢中で俺自身を飲み込もうとしている姿が目に入った。左手でシャツを握りしめているせいで裾がめくれ上がって、深い部分が繋がっているのがはっきりと見える。
「ん……ああっ!」
全てを一息に収めた瞬間、玲生が大きく息を吐いて、背中を仰け反らせた。玲生自身の体重がかかっているからか、いつもより奥深くまで繋がっている感覚があった。
「は……ふふ、ねえ友仁、見える? 全部、入ってるよ」
「……言われなくても、分かってる」
気を抜くと快感に負けてしまいそうになる腹に力を入れて、玲生の顔を軽く睨んだ。
「友仁顔真っ赤……かわいい」
「どっちが……」
からかってくる玲生に言い返した瞬間、繋がった場所が強く締めつけられて、思わず息を呑んだ。
「うぁ……っ」
「友仁……」
呻く俺の腹に手をついて、玲生が焦れったいほどゆっくりと腰を上げ、また腰を落とす。その度に中が強く締めつけられて、甘い快感に背筋が震えた。自分では何も出来ないまま、ひたすら玲生の動きに翻弄されていく。
「あ、ん……友仁……気持ち、いい?」
頬を紅潮させながら、玲生がそう聞いてくる。けれど俺の方には、もうそれに答える余裕も無かった。
意図的に中を締めつけたり緩めたりを繰り返しながら、玲生は俺をいたぶるように、腰を振り続けている。その度に、体温で蕩けたローションがいやらしい音を響かせて、さらに欲情を煽った。
「ふふ……友仁、ここ締められるの好きだよね……?」
「……っ、あ」
そう言った玲生が根元を強く締めつけた瞬間、俺は堪えきれずに声を上げてしまった。その様子を見て、玲生は楽しげに笑う。
「ね、友仁、もう出したい……? いいよ、イっても」
「誰が……っ」
びくびくと震える俺の腹を撫でて、玲生が少し意地悪げに言う。咄嗟に意地を張ってみたが、限界が近いのも事実だった。
「く、う……っ」
俺の上で好き放題に腰を振る玲生の陰部が、腹につくほど反り返ったままふるふると揺れて、俺を煽っている。目に入る全てがあまりにも淫靡で、五感の全てを玲生に犯されているようだった。
「あ、はあ……っ、ん……っ」
いやらしい声を上げながら、玲生が自身の体を捩る。
「あ、ん……っ、ねえ、友仁……好き、だよ」
その言葉を聞いた瞬間、びくっと体が震えた。
「い、まそんなこと言うな……っ」
「なんで……? ほんとのことだよ……かわいくて、えっちで、めちゃくちゃ好き……」
今にも溶けそうなくらい甘い声で囁きながら、玲生が俺の方に顔を近づけてくる。
「……おい、玲生……っ」
「友仁……」
唇と唇が重なって、玲生が躊躇いなく舌を絡めてきたその感触で、必死に堪えてきたものが溢れ出した。
「んん……っ!」
拘束されたままの腕がびくりと跳ねて、硬い金属音が鳴った。上も下も玲生に犯されながら絶頂に達する感覚に、今にも気を失いそうになる。
「あ、友仁……っ、中すごい、びくびくしてる……ん……」
唇を離して恍惚としたように呟く玲生の手が、俺の肩を強く掴んだ。
「ああ……っ」
甘い声を上げながら、玲生が体を震わせる。汗ばんだ髪を撫でてやりたかったが、残念ながら玲生自身の手で拘束されているせいで、両手ともうまく動かせない。
「は……っ、ふう…………ねえ友仁……気持ち良かった?」
体を繋げたまま、俺の首筋に頭を寄せて、玲生はそう聞いた。
「……そんなこと、いちいち聞くなよ」
聞かなくたって分かるだろ、と瞳で訴える。
「分かってたって、聞きたくなるんだよ。……ねえ、オレのこと好き?」
「それも、もう何回も言ってるだろ」
手錠で繋がったままの両手を玲生の背中に回し、その体を腕の中に閉じ込める。
「好きだよ、玲生。誰よりも、お前が好きだ」
そう囁いた時、玲生は何よりも嬉しそうに、笑ったのだった。
「あ、友仁おかえりー」
俺の定位置であるリビングのソファに寝転がって、持ち込んだ携帯ゲーム機で呑気に遊びつつ、恋人の玲生はそう言った。
「来てたのか」
「うん。今日バイト休みだったし」
一体何にそんなに熱中しているのか、玲生は画面から顔を上げずにそう言った。俺の家でくつろいでくれるのは良いのだが、日に日に遠慮がなくなっているような気もする。
「そういえば玲生、夕飯はもう済んだのか?」
「まだ」
「なら出前でも取るか」
俺がそう言った途端、玲生はようやくこちらに視線を向けた。
「それ友仁の奢り?」
「そのつもりだが……」
「やった! じゃあオレ寿司食べたい」
「……お前、少しは遠慮しようって気はないのか」
「え、ダメなの?」
わざとらしいくらいの上目遣いで、玲生が俺を見上げる。こんな露骨な態度に絆されてしまう自分を情けないと思う気持ちと、玲生の言うことなら何でも叶えてやりたいと思う気持ちが、己の中で共存している。これが惚れた弱みというやつなのだろうか。恋をすると人は愚かになるというのは、こういう事なのか。
「……ダメとは言ってない」
俺は小さくため息を吐いて、玲生が占領しているソファの手前にあぐらをかいた。適当な出前でも調べようとスマホを開いた瞬間、背後から玲生が手元を覗き込んでくる気配を感じる。
「友仁ー」
「なんだ?」
「ねえ友仁、こっち向いて」
「おい、襟を引っ張るんじゃない。首が締まる……」
少し苛立ちながら振り向いた瞬間、唇に柔らかいものが触れた。
「隙あり」
面白そうに笑う玲生の顔が、すぐそこにある。身を乗り出してきた玲生にキスされたらしいということに、数秒遅れて気がついた。
「……いきなり何するんだ」
「油断してるなーと思って」
ふふん、と得意気に言う玲生の指先が俺の唇をなぞる。それだけで、いろんな事がどうでもよくなっている自分がいた。
「お前な……」
「あ、そうだ。あのさ友仁、届くまでの間先に風呂入ってて良い?」
「……好きにしてくれ」
「やったー」
俺が答えるなり、玲生はそそくさとソファを降りて、慣れた足取りで風呂場へと消えていった。
「…………はあ」
何度目か分からないため息を吐いて、俺は締めたままだったネクタイを緩めた。玲生のやつ、好き放題にふるまって俺を煽るくせに、自分にその気がない時はああやってスルリと逃げ出してしまう。だが、そういうところも可愛いと思っている時点で、俺の負けなんだろう。それになにより、俺のそういう内心も、玲生にはきっと見透かされている。
腰を上げて、ソファに座り直すと、ほんのりと玲生の体温が残っていることに気づく。ほとんど無意識に座面を撫でながら、自分も大概な人間だなと思う。
玲生の言動には振り回されてばかりだが、それでも、この週末をあいつと過ごせるのは、悪くない気分だった。
¥
「はー、ごちそうさま」
空になった寿司桶の前で手を合わせ、玲生は満足そうな息を吐いた。どんな時でも、「いただきます」と「ごちそうさま」は必ず言う。玲生のそういう所は、素直に好感が持てる。
「コーヒー淹れてくる」
「あ、オレの分も!」
「……淹れてやるから、テーブルの片付けはしろよ」
「そんくらい言われなくてもするって」
ツンとした口調で言い返して、玲生は手慣れた様子で空いた食器や桶をまとめてキッチンに向かい、代わりに取ってきた台拭きで、丁寧にテーブルを拭き始めた。さすがに飲食店で働いているだけのことはあって、手際が良い。
「すげーいい匂いする。なんか分かんないけど高い豆使ってそう」
「カフェで働いてるわりに適当だな」
「だってオレバイトだし。豆の品種とか味の違いとか全然分かんない」
玲生はそう言って肩をすくめながら、シンクの方にやって来て、手際よく食器を洗い始めた。対する俺は、ドリッパーから少しずつカップに注がれていくコーヒーを見つめている……つもりで、気づけば隣に立つ玲生のことばかり意識してしまっていた。
玲生がここに入り浸っているのは、寝床や食事が目当てなだけで、俺には大して興味はないのかもしれない。それを思うと寂しくもあるが、それでも玲生がここにいてくれるだけで、俺にとっては十分に嬉しいことだった。
「友仁」
玲生に名前を呼ばれて視線を向けると、なぜかこちらを見つめていた玲生と目が合った。いつの間にか食器は全部洗われて、水切りカゴに綺麗に並んでいる。
「ねえ友仁。さっきからなに意識してんの?」
「……別に。意識なんてしてない」
「嘘だね。オレそういうの分かるから」
そう言って、玲生はいきなり俺の背中に手を回してきた。
「おい……っ」
「オレが隣にいるから、気になっちゃった? かわいいね友仁」
クスクスと笑いながら、玲生は俺にしっかりと抱きついて、頬を擦り寄せてきた。すぐそばにある柔らかそうな猫っ毛から、シャンプーの香りがふわりと漂ってくる。意識しないようにしようとすればするほど、心臓が高鳴るのが分かった。
「緊張してる。友仁オレのこと大好きだもんね?」
「……そうだよ。悪いか」
開き直った俺の言葉を聞いて、玲生は少し驚いたようだった。
「どうしたの? なんか今日素直じゃん」
「意地張ったって、どうせお前にはお見通しなんだろ」
玲生のことが好きなのも、隣にいるだけで意識してしまうのも、全部本当のことだ。だったらいっそ、ストレートに伝えた方が良いに決まってる。
「玲生……好きだ」
シンプルな告白と共に、玲生の体を抱き寄せる。そのまま少し熱い頬に触れて、キスをしようとした。……のだが。
「コーヒー冷める前にもらってくね」
唇が触れる寸前で顔を逸らし、玲生はまたしても俺の腕の中から抜け出して行った。リビングへと去っていくその手には、コーヒーの入ったマグカップがしっかり握られている。
「……はあ」
素直になろうがなるまいが、結局また俺は、玲生の態度に翻弄されている。それでも、好きになってしまったのだから、どうしようもない。
俺はひとりため息を吐きながら、自分のコーヒーを淹れるために、もうひとつのマグカップを手に取ったのだった。
一通り片付けを済ませて自分のコーヒーを手にした俺は、ソファの前の床にあぐらをかいて、さっきのゲームの続きに興じている玲生のそばに座った。ソファに腰を下ろして足元を見ると、ちょうど玲生のつむじが目に入る。
「さっきから何をそんなに必死でやってるんだ」
「昨日発売されたゲーム。俺が小学生の頃からやってるやつの新作なんだよね。……っていうかコレ、友仁の方が世代なんじゃないの? やったことない?」
そう言って玲生が見せてきた画面を覗いてみる。映画のような美しい背景の中に、少々アンバランスなデフォルメされた生き物たちが、ちょこまかと動き回っている。その光景を見て辛うじて思い出したが、たしかかなりの人気作だったはずだ。
「……タイトルだけは知ってる」
「まじ? 友仁ってあんまゲームとかしない子供だったの? 勉強ばっかしてた感じ? 友達いる?」
失礼極まりない言葉を並べ立てられ、俺は思わず顔をしかめた。その内容が、ほぼ図星だったせいもある。
「あれ、友仁怒っちゃった? もしかしてまじで友達いないの?」
目を逸らす俺の顔を覗き込むように、玲生が俺の膝に手を置いて身を乗り出してくる。
「友仁ー? 拗ねるなよー」
ゲームの画面をオフにして放り出すと、玲生はソファの上に座り直して、俺に体を寄せてきた。
「おい、コーヒーが溢れる……」
「ね、友達なんかいなくても良いじゃん。オレがずっと一緒にいてあげるよ」
カップを持つ俺の手に触れて、玲生が耳元で囁く。その吐息の甘さに、一瞬息ができなくなるほど強く、心臓が跳ねた。
「玲生……」
「友仁かわいい。……好きだよ」
好き。そのたった2文字の言葉だけで、心の全てが満たされていくようだった。玲生からその言葉をもらえるだけで、それだけで何だって出来るような気持ちになる。
「友仁、こっち向いて」
玲生に促されるまま、顔を向ける。その瞬間、唇と唇が重なった。
「ん……」
蕩けそうなほど甘い玲生の吐息を感じながら、カップを持っている手を片方離して、玲生の手を握り返そうとした。その時。
「ん?」
カチャリという硬い音がして、冷たい金属のような物が、手首に触れる感覚があった。
「玲生、一体何を……」
触れ合っていた唇を離して自分の手元に目を向けた瞬間、俺はとんでもない光景を目にした。
「……なんだこれは」
カップを持つ俺の両手は、なぜか手錠で拘束されていた。意味が分からずに眼前の顔を見返すと、小さな鍵を手に持って、楽しそうに笑っている玲生と目が合った。
「今日は友仁とコレで遊びたいなーと思って、来る前に買ってきたんだよね。おもちゃだけど、結構それっぽく見えるでしょ?」
そう言いながら、俺の手からカップをもぎ取ってローテーブルに置き、玲生はその手で俺をソファの上に突き飛ばした。
「うわっ」
強引に押し倒されたかと思ったら、その途端に玲生が腹の上に跨ってきた。
「うぐ……」
けして細身ではない玲生に体重をかけられると、食後の腹にはかなり堪える。顔をしかめる俺を、玲生は面白そうに覗き込んでくる。
「玲生、お前なんのつもりだ……」
「んー? いっつも乗っかられてばっかりじゃつまんないから、今日はオレが全部してあげようと思ってさ」
そう言って、玲生は俺の頬をするりと撫でた。
「友仁も、今日ずっとその気だったよね……? オレも友仁としたいと思って、ちゃんと準備してたんだよ」
頬に触れていた玲生の手が胸や腹の上を滑って、下腹部の際どい部分をくすぐった。
「……っ」
「ふふ。友仁はそこで見ててよ」
びくりと体を震わせた俺に微笑みかけて、玲生は体を起こして膝立ちの姿勢になった。そして躊躇うことなくルームウェアのズボンの紐を解き、自らの下半身を露わにした。丈の長いシャツに隠されて決定的な部分は見えないが、むしろそれが欲情を煽る。無意識に唾を飲み込んだ俺を見下ろして、玲生は満足そうに笑った。
「いいね、なんか興奮してきた」
そう言いながら、玲生はソファの隅に置いていた自分の鞄に手を伸ばし、そこから引っ張り出したローションの中身を自らの手に取り出した。そして十分に濡れた指を後ろに回し、自らの深い部分に触り始めた。
「ん……っ」
ここからは直接見ることは出来ないが、玲生が手を動かす度に、くちゅくちゅという濡れた音が響いて、溢れ出したローションが白い太ももを伝い流れていく。そのあまりにも淫らな光景に、俺はすっかり目を奪われてしまった。
「は……ははっ、オレがひとりでしてるとこ見るの、興奮する? まじ変態だね……」
「……お前が言うか」
玲生から目を離せないまま言い返す。その間も、玲生は指の動きを止めない。
「はあ……ん……」
少しずつ乱れていく玲生の呼吸と、その体に触れられないもどかしさに煽られて、俺自身にも熱が集まってくるのが分かった。
「友仁のそこ、すごいね……触ってもないのに、めちゃくちゃ元気じゃん」
「……っ、うるさい、お前もだろ」
どうすることも出来ないまま、はっきりと存在を主張しているそこに視線を注がれて、頬がカッと熱くなる。だが、玲生の体だって既に似たような状態で、すっかり立ち上がったそこがシャツの裾を押し上げて、その先端を濡らしていた。
「友仁がいっつもやらしい事するから、オレも敏感になっちゃって……んんっ」
びくっと体を震わせて、玲生が少し疲れたように大きく息を吐いた。
「も、友仁も準備万端みたいだし、良いよね……?」
呼吸を荒げながら指を引き抜いて、玲生はその手で俺のズボンと下着に手をかけた。
「おい……っ」
焦って制止する俺の声も聞かず、ローションと一緒に取り出していたコンドームを、露わになった俺の昂りへと被せて、煽るように先端をひと撫でした。
「……っ、玲生お前……!」
「……あとは、直接入れて広げてよ」
玲生がそう囁いた直後。
「~~~……っ」
昂った部分が、蕩けそうなほど柔らかいものに包まれて、咄嗟に爪先が震えた。
「んぁ……は、あっ」
見れば、整った顔を少し苦しそうに歪ませながら、玲生が夢中で俺自身を飲み込もうとしている姿が目に入った。左手でシャツを握りしめているせいで裾がめくれ上がって、深い部分が繋がっているのがはっきりと見える。
「ん……ああっ!」
全てを一息に収めた瞬間、玲生が大きく息を吐いて、背中を仰け反らせた。玲生自身の体重がかかっているからか、いつもより奥深くまで繋がっている感覚があった。
「は……ふふ、ねえ友仁、見える? 全部、入ってるよ」
「……言われなくても、分かってる」
気を抜くと快感に負けてしまいそうになる腹に力を入れて、玲生の顔を軽く睨んだ。
「友仁顔真っ赤……かわいい」
「どっちが……」
からかってくる玲生に言い返した瞬間、繋がった場所が強く締めつけられて、思わず息を呑んだ。
「うぁ……っ」
「友仁……」
呻く俺の腹に手をついて、玲生が焦れったいほどゆっくりと腰を上げ、また腰を落とす。その度に中が強く締めつけられて、甘い快感に背筋が震えた。自分では何も出来ないまま、ひたすら玲生の動きに翻弄されていく。
「あ、ん……友仁……気持ち、いい?」
頬を紅潮させながら、玲生がそう聞いてくる。けれど俺の方には、もうそれに答える余裕も無かった。
意図的に中を締めつけたり緩めたりを繰り返しながら、玲生は俺をいたぶるように、腰を振り続けている。その度に、体温で蕩けたローションがいやらしい音を響かせて、さらに欲情を煽った。
「ふふ……友仁、ここ締められるの好きだよね……?」
「……っ、あ」
そう言った玲生が根元を強く締めつけた瞬間、俺は堪えきれずに声を上げてしまった。その様子を見て、玲生は楽しげに笑う。
「ね、友仁、もう出したい……? いいよ、イっても」
「誰が……っ」
びくびくと震える俺の腹を撫でて、玲生が少し意地悪げに言う。咄嗟に意地を張ってみたが、限界が近いのも事実だった。
「く、う……っ」
俺の上で好き放題に腰を振る玲生の陰部が、腹につくほど反り返ったままふるふると揺れて、俺を煽っている。目に入る全てがあまりにも淫靡で、五感の全てを玲生に犯されているようだった。
「あ、はあ……っ、ん……っ」
いやらしい声を上げながら、玲生が自身の体を捩る。
「あ、ん……っ、ねえ、友仁……好き、だよ」
その言葉を聞いた瞬間、びくっと体が震えた。
「い、まそんなこと言うな……っ」
「なんで……? ほんとのことだよ……かわいくて、えっちで、めちゃくちゃ好き……」
今にも溶けそうなくらい甘い声で囁きながら、玲生が俺の方に顔を近づけてくる。
「……おい、玲生……っ」
「友仁……」
唇と唇が重なって、玲生が躊躇いなく舌を絡めてきたその感触で、必死に堪えてきたものが溢れ出した。
「んん……っ!」
拘束されたままの腕がびくりと跳ねて、硬い金属音が鳴った。上も下も玲生に犯されながら絶頂に達する感覚に、今にも気を失いそうになる。
「あ、友仁……っ、中すごい、びくびくしてる……ん……」
唇を離して恍惚としたように呟く玲生の手が、俺の肩を強く掴んだ。
「ああ……っ」
甘い声を上げながら、玲生が体を震わせる。汗ばんだ髪を撫でてやりたかったが、残念ながら玲生自身の手で拘束されているせいで、両手ともうまく動かせない。
「は……っ、ふう…………ねえ友仁……気持ち良かった?」
体を繋げたまま、俺の首筋に頭を寄せて、玲生はそう聞いた。
「……そんなこと、いちいち聞くなよ」
聞かなくたって分かるだろ、と瞳で訴える。
「分かってたって、聞きたくなるんだよ。……ねえ、オレのこと好き?」
「それも、もう何回も言ってるだろ」
手錠で繋がったままの両手を玲生の背中に回し、その体を腕の中に閉じ込める。
「好きだよ、玲生。誰よりも、お前が好きだ」
そう囁いた時、玲生は何よりも嬉しそうに、笑ったのだった。
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