8 / 19
第一章 出会い
6.5話 触れ合うぬくもり
しおりを挟む
小鳥がさえずる声と、吹き抜ける風が窓を揺らす微かな音を捉えて、アルフレッドの耳がぴくりと揺れる。薄く目を開けてみると、昨夜眠る前に開いておいたカーテンの隙間から、朝の優しい光が差し込んでいた。
「ん……」
寝ぼけた頭のまま体を起こそうとしたアルフレッドは、背後から聞こえる寝息にふと気づいて、動きを止めた。
「あ……」
少し覚醒した頭の中に、昨夜の出来事が一気によみがえり、全身がカッと熱くなった。よくよく見れば、後ろから伸ばされた逞しい腕に抱きしめられている事に気づいて、起こそうとしていた体を慌てて戻す。
(……どっ、どうしよう……)
昨夜の自分の言動を思い返すと、恥ずかしくて死んでしまいそうになる。もしも次にジュードと体を重ねる時が来たら、優しく余裕のあるふるまいをしようと心に誓っていたのに、結局また己の欲望に負けてしまった。ジュードはいつも構わないと言ってくれるけれど、それに甘えて強引な行為を繰り返していたら、いつか嫌われてしまうかもしれない。そんなことになったら、耐えられない。
「…………アルフレッド、様……?」
「ひゃっ」
後ろから突然名前を呼ばれ、驚きのあまり情けない声をあげてしまう。耳元に吐息のような笑い声が届いて、いよいよ顔から火が出そうになった。
「おはようございます、アルフレッド様……お顔を見せてくれませんか」
「だ、だめです」
「どうして……?」
尖った耳の先に優しく口付けられ、心臓が壊れそうなほど高鳴った。起き抜けだからなのか、それとも昨夜の行為のせいか、普段より掠れた声がやけに色っぽく聞こえて、胸が苦しくなる。
「うう……は、恥ずかしいので、もう許してください……」
これ以上ジュードと触れ合っていたら、どうにかなってしまいそうだ。肩に回された腕を退けて、もそもそとシーツの中に潜って逃げようとしたが、その前に大きな手がシーツを掴んで剥ぎ取ってしまう。
「ねえアルフレッド様。あんまりつれなくされると、俺だって寂しくなるんですよ。……昨夜は、あまりお気に召しませんでしたか」
「そ、そんなことないです!」
本当に悲しそうな声に驚いて振り向いた瞬間、すぐそこにあった顔と鼻先がぶつかりそうになって、アルフレッドはハッと息を飲んだ。
「あ……そ、その、ジュードさんが悪いんじゃなくて、僕がまた、あんまりちゃんと出来なくて……それが、申し訳なくて、あの」
自分の言葉に自分で落ち込みながら、アルフレッドは気まずい思いで目を逸らした。けれどジュードは、そんなアルフレッドの頭を引き寄せて、その体をそっと抱きしめる。
「本当に……どう言えばきちんと伝わるんでしょうね。貴方に触れられる度、俺がどれほどの幸せを感じているか……どれほど、この心が満たされるのか」
そう言って、ジュードはアルフレッドの髪に鼻先を埋めた。髪をくすぐる吐息と、指先から伝わる熱に、心の深い部分までもが温められていくような気がした。
(……そうか)
ジュードも、同じ気持ちなのかもしれない。不安や、寂しさや、悲しさが、触れ合う度に、優しい気持ちに塗り替えられていく。彼にとってもそうなのだとしたら、どんなに嬉しいことだろう。
「……ジュードさん」
「はい。なんですか」
「ジュードさん、好きです」
そう呟いた時、アルフレッドの背中を撫でていた手が、一瞬ぴくりと震えた。
「……ジュードさん?」
ジュードが何も答えてくれないので、不安になってその顔を見上げる。朝陽に照らされるその頬は、ほんのりと赤く染まっていた。
「……明るいところで、面と向かって言われると、こう……照れくさいもんですね……」
見たこともないその表情に、胸がどきりとする。こんな些細なことにも、“好き”が溢れて、止まらなくなってしまう。
「ジュードさん……好き。好きです」
「ちょ、ちょっと、勘弁してもらえませんか」
先ほどとは逆転した立場で、動揺するジュードの肩を掴んで体を寄せる。お互い何も身につけていない肌と肌が触れ合って、いつもより高い体温が溶け合っていくのが分かった。
「ジュードさん……」
この先、どんな不安に襲われても、このぬくもりだけは忘れないでいよう。
きっとこの人となら、どんなことだって、越えていけるはずだから。
「ん……」
寝ぼけた頭のまま体を起こそうとしたアルフレッドは、背後から聞こえる寝息にふと気づいて、動きを止めた。
「あ……」
少し覚醒した頭の中に、昨夜の出来事が一気によみがえり、全身がカッと熱くなった。よくよく見れば、後ろから伸ばされた逞しい腕に抱きしめられている事に気づいて、起こそうとしていた体を慌てて戻す。
(……どっ、どうしよう……)
昨夜の自分の言動を思い返すと、恥ずかしくて死んでしまいそうになる。もしも次にジュードと体を重ねる時が来たら、優しく余裕のあるふるまいをしようと心に誓っていたのに、結局また己の欲望に負けてしまった。ジュードはいつも構わないと言ってくれるけれど、それに甘えて強引な行為を繰り返していたら、いつか嫌われてしまうかもしれない。そんなことになったら、耐えられない。
「…………アルフレッド、様……?」
「ひゃっ」
後ろから突然名前を呼ばれ、驚きのあまり情けない声をあげてしまう。耳元に吐息のような笑い声が届いて、いよいよ顔から火が出そうになった。
「おはようございます、アルフレッド様……お顔を見せてくれませんか」
「だ、だめです」
「どうして……?」
尖った耳の先に優しく口付けられ、心臓が壊れそうなほど高鳴った。起き抜けだからなのか、それとも昨夜の行為のせいか、普段より掠れた声がやけに色っぽく聞こえて、胸が苦しくなる。
「うう……は、恥ずかしいので、もう許してください……」
これ以上ジュードと触れ合っていたら、どうにかなってしまいそうだ。肩に回された腕を退けて、もそもそとシーツの中に潜って逃げようとしたが、その前に大きな手がシーツを掴んで剥ぎ取ってしまう。
「ねえアルフレッド様。あんまりつれなくされると、俺だって寂しくなるんですよ。……昨夜は、あまりお気に召しませんでしたか」
「そ、そんなことないです!」
本当に悲しそうな声に驚いて振り向いた瞬間、すぐそこにあった顔と鼻先がぶつかりそうになって、アルフレッドはハッと息を飲んだ。
「あ……そ、その、ジュードさんが悪いんじゃなくて、僕がまた、あんまりちゃんと出来なくて……それが、申し訳なくて、あの」
自分の言葉に自分で落ち込みながら、アルフレッドは気まずい思いで目を逸らした。けれどジュードは、そんなアルフレッドの頭を引き寄せて、その体をそっと抱きしめる。
「本当に……どう言えばきちんと伝わるんでしょうね。貴方に触れられる度、俺がどれほどの幸せを感じているか……どれほど、この心が満たされるのか」
そう言って、ジュードはアルフレッドの髪に鼻先を埋めた。髪をくすぐる吐息と、指先から伝わる熱に、心の深い部分までもが温められていくような気がした。
(……そうか)
ジュードも、同じ気持ちなのかもしれない。不安や、寂しさや、悲しさが、触れ合う度に、優しい気持ちに塗り替えられていく。彼にとってもそうなのだとしたら、どんなに嬉しいことだろう。
「……ジュードさん」
「はい。なんですか」
「ジュードさん、好きです」
そう呟いた時、アルフレッドの背中を撫でていた手が、一瞬ぴくりと震えた。
「……ジュードさん?」
ジュードが何も答えてくれないので、不安になってその顔を見上げる。朝陽に照らされるその頬は、ほんのりと赤く染まっていた。
「……明るいところで、面と向かって言われると、こう……照れくさいもんですね……」
見たこともないその表情に、胸がどきりとする。こんな些細なことにも、“好き”が溢れて、止まらなくなってしまう。
「ジュードさん……好き。好きです」
「ちょ、ちょっと、勘弁してもらえませんか」
先ほどとは逆転した立場で、動揺するジュードの肩を掴んで体を寄せる。お互い何も身につけていない肌と肌が触れ合って、いつもより高い体温が溶け合っていくのが分かった。
「ジュードさん……」
この先、どんな不安に襲われても、このぬくもりだけは忘れないでいよう。
きっとこの人となら、どんなことだって、越えていけるはずだから。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
21
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる