46 / 55
チャプター4 彩金キアラ
2項 キアラ、暴走 ~Hなし
しおりを挟む
男たちを追っていたプロデューサーさんが帰って来ると、ワタシたちは彼の車に乗りこんで事務所へと向かった。
プロデューサーさんはナンパ男たちを捕まえると軽く脅しをかけてくれたらしい。
ホントにこういうことに関しては特に頼もしい人だ。
それにワタシのためにすぐ駆けつけてくれたし、すごく心配してくれた。
ふと、ワタシの脳裏に先ほど思い描いた妄想が──ワタシとプロデューサーさんが寄り添い歩いている姿が蘇る。
その時、どくん、とワタシの心臓が跳ね上がると途端に胸が早鐘を打ち始める。
──あ、あれ? どうしたんだろ、ワタシ?
冬だというのに急に体が熱り、恥ずかしくて彼の顔をまともに見られない。
──ホントにどうしちゃったんだろ、ワタシ!
ワタシは雑念を振り払うべく両手の平で頬をペチペチと叩く。
「どうかしましたか?」
プロデューサーさんが不審がって訊ねる。
「えっと、その……蚊です! 蚊が飛んでるみたいで」
「冬なのに蚊ですか? 暖房が効きすぎているんですかね?」
とっさのいいワケに、プロデューサーさんは首をかしげながら車のエアコンを調整する。
とりあえずワタシは心を落ち着かせようと深呼吸をする。
「そういえばさくらさんを助けてくれたという女性、どうなりましたか?」
「それが……」
ワタシはプロデューサーさんに、さっきの女性とのやり取りをつぶさに報告した。
するとプロデューサーさんの顔がみるみる青ざめてゆき、表情が翳ってゆく。
「ど、どうしたんですか、プロデューサーさん?」
あまりにも陰鬱そうだったので訊ねると、
「いえ、ちょっと俺の知っている人物と特徴が酷似していたもので……」
体をぶるりと震わせる。
荒くれ者も畏れる風貌のプロデューサーさんがこんなに苦手意識をあらわにするのは珍しい。
「あの、プロデューサーさん。もしかしてそのヒトって……?」
ワタシの言葉に彼はコクリとうなずき、
「はい。おそらく、さくらさんのセンパイにあたる人物に違い無いかと……」
鈍重な口調で言った。
結局プロデューサーさんはその後、事務所に着くまでひと言も口を開くことは無かった。
♢
「Pちゃあ~~~~~んッ!!」
ワタシたちが事務所に入るとすぐに、どこかで耳にした甘ったるい声でひとりの女性が飛び出して来てプロデューサーさんの体にがっちりとしがみつく。
それは、豹柄ジャケットを着たホワイトミルクティーカラーの髪をしたギャル系の女性──さっき街中で出会った件の女性そのヒトだった。
「ねぇ、Pちゃ~ん。チ○ポおっ勃ってるぅ? 今すぐセックスしようよ~」
そして彼女はプロデューサーさんの股間を手で弄りながら、超ド直球に誘いをかけて来る。
「とまあ、こういう人なんですよ、彼女は……」
プロデューサーさんは陰鬱とした顔をワタシの方に向け、達観したような静かな口調で言う。
「……なるほど、よくわかりました」
彼がここまで苦手意識を持つ理由がハッキリとした瞬間だった。
「あれ? キミ、さっき会ったコだよね~?」
彼の後ろで立ち尽くすワタシの姿に気づいた女性が驚きの声を上げる。
「じゃあ、もしかしてウワサの後輩ちゃんってキミだったんだ~! マジ偶然~ッ!!」
彼女はプロデューサーさんから離れてワタシの手を取ると、奇跡の再会を喜ぶようにはしゃぐのだった。
──ホントに奇跡が起きちゃったよ……。
今日出会うセンパイがギャル系だったら、と事前に想像していたことが見事に的中してしまい、ワタシは思わず苦笑する。
「何だ、2人とももう出会っていたのか。何か前もあったな、こんなパターン」
デスクにいた社長さんはそう言って彼女の隣に立ち、
「では改めて紹介しよう。さくらくんのひとつ歳上のセンパイで彩金キアラくんだ」
ワタシに向けてそう伝える。
「キアラだよ~。よろしくね~ん☆」
「水池さくらです。よろしくお願いします、彩金センパイ!」
「キアラでいいよ、さくらちん」
「はい、キアラセンパイ。ん?……さくらちん?」
珍妙な呼び方に思わず首をかしげる。
「そうそう、さくらちんね。ちなみにしほりセンパイはしほりん、萌火センパイはモカモカって呼んでるよ」
キアラセンパイはそう言ってニカッと笑った。
変な呼び方だけど、きっと彼女なりの親愛表現なんだろう、と思うことにした。
「そういえばキアラセンパイ、さっき『ウワサの後輩』っておっしゃってましたけど、ワタシ、何かウワサになってるんですか?」
気になったので訊ねると、
「なってるなってる。あの姫神アンジェをマネしたりだとか、プールのイベントで飛び込み台にすら上れずに水の中に落ちちゃったり、陸上のイベントでモカモカのパンツずり下ろしたりとか──」
「わあぁ、もうイイですッ!」
語られるものすべてがワタシにとって黒歴史だったので、慌てて遮断する。
「でもスゴいよね。今年の最優秀新人賞の候補なんでしょ? もしさくらちんが新人賞取ったらウチの会社の2連覇だよぉ!」
キアラセンパイはそう言ってワタシの肩をポンポンと叩く。
「最優秀新人賞……って何のことですか?」
その単語はワタシにとって初耳だった。
「あれぇ? Pちゃんから何にも聞いてないのぉ?」
彼女は首をかしげてプロデューサーさんの方を見やる。
「あー、すみません。ヘンに気負ってしまうかも知れないと思って伝えないでいたんですよ」
プロデューサーさんは頭をかきながら、申し訳無さそうに言うと、
「実はその年にもっとも活躍したセックスアイドルを表彰する式典というものが年末にありまして、その新人部門にさくらさんがノミネートされているんです」
そう説明する。
「新人部門に……ワタシがですか?」
だけど、それを聞いてもいまいちピンとこなかった。
そもそも、取り沙汰されるほどの人気があるとも思えないし、イベントやコンテンツのセールスだってまだまだ大したことはないのだから。
「ちなみに、去年の最優秀新人賞はウチ!」
キアラセンパイが大きな胸を張り上げてドヤると、
「まあ、キアラさんは新人でありながら『SGIプロダクション』のトップセールスを叩き出しましたからね。まさに規格外のスーパールーキーでした」
プロデューサーさんが苦笑と共に補足する。
「あれ? SGIでトップセールスはしほりセンパイじゃないんですか? すごくたくさん仕事してたころですよね?」
かつて自分を拾って育ててくれた児童養護施設を救うために、しほりセンパイはかなりムリをしてたくさんの仕事をこなしていた時期があった。
でも、そのしほりセンパイ以上にキアラセンパイはどうやって稼いだんだろう?
「たしかに、仕事の案件の数ではしほりさんがダントツの1番です。しかし、ひとつひとつの仕事の単価には差があります。キアラさんの場合、一件の仕事でセックスをこなす数が桁違いなんですよ」
「だいたい50人くらいかな~ぁ? まあ、さすがにその後はスゴく疲れちゃって3日くらい寝こんじゃうんだけどね」
「50人ッ!?」
プロデューサーさんの口から語られる説明に対して彼女は衝撃的な数字をあっけらかんと口にし、ワタシは思わず呆然としてしまう。
「そういえばキアラくんくらいなもんだな。1番最初の仕事でいきなり本番行為をこなしたのは。あの姫神アンジェだって、最初はさくらくんたちと同じように水着グラビア撮影会からのオナニーだったからなぁ」
社長が補足するようにしみじみと語る。
「だってぇ、ウチ、セックスだ~い好き何だもん⭐︎」
そう言ってキアラセンパイは再びプロデューサーさんの体にしがみついてイチャイチャするのだった。
──何かもう……。
キアラセンパイの武勇伝があまりにもスゴすぎて、ワタシの新人賞ノミネートの話だとか、そんなモノはすっかり霞んで消えてしまいそうだ。
「さてプロデューサーのマサオミくん? そうやって所属タレントとスキンシップを図るのは結構だが、そろそろ本題に入るべきではないのかね?」
ワザとらしく咳払いと口調で、社長さんが促す。
「わ、わかってます、社長」
プロデューサーさんはキアラセンパイを引き剥がすと、
「今日こうしてお2人に来ていただいたのは、実はさくらさんに今週末行われるキアラさんのイベントに特別参加していただこうと思った次第です」
そう言ってジャケットの懐からスマホを取り出し、手早く操作する。
「とりあえずそのイベントの告知内容を送りましたのでご覧ください」
ワタシはさっそく自分のスマホを取り出して送られてきたデータを展開する。
「『今年もDJキアラが渋谷で大暴れ!? パリピ乱行SEX艶舞の開幕だ! ワルプルギスの夜に踊り狂え!!』……わあ、スゴく頭わる……じゃなかった、スゴく楽しそうなイベントですねー」
極彩色に覆われた目に毒なイラストの上に扇情的な宣伝を見た瞬間につい本音がこぼれてしまうけど、慌てて取りつくろう。ただし、後半は自分でもわかるくらいスゴい棒読みなセリフだった。
「……さくらちん今、『頭わるい』って言った?」
だけどやっぱりごまかしきれなかったみたいで、キアラセンパイがジト目でワタシを見る。
「ち、違います、『頭わるそう』って思っただけで言ってないです!」
「『頭わるそう』って、しっかり言ってんじゃん……」
「あ……」
完全にやぶへびだった。
ついついナチュラルに毒を吐いてしまうワタシの悪いクセで、慌てて口を塞いでも後の祭りだ。
「すみません……」
ワタシは観念して深々と頭を下げる。
「アハハ、別にイイよ。やっぱりさくらちん、ウワサで聞いていたとおりおもしろいコだねぇ」
センパイは特に気にしてないようで、からからと笑う。
「それで、このイベントは具体的に何をするんですか?」
気を取り直してプロデューサーさんに訊ねる。
「そうですね。基本的には渋谷のクラブでキアラさん主催のDJライブをします」
「ああ、それで後でVIP当選者を相手にセックスをするんですね?」
これまでの経験上から、アイドル活動をしてその後にHするという流れがセックスアイドルの業務パターンだとワタシは理解していた。
だけどプロデューサーさんは小さくかぶりを振り、
「いいえ、今回は会場に入ったお客様全員が思い思いにセックスを愉しむという流れになってます。ですので、キアラさんたちがお客様のお相手をするのはもちろんですが、お客様同士でセックスをしたりと、タイトルにもあるとおり乱行……まあ、何でもアリですね」
苦笑交じりに説明する。
「な、何だか混沌ですけど、それにワタシも出演するんですか?」
「いろいろな世界に触れることもさくらくんの勉強になると思ってね。もちろん、ムリと感じたら気兼ねなく断ってくれて構わないよ」
社長さんはそう言ってマグカップに入ったコーヒーを口にふくむ。
──勉強、か。
たしかに、キアラセンパイの客層はこれまでワタシが相手をしてきた客層とは異なるだろうし、今までに無かった客層を取りこむためにも今回のイベントは宣伝の意味も込めて有効かも知れない。
「わかりました。そのイベント、ぜひ参加させてください」
ワタシは決意を伝える。
「わぁ~☆ さくらちんと一緒だぁ! うれしーなぁ♡」
キアラセンパイは喜びをあらわにしてワタシに抱きついてくる。
大きな胸の柔らかい感触と、蠱惑的な香水の香りがワタシを包みこむ。
「んじゃ、Pちゃん、セックスしよーよ! 景気づけってヤツ?」
キアラセンパイはすぐに標的をプロデューサーさんに戻すと、いきなり彼のスラックスのファスナーを下ろしてそこからペニスを引き出そうとする。
「おお、いいな、景気づけ。アタシも景気づけだ!」
社長さんも完全に悪ノリして自らの服を脱ぎ出す。
「や、止めてください! これはセクハラですよ!? 完全に人権侵害ですよッ!?」
股間を押さえながら必死に抵抗するプロデューサーさん。
「……このヒトたちの方がよっぽど混沌だわ」
性に飢えたヒトたちの享楽ぶりを見て、ワタシはため息交じりにつぶやくのだった。
プロデューサーさんはナンパ男たちを捕まえると軽く脅しをかけてくれたらしい。
ホントにこういうことに関しては特に頼もしい人だ。
それにワタシのためにすぐ駆けつけてくれたし、すごく心配してくれた。
ふと、ワタシの脳裏に先ほど思い描いた妄想が──ワタシとプロデューサーさんが寄り添い歩いている姿が蘇る。
その時、どくん、とワタシの心臓が跳ね上がると途端に胸が早鐘を打ち始める。
──あ、あれ? どうしたんだろ、ワタシ?
冬だというのに急に体が熱り、恥ずかしくて彼の顔をまともに見られない。
──ホントにどうしちゃったんだろ、ワタシ!
ワタシは雑念を振り払うべく両手の平で頬をペチペチと叩く。
「どうかしましたか?」
プロデューサーさんが不審がって訊ねる。
「えっと、その……蚊です! 蚊が飛んでるみたいで」
「冬なのに蚊ですか? 暖房が効きすぎているんですかね?」
とっさのいいワケに、プロデューサーさんは首をかしげながら車のエアコンを調整する。
とりあえずワタシは心を落ち着かせようと深呼吸をする。
「そういえばさくらさんを助けてくれたという女性、どうなりましたか?」
「それが……」
ワタシはプロデューサーさんに、さっきの女性とのやり取りをつぶさに報告した。
するとプロデューサーさんの顔がみるみる青ざめてゆき、表情が翳ってゆく。
「ど、どうしたんですか、プロデューサーさん?」
あまりにも陰鬱そうだったので訊ねると、
「いえ、ちょっと俺の知っている人物と特徴が酷似していたもので……」
体をぶるりと震わせる。
荒くれ者も畏れる風貌のプロデューサーさんがこんなに苦手意識をあらわにするのは珍しい。
「あの、プロデューサーさん。もしかしてそのヒトって……?」
ワタシの言葉に彼はコクリとうなずき、
「はい。おそらく、さくらさんのセンパイにあたる人物に違い無いかと……」
鈍重な口調で言った。
結局プロデューサーさんはその後、事務所に着くまでひと言も口を開くことは無かった。
♢
「Pちゃあ~~~~~んッ!!」
ワタシたちが事務所に入るとすぐに、どこかで耳にした甘ったるい声でひとりの女性が飛び出して来てプロデューサーさんの体にがっちりとしがみつく。
それは、豹柄ジャケットを着たホワイトミルクティーカラーの髪をしたギャル系の女性──さっき街中で出会った件の女性そのヒトだった。
「ねぇ、Pちゃ~ん。チ○ポおっ勃ってるぅ? 今すぐセックスしようよ~」
そして彼女はプロデューサーさんの股間を手で弄りながら、超ド直球に誘いをかけて来る。
「とまあ、こういう人なんですよ、彼女は……」
プロデューサーさんは陰鬱とした顔をワタシの方に向け、達観したような静かな口調で言う。
「……なるほど、よくわかりました」
彼がここまで苦手意識を持つ理由がハッキリとした瞬間だった。
「あれ? キミ、さっき会ったコだよね~?」
彼の後ろで立ち尽くすワタシの姿に気づいた女性が驚きの声を上げる。
「じゃあ、もしかしてウワサの後輩ちゃんってキミだったんだ~! マジ偶然~ッ!!」
彼女はプロデューサーさんから離れてワタシの手を取ると、奇跡の再会を喜ぶようにはしゃぐのだった。
──ホントに奇跡が起きちゃったよ……。
今日出会うセンパイがギャル系だったら、と事前に想像していたことが見事に的中してしまい、ワタシは思わず苦笑する。
「何だ、2人とももう出会っていたのか。何か前もあったな、こんなパターン」
デスクにいた社長さんはそう言って彼女の隣に立ち、
「では改めて紹介しよう。さくらくんのひとつ歳上のセンパイで彩金キアラくんだ」
ワタシに向けてそう伝える。
「キアラだよ~。よろしくね~ん☆」
「水池さくらです。よろしくお願いします、彩金センパイ!」
「キアラでいいよ、さくらちん」
「はい、キアラセンパイ。ん?……さくらちん?」
珍妙な呼び方に思わず首をかしげる。
「そうそう、さくらちんね。ちなみにしほりセンパイはしほりん、萌火センパイはモカモカって呼んでるよ」
キアラセンパイはそう言ってニカッと笑った。
変な呼び方だけど、きっと彼女なりの親愛表現なんだろう、と思うことにした。
「そういえばキアラセンパイ、さっき『ウワサの後輩』っておっしゃってましたけど、ワタシ、何かウワサになってるんですか?」
気になったので訊ねると、
「なってるなってる。あの姫神アンジェをマネしたりだとか、プールのイベントで飛び込み台にすら上れずに水の中に落ちちゃったり、陸上のイベントでモカモカのパンツずり下ろしたりとか──」
「わあぁ、もうイイですッ!」
語られるものすべてがワタシにとって黒歴史だったので、慌てて遮断する。
「でもスゴいよね。今年の最優秀新人賞の候補なんでしょ? もしさくらちんが新人賞取ったらウチの会社の2連覇だよぉ!」
キアラセンパイはそう言ってワタシの肩をポンポンと叩く。
「最優秀新人賞……って何のことですか?」
その単語はワタシにとって初耳だった。
「あれぇ? Pちゃんから何にも聞いてないのぉ?」
彼女は首をかしげてプロデューサーさんの方を見やる。
「あー、すみません。ヘンに気負ってしまうかも知れないと思って伝えないでいたんですよ」
プロデューサーさんは頭をかきながら、申し訳無さそうに言うと、
「実はその年にもっとも活躍したセックスアイドルを表彰する式典というものが年末にありまして、その新人部門にさくらさんがノミネートされているんです」
そう説明する。
「新人部門に……ワタシがですか?」
だけど、それを聞いてもいまいちピンとこなかった。
そもそも、取り沙汰されるほどの人気があるとも思えないし、イベントやコンテンツのセールスだってまだまだ大したことはないのだから。
「ちなみに、去年の最優秀新人賞はウチ!」
キアラセンパイが大きな胸を張り上げてドヤると、
「まあ、キアラさんは新人でありながら『SGIプロダクション』のトップセールスを叩き出しましたからね。まさに規格外のスーパールーキーでした」
プロデューサーさんが苦笑と共に補足する。
「あれ? SGIでトップセールスはしほりセンパイじゃないんですか? すごくたくさん仕事してたころですよね?」
かつて自分を拾って育ててくれた児童養護施設を救うために、しほりセンパイはかなりムリをしてたくさんの仕事をこなしていた時期があった。
でも、そのしほりセンパイ以上にキアラセンパイはどうやって稼いだんだろう?
「たしかに、仕事の案件の数ではしほりさんがダントツの1番です。しかし、ひとつひとつの仕事の単価には差があります。キアラさんの場合、一件の仕事でセックスをこなす数が桁違いなんですよ」
「だいたい50人くらいかな~ぁ? まあ、さすがにその後はスゴく疲れちゃって3日くらい寝こんじゃうんだけどね」
「50人ッ!?」
プロデューサーさんの口から語られる説明に対して彼女は衝撃的な数字をあっけらかんと口にし、ワタシは思わず呆然としてしまう。
「そういえばキアラくんくらいなもんだな。1番最初の仕事でいきなり本番行為をこなしたのは。あの姫神アンジェだって、最初はさくらくんたちと同じように水着グラビア撮影会からのオナニーだったからなぁ」
社長が補足するようにしみじみと語る。
「だってぇ、ウチ、セックスだ~い好き何だもん⭐︎」
そう言ってキアラセンパイは再びプロデューサーさんの体にしがみついてイチャイチャするのだった。
──何かもう……。
キアラセンパイの武勇伝があまりにもスゴすぎて、ワタシの新人賞ノミネートの話だとか、そんなモノはすっかり霞んで消えてしまいそうだ。
「さてプロデューサーのマサオミくん? そうやって所属タレントとスキンシップを図るのは結構だが、そろそろ本題に入るべきではないのかね?」
ワザとらしく咳払いと口調で、社長さんが促す。
「わ、わかってます、社長」
プロデューサーさんはキアラセンパイを引き剥がすと、
「今日こうしてお2人に来ていただいたのは、実はさくらさんに今週末行われるキアラさんのイベントに特別参加していただこうと思った次第です」
そう言ってジャケットの懐からスマホを取り出し、手早く操作する。
「とりあえずそのイベントの告知内容を送りましたのでご覧ください」
ワタシはさっそく自分のスマホを取り出して送られてきたデータを展開する。
「『今年もDJキアラが渋谷で大暴れ!? パリピ乱行SEX艶舞の開幕だ! ワルプルギスの夜に踊り狂え!!』……わあ、スゴく頭わる……じゃなかった、スゴく楽しそうなイベントですねー」
極彩色に覆われた目に毒なイラストの上に扇情的な宣伝を見た瞬間につい本音がこぼれてしまうけど、慌てて取りつくろう。ただし、後半は自分でもわかるくらいスゴい棒読みなセリフだった。
「……さくらちん今、『頭わるい』って言った?」
だけどやっぱりごまかしきれなかったみたいで、キアラセンパイがジト目でワタシを見る。
「ち、違います、『頭わるそう』って思っただけで言ってないです!」
「『頭わるそう』って、しっかり言ってんじゃん……」
「あ……」
完全にやぶへびだった。
ついついナチュラルに毒を吐いてしまうワタシの悪いクセで、慌てて口を塞いでも後の祭りだ。
「すみません……」
ワタシは観念して深々と頭を下げる。
「アハハ、別にイイよ。やっぱりさくらちん、ウワサで聞いていたとおりおもしろいコだねぇ」
センパイは特に気にしてないようで、からからと笑う。
「それで、このイベントは具体的に何をするんですか?」
気を取り直してプロデューサーさんに訊ねる。
「そうですね。基本的には渋谷のクラブでキアラさん主催のDJライブをします」
「ああ、それで後でVIP当選者を相手にセックスをするんですね?」
これまでの経験上から、アイドル活動をしてその後にHするという流れがセックスアイドルの業務パターンだとワタシは理解していた。
だけどプロデューサーさんは小さくかぶりを振り、
「いいえ、今回は会場に入ったお客様全員が思い思いにセックスを愉しむという流れになってます。ですので、キアラさんたちがお客様のお相手をするのはもちろんですが、お客様同士でセックスをしたりと、タイトルにもあるとおり乱行……まあ、何でもアリですね」
苦笑交じりに説明する。
「な、何だか混沌ですけど、それにワタシも出演するんですか?」
「いろいろな世界に触れることもさくらくんの勉強になると思ってね。もちろん、ムリと感じたら気兼ねなく断ってくれて構わないよ」
社長さんはそう言ってマグカップに入ったコーヒーを口にふくむ。
──勉強、か。
たしかに、キアラセンパイの客層はこれまでワタシが相手をしてきた客層とは異なるだろうし、今までに無かった客層を取りこむためにも今回のイベントは宣伝の意味も込めて有効かも知れない。
「わかりました。そのイベント、ぜひ参加させてください」
ワタシは決意を伝える。
「わぁ~☆ さくらちんと一緒だぁ! うれしーなぁ♡」
キアラセンパイは喜びをあらわにしてワタシに抱きついてくる。
大きな胸の柔らかい感触と、蠱惑的な香水の香りがワタシを包みこむ。
「んじゃ、Pちゃん、セックスしよーよ! 景気づけってヤツ?」
キアラセンパイはすぐに標的をプロデューサーさんに戻すと、いきなり彼のスラックスのファスナーを下ろしてそこからペニスを引き出そうとする。
「おお、いいな、景気づけ。アタシも景気づけだ!」
社長さんも完全に悪ノリして自らの服を脱ぎ出す。
「や、止めてください! これはセクハラですよ!? 完全に人権侵害ですよッ!?」
股間を押さえながら必死に抵抗するプロデューサーさん。
「……このヒトたちの方がよっぽど混沌だわ」
性に飢えたヒトたちの享楽ぶりを見て、ワタシはため息交じりにつぶやくのだった。
0
あなたにおすすめの小説
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる