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第1章
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私、反射的に声をあげた。
「ちょっと、いいかげんにしてよ。だいたいあなたは猫なのよ。鏡で見たでしょ? 人間ていうのは、私みたいな」
そこまで聞いて、突然ユーキは笑いだした。
「な、なによ」
笑うところじゃないから!
「そうか、なるほどね。キセツはオレが猫の身体してるから、そう思うんだろ? 驚かせて悪かったな。だけどそっちが悪いんだぜ。話の途中で起きちゃうから」
「はぁ? どういう意味よ。猫に変身できて実は人間だとでも言うの」
「お、近いね」
「ふざけないでよ。そんな魔法使いみたいな人間に知り合いなんていないし。ユーキなんて、名前……」
聞いたことない、と思うんだけど。でも、微妙に耳慣れしているような気がしなくもない。どうして?
「とにかくね、夢からとか、理解できないから。絶対、変でしょ」
「了解。説明するよ。だから落ち着け」
「……うん」
ユーキは思案げにうつむき、片耳を動かして尻尾を一度だけ大きく振ると、改めて頭を起こして私を見上げた。
「これ、変身して猫になったんじゃないんだ。もしそうなら元が男なのにメスになるわけないだろ」
「……そう?」
そんなの分からないと思う。小説やマンガのなかで男が女に変身しちゃう物語だって枚挙に暇がないのだし。
私は数秒考えたあと、別の疑問をくちにした。
「じゃあ、どうして猫に? それもネコくんそっくりな」
「ああ。今のオレ、身体はネコくんなんだ。キセツの身近にいるっていうから」
「え?」
言われて私は目の前のネコくんを凝視した。
やっぱり、確かに。茶色と黒と白が縞模様を描いてる茶トラのツヤツヤな毛並み、狭い額に可愛らしい三本のライン、愛嬌のある瞳、表情、尻尾の形。
私がネコくんを見間違うわけがなかった。
だけど中身? が、人間の、ユーキ、ってことは?
「わ、わっやめ」
ユーキが慌てて私の両腕から逃れようともがくけど、離さない。しなやかな胴体をつかんで持ち上げて顔の前まで持ってきて前後に振る。
「許さない! ネコくんに一体、何したの!?」
「く、苦しいって! 目が回る……、おい殺す気か!? 離せよ、ネコくん死んじゃってもいいのか!」
「え……」
怒鳴られて、手を放す。ユーキ、何事もなくテーブルに着地して。
「はぁ……。ネコくんを心配するのは、分かるけどさ」
私が振り回したせいで息が上がってる。尻尾を振って首を動かしたあと、ぺたりと寝そべった。
『心配するのが分かる?』分かってたまるもんか。
「ここで、その身体がどうかしたら、ネコくんも無事じゃないってこと?」
「キセツ、何か勘違いしてない? 落ち着いてくれよ」
ユーキは上体を起こして私を見上げてきたけれど。
「何をよ? 普通のひとなら落ち着くどころか病院行きよ! 猫と会話なんて」
「だから、悪かったって。忘れてたんだよ、夢ん中じゃ、猫が喋ったって誰も驚かないからな」
何言ってんの? 夢と現実なんて全然違うじゃない。って、ん?
「ユーキ、本当に夢から来たわけ?」
「まぁ。ね。正確に言えば、ややこしいんだけど、この身体は借りたんだ。ネコくんの意識は夢にいる。オレの身体は――」
「ネコくん、返して」
「え? いいけど、そしたらオレが夢に帰ることになるんだ。オレがここに来たのはキセツを驚かせるためじゃなくて、話をしたかったんだ。夢ん中じゃ真剣に聞いてくんないだろ」
「お願い。ネコくん、元に戻して。私、夢の中でだって話、ちゃんと聴くから。だから、もう」
「わ、分かったよ! そんな顔するなよ。でもそうは言っても、こっちのこと忘れずに、あっちに行くには、どうすればいいんだったか」
ユーキがぶつぶつと考えている間に、私はマグを片付けてクッキーの残りをしまった。
夢に行くなら、寝ないといけないんじゃないの。
「そうだ。キセツ、眠れ。布団はどこだ」
やっぱり。
頷いて寝室へ向かうべく、立ち上がると、テーブルから床へと身軽に飛び降りながらユーキは言った。
「もちろん、ただ寝るだけじゃダメだ。それと、何か書くものあるか?」
気がつくと、目の前に私より背の高い男の子が立っていた。グリーンのスタジャンにスラックス、白いTシャツ。中肉中背の体躯に、黒い髪を短めにカットして、ハツラツとした印象の笑顔を浮かべて意志の強そうな瞳が私を見てる。
「えっと……ユーキ、くん?」
「そう。くんづけはいらない。やっぱオレの事、忘れてる。あいつの言ったとおりだな」
なんだか落胆気味に溜め息をついて、彼は私の腕をつかんだ。数歩引っ張っていかれて、置かれたベンチに促される。左隣に彼も坐って、
「その服は、変えたほうがいい。身元がバレる……」
「え?」
言われて見下ろすと、高校の制服を着てた。紺のジャケット、プリーツスカート。白のソックスは規定どおり、黒の革靴までしっかり履いて。
「それにスカートだと、たぶん戦いにくいから」
「たたかい?」
なんの話? と首を傾げると、ユーキはニヤリと口角を上げて、片頬を歪めて。
いたずらを企んでるみたいな調子で言った。
「ただいまオレ達、戦闘準備中」
「ちょっと、いいかげんにしてよ。だいたいあなたは猫なのよ。鏡で見たでしょ? 人間ていうのは、私みたいな」
そこまで聞いて、突然ユーキは笑いだした。
「な、なによ」
笑うところじゃないから!
「そうか、なるほどね。キセツはオレが猫の身体してるから、そう思うんだろ? 驚かせて悪かったな。だけどそっちが悪いんだぜ。話の途中で起きちゃうから」
「はぁ? どういう意味よ。猫に変身できて実は人間だとでも言うの」
「お、近いね」
「ふざけないでよ。そんな魔法使いみたいな人間に知り合いなんていないし。ユーキなんて、名前……」
聞いたことない、と思うんだけど。でも、微妙に耳慣れしているような気がしなくもない。どうして?
「とにかくね、夢からとか、理解できないから。絶対、変でしょ」
「了解。説明するよ。だから落ち着け」
「……うん」
ユーキは思案げにうつむき、片耳を動かして尻尾を一度だけ大きく振ると、改めて頭を起こして私を見上げた。
「これ、変身して猫になったんじゃないんだ。もしそうなら元が男なのにメスになるわけないだろ」
「……そう?」
そんなの分からないと思う。小説やマンガのなかで男が女に変身しちゃう物語だって枚挙に暇がないのだし。
私は数秒考えたあと、別の疑問をくちにした。
「じゃあ、どうして猫に? それもネコくんそっくりな」
「ああ。今のオレ、身体はネコくんなんだ。キセツの身近にいるっていうから」
「え?」
言われて私は目の前のネコくんを凝視した。
やっぱり、確かに。茶色と黒と白が縞模様を描いてる茶トラのツヤツヤな毛並み、狭い額に可愛らしい三本のライン、愛嬌のある瞳、表情、尻尾の形。
私がネコくんを見間違うわけがなかった。
だけど中身? が、人間の、ユーキ、ってことは?
「わ、わっやめ」
ユーキが慌てて私の両腕から逃れようともがくけど、離さない。しなやかな胴体をつかんで持ち上げて顔の前まで持ってきて前後に振る。
「許さない! ネコくんに一体、何したの!?」
「く、苦しいって! 目が回る……、おい殺す気か!? 離せよ、ネコくん死んじゃってもいいのか!」
「え……」
怒鳴られて、手を放す。ユーキ、何事もなくテーブルに着地して。
「はぁ……。ネコくんを心配するのは、分かるけどさ」
私が振り回したせいで息が上がってる。尻尾を振って首を動かしたあと、ぺたりと寝そべった。
『心配するのが分かる?』分かってたまるもんか。
「ここで、その身体がどうかしたら、ネコくんも無事じゃないってこと?」
「キセツ、何か勘違いしてない? 落ち着いてくれよ」
ユーキは上体を起こして私を見上げてきたけれど。
「何をよ? 普通のひとなら落ち着くどころか病院行きよ! 猫と会話なんて」
「だから、悪かったって。忘れてたんだよ、夢ん中じゃ、猫が喋ったって誰も驚かないからな」
何言ってんの? 夢と現実なんて全然違うじゃない。って、ん?
「ユーキ、本当に夢から来たわけ?」
「まぁ。ね。正確に言えば、ややこしいんだけど、この身体は借りたんだ。ネコくんの意識は夢にいる。オレの身体は――」
「ネコくん、返して」
「え? いいけど、そしたらオレが夢に帰ることになるんだ。オレがここに来たのはキセツを驚かせるためじゃなくて、話をしたかったんだ。夢ん中じゃ真剣に聞いてくんないだろ」
「お願い。ネコくん、元に戻して。私、夢の中でだって話、ちゃんと聴くから。だから、もう」
「わ、分かったよ! そんな顔するなよ。でもそうは言っても、こっちのこと忘れずに、あっちに行くには、どうすればいいんだったか」
ユーキがぶつぶつと考えている間に、私はマグを片付けてクッキーの残りをしまった。
夢に行くなら、寝ないといけないんじゃないの。
「そうだ。キセツ、眠れ。布団はどこだ」
やっぱり。
頷いて寝室へ向かうべく、立ち上がると、テーブルから床へと身軽に飛び降りながらユーキは言った。
「もちろん、ただ寝るだけじゃダメだ。それと、何か書くものあるか?」
気がつくと、目の前に私より背の高い男の子が立っていた。グリーンのスタジャンにスラックス、白いTシャツ。中肉中背の体躯に、黒い髪を短めにカットして、ハツラツとした印象の笑顔を浮かべて意志の強そうな瞳が私を見てる。
「えっと……ユーキ、くん?」
「そう。くんづけはいらない。やっぱオレの事、忘れてる。あいつの言ったとおりだな」
なんだか落胆気味に溜め息をついて、彼は私の腕をつかんだ。数歩引っ張っていかれて、置かれたベンチに促される。左隣に彼も坐って、
「その服は、変えたほうがいい。身元がバレる……」
「え?」
言われて見下ろすと、高校の制服を着てた。紺のジャケット、プリーツスカート。白のソックスは規定どおり、黒の革靴までしっかり履いて。
「それにスカートだと、たぶん戦いにくいから」
「たたかい?」
なんの話? と首を傾げると、ユーキはニヤリと口角を上げて、片頬を歪めて。
いたずらを企んでるみたいな調子で言った。
「ただいまオレ達、戦闘準備中」
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