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最強厨の覚醒()
その3
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え……。いやいや、そんなまさか、あれだけ痛い思いをして、転生した先が現代……?
「嘘でしょ……。」
「嘘、とはどういうことを指しているのかは分かりませんが、この世界の説明を始めた方が良さそうですね。」
絶句して立ち尽くす僕の手を握り、歩き始めた蘇芳は、淡々と話し始めた。
「この世界は、2010年の地球を再現した世界です。当時と違うのは、私たちの存在だけ、つまり、異能力者の存在だけです。」
「なぜそんな昔の世界を……?」
「分かりません。誰がなんのために作ったのか、そもそもどのようにしてこの世界が形成されたのか、その全てが謎に満ちています。」
「じゃ、じゃあ、僕は何をすれば……。」
「なぜこの世界が作られたのかは分かりませんが、私たちが何をすべきかは明確なのです。それは、アレを倒すこと。」
そう言って蘇芳が指差した先には……。
「いや、どう見てもただの人なんだけど。」
路地裏の自販機でジュースを買っている、良くいえば普通の、悪く言えば冴えない、中年のサラリーマン風の男がいた。
「アレは私たちと同類、なのに、私を裏切った人達。」
「ってことは、あの人も異能力者!?」
「そう。能力に溺れ、この世界を混乱に陥れようとしているの。そして、あの人だけじゃない、異能力者のテロ集団を作って活動している。」
グッと、蘇芳の拳が握られていた。
余程、悔しいのだろう。
何とか、彼女の助けになりたい。そう、思った。
ん?さっきから、何か違和感が……。
「あ、そうだ。私たちって言ってたよね、さっき。蘇芳さんも能力を持ってるの?」
「……分かりません。」
「え?」
「私には、この世界に転生する前の記憶が無いのです。この世界で目覚めた私にあったのは、この世界を守らなくてはならないという意思。そして、何か、能力に目覚めたのだという感覚だけ……。」
辛い記憶だったのだろうか、蘇芳は苦しそうな表情を見せる。
「だから、お願い。私に力を貸してほしい。」
彼女の強い意志を感じる。
この思いに応えたい。
現代では、誰からも必要とされなかった僕でも、この子の力になれる……!
「僕で良ければ、任せて!」
少しでも彼女を励ますように、慣れない笑顔で答えた。
「そうだ、戦うにしても、まずは能力を作らないと……。」
えっと……。
能力を使おうと意識すると、感覚で分かった。
「クリエイト。」
そう唱えると、目の前にホログラムのディスプレイが出てきた。
能力「不死」作成 能力「時間停止」作成 能力「身体強化」作成 能力「瞬間移動」作成………………。
ざっと、思いつく限りのチートスキルを作成した。その数75。
これだけあれば、どんな相手でも勝てる。いざ本当に能力を使ってみると、そんな自信が溢れてきた。
「よし、行くよ!」
蘇芳の手を取ると、『瞬間移動』を発動させた。出現座標は、あの男の目の前。
テレビのチャンネルが切り替わるように、目の前にいきなり男が現れた。
「ぬぉっ。な、なんだ!?」
「さぁ、大人しくしてもらおうか!」
蘇芳の手前、情けない姿は見せられない。それに、「任せて。」って、言ったから!
「いきなりどうしましたか、少年。人目を気にせずに能力を使うなんて、この世界に来たばかりですか?」
……?
少し、拍子抜けしてしまった。
テロリストだって言うから、いきなり能力を使って襲ってくるものとばかり……。
「ははぁ、分かった。彼女さんも一緒で、張り切ってるんですね?でも、瞬間移動なんて能力、慣れないと彼女さんも……、っ!」
男は、穏やかな雰囲気で話していたかと思うと、蘇芳を見た瞬間、全身に殺気を漲らせ……、
「魔女……!」
そう言い放つと、即座に指から光弾を放った。
「危ないっ。」
『時間停止』『物質生成』発動!
盾を作り出し、蘇芳の前に立ち塞がる。
『時間停止』解除。
キィィィン
甲高い音を立てて、光弾はそれていった。
「瞬間移動だけではないのですか!?」
男が何か話すが、頭に入ってこない。
コイツ、本気で蘇芳を狙ってきた……!
どうして、そこまで躊躇いがないんだ……!?
蘇芳の苦しそうな表情が目に浮かぶ。
彼女は、1人でこんな奴らを相手にしてきたのか。もう、あんな悲しい顔はさせない。僕が、蘇芳を守る!
「ウォォォッ!」
『雷神』発動!
全身に雷を纏い、光の刃を生み出す能力。
光弾も、それ以上の光で消せる、さっきから発動していた分析の能力、『審理眼』がそう結果を出した。
「これは中々分が悪そうですが……。しかし、仁君が来るまで魔女を逃すわけには……!」
相手も、雷神と似た能力なのか、全身を光で包んだ。
「ハッ。」
先手必勝とばかりに飛び込んできた拳。
身体強化によって強化されている僕の視界では、遅すぎるほどだ。
拳を掻い潜って胸元に潜り込むと、そのまま両手を前に突き出し、全力を込めた。
バチッ
閃光で辺りが包まれた次の瞬間、手のひらにあった人の感触が消えた。
「ガハッ。」
凄まじい勢いでビルの壁面に衝突した男は、そのまま膝から崩れ落ち、瓦礫の中に埋もれていった
「す、すげぇ……。こんな簡単に人を吹っ飛ばせるなんて……。」
「グッ、まだ、まだ倒れるわけには行きません……!」
瓦礫を押し上げ、立ち上がった。
どうやらまだ戦うつもりらしい。
スっと、冷静になっていく自分を感じた。
あぁ、はっきり言って雑魚だな、と、そう思って僕は、トドメを刺すことにした。
どうやら、僕の能力はケタ違いらしい。
それなら、下手にいじめるより、一思いに倒した方が彼にとってもいいだろう。
「光刃、展開。」
両手に刃を形成、これで、いつでも切りかかることが出来る。
「最後まで諦めない、そうですよね、仁君。」
何かを悟ったような顔をして、男は、構えた。
どうして……、どうしてテロリストがそんな顔をするんだ……?本当に、この人は悪人なのか?僕は蘇芳に言われただけで、この人が本当にテロを起こした所なんて見てないじゃないか。
いや、でも蘇芳を見ていきなり襲いかかってきた、それは事実だ。
でも……。もしかして……。
ザザッ
視界の端が歪んだ気がした。
(気のせいか……?)
とにかく、蘇芳の為にも、目の前の敵は倒さないと。
気合を入れ直して、僕は男と対峙した。
「ハァッ!」
先に動いたのは男の方。
さっきよりは機敏な動きで僕に迫る。
少し、失望した。
この人がこの世界でどれくらいの強さなのかは分からないけど、実力差がありすぎて、弱いものいじめでもしている気になってきた。
でも、倒す。蘇芳の為に。
少し首を傾けて、拳をかわす。
耳元を拳がかすめるが、特に何も感じない。
すれ違いざまに一刀。
光刃を男の胸元に叩き込んだ。
ドサッ
後ろで倒れ込む音が聞こえた。
「ふぅ、これで安心だよ、蘇芳。」
そう言って振り返ると、すぐ近くに蘇芳の顔があった。
「うわぁっ。」
変な声が出た。
「ありがとうございます。翼さん。」
「いやいや、全然、気にしないで。ハハッ。」
「いえ、今の戦いを見て確信しました。あなたは私の勇者、いえ救世主です。」
なんだか持ち上げられすぎてこそばゆいけど、蘇芳が安心してくれるなら、それでいい。
蘇芳の為に、少しずつでも、この世界を守っていこう。そう決意した。
その時だった。
タッタッタッ
「っ!?」
一気に緊張が高まる。
まさか仲間か?
ゆっくりと、足音の方へと顔を向けた。
「うわぁぁっ。たなかさん、だいじょうぶですか?」
てとてと、と形容すべき動きで男に近づく少女……というか幼女?
「えいっ。」
気の抜ける掛け声と共に、田中と呼ばれた男は、白い光に包まれた。
「き、君は、何をしてるんだ?」
「えっとね、たなかさんのね、きずがね、おっきかったからね。なおしたの。」
そんな馬鹿な……。
確認するまでもなく、僕はその男を両断した。
傷が大きいどころの話ではない。
それを、治しただと……?
「はい、おわったよ。たなかさんおきてー。」
「ん、うぅ……。真珠さん、ありがとうございます。真珠さんがここにいるということは、仁君が間に合ったんですね?」
「うん。じんくんだけじゃないよ、みんなきたんだ。まじょさんがいるってきいたから。」
「ふむ、みなさんが来るなら、私だけ寝ているわけにはいきませんね。」
「いやいや、田中さんは休んでていいよ、元々非番だったし。」
ポンポン、と、田中の肩を叩くのは、漆黒のスーツに身を包んだ男。
「そうそう。遠視で見てる限り、仁君に負ける要素がないしね。」
「どうだ?モヤシ野郎。つかの間の俺TUEEEEは、楽しかったか?」
「どうでもいいけど……。そんな雑魚より……。魔女を……。」
「心配せんでも、『網』なら張っておるよ。簡単には逃げられん。」
ズラズラと、路地裏に現れる人影。
20人はいるだろうか。
「な、お、おおお、お前らが、蘇芳の言ってた、テロリスト集団だな!?い、今ここで、倒してやる!」
早すぎる。
ラノベとか、アニメなら、1話に1人ずつが常識だろうが!
審理眼が痛いほど訴えてくる。コイツらはヤバい!。
「やっと現れましたね、『主人公』。」
今までと全く違う、冷たい笑みを浮かべた蘇芳の視線の先には、1人の青年がいた。
「その人を解放するんだ。今ならまだ、やり直せる。」
青年が指さした先は、僕だ。
やり直せる?
やり直すも何も、僕は何も失敗なんてしていないじゃないか。
何を言って……。
戸惑っている僕首元に、蘇芳が抱きついてきた。
「へっ!?」
「あなたなら大丈夫。あれだけ強い能力だもの。頼りにしてるわ。」
耳元に蘇芳の吐息がかかる。
まるで頭が溶けていくように、幸せな気持ちで満ちていく。
「だから、あなたの真の力を解放するわ。」
そう言って蘇芳は、胸元から1つの鍵を取り出すと、そのまま、僕の額に突き刺した。
カチリ
何かが開く音がした。
ザザザザザザザザザザザザザザザザザ
のうが、全テ、霧にかけラレたようナ。
す、おう……。どうし、て……。
「能力を作る能力なんて、ありきたりすぎて、勝てる見込みがないわ。この世界の法則に、あなたの能力では、抗えない。それに、私の魅了を防げないようでは、ね。」
「蘇芳ッ!」
崩壊する意識の最後、僕の元に駆けてくる青年が見えた。
もしやり直せたら、そっち側に行けるのかな……?
「ゴガァァァァ!」
およそ、人の声とは思えない絶叫が響く。
魔女、蘇芳が『門』を開いてから数秒、彼は暴走を始めた。
「ミノじぃ、『網』は?」
「ダメじゃ、蘇芳は消えてもうたわ……。」
「間抜け……。痛っ。」
「老骨に鞭打って働いてくれてるんだから、文句言わないの。」
「そうそう、死にかけの割には頑張ってるって。」
「お主ら、わざとやっとんのか……?」
「はいはい、漫才は終わりですよ。仁君、いけますね。」
「はい、いつでも。」
僕はそう答え、周りを見渡す。
一年前に出会った仲間たち。
今では、かけがえのない、頼もしい仲間だ。
「いきます!」
僕の掛け声とともに、状況は開始した。
「オラオラオラァ!」
両手に炎を纏い、紫煙が猛攻を掛ける。
ボクシングの構えから繰り出されるラッシュは、容赦なく叩き込まれていく。
「んー?コイツ、痛覚無視も持ってんのかよ、怯まねぇ。」
「なら、一撃で仕留めるまでよ。」
隣のビルの屋上に登った麗華さんが弓を構え、巨大な氷の矢を放った。
「ァァァア!」
確かに矢が喉元を貫いた、が、全く倒れる気配がない。
「んだよ、不死まで付与してんのかよ、クソっ。」
「はぁ……。使えねーやつらです……。」
トコトコと、ダルそうな気配で彼の方へ向かうのは、鈴々。
「消滅するのです……。」
パチン、と指を鳴らした鈴々。
普段ならここで、相手が消滅するはずだが……?
「……。こいつ、能力無効化の能力まで持ってやがります……。無理ゲーです……。」
「ちょ、おい!あんだけ大口叩いておいてそのザマかよ!」
「うるせーのです……。」
「ふむ、ならこちらも同じ手だね。美咲君、手伝ってくれるかな?」
「分かったわ、良賢。」
美咲さんが頷いた次の瞬間、2人とも視界から消えていた。
「さて、あとは君の出番だ。」
トン、と良賢さんから肩を叩かれる。
「はい。」
改めて彼と向き合う。
良賢さんと美咲さんのおかげで、意識を喪失している。
拳を握る。
僕に、特別な能力はない。
能力を無効化する右腕も、時間を止める能力も、腕っ節だって強くない。
でも、世界は僕に、平凡を許さなかった。
「送り返します。貴方を、貴方が欠けてしまった世界に。」
全て、世界の意志に乗せられている。そんなことは分かっている。
でも、真実にたどり着くまでは、乗せられてやる。だから、アイツに狂わされた人達全てを救って見せる。
「だから、悪い夢は、ここで終わりです!」
思いを込めた拳を放つ。
軽い衝撃と共に、成し遂げた感触を得た。
この人が、どんな経緯でこの世界にたどり着いたのかは分からないけど、向こうにいたってことは、元の世界に嫌気がさしていたんだろう。
せめて、もう一度やり直す時は、幸せになって欲しいと、そう思う。
これは、僕が世界に選ばれ、世界の真相に辿り着くまでの物語。そして、望んだものと、受け入れたものの、すれ違いの物語だ。
「嘘でしょ……。」
「嘘、とはどういうことを指しているのかは分かりませんが、この世界の説明を始めた方が良さそうですね。」
絶句して立ち尽くす僕の手を握り、歩き始めた蘇芳は、淡々と話し始めた。
「この世界は、2010年の地球を再現した世界です。当時と違うのは、私たちの存在だけ、つまり、異能力者の存在だけです。」
「なぜそんな昔の世界を……?」
「分かりません。誰がなんのために作ったのか、そもそもどのようにしてこの世界が形成されたのか、その全てが謎に満ちています。」
「じゃ、じゃあ、僕は何をすれば……。」
「なぜこの世界が作られたのかは分かりませんが、私たちが何をすべきかは明確なのです。それは、アレを倒すこと。」
そう言って蘇芳が指差した先には……。
「いや、どう見てもただの人なんだけど。」
路地裏の自販機でジュースを買っている、良くいえば普通の、悪く言えば冴えない、中年のサラリーマン風の男がいた。
「アレは私たちと同類、なのに、私を裏切った人達。」
「ってことは、あの人も異能力者!?」
「そう。能力に溺れ、この世界を混乱に陥れようとしているの。そして、あの人だけじゃない、異能力者のテロ集団を作って活動している。」
グッと、蘇芳の拳が握られていた。
余程、悔しいのだろう。
何とか、彼女の助けになりたい。そう、思った。
ん?さっきから、何か違和感が……。
「あ、そうだ。私たちって言ってたよね、さっき。蘇芳さんも能力を持ってるの?」
「……分かりません。」
「え?」
「私には、この世界に転生する前の記憶が無いのです。この世界で目覚めた私にあったのは、この世界を守らなくてはならないという意思。そして、何か、能力に目覚めたのだという感覚だけ……。」
辛い記憶だったのだろうか、蘇芳は苦しそうな表情を見せる。
「だから、お願い。私に力を貸してほしい。」
彼女の強い意志を感じる。
この思いに応えたい。
現代では、誰からも必要とされなかった僕でも、この子の力になれる……!
「僕で良ければ、任せて!」
少しでも彼女を励ますように、慣れない笑顔で答えた。
「そうだ、戦うにしても、まずは能力を作らないと……。」
えっと……。
能力を使おうと意識すると、感覚で分かった。
「クリエイト。」
そう唱えると、目の前にホログラムのディスプレイが出てきた。
能力「不死」作成 能力「時間停止」作成 能力「身体強化」作成 能力「瞬間移動」作成………………。
ざっと、思いつく限りのチートスキルを作成した。その数75。
これだけあれば、どんな相手でも勝てる。いざ本当に能力を使ってみると、そんな自信が溢れてきた。
「よし、行くよ!」
蘇芳の手を取ると、『瞬間移動』を発動させた。出現座標は、あの男の目の前。
テレビのチャンネルが切り替わるように、目の前にいきなり男が現れた。
「ぬぉっ。な、なんだ!?」
「さぁ、大人しくしてもらおうか!」
蘇芳の手前、情けない姿は見せられない。それに、「任せて。」って、言ったから!
「いきなりどうしましたか、少年。人目を気にせずに能力を使うなんて、この世界に来たばかりですか?」
……?
少し、拍子抜けしてしまった。
テロリストだって言うから、いきなり能力を使って襲ってくるものとばかり……。
「ははぁ、分かった。彼女さんも一緒で、張り切ってるんですね?でも、瞬間移動なんて能力、慣れないと彼女さんも……、っ!」
男は、穏やかな雰囲気で話していたかと思うと、蘇芳を見た瞬間、全身に殺気を漲らせ……、
「魔女……!」
そう言い放つと、即座に指から光弾を放った。
「危ないっ。」
『時間停止』『物質生成』発動!
盾を作り出し、蘇芳の前に立ち塞がる。
『時間停止』解除。
キィィィン
甲高い音を立てて、光弾はそれていった。
「瞬間移動だけではないのですか!?」
男が何か話すが、頭に入ってこない。
コイツ、本気で蘇芳を狙ってきた……!
どうして、そこまで躊躇いがないんだ……!?
蘇芳の苦しそうな表情が目に浮かぶ。
彼女は、1人でこんな奴らを相手にしてきたのか。もう、あんな悲しい顔はさせない。僕が、蘇芳を守る!
「ウォォォッ!」
『雷神』発動!
全身に雷を纏い、光の刃を生み出す能力。
光弾も、それ以上の光で消せる、さっきから発動していた分析の能力、『審理眼』がそう結果を出した。
「これは中々分が悪そうですが……。しかし、仁君が来るまで魔女を逃すわけには……!」
相手も、雷神と似た能力なのか、全身を光で包んだ。
「ハッ。」
先手必勝とばかりに飛び込んできた拳。
身体強化によって強化されている僕の視界では、遅すぎるほどだ。
拳を掻い潜って胸元に潜り込むと、そのまま両手を前に突き出し、全力を込めた。
バチッ
閃光で辺りが包まれた次の瞬間、手のひらにあった人の感触が消えた。
「ガハッ。」
凄まじい勢いでビルの壁面に衝突した男は、そのまま膝から崩れ落ち、瓦礫の中に埋もれていった
「す、すげぇ……。こんな簡単に人を吹っ飛ばせるなんて……。」
「グッ、まだ、まだ倒れるわけには行きません……!」
瓦礫を押し上げ、立ち上がった。
どうやらまだ戦うつもりらしい。
スっと、冷静になっていく自分を感じた。
あぁ、はっきり言って雑魚だな、と、そう思って僕は、トドメを刺すことにした。
どうやら、僕の能力はケタ違いらしい。
それなら、下手にいじめるより、一思いに倒した方が彼にとってもいいだろう。
「光刃、展開。」
両手に刃を形成、これで、いつでも切りかかることが出来る。
「最後まで諦めない、そうですよね、仁君。」
何かを悟ったような顔をして、男は、構えた。
どうして……、どうしてテロリストがそんな顔をするんだ……?本当に、この人は悪人なのか?僕は蘇芳に言われただけで、この人が本当にテロを起こした所なんて見てないじゃないか。
いや、でも蘇芳を見ていきなり襲いかかってきた、それは事実だ。
でも……。もしかして……。
ザザッ
視界の端が歪んだ気がした。
(気のせいか……?)
とにかく、蘇芳の為にも、目の前の敵は倒さないと。
気合を入れ直して、僕は男と対峙した。
「ハァッ!」
先に動いたのは男の方。
さっきよりは機敏な動きで僕に迫る。
少し、失望した。
この人がこの世界でどれくらいの強さなのかは分からないけど、実力差がありすぎて、弱いものいじめでもしている気になってきた。
でも、倒す。蘇芳の為に。
少し首を傾けて、拳をかわす。
耳元を拳がかすめるが、特に何も感じない。
すれ違いざまに一刀。
光刃を男の胸元に叩き込んだ。
ドサッ
後ろで倒れ込む音が聞こえた。
「ふぅ、これで安心だよ、蘇芳。」
そう言って振り返ると、すぐ近くに蘇芳の顔があった。
「うわぁっ。」
変な声が出た。
「ありがとうございます。翼さん。」
「いやいや、全然、気にしないで。ハハッ。」
「いえ、今の戦いを見て確信しました。あなたは私の勇者、いえ救世主です。」
なんだか持ち上げられすぎてこそばゆいけど、蘇芳が安心してくれるなら、それでいい。
蘇芳の為に、少しずつでも、この世界を守っていこう。そう決意した。
その時だった。
タッタッタッ
「っ!?」
一気に緊張が高まる。
まさか仲間か?
ゆっくりと、足音の方へと顔を向けた。
「うわぁぁっ。たなかさん、だいじょうぶですか?」
てとてと、と形容すべき動きで男に近づく少女……というか幼女?
「えいっ。」
気の抜ける掛け声と共に、田中と呼ばれた男は、白い光に包まれた。
「き、君は、何をしてるんだ?」
「えっとね、たなかさんのね、きずがね、おっきかったからね。なおしたの。」
そんな馬鹿な……。
確認するまでもなく、僕はその男を両断した。
傷が大きいどころの話ではない。
それを、治しただと……?
「はい、おわったよ。たなかさんおきてー。」
「ん、うぅ……。真珠さん、ありがとうございます。真珠さんがここにいるということは、仁君が間に合ったんですね?」
「うん。じんくんだけじゃないよ、みんなきたんだ。まじょさんがいるってきいたから。」
「ふむ、みなさんが来るなら、私だけ寝ているわけにはいきませんね。」
「いやいや、田中さんは休んでていいよ、元々非番だったし。」
ポンポン、と、田中の肩を叩くのは、漆黒のスーツに身を包んだ男。
「そうそう。遠視で見てる限り、仁君に負ける要素がないしね。」
「どうだ?モヤシ野郎。つかの間の俺TUEEEEは、楽しかったか?」
「どうでもいいけど……。そんな雑魚より……。魔女を……。」
「心配せんでも、『網』なら張っておるよ。簡単には逃げられん。」
ズラズラと、路地裏に現れる人影。
20人はいるだろうか。
「な、お、おおお、お前らが、蘇芳の言ってた、テロリスト集団だな!?い、今ここで、倒してやる!」
早すぎる。
ラノベとか、アニメなら、1話に1人ずつが常識だろうが!
審理眼が痛いほど訴えてくる。コイツらはヤバい!。
「やっと現れましたね、『主人公』。」
今までと全く違う、冷たい笑みを浮かべた蘇芳の視線の先には、1人の青年がいた。
「その人を解放するんだ。今ならまだ、やり直せる。」
青年が指さした先は、僕だ。
やり直せる?
やり直すも何も、僕は何も失敗なんてしていないじゃないか。
何を言って……。
戸惑っている僕首元に、蘇芳が抱きついてきた。
「へっ!?」
「あなたなら大丈夫。あれだけ強い能力だもの。頼りにしてるわ。」
耳元に蘇芳の吐息がかかる。
まるで頭が溶けていくように、幸せな気持ちで満ちていく。
「だから、あなたの真の力を解放するわ。」
そう言って蘇芳は、胸元から1つの鍵を取り出すと、そのまま、僕の額に突き刺した。
カチリ
何かが開く音がした。
ザザザザザザザザザザザザザザザザザ
のうが、全テ、霧にかけラレたようナ。
す、おう……。どうし、て……。
「能力を作る能力なんて、ありきたりすぎて、勝てる見込みがないわ。この世界の法則に、あなたの能力では、抗えない。それに、私の魅了を防げないようでは、ね。」
「蘇芳ッ!」
崩壊する意識の最後、僕の元に駆けてくる青年が見えた。
もしやり直せたら、そっち側に行けるのかな……?
「ゴガァァァァ!」
およそ、人の声とは思えない絶叫が響く。
魔女、蘇芳が『門』を開いてから数秒、彼は暴走を始めた。
「ミノじぃ、『網』は?」
「ダメじゃ、蘇芳は消えてもうたわ……。」
「間抜け……。痛っ。」
「老骨に鞭打って働いてくれてるんだから、文句言わないの。」
「そうそう、死にかけの割には頑張ってるって。」
「お主ら、わざとやっとんのか……?」
「はいはい、漫才は終わりですよ。仁君、いけますね。」
「はい、いつでも。」
僕はそう答え、周りを見渡す。
一年前に出会った仲間たち。
今では、かけがえのない、頼もしい仲間だ。
「いきます!」
僕の掛け声とともに、状況は開始した。
「オラオラオラァ!」
両手に炎を纏い、紫煙が猛攻を掛ける。
ボクシングの構えから繰り出されるラッシュは、容赦なく叩き込まれていく。
「んー?コイツ、痛覚無視も持ってんのかよ、怯まねぇ。」
「なら、一撃で仕留めるまでよ。」
隣のビルの屋上に登った麗華さんが弓を構え、巨大な氷の矢を放った。
「ァァァア!」
確かに矢が喉元を貫いた、が、全く倒れる気配がない。
「んだよ、不死まで付与してんのかよ、クソっ。」
「はぁ……。使えねーやつらです……。」
トコトコと、ダルそうな気配で彼の方へ向かうのは、鈴々。
「消滅するのです……。」
パチン、と指を鳴らした鈴々。
普段ならここで、相手が消滅するはずだが……?
「……。こいつ、能力無効化の能力まで持ってやがります……。無理ゲーです……。」
「ちょ、おい!あんだけ大口叩いておいてそのザマかよ!」
「うるせーのです……。」
「ふむ、ならこちらも同じ手だね。美咲君、手伝ってくれるかな?」
「分かったわ、良賢。」
美咲さんが頷いた次の瞬間、2人とも視界から消えていた。
「さて、あとは君の出番だ。」
トン、と良賢さんから肩を叩かれる。
「はい。」
改めて彼と向き合う。
良賢さんと美咲さんのおかげで、意識を喪失している。
拳を握る。
僕に、特別な能力はない。
能力を無効化する右腕も、時間を止める能力も、腕っ節だって強くない。
でも、世界は僕に、平凡を許さなかった。
「送り返します。貴方を、貴方が欠けてしまった世界に。」
全て、世界の意志に乗せられている。そんなことは分かっている。
でも、真実にたどり着くまでは、乗せられてやる。だから、アイツに狂わされた人達全てを救って見せる。
「だから、悪い夢は、ここで終わりです!」
思いを込めた拳を放つ。
軽い衝撃と共に、成し遂げた感触を得た。
この人が、どんな経緯でこの世界にたどり着いたのかは分からないけど、向こうにいたってことは、元の世界に嫌気がさしていたんだろう。
せめて、もう一度やり直す時は、幸せになって欲しいと、そう思う。
これは、僕が世界に選ばれ、世界の真相に辿り着くまでの物語。そして、望んだものと、受け入れたものの、すれ違いの物語だ。
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地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
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