あの娘はきっとヒロインじゃない

ゴン

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第一章 異世界召喚と旅立ち

004 エピソードZERO

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 俺の名前は椎名誠人しいなまこと、32歳、ごくごく平凡なサラリーマンだ。
今日もいつも通りに会社に出社して、就業開始までの時間を、喫煙所で煙草を吹かしながら過ごしていた。

「ふぅ~~」

 備え付けられたベンチに座ったまま、肺の中にたまった、いつもの6mgのタバコの煙を空に向かって吐き出す。

 最近は大分暖かくなってきたが、朝はまだまだ冷える。
 吐き出したタバコの煙は、寒さの所為で水蒸気が混じって真っ白になっている。

 そろそろ始業時間だな、席に戻って準備を始めないと……

 俺は短くなったタバコを灰皿で雑にもみ消し、喫煙所を出て自分の部署へと移動した。



 自分の席のPCの電源を入れて起動を待っている俺に、隣の席に一緒に戻ってきた田仲君が声をかけてくる。

「コーヒー飲みます?」

 そう言ってブラックの缶コーヒーを机に置いてくる。

 田仲君とはそれなりに長い付き合いだし、社内では一番仲が良い。
 俺が少し増え始めた体重を気にして、最近は飲み物を無糖のモノに変えていることも知っている。

「お、ありがと、おごってくれんの?」

 そう切り返す俺に、笑顔で理由を切り出す田仲君。

「いや~、最近VRのゲームが結構人気あるじゃないですか~。それで僕も一つ買ってみたんですけど……MMORPGのゲーム」
「へぇ~、珍しいね、FPSのゲームじゃないんだ?」

 田仲君と仲が良くなる切っ掛けにもなったのだが、二人とも共通の趣味でTVゲームが好きなのだ。
 俺はRPGやアクションゲームをよくやるのだが、田仲君はFPSや戦争シミュレーションのゲームが好きだったはずだ。

 RPGはあまり好きじゃなかった気がするのだが……。



「"ソード&ウィザードリィ" 椎名さんやってましたよね?」
「やってるよ~学生時代からやってる。だから、かれこれ十年以上だね。全職業LvMax」
「えー、まじすか! めちゃめちゃやり込んでるじゃないですか!」
「そりゃあ、十年も同じゲームやってればね。なに? ソーウィザ始めるの?」

 俺の質問に田仲君は少し照れた感じで答えてくる。

「ちょっと始めてみようかな~って……友達から聞いた話なんですけど、ネットゲームって出会いがあるらしいじゃないですか、女の子もやってるって聞きますし!」

 oh、田仲君……確かに女性でネットゲームをやってる人もいるけど、女の子と知り合うのが目的ならとんでもなく遠回りをしている気がするよ。
 異性とお知り合いになりたいのなら、ひたすらに時間がかかるMMORPGをやっている暇があったら、合コンでも街コンでも出向くなりすればいいじゃあないか。

 ネットゲームに出会いを求めるのは間違っているのだろう。



「えっと、ソーウィザは面白いけど、かなり古いゲームだからね。追加コンテンツはたまに出るけど……昔からやってる人が多いと思うから、若い女の子を探すのには向いてないんじゃないかな?」
「えー! そんな、意地悪しないでくださいよ。椎名さん、女の子を独り占めですか!」

 一緒にゲームする分には男だろうと女だろうとあまり関係ないし、中の人の性別がどっちかなんて気にしたこともない。
 だから確認しようと思ったこともなかったのだが……。

「いや、ネットの知り合いは結構いるけど、確認したことないから中身が男か女かは知らないよ。女キャラを使ってる人は半分くらいいいるけど殆ど中身は男だろうしな~」
「いやいや、女のキャラクターを使うのなら、中身も女の子に決まってるじゃないですか。椎名さんだって男のキャラ使ってるんじゃないですか?」

 なんで女キャラを使う人が女の子に決まってるのかは分からないが、田仲くんはそう思っているらしい。

「そりゃあ、俺は男のキャラクター使ってるけど、ゲームの最初に好きに選べるんだから、どっちを選んでるかなんて分からないんじゃない?」
「そんなことないですよ、椎名さんは男キャラですよね? 僕がゲームやるとしても男キャラをきっと選びますよ。だから、女の子もゲームを始めるなら女のキャラを選ぶはずなんです」

 自身満々に言い切る田仲君に反論して言い合いになっても、無駄な時間が過ぎて仕事が始まってしまうのでそのへんでスルーしておくことにする。



「そ、そっか。そうかもしれないね。女性がやるなら女性キャラ選ぶかもね」

 男がどっちの性別を選ぶかは置いておいて、女性は女性キャラを選ぶ人が多そうな印象はあるので、そう言っておくことにする。

「はい、なので今度ゲームを始めたときに、最初だけちょっと手伝って貰っていいですか? 慣れるまでやってみたら後は自分で進めますんで、お願いできませんか?」

 なんだ、結局のところ一緒にゲームをやるお誘いってことか。

 知り合いと一緒にゲームをやるのは、ネットの知り合いとやるのとは違う楽しさがあるが、面倒くさいことも多かったりする。
 でも、田仲君なら面倒くさくなったらほっとけばいい。
 今までの経験上それくらいで怒ったりすることもない奴なのだ。

 だから俺は、その田仲君の申し出を快諾する。

「いいよいいよ一緒にやろう。とりあえず最初の一日は付き合うよ。どのくらい手伝ったほうがいい?」

 ゲームの難しさを楽しみたいなら程々にヒントをあげるくらいがいいだろうけど、とりあえずどんどん話を進めたいというのならそこそこの装備とアイテムを渡してあげてもいい。

「そうですねぇ、やっぱり男なら女の子を守ってあげられるくらいに強くなりたいじゃないですか? そのへんのモンスターには負けないくらいに鍛えたいですね!」
「そっか、とりあえずは街の周りのモンスターには負けない程度になるくらいってことかな?」
「はい、それくらいでお願いします」
「それじゃあ、今週末の土曜日くらいにやる? それまでに必要そうなものは準備しとくよ」
「おぉ、ありがとうございます。じゃあ、土曜日の夕方4時くらいでいいですか?」

 今週末には何の予定も入っていなかったと思う。
 というか毎週末、大した用事は入っていない。独り身なので身軽なのだ。
 ネットゲームに出会いを求めているくらいだ、田仲君もきっとそうなのだろう。

「いいよ、どうせ暇だからねぇ。じゃあ、そろそろ仕事が始まる時間だよ」
「はい、それじゃあお願いしますね」



 そう言って二人とも雑談をやめ、仕事に取り掛かる。

 田仲君とネットゲームか、彼は面白い行動を取ることが多いのでなかなか楽しみだ。まだ今は火曜日なので次の土曜まで時間がある。ばっちり準備を整えておいてやろう。
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