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第一章 異世界召喚と旅立ち

042 森で発見!! UMAっち

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 門の前には血だまりが出来ていた。
 そして、その周りを数人が囲った人だかりができている。

 門の内側に血だまりが出来てるということは、一度中に入られたのをカロンさんが追い返してから門を閉じたという事だろう。
 あんなに血まみれになってまで門を守らなければならないなんて、この世界の門番の仕事はとんでもなく過酷なようだ。
 ここまで危険なモンスターが、そう頻繁に出てくるわけではないのだろうけど……カロンさんも子持ちなのだから、あまり無茶をしないで欲しいな。

 さて問題のワヒーラだが、死体が無いという事は、恐らくヤツはまだ生きているのだろう。
 他に犠牲者が出る前に俺の方でなんとかしておきたい。
 でも、どこにいるのだろうか……冒険の書を開いてみるが、流石にターゲットのリストにワヒーラの名前は載っていない。

 とりあえずは、外が見える場所に移動するために、俺は門の両脇にある見張り用の通路に登ることにした。
 見つかっても面倒なので、人に見つからないようにコッソリと登っていく……幸い集まっている人はみんな、門の前の血だまりに意識がいっているようである。
 俺は誰にも気付かれずに登りきり、外を見下ろした。

 塀の上から見渡した町の外は、月の光に照らされた一面の麦畑が広がっており、夜風に金色の稲穂が揺れて、サワサワという耳障りの良い音を立てていた。

 門の前から伸びる大きい道沿いにの木の柵が一部破壊されている。
 たぶん、そこをワヒーラが通って行ったのだろう。

 壊れた柵から続く麦畑を押しのけて進んだ跡は、遠くに見える森まで伸びている。
 あれを追いかけていけばワヒーラのところまでいけるのではないだろうか?



 しかし、意外と明るいもんだな……これなら灯りなしでも、なんとか痕跡を追うことが出来そうだ。
 そう判断した俺は、鞄から折り畳み式の傘を取り出す。
 これは、落下傘(フォーリングアンブレラ)といって落下速度を緩やかにすることができる、王城から田仲君を連れて脱出する際にも活躍したアイテムだ。
 一人用なので、田仲君と二人で使ったときは、落ちる速度が速くてとても怖い思いをしたのだが……。

 スイッチ一つでポンと広がったその傘の柄を握りしめ、俺は夜の空に飛び出す。

「ほわぁっ!」

 びびって両手で傘を掴んで縮こまっている俺の体は、ゆらりゆらりと風に揺られて、ゆっくりと麦畑の中に着地した。

 ふむ、これは……なかなか楽しいかもしれない。
 ゲーム中では感じられなかった、本物の風と浮遊感を体に感じた……超気持ちいい♪
 今度どこか人目に付かない場所で遊んでも良いかもしれないな。

 少々名残惜しかったが、着地した俺は、すぐに傘を畳んで魔法の鞄の中に突っ込んだ。
 そして両手持ちの樫の杖を取り出して装備する。

 麻の服の上下と樫の杖、これが現在の俺の最強装備だ……普段の装備から考えると、正直とても心もとないが、LvMaxのジョブを設定してあるのだし、きっとなんとかなるだろう。
 うん、きっと大丈夫だ! それにもしダメだったら、煙玉と斥候スカウトのスキル"とんずら"で逃げてしまえばいい。
 安全第一だ! そう気楽に考えながら、麦畑に残された痕跡を辿って歩き始めた。



 しばらく歩いて、麦畑が終わり森が始まるあたりで、もう一度冒険の書を開いてターゲットのリストをチェックしてみるが、まだワヒーラの名前は出てこない。
 だが、ここからは見晴らしも悪くなるので、警戒して進むべきだろう。

 俺はバフの魔法を、自分にかけられるだけ掛けた後、斥候スカウトのスキル"索敵"を発動させ、100m以内の生物を冒険の書に表示させた。
 しかし、冒険の書に表示された索敵結果には、まだ大きな生物の反応はない。
 小さな反応はいくつか出てきたが、小さな犬猫程度ではあのカロンさんに大怪我を負わせられるわけがないのだから、小さい反応は無視していこう。

 森の中に入ったら、麦畑のようにワヒーラ通った跡がわかりやすく残っていたりはしなかった。
 もしかすると、見る人が見ればわかる痕跡があったのかもしれないが、マタギでもない俺にはちょっとわからない。
 とりあえず索敵をかけつつ、どんどん森の奥に突き進んでいく。
 冒険の書のマッピング機能を使って、町の位置にピンを打っているので、どこからでも町の方向はばっちりと分かるようになっている。帰り道なんて気にせずにガンガン進もう。



 そんな感じで進んでいると、索敵結果に変化があった。
 この先まっすぐ行った所に大きな反応が一つと、小さな反応が4つある。大きな反応は人の2~3倍はありそうだ……恐らくこいつがワヒーラだろう。

 索敵の発動でマップに表示されていた、大きな反応を選択した状態で、スキル"追跡"を発動させる。
 このスキルでマーキングしたモンスターは、エリアチェンジするか、スキルの効果が切れるまではマップの表示から消えることが無くなる。
 エリアチェンジがどういう扱いになるのか分からないが、とりあえずこれで見つけた大きなモンスターを追い詰めることができるだろう。

 モンスターも見つかったことだし、ここからは慎重に行動していこう。
 俺は再度、バフの魔法を掛けなおした後、隠密行動の為に"シャドウクロス"と"忍び足"を発動させる。
 忍び足は斥候スカウトのスキルで、耳が良いモンスターから気付かれなくなるというスキルだ。
 スキル発動後は、森の中を歩いているというのに、乾いた葉っぱを踏もうが、足元の枝を折ろうが音が全くしなくなった。ちょっと不自然で気持ち悪いが仕方ない。

 俺は、足音を立てずに移動する黒い影の塊と化して、夜の森の中を移動していく。



 冒険の書のマップ表示を見ながら近づいていくと、小さな点が移動を始め、それを追いかけるように大きな点が動き始めた。なんだ? 小さい点が追われているのか?
 くそ、走らないと追いつけない! 急いで移動する点を追いかけていたのだが、不意に一つの小さな点が消える。
 何が起きているんだ!? 俺が追いかけている間に、さらにもう一つの点が消えた、残りは二つだ。

 「ぎゃーーーーっ!」

 夜の森に断末魔の悲鳴が響き渡る。もしかしてさっきの小さな点は人間だったのか? 誰かがワヒーラに襲われている!?

「くそったれ! 木が邪魔で速く走れない!」

 俺は必死になって走ったが、木々の間から大きな白い塊を見つける頃には、残りの点は1つになっていた。

「こっちだ化け物!!」

 叫びながら白いモンスターの前に飛び出した俺の見たものは、頭を無くして血だまりに倒れ伏している死体が一つと、たったいま白い大きな狼に頭をかみ砕かれ、むしり取られたばかりの男の死体だった。
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