The Doomsday

Sagami

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Ox Head

12:幕間 過ぎ去りし日の記憶 ガルツの場合

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全てのものは等しく不平等だ。それは誰の言葉だっただろうか、神殿では神の元平等であると説いてはいるがそんなものは一欠けらのパンほどの価値も無い。
覚えている最初の記憶は、鉄の味。日々の糧を求め、襲い襲われる生活。一欠けらのパンを求め、殺し合う。だが、そんなものまともな食べ物に拘れるのはまだ力のあるものの特権に過ぎ無い。
「この餓鬼、なに喰ってるのかわかってるのかね」
まだ暖かい肉、口の中に広がる鉄の味、骨と皮だけに近いそれを貪る記憶。見下ろす男の目、男は弱者から奪った固いパンを頬張っている。
それは、***のものだ
手を伸ばす、伸ばした手は届くことは無かった。男は嘲笑を浮かべそれを蹴りとばす。
「*****」
思わず叫ぶ、男は面倒そうに一瞥し暗い路地裏を去ってゆく。残されたのはそれと、幼い頃の俺だけだった。

その日から数日、俺はそれのおかげで命を永らえていた。まともな食べ物を得た記憶は無い、蛆のわいた腐りかけのそれだけが命綱だった。
「変わったものを食べているな」
手に抱えたそれを見て、そいつは言った。唯朽ちていくだけのはずだった俺はその日、そいつと出会ってしまった。変わった髪の色をしてる、漠然とそう思った記憶だけがある。
「来るか、もう少しマシなものを食べれるようにしてやる」
差し伸べられた手に自らの手を重ねる。抱えられていたそれはコロコロと転がっていき黒い眼窩が俺を見つめている。動物でも拾うかのように、そいつは俺を死に行く運命から簡単に救ってしまった。



数年が経った、幼子から少年となった俺はそいつの友人として、そして従者としてその家に居た。大きな屋敷、そいつは12家門の1つの嫡子だった。いずれはそいつが跡を継ぎ、この領地を治めることになるだろう。俺が暮らしていたスラム街とは塀と僅かに数本道を挟むだけの位置にある、こうやって暖かい寝床と、暖かい食事を食べている間もそこでは奪い合い、飢え、そして、人が死んでいることだろう。
「どうにかしたいのか」
そいつにその話をした時、興味深そうに聞き返してきた。
「どうだろう、わからないな」
正直に答える。そいつの従者として様々な知識を学んできたが、その中にあの裏路地の話はなかった。
「父は必ずしも無能ではないが、全てを掬い上げれるほど有能でもない。勿論、僕もだが」
そいつは、穏やかな口調で事実を告げる。
「俺を拾ったのは何故だ」
かねてよりの疑問、俺でなければない理由はあったのだろうか。
「何を今更、気まぐれだよただの」
心底興味のなさそうに、そいつは答えた。



俺はそいつと共に洗礼を受けに異国へと訪れていた。巡礼服を着ての旅、そいつの趣味で徒歩で向かうことになった。初めて生まれ育った街の門を出たとき訳も無く涙が出たのを覚えている。様々な街を巡り、様々な人と出会った。
「何故徒歩なんだ」
旅具を2人で背負い、山を登る。従者という立場上体を鍛えてはいるが、国境沿いの山道は流石に堪える。
「徒歩でしか見えないものもある」
口元に笑みを浮かべているが、そいつも汗だくになっている。貴族といっても所詮は同じ人間、汗もかけば疲れもする。1口水を飲み、水袋を投げる。
「助かる」
残りの水を飲み干し、笑みを浮かべる。
「休憩はいらないのか」
「今日中には国境の町に行きたいからな、たまにはベッドで眠りたい」
「同感だ」
そいつの言葉に頷き、もうひと頑張りと山道を登ってゆく。



神殿都市の正殿、俺達は神官長に迎えられていた。
「おかえりなさいませ」
神官長の言葉に、そいつは鷹揚に頷く。俺は儀礼服を着せられ、その日のうちに洗礼を受けた。聖遺物と呼ばれるそれは青白い光を放っており、不思議と懐かしさを感じた。
「お疲れ」
いつものやる気の無さに苦笑する。興味の無いことにはとことんやる気が無い。そいつの視線が一瞬厳しくなる、視線の先を見ると1人の幼子が聖遺物を見上げていた。
「赤髪、貴種か」
その呟きに、視線を戻す。緑色の髪が巡礼服から覗いている。今思えばこの時から、そいつの企みが始まった瞬間だったのかもしれない。



洗礼の日から数年経った、神殿の中庭で俺は空を見上げている。青い空、天上に輝く2つの太陽。小さな足音。赤い髪が風になびく。
「ガルツ待った」
無邪気な笑み、あの時の幼子が目の前に居る、名はエミリアというらしい。
「いや、だがいいのか確かまだ座学の時間だろう」
俺の問いに、エミリアは僅かに頬を膨らませる。今では当主となった主人の命で、少女の護衛のため神殿都市に来て暫く経つ。物珍しいのか少女は良く懐き、俺がこの数年で見た物の話を楽しそうに聞いている。穏やかな日々、いずれ訪れる別れの日まではよき話し相手であろうとは思う。
「ねえ、ガルツ。御使いって何の事」
1つの戦いの話の後、エミリアが尋ねてくる。最近のお気に入りは、膝の上だ。神官や神殿騎士達の視線がやけに暖かいのが面痒い。
「良くは知らないが、『神様の使い』って事らしいな」
聞きかじった知識を思い出す。

神話の時代、嘗て神々は眷属を創った
眷属は御使いと呼ばれ、神々を守り、神々の敵と戦った

詩人達が歌ううたでもよく使われる下り。
「でも、それが正しいのなら、人間と御使いが戦うってことは人間が神様の敵って事なの」
真っ直ぐな瞳が目の前にある。神を信じる無邪気な子供。
「そうだな、もしかするとそう・・なのかもしれない」
エミリアの頭を撫で、笑みを浮かべた。



異界人を連れ、皇都へ向かいだしてから数日がたった。野営の番をしながら、長剣の手入れをする。業物とは言いがたい鉄の塊。最低限の強度さえあれば、拘りは無い。
「殺せれば十分だ」
ガルツは独り言を呟き、軽く振る。手に馴染む重さ、所々刃が欠けている。
「また、物騒な事を仰ってますね。ガルツさん」
焚き火を挟んで逆側にエミリアが座る。見慣れた巡礼服姿、夜中になったためフードは被っていない。焚き火の光で赤い髪が浮かび上がる。
「エミリア嬢ちゃん、眠れないのかい」
枯れ枝をくべる。
「そういうわけでも無いですけれど、姫様もおやすみになったので」
火にかけた鍋から、コップに湯を注ぐ。携帯用の刻んだ茶葉をコップにいれ、エミリアに手渡す。
「ありがとうございます」
あの時の少女が立派になったものだ。目の前で茶を飲む姿はどこに出しても恥ずかしくない淑女の用に見える。
「そろそろ適齢期も過ぎる頃だろうが、結婚はしないのか。引く手数多だろう」
目の前でエミリアがむせる。
「それは・・・私は姫様にお仕えする必要がありますから」
気のせいか、目つきが厳しい。原因は分かるが、努めて考えないことにする。
「そうか」
幼い頃の憧れを自分に対して持ち続けていることは予想に難くない。だが、傍流とはいえ12家門の家のもの、しかも貴種だ、自分と釣り合いが取れるわけがない。
「それはそうとして、異界人に洗礼をしたそうだな。何故、霊薬を持ち歩いていた」
本来は神殿で保管し、外部に持ち出すことは禁止されているはずの洗礼のための霊薬。過剰に摂取すれば神に咎められ死に至るとされるそれは決して神殿の外に持ち出されることは無いと、されている・・・・・
「ガルツさん、それはあなたのあずかり知る所ではありません」
それは俺の知らない顔、口元に思わず笑みが浮かぶ。

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