The Doomsday

Sagami

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Sparks

10:欺瞞2

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ゼルミア砦の作戦室に指揮官であるアルマと副官のエイザルがいる。砦を実効支配する、公国軍第三軍の指揮官とその副官。砦には2人の部下として2500程の兵が詰めている。

「消極的なのか積極的か、判断に困りますね」

2人が指揮官として皇国と戦うのは小競り合いを除けば今回が初めてになる。局所的な戦いでは交戦し勝敗が決まれば、国境が僅かに動くか負けた側が賠償金を払う。それぐらいの単純なやりとりで良かった。

「ここは支配してるから、とっとと帰れじゃだめなのかな」

作戦室に置かれているのは、大きな寝台。砦の中にあったのか、それとも公国からもってきたのか場違いに大きく、その上で指揮官のアルマが枕を抱えて転がっているのが更に場違いに思える。

「砦の近くに陣を張っていますし、散発的ですが攻撃も来ています。難しいかとは」

「あーうん、あの手この手と手を変え品を変え攻撃しているよね」

大きく欠伸をしてアルマが答える。作戦室の傍らに転がるのは交戦時に回収した皇国の鏃や武具。弓の打ち合いや、梯子を掛けられての城壁の上での戦い、色物だと穴を掘って城壁の中への道を作ろうとしたことさえあった。

「1割もはないんだよね」

武具に視線を向けて、寝癖だらけの髪を乱暴にかきむしる。

「はい」

分解した武具の一部から見つかったのは、魔法の媒体となっていた鏃と同じ黒く濁った石。軽く見ただけだとただの黒い石に見えるが、強い光を当てると僅かに透過していることが見える。

「質はともかくよくこれだけ大量に確保したもんだね」

寝台に転がる黒い石の1つを指先で拾い上げる。

「聖遺物、或いは、それに類するものと推測されます」

エイザルの言葉にアルマは曖昧に頷く。指先から黒い石に魔力を込めると、黒い石が淡い光を放つ。

「その割には導入の仕方や扱いが雑なんだよね」

聖遺物と同様のものなら、それは建国・・より以前の時代のもののとなる。この大陸で言えば、その時代のものが出土したのは僅かに2箇所、皇国の神殿都市と、南の獣人の国エヴィンルクにあるという月の神の神殿の2箇所だけのはずだというのが、2人の共通認識である。

「貴重で強力な品なら、集中運用して砦の1つぐらいとっとと落としたほうが良いだろうし、こんなに簡単に回収されるようなヘマもしない……ま、矢の鏃に使ってるぐらいだから回収ぐらいは織り込み済みだろうね」

アルマの見解をエイザルは静かに聞いている。

「あとは、っと」

黒い石に流れ組む魔力の量が増えるに従って淡い光がその強さを増して、砕ける。

「質が悪い。聖遺物クラスなら、それこそ12家門の当主が揃って魔力を込めたって、壊れはしないしね」

「それは比喩でしょうか?」

聞くものが聞いたら物騒な発言。神殿の建国神話によって正当性・・・を主張する12家門がその神殿が祭る聖遺物・・・を破壊する。敬虔な信者なら勿論のこと、そうでないものでも眉をひそめるに違いない。

「いや、敢えて語るものがいないだけで、建国初期、12家門の初代当主は実際に試したらしいよ」

「どちらが目的ですか?」

「勿論、魔力を込めることが目的じゃなくて、その結果壊れることだよ」

大きな欠伸とともにアルマが答えた。



皇国の野営地の一角。木箱に座り、複数の職人たちが一心不乱に手を動かしている。周囲にあるのは黒い石、ハンマー、ヤスリなど。その手が石を割り、形を整え、磨いて矢に取り付けていく。

彼らは従軍している職人たち。補給で来た大量の黒い石を指示されるがままに、武具の一部に加工してゆく。

「しっかし、変わった石を鏃にするもんだな」

職人の1人が手を休め、大きく伸びをする。

「まったくだ、黒曜石でも加工するかと思ったらどうやら違うようだしな」

石の一つを手に取り、陽の光に透かすと僅かに石の中に何かがあるのが見える。

「私としては、こんな上質な魔術媒体を鏃にするなんて信じられませんけどね」

鍛冶職人2人の横で、樽から生ぬるくなった水を柄杓ですくって飲みながら宝石職人が嫌そうな顔をする。彼の担当は、魔術師用に石を宝石代わりにネックレスや指輪などの装具に加工する事だ。

「時間と機材があれば、こんな雑にこの石を使う事なんてしないのですが」

彼の作業場の横には、場違いな宝石箱。宝石箱の中には彼の普段の商品が入っている、基本属性の触媒を織り込んだ装具の数々。1から作る余裕ない今、もともとの装具の宝石や触媒を取り外し、軽く研磨した黒い石を取り付けている。

「正直、武具の素材としてはイマイチなんだが、確かに魔法への親和性は高いな。実用性はともかく魔法の武具を作るには良いかもしれん」

年重の鍛冶職人が軽く石の表面を叩くと硬質な音が辺りに響く。

「魔法の武具ね、職人として興味はあるがな」

難しい顔をする。魔法の武具、即ちはは魔法の触媒で作られた武具。作るには時間と費用がかかり、その上、売れる保証もない。魔法の資格のないものには、高いだけの普通の武具でしかなく、魔法の資格のあるものにとっても、攻撃魔法の得意なものには武具そのもので魔法が発動できることに然程意味はなく、補助魔法の得意なものはそもそも武具を用いることが少ない。

「まあ、触媒としての目はあまりないでしょうね」

宝石職人が申し訳無さそうに声にする。それこそ、神話の時代には魔法の武具を手に戦う戦士の伝承もあり、それを目指して魔法戦士・・・・を自称するお貴族様もいるがそれこそ魔法の武具の買い手にこそなるものの、実用レベルになることはまずない。

「しかし、加工するなら皇都でやればいいものを、あっちなら弟子や機材もあるっていうのに」

鍛冶職人が手を止めて汗を拭う。加工しているのは巨大な破城槌。加工した石を大量に組み込んだ特別製の1基。

「そんな雑な使い方見せられるぐらいなら、私も皇都の自分の工房で作業がしたかったですよ」

宝石職人が呆れ気味に言う。

「ま、仕方ないんじゃないか?どうも、この素材、皇都からの補給部隊と途中で合流してからここには来たものの、皇都じゃない場所から運ばれてきたらしいぜ」

訳知り顔でが自慢気に語る警備の兵士の声に、慌てて別の兵士が口を塞ぐ。

「ということは、これは別の場所から」

その呟きはどの職人の呟きの言葉だったのだろうか。



ゼルミア砦の北、息を潜める影が2つ。レティウスとレルの2人だ。遠くに見えるのは、公国の鎧を着た集団。おそらくは哨戒の兵達だろう。

「なんでこんな砦の北の森に野営地があるんだ」

忌々しそうなレティウスの呟き、その体で庇うようにレルが隠れている。

「ごめんなさい、私が木の実を採りに行きたいなんて言わなければ」

小さくなって謝るその姿に、レティウスはため息をつく。

「いや、気にする必要はない。そのまま進んでいたらいずれ遭遇していただろうし、何より、ラーサムのために食事に彩りをつけたかったのだろう」

皇都を急遽出発したため、4人は満足な食料の準備が出来ていなかった。干し肉に携帯用の穀物の粉、水代わりの薄めたブドウ酒に硬く焼き固められた黒パン。生物は皆無に近い。

「ですけど」

一応の婚約者のためを思ってのレルの行動に、多少の難色を示しつつも自身が警護につくことでレティウスはラーサムに許可を出させた。その行動自体は誤りだとは思わないが、もう少しどうにかなったのではないかという思いもある。

「何、どうとでもなる」

哨戒の兵は2人、殺しても良いし、逃げても良いし、接触しても良い。実際、強がりでもなくラルド・レティウス、傭兵騎士ラルドとしての生活も長いレティウスにとって、少々の荒事は切り抜けるだけなら然程問題ない。

殺す事は容易い、一兵卒に負けるつもりはない。だが、仮にも友軍、何らかの手段でバレた場合は面倒だ。この場に、ラーサムの正妻になる予定のレルが居ることが自体をややこしくする可能性がある。

逃げることは容易い、ただこれも、レルが居ることが足かせになるだろう。逃げるのに普段より時間がかかる上、混血の獣人が見た目でわかることはまず無いが、従軍している魔法使いによってはそれを判別する可能性がある。

接触することは容易い。だが、ラーサムの目的からすると極力軍事活動には関わりたくない。あれでも主で恩人でもある。嫌がらせのように爵位を寄越すし、妻まで宛てがって来るが、地獄から引き上げてくれたのもまたラーサムであり、不本意ながら数少ない親友と呼んでも良い友人でもある。

「さて、どうしたものか」

身を潜め、息を殺し、静かに呟く。

「遅いと姉さん達が心配します」

レルの言葉は正しい、あまりに時間をかければレルの姉のララは探しに来るだろう。そうなれば、ますます打てる手は減っていく。ならば、今が決断の時だろう。

「次にあいつらがこちらの逆を向いたら、動き始めるぞ」

レルは小さい手を握りしめ。レティウスの言葉に頷き返す。斥候の視線が逆側を向いた。

「今だ」

小さな合図の声、2人がゆっくりと後ずさりを初め、足元で枝の折れる音がした。
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