The Doomsday

Sagami

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Sparks

11:欺瞞3

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ゴロゴロと音を立てて巨大な破城槌が進んでいく、目指すはゼルミア砦。破城槌の正面には盾を構えた歩兵が一列に並び。その後ろには、破城槌に並ぶように弓兵が列をなす。そして、その少し後ろに歩兵に守られた魔法使いたちが並ぶ。陣地の防衛を除く全軍が砦の前に布陣している。

「全軍、遅速前進」

大音声に戦場に響くハルファスの声。進軍ラッパが甲高い音を立て、兵たちが歩みを始める。皇国の名もなき兵達が厳しい表情を兜の下に浮かべている。

ハルファスは豪華な兜を目元深くまでかぶり、白い馬に騎乗し戦場に出ている。左右には魔法に長けた騎士が2人、年老いた騎士と若い騎士。この2人が遠距離からの魔法や矢に対する護りを担っている。

「皇子、これ以上前には」

年老いた騎士の1人が小声で諌めるも、ハルファスは首を静かに横に振る。

「私は皇帝ではない。皇帝の代理人にすぎぬ私が皇帝の兵を用いて矢の届かぬ場所にいるわけには行くまい」

寡黙な若い騎士が呆れ気味に首を横に振る。

「ならば我ら2人より、半馬身ほど後ろに」

そう言い、頷くハルファスの様子を確認もせず馬をわずかに先行させる。

「失礼にも御老はハルファス様を息子のように思われているようで、必要以上に御身を心配しているのです」

寡黙な騎士が珍しく言葉を放ち、老騎士に合わせるようにハルファスの半馬身前へと馬を進める。騎士の家に産まれた青年はかつて彼の父がそうであったように、ハルファスの護衛を務めている。

城壁から弓の雨が降ってくる。歩兵達の持つ盾が金属音とともに屋を弾き。運悪く矢に当たった悲鳴とともに物が地に伏せる。皇国と公国、弓の技術も練度も大きな違いはない、ならば射程がよりあるのは、城壁という高地を利用する公国の兵。一方的に射撃を受ける、僅かな時間が永遠のようにも思える。

「ハルファス様」

永遠の時間が急速に動き出す。耳をつんざくような老兵の叫び、一本の矢が真っ直ぐにハルファスに向かって飛来する。通常の弓の射程外、その射線の延長上には鎧も着ていない1人の少年兵が見える。

「土、壁」

短く野太い声、若い騎士がハルファスを庇うように前に出る。土が隆起し、土の壁がハルファスと騎士の間に現れる。風を纏い射程を伸ばした矢が騎士を貫き土壁に刺さる。

「弓隊、撃て」

自身と若い騎士を襲った現実に関係なく、命令の言葉が出る。目の前で術者を失い崩れ始める土壁、若い騎士の体が地に落ちる。ラッパの音が響く。弓兵が弓を番え、城壁へと矢を放つ。

数百の矢、数百の黒い石の鏃が空を染める。視界の片隅で老騎士が若い騎士の忠誠にねぎらいの言葉をかけている。若い騎士が口から血を吐き出しながらなにか口を動かし、老騎士が盛んに頷いている。

「魔法使い隊、唱えよ」

弓兵の更に一列後ろ、歩兵に守られた魔法使いたちが、魔法を唱える。元来は火の矢に魔法を乗せる事で実現をしていた炎の雨が石の矢と魔法で実現される。しかもそれは、元来の一本に対し一人の魔法使いではなく。一定範囲の全ての矢に対し一人の魔法使いで足りるという高効率。黒い石を使った、新しい戦術の1つ。

『炎、降れ』

異口同音に重なる祝詞。空を赤く染める炎の雨が砦へと降り注ぐ。赤い炎の雨を見上げて若い騎士は動かなくなった。



「流石にそう上手くは行きませんね」

弓を降ろし、エイザルはため息をつく。敵から回収した鏃のうち最も良いものを使って撃った渾身の一射は敵将を討つには足りなかった。

「当たったからって、倒れるとは限らないんだから気にする必要はないよ」

相変わらず欠伸をしながらアルマが言う。今日も戦場だと言うのに、バーレギの家に伝わる黄金の鎧は彼女の背もたれのままになっている。

「アルマ様、今日はいつもより本気のようです、せめて鎧を」

「なに、負ける気?」

やる気のまったくない声色にため息が出そうになるのを噛み殺す。

「そのつもりはありませんが、戦に絶対はありません」

赤く染まりつつある空を見上げ、エイザルは魔力を練り上げる。空を染める赤、まるで夕焼け空のようだとどうでもいいことを思う。

「風よ」

空気の流れが変わる。風の壁が城壁の上を覆っていく。三重の壁、一射目1つ目の風の壁が霧散する。2射目2枚めの風の壁が悲鳴を上げて消えた、そして、三度目の炎の雨。

「うん、魔法使いが2人しかいないなら、私もたまには動かないとね」

アルマは欠伸をしながら立ちあがり、魔法を維持するエイザルにもたれかかり、体を預ける。

「何を」

エイザルの抗議の声はどこ吹く風、もたれかかったまま、アルマは彼女の魔法を唱える。
『我は伝えるモノ、戦場ラッパを吹き鳴らし、写し身たる人を鼓舞せん』

「それは」

心の底が震える気がする。12家門の1つバーレギ家には1つの相伝の魔法があるという。本来上下の無いとされる12家門の序列を語る際の1つ要素。『万刃』、『万雷』、『万象』と並ぶ、もう1つの12家門固有の魔法。

『万軍』

アルマの口が笑みの形に変わる。そこか寝ぼけたような表情は魔法の影響か慈母のような笑みにかわり。エイザルは思わず身震いする。

触れられている場所が燃えているように熱い。熱は徐々に体を巡り、力の奔流に意識が流されそうになる。

「三射目……ついでに、四射目も来るよ」

一際空が赤く染まる。

「風よ」

アルマの声を支えに、魔法を放つ。巨大な暴風が空へ登り。一瞬の静寂。赤が消え、青い空。2つの太陽に白い雲。

そして、城壁を揺らす大きな衝撃。



「あれを防ぐか、『万軍』と魔法使の1人でもいればさもありなんといったところか」

ハルファスは青い空に見上げる。第四射までで、特別製・・・の鏃は使い切った。ならばと、弓隊の射撃とともに前進させていた破城槌に命を下す。

「破城槌、突撃」

再び鳴る戦場ラッパ、破城槌を兵達が押すと同時に、魔法使いが魔力を込める。組み込まれた黒い石が魔力を受け赤熱し、真っ赤に燃えるような槌が城門に突き刺さる。破城槌が一度大きく輝き、城門ごと爆散する。

「全軍、突撃」

続けさまに繰り出される命令。雄叫びをあげ突撃する歩兵。工兵が掛け梯子を城壁に掛け、城壁を登ってゆく。

城門のあった場所からは場内から兵が出てきている。公国第三軍の主力の1つ、重装歩兵。全身を自身の体重ほどもあるフルプレートで覆った、人の壁とでも言うべき兵達。

「拠点防衛には最適な兵種、そして、バーレギ家か」

たちの悪い組み合わせと対峙している。その自覚はある。本来、硬い代わりに動きの遅いはずの重装歩兵がまるで軽騎兵かの如く前線を蹂躙し始める。

「『万軍』で強化された、重装歩兵か」

呆れるような、感嘆するような呟き。強化されたとはいえ重装歩兵への最適解は変わらない。

「弓隊下がれ、魔法使い隊、重装歩兵を狙え」

ラッパの音が命令を伝えた。



森の中、斥候達の動きが慌ただしくなっている。さっきの踏み折った枝の音のせいかとレルが青い顔をしている。

「違う」

レティウスは小さく否定しレルの肩を落ち着けと強く掴む。斥候に接触する人影が見える。慌てて動き出す斥候。その姿が奥に消えていく。

「こちらとしてはありがたいが、砦で何かがあったのかも知れないな」

思わず舌打ちをする。

長く硬直状態にあったはずの両軍がこのタイミングで動く。その影響が読めない。

「今の間にラーサム達と合流するぞ」

斥候達の板場所に背を向け、一気にレルの手を引き森の中を駆けてゆく。背後ではいつのまにか騎馬の駆ける音が聞こえていた。
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