The Doomsday

Sagami

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Sparks

16:星はおちて、陽はのぼり

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皇都に響く軍靴の音、凱旋のパレードが皇都のメインストリートを練り歩いている。パレードの中心にはハルファス皇子の軍馬、その前後には騎兵、さらに遠くには歩兵と続いている。

「戦意の維持のためとはいえ、戦勝・・か」

物資や遺体・・の搬送のため、先に皇都に戻って来たガインズは遠目にパレードを見て小さく呟く。

「おい、下手なこと言うな、目立つぞ」

ガインズの傍らにはナターシャがいる。パレードに参加する必要のある見目の良い歩兵と騎兵を除き、多くの兵達に休暇が与えられている。ガインズとナターシャは先の約束を果たすため、皇都を2人歩いている。

「悪いな」

人混みの中、はぐれないように腕を組む。

「公国からの停戦の申込みと、バルミア砦の放棄。何かが公国にあったのだろうな」

「こっちとしては、これ以上負傷者が出なけりゃ文句はないさ。手当の1つでも欲しいところだけど、賠償金は望み薄だろうね」

バルミア砦を取り戻した上での停戦。戦勝・・とは言うものの、何一つ得るものはなく失ったものは多い。

「近衛も武装神官も消耗していないのが唯一の救いではあるが」

「馬も武具も食料も減っただけと、補給士官としては頭がいたいところだろうね」

どこか他人事のようなナターシャの言葉が雑踏に消えていった。



バルミア砦の東に公国軍の野営地がある。バルミア砦に攻め入る際に構築した野営地跡、中央の天幕の入り口はバーレギ家の私兵団が警護している。

「私としては、公都の戻って湯浴みの1つでもしたいところなんだけど」

「奇遇だな、俺もとっとと領地に戻って湯浴みがしたいって想ってたところだ」

妙齢の男と女、簡易とはいえベッドの上に転がる女に対する男の答えは酷く場違いに思われる。

「気が合うね」

「ああ、ここ最近で知りたくなかった事実の2番目にしてもいい」

「同感」

2人の近くにはそれぞれの従者が立っているが、声を挟むものはいない。この場に居る者の最上位者2人。互いに顔を合わせてため息をつく。

「なんでよりによって、このタイミングで見つかるかな」

「見つけてくれと頼んだつもりはないし、こっちもいい迷惑だが」

似たところがあるのだろう、愚痴に近い言葉を互いに交わす。

「見つけたのは、ネヒアの傍流じゃないか」

「見つけたのは、バーレギの私兵団だろう」

アイストスがこの場にいれば、話題にされて喜んだだろうか、それとも青くなっただろうか。

「過ぎたことは良いとして、この後、どうする。ラーサム・エル・ネヒア」

枕を抱いて、アルマは大きな欠伸をする。

「ここで捕まってなかったら、領地にこっそり戻って、そこのレティウスの結婚式のお膳立てをするつもりだったんだがな」

ラーサムの視線を受けたレティウスが嫌な顔をする。アルマの横にいるバイザッサがよく分かると同類を見るような目を向けている。

「おめでとう、かな。ネヒア卿が一向に身を固めないから行き遅れてるって噂があったけど」

あくびを噛み殺す。

「ま、そこは俺の薫陶の賜物というやつさ」

ラーサムの言葉に、レティウスが目尻を抑えている。

「ふーん、ま、そこはいいけど。それ、通ると思う」

「第三軍が帰投してるってことは、相応の事態が起こったってことだろう。一応、俺もネヒアの当主だ見つかった以上は公都に寄るさ」

ため息混じりに答えたラーサムに対し、アルマ・エル・・・バーレギは巻き添えを見つけた喜びの笑みを浮かべていた。



公国の野営地の天幕の1つ、1人の女がマントに包まり震えていた。その前で言い争うのは2人の男女。

「姉さんに何があった」

アイストスが震えるエイザルを見て、アルミニアに詰め寄る。エイザルとアイストスは父を同じくする異母姉弟であり、第三軍に合流してからは時折挨拶する程度の交流はある

「姉さん?あんたら姉弟なのかい」

怪訝そうなアルミニアの声、視線をエイザルに向けると、青い顔をしたエイザルが首を縦に振る。小さな声で震えながら「ありえない、なんで、今更どうして」と呟いている。

「ならま、いいか、ちょっと重いだけでただの女の日さ」

アイストスの顔に驚愕が浮かぶ。

「そんなに驚くことじゃないだろ。そういう機能があるって知らないほどガキじゃあるまいし。バイザッサと公都で色街に行ってたのも聞いてるしな」

姉の前で下の話だと、余計なことを憤るも、今はそれどころではない。

「姉さん、本当なのかい」

膝を折り、肩を握って尋ねるとエイザルは力なく頷く。アイストスの顔に笑みが浮かぶ。
「姉さんは、昔子供を流してしまった時に、その機能を失ってしまってたんだ」

へぇ、と、アルミニアは目を細める。

「でもそれが、なんで急に」

万軍・・

エイザルの呟く声に。アルミニアが愉しげに口元を歪め、アイストスが首を傾げる。

万軍・・の影響下にあった重装歩兵は1人も生還していない」

500の重装歩兵のうち、生還者は1割にも満たない、そして、生還した者たちは万軍・・の影響下にあった者は1人もいない。その事実に薄ら寒いものを感じる。

「エイザル、アンタはその事実をどう考えるんだい」

「あれは身体強化・・・・魔法じゃない、よく似ているし、系統としては似ているけど」

魔法を研究するものが最後に辿り着く研究題材として、幾つかの有名なものがある。転移魔法・・・・魔法生命体の創造・・・・・・・・不老不死・・・・そして、治癒魔法・・・・

「バーレギ家の始祖は、今は失伝した治癒魔法・・・・を使いこなし、時には死者さえ蘇らせたという」

前ネヒア家当主より聞いた口伝、建国戦争で使われ、今は残っていない遺失魔法・・・・の1つ。

「つまりは、万軍・・はどんな魔法だって、アンタは思うんだい」

アルミニアはまるで答え合わせをするかのように、愉しげに問を続ける。

「広域の身体強化と強制・・治癒魔法の複合魔法」

「そうか、それで姉さんの身体も」

欠損部位の再生、本来あるべき形へ還す魔法。その結果、万軍・・を受けたエイザルは欠損した、胸部と子を成す機能を取り戻し。戦場で欠損部位を再生し続けた兵士たちは、最終的に干からびて死んだ。

「重装歩兵達の末路をみただろ、機会があれば万軍・・の影響下での戦闘は気をつけな、怪我もすぐ治るし、魔法の威力も上がるけど気を抜くとすぐ干からびて力尽きちまう」

おどけて言うアルミニアをエイザルが見上げる。

「だから今回の遠征で、魔法使い・・・・を連れてきていないのか」

第三軍にも魔法部隊は存在する、それこそ第三軍だけで皇国の擁する魔法使い全員と数だけならば勝るとも劣らない。だが、今回の遠征でアルマは魔法部隊を公国に残した。それは即ち、万軍・・による代替・・のない自軍の被害を嫌ったということだろう。

「ま、全滅する気はないようだから、万軍・・の性質をしってる私ら魔導騎兵は念の為連れてきてはいるんだけどね」

戯けるように言うアルミニアに、それ・・を知らずに戦場に向かっていたアイストスが厳しい目を向けているが、どこ吹く風のようにみえる。

「では、今回の遠征軍は捨て石のようなものだと」

「さ、そのあたりは本人に聞くことだね。副官はエイザル、あんただからね」



公都に1つの報が流れる。バーレギ卿、崩御。それは短くも大きな意味を持って公都から公国に、各御使いの治める領地、そして、そこから末端の貴族領へと広がっていく。

「100年にも渡って、当主を続けていた当代が亡くなられたって話だ」

1000年の間に御使いの血が薄まり、貴種・・を除いては数少ない血の濃く出た当主の死。

「元旦那のパレハ卿はどうするんだ、次のバーレギ卿はパレハ卿の娘でもあるって話じゃないか」

バーレギ卿の遺言により、次の当主は、娘であるアルマであるとの報が流れたのは数日後の話。バーレギ卿の傍流は家の当主達は当然ではあるが落胆し、まだ独身のアルマに充てがう男子を見繕うと動き出す。

「バーレギを寄り親にしてる貴族家の一部とパレハを寄り親にしてる貴族が東部で小競り合いをしてるって話じゃないか。新しいバーレギ卿は今何処にいるんだ」

急遽結ばれた皇国と公国の停戦条約と、バーレギ卿・・・・・に率いられた公国第三軍の帰投の知らせ。他の12家門の当主との顔合わせと、自領への帰還が噂されている。

「父親のパレハ卿、公都の守護者と呼ばれるメレキア卿は当然として、他には誰が来る」
「同じ軍団長としてだと、エシュケル卿は厚いんじゃないか」

「パレハ家とバーレギ家の血を濃く引いてるんだ、貴種・・であるネヒア卿も興味があるんじゃないか」

「噂だと、エシラ家の血を引くものものが公都に戻ってるって話もあるぞ」

12家門が揃わなくなって久しい公都に、複数の当主が揃う。12家門に従い、守られた者達の国がまるで熱病に冒されたかのようにその時を待っている。

「そういや、1人、孫がいるって話じゃないか」

「次のバーレギ卿もあんまり表に出ないからよく知らないけど、そっちは更に知らねえな」

「なんでも次のバーレギ卿にとっては、姪っ子らしいぜ」

「お家騒動なんてないだろうな」

「無い無い、エシュケル家やネヒア家みたいに、貴種・・が絡んでるわけじゃないんだから」

街々の酒場で流れる取り留めのない雑談。人々の日々の糧としてあるパンと酒と少々の事件。

千年祭・・・まであと20年か」

「早いんだか遅いんだか、俺はもうその時には杖使ってるかもしれないぜ」

酒場に流れるのは、吟遊詩人の歌う英雄譚・・・、雄々しき英雄と英雄に殺される悪しき悪魔の物語。英雄譚・・・が終わり、次の吟遊詩人が新たな詩を歌い始める。それはまだ謳い終わらない三人の英雄・・・・・英雄譚・・・



皇都の宮殿、回廊を走るタツマの姿がある。髪は寝癖だらけ、髭が伸び、目の下には隈。借り物のローブは皺だらけであまりにも宮殿に似つかわしくない姿。

「タツマ様、あの、もう少し見目を」

近衛の制服に身を包んだシズが城詰めの貴族に謝りながら、タツマの後ろは追いかけている。

「イツミが起きたってなんですぐ知らせてくれなかった」

原因は判っている、判っているが思わず口に出してしまう。完全なやつあたり。それを自覚しているが故にますます足早に駆けることになる。シズもそれが判っているのが、敢えてその理由を語ることはない。

イツミが何時起きるか判らないのに僕は何をしている

食事も睡眠もあまり要らない丈夫な体、そして、母親・・と同じ一度熱中すると回りが見えなくなる悪癖。大図書館に入ってから、数十分前までの記憶がまったくない。

増えた知識だけは覚えているんだが、その間の個人的な思考の記憶がまったくない

『タツマは良くも悪くも私の息子だね』

呆れ顔の母親の顔が脳裏によぎる、食事でホームシックという話はよく聞くが、まさか本を読んで母親の顔を思い出すとは業腹が過ぎる。

しかし、母親か

思わず足を止め、シズに振り返る。

「シズにとって母親とは何だ」

「あの、その、わかりません」

申し訳無さそうな言葉に、無精髭を指先で撫でる。医療技術の発達していた元の世界でも出産はそれなりにリスクの高いイベントだ。この世界なら更にだろう。シズの母親はきっと、出産のときにでもなくなったに違いない。聞いておきながら全てを聞くと面倒そうな予感がして、それ以上は尋ねるのをやめようと心に決める。

「どうしてそんな事をお聞きに」

そういう時に限って、相手が一步踏み込んでくる。

「碌でもない母親のことを思い出したんだ」

記憶の中の母親は目の前の少女より小さい。その事実が何処かおかしい。

「私の母は妹を産んですぐに死んだので、私にはあまり記憶がなくて」

余計な情報を知ってしまった気がするが、後の祭りだ。「そうか」とだけ答え、軽くシズの頭を撫でる。

「あ、でも、寂しくはないんですよ?サヴァル様もアロセス様もお優しいですし、宿・・に戻れば姉も妹も居ます。2番めの姉だけはすぐに会うことは出来ませんけど」

僕の行動に何を思ったのか、矢継ぎ早に話すシズの姿はどこか小動物じみている。近衛のマスコットのようなものになっているというのもよく判る気がする。

「ところで聞くけど、そんなに僕は今酷い見た目かい?」

「とっても!あ……その、すみません、少しだけ」

思わず素直に答えてしまった自身が恥ずかしかったのか、言葉尻が小さくなる。

「そうか、なら。少々身だしなみを整えてから行くかな」

身だしなみを整え、僕がイツミと再会するのはそれから1時間後の事になる。
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