The Doomsday

Sagami

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Sparks

15:欺瞞6

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皇国の騎馬が駆ける。馬具に鎧に馬上槍に文様が浮かび上がりまるで1つの巨大な魔法がぶつかるかのように、一陣の風となり真っ直ぐに重装歩兵へと突撃する。

「皇国が騎士の力、見せてくれよう」

馬上槍に埋め込まれた黒い石が輝き、重装歩兵へと伸びる。重装歩兵がラージシールドを構え、それをまっすぐ受け止めるも、まるで粘土細工のようにラージシールドが溶け、そのまま重装歩兵の肩を槍が貫く。

「これが、皇国の」

騎士の叫びは、最後まで発せられることなく、馬ごと吹き飛ばされる。吹き飛ばしたのは肩から先を失った重装歩兵。吹き飛ばされた騎士はおそらく即死だろう、馬はか前に動きを止め、騎士も体が僅かに痙攣はしているが生理的な反応に過ぎない。

「まだ動くか」

別の騎士が槍の切っ先を重装歩兵に向けるが反応がない。馬上槍の突撃で失われた左腕の付け根が見える。そこには骨と皮だけになり、やせ衰えた重装歩兵の体躯が覗いている。
「惚けるな、まだ敵がいる」

別の騎士の叫びに周囲を見る。騎兵の被害はあるものの、活動可能な・・・・・重装歩兵の数は減っているように見える。

「判っている」

動きを止めた重装歩兵を一瞥するも、動き出す気配どころか、傷口から血が吹き出す様子もない。傷口からはゆっくりと血がたれ流れているが、その血はまるで腐った血のように黒ずんでいる。

「一体なんだってんだ」

重装歩兵の顔を改めて見る。一瞬、フルフェイスの奥の瞳が怪しく輝いた気がする。そして、激痛。

「なっ」

気付くと馬から振り落とされていた。城壁から降り注ぐ矢の一本が愛馬に刺さっている。
「馬鹿か俺は」

その言葉を最後にその騎士の命は尽きた。



バイザッサ率いる公国騎兵が100騎、皇国の柔らかい横腹を突くように突撃を開始する。

「アルマ様に我らが武勇を捧げよ」

鎧の一部を金色で染め上げたバーレギ直属の騎兵達。弓兵や魔法使いを狙い一気に駆けてゆく。皇国の騎士の多くが馬上槍を武器にしているのに対し、彼らの武器は様々だ。場上槍はもちろん、大剣に片手剣、場合によっては杖さえある。

「杖を持った騎兵だと、ふざけるな」

皇国弓兵が、弓を射掛ける。それはまっすぐ、公国騎兵へと向かっていく。バイザッサが、腰に下げた小さな袋から砂を一掴み正面に投げる。

「土、槍」

砂が土の槍に形を変え、矢を弾き飛ばし皇国弓兵を貫く。バイザッサの部下達が各々の獲物を手に、魔法を唱える。

「騎兵は騎兵でも、魔導騎兵・・・・ってやつだからな。悪く思うな」

そして、北部の蹂躙が始まる。

火の、水の、土の、風の魔法が騎兵から放たれる。

「馬上で魔法だと」

魔法使いが魔力を黒い石のアミュレットに込めつつ叫ぶ。忌々しい。そんな思いの込められた叫び。

「それぐらい出来ねば、バーレギ家に仕える騎士にはなれんよ」

駆ける馬の勢いのまま、片手剣を振り抜く。アミュレットの鎖とともに魔法使いの胸に大きな穴ができる。

「炎よ」

媒体の練り込まれた剣を中心に、魔法使いの体内で炎が暴れる。炭化した魔法使いを剣で払い。次の獲物を向けて駆け出す。

皇国において、無用の長物とされる魔法の武器・・・・・魔法戦士・・・・それの1つの実践形が、彼ら魔導騎兵・・・・。12家門の血を引くものに魔法の資格が現れる。そう仮定すると、単純計算でそのうち11の家を擁する公国と、1家のしか擁さない皇国にに産まれる魔法使いの数の差は10倍になる。そして、同じ比率で酔狂な魔法戦士・・・・が産まれるとすれば、モノになる者も自然と増える。そして、アルマの祖母、現バーレギ卿が組織した虎の子の私兵それが魔導騎兵と呼ぶべき彼らである。

「これなら、公国の反乱兵どものほうが骨がある」

「規模と歴史があるだけで、結局皇国もただの1地方の反乱に過ぎないさ」

剣を軽く振り血を飛ばし、次の獲物を求めて彼らは皇国軍を刈り取っていく。



天幕の中、増えていく物言わぬ骸達。手を赤く染め、処置を終えた医療兵が樽の水を柄杓で掬い手を洗い流す。手に顔を近づけて、スンスンと匂いを確認する。水で洗ったものの、

「こりゃ暫くは匂いが落ちそうにないな」

天幕は既に負傷者で溢れ、負傷者達の呻き声の中、疲弊した医療兵達だけが動き続けている。

「休憩ですか、ガインズ殿」

片隅で座り込んでいる兵に声を掛ける。よく見る補給士官、医療兵にとっては歳も近くお互いの任務の関係で、関わりの深い人物でもある。

「ええ、少し疲れてしまって」

なにかを握りしめたまま、顔を挙げずガインズが応える。医療兵の自分でもそうなのだ、補給士官のガインズに此処・・は地獄のように思えるのかもしれない。

「残念だが、まだ増えるぞ」

気休めを言うつもりはない。後方に近い負傷者は回収されているが、前線に近い負傷者はまだ戦場に置き去りだろう。そして、負傷兵達の話によると前線の激しさは増しているという。

「負傷兵か、それとも・・・・

視線の先には死体がある。潰れた鎧、陥没した頭蓋、年の頃は自分やガインズと同じ頃だろうか。

どっちもだ・・・・・

短く正しい言葉。もっと言いようがあるのではないかと自問するも、それ以上の言葉は思いつかない。大きく息を吐き、言葉を紡ぐ。

「こんな場であれだが、その、この戦いが終わったらだな、一緒に食事にでも行くか」

ガインズがなに言ってるんだという表情で、医療兵を見上げる。よく見ると医療兵の耳が赤い。

「ナターシャ」

ガインズが医療兵の名前を呼ぶ。

「なんだ、ガインズ」

無い胸を張ると、白い軍服が僅かに膨らんでいるのが見える。全く無いわけではないのかと失礼な事を動かない頭で考える。

「似合わないな」

「私もそう思うが、余計なお世話だ」

軽くガインズの額を指で押し、踵を返し仕事に戻ろうとする。

「ナターシャは知っていたのか」

その背に問いかける声に、足を止める。

「何をだ」

「兄が死んだということをだ」

「知っていた」

伝える義務はない。だが伝えるべき理由があり、同時に伝えるべきでない理由もあった

「そうか、私はそうも信用がないか。いや実際こう・・なっているのだ、その判断は正しい」

自身に言い聞かせるようなガインズの声に思わず振り返る。手に何かを握りしめ焦燥した顔のガインズの姿が目の前にある。

「この戦いが終わったら食事か、こっちは貧乏騎士爵の次男だ高い店は無理だぞ」

「ああ、判っている」

その時にはきっとガインズは兄の代わりに騎士爵を継いでいる。互いにその事を話題には出さない。

「ちなみに、店の希望はあるか」

「有名な甘味処があるんだがどうだ」

疲れたガインズの口元に呆れたような笑みが浮かぶ。

「似合わないな」

「私もそう思うが、余計なお世話だ」

抗議の意味も兼ねて、軽くガインズの額を指で押す。さっきと全く同じやりとり、ナターシャは今度は踵を返さずガインズの顔を見つめる。

「ひどい顔だぞ」

「私もそう思うが、余計なお世話だ」

力なく答えたガインズの手から半透明の石が転がり落ちた。



白い服を来た医師たちが、1つのベッドを囲んでいる。ベッドの上にはやせ衰えた老女が1人。

「皆さん、ありがとうございます。もう、構いませんよ」

老女が優しく諭すように伝える。傍らに立つ男が医師たちに例を言い退出を促す。部屋に残ったのは老女と男の2人だけ。

「パレハ卿、今日この時に貴方がいらっしゃってくれるとは思いませんでした」

男は静かに頷く。

「何、美人が求める時に現れるのが私の特技というやつでね」

伊達男を気取って男が応える。まるで恋人のもとに馳せ参じたかのように。

「こんなおばあちゃんをからかっていけない方ですね。また恋人を泣かせているんじゃありませんか」

母と子、下手をすると祖母と孫ほどに見える2人は嘗て恋人で2人の子を成した。息子と娘、息子を先に失うという不幸はあったものの、孫1人、娘1人は健やかに過ごしている。

「これこら、あまり卑下するものじゃない。貴女と私はこの国一番の美男美女の夫婦と呼ばれていたことさえあるじゃないか」

骨と皮だけになった手を取り、愛おしそうにその手を撫でる。

「遠い昔の話ですよ、パレハ卿」

穏やかな笑みを浮かべる老女に、パレハは笑みを返す。老女の命はあと僅かだ、特別病気というわけではない、ただの老衰、ギリギリまでの延命治療ももはや効果はなく、何時その命の灯が消えてもおかしくはない。

「まるで昨日のようだ」

「ええ、まるで昨日のようです」

部屋には若き日の肖像画、2人の幸せそうな夫婦に、利発そうな男の子、母親の手には産まれたばかりの赤子が抱えられている。

「貴女とともに老いて死にたかった」

それはパレハ卿の本心からの言葉だろう。

「あら、でもその御蔭で貴方は千年祭・・・まで生きることが出来るのでしょう?」

それは死を間近にしたものにしては強い意思の籠もった言葉。

「色々手を出しましたけど、私は運命の日DoomsDayまで生き続けることは出来ないようです。私がラッパを吹くことが出来ないなら、その役目は娘か孫かその子らになるでしょう」

男は頷き、肖像画を一瞥する。

「あの子達は貴方の子と孫でもあります。後のことはお願いしましたよ」

「ええ、勿論。私は美人の頼みは断らないのが特技なのですよ」

老女の口が動く、声はもうない。男が握る手から徐々に命の残滓が消えていく。

「貴方という人はまったく、元旦那への最後の言葉が、『ウソツキ』というのはどうかと思いますよ」

老女の目を閉じさせ。男はゆっくりと立ち上がる。この日、12家門の1つ、バーレギ家当主がこの地を去った。神殿は彼女の魂が神の元、即ち天に登ったと表したが、それを聞いて、12家門の1つパレハ家の当主は鼻で笑ったという。
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