The Doomsday

Sagami

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Sparks

14:欺瞞5

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炎が踊り、肉が焦げる。痛みと熱さが体を覆う。汗をかいても手で拭うことも出来ず、この戦いが終わったら水浴びの1つでもしたいところだと、心に決める。

足を一歩前に出す。手に持つ身長程もあるラージシールドで敵兵を吹き飛ばし、長槍で貫く。今日は体が軽い。

重装歩兵などなるものでない

今はある程度慣れたといえ、金属のフルプレートにフルフェイスは夏は熱く、冬は冷たい。動かすのに膂力が必要になり、戦場はもとより移動や立ち続けることでさえ苦痛を伴う。

それだと言うのに、この高揚感、万能感はなんだろうか。

まるで木っ端のように吹き飛ぶ敵兵、まるで柔らかい土に鍬を入れるかのように、肉を抉る感触。不思議と忌避感はない。

敵の返り血がフルプレートにかかり、今だ熱を持つそれがジュっという音とともに鎧の染みになる。主より賜った鎧を汚すそれに嫌悪感が浮かぶも、同時に主の役に立った証としての喜びもある。

「化け物が」

槍を構えた敵兵が、頭を狙ってを槍を突く。狙いは悪くない、フルプレートにフルフェイスとはいえ、その頭を支える首を力任せに折ってしまえば通常絶命する。

そう、通常ならだ

体重の乗った槍がフルフェイスを揺らし、首が折れるボキリという音がどこか他人事の用に思える。少しの間があって激痛と悲鳴。

「何故まだ生きている」

敵兵の声、盾と槍を手放し両手で首の位置を元に戻す。どうやら今の自分はその程度も苦にならないようだ。折れた首の内側が治る不思議な感触。首を左右に回し、問題ないことを確認する。

槍を放った敵兵を見る。自分はおそらく呆けたような表情をしていたことだろう。この素晴らしい一撃を頭蓋に放った敵兵は頭部を潰され、既に物言わぬ屍とかしていた。

どうやら、敵兵は友軍に倒されたようだ。足元に転がったラージシールドと槍を持ち、敵を求め再び歩き出す。

500の死の使いが戦場を蹂躙していく。



前線からの伝令、遠見の魔術師の悲鳴に近い報告。ハルファスは馬上で大きく息を吐く。
「流石は万軍・・、御使いの軍というところか」

建国神話に語られる御使いの軍とはきっとこういうものだったろう。約千年もの昔、人々を滅びから救うために戦った12家門の始祖達とその部下達の伝承。その御使いの軍が今、自身の率いる兵と戦っている。

「敵は精強で強い、だが、我が軍と違い、魔法使いの数は少ない」

尤も最低でも2人、バーレギ家の直径に近いものともう1人強力な使い手がいる。その事実には敢えて触れず部下を鼓舞する。

「弓兵は牽制、歩兵は足止め、魔法使いは土魔法の使えるものは奴らの足元を狙え」

ラッパが鳴り響き、詳細な命令を伝えるべく伝令兵の馬が駆けていく。伝承の中で万軍・・の言葉はない。当時の記録によると、その前身とも言うべき魔法がバーレギ家の始祖が使ったという記述がある。この先年でバーレギ家が来るべき運命の日・・・・に向けて準備した力なのだろう。

「口惜しいところだな」

ハルファスの呟きに傍らの老騎士が怪訝そうな表情を向ける。馬に吊るした革袋を取り、中の液体を一気に飲み干す。わずかに口元から漏れたそれは血のように紅い。篭手で無造作にそれを拭き取り。周囲に控える騎士達を一瞥する。

「騎士達よ、我に続け」

皇国の有する魔法使いと並ぶ、もう1つの主力。魔法使いが高火力に特化した兵種とすれば、騎兵は機動力に特化した兵種と言える。皇国のアロセスをはじめとする神官達が聖別し、魔術的な強化を施した金属鎧に身を包む騎兵達。その多くは、貴族の子弟や騎士爵を持つ貴族たち。戦の花形であり、戦でしかその身を立てる事の出来ない者たち。

相手は強化された重装歩兵、相性は良いとは言えない。機動力で勝っても致命傷を与える手段がない。勝てる目があるとすれば、アロセスの手の入った魔法の武具と言うべきものだろうが、騎士とはいえ全員に配備するほどの数はなく、その多くは一回りも二回りも落ちる品になっている。

だが、この程度の敵に勝てぬようでは

心の内の呟き。思いを共有すべき同士はこの軍にはいない。鐙を蹴り馬を進める。ふと過ぎっただのは、暫くあっていない血を分けた弟の顔だった。



青々と茂った森の緑の中、騎兵の駆ける音がする。舗装されていない獣道を不機嫌そうに駆ける悍馬とその乗り手達。

「おい、今、森の中を何か駆けていったぞ」

馬に乗る女騎士が道から外れた場所を駆ける影に気付く。

「このタイミングで敵に気づかれたか。今更どうということは無い気がするが」

馬の足を止め、若い騎士が女騎士の先を見る。お預けになってきた戦場への呼び出しを受け、落ち着きなく体を揺らしている。

「主力が出ている間に、陣が攻め込まれると上手くない。アルミニア、5騎を預ける」

「あいよ」

バーレギ直属兵を纏めるバイザッサの命に、アルミニアと呼ばれた女が応える。女が順番に名前を呼び、最後に若い騎士、アイストスの名を呼ぶ。

「アイストス、お前もこっちだ」

「砦の占領からこれまで、森に隠れて漸くアルマ様のお役に立てると言うのにか」

抗えない上官の命に、馬を返す。

「ま、これもお前さんの魔法を買ってるってことさ」

「それも、重要な任務だ」

2人の上官の言葉に悔しげな表情を隠しもせず頷く。

「アルミニア以下6名は敵斥候と思われる対象を、撃破、或いは捕獲後、陣にて待機。残りのは私とともに砦へ」

バイザッサの声とともに、アルミニア達を除いた騎兵が南下を始める。

「余計なものを見つけて」

ため息交じりに呟く、アイストスに他の騎士達が困ったやつだと軽く背を叩く。

「漸く見習いが取れた最初の戦いで思う存分戦えないのが気に入らないのはわかるが、正規軍でそんな顔を見せるんじゃないぞ。軍ってのは、上官の言葉は絶対ってなってるからな」

アルミニアの砕けた物言いに、アイストス以外の騎士達は揃って苦笑する。

「さ、そろそろ、新兵教育・・・・は終わりだ。追うぞ。お前が何のためにこちら側に配属されたか判っているな」

「承知しております」

アイストスは左手のガントレットを外し、その下のブレスレッットに右手を当てる。魔力を流すとブレスレットに刻まれた文様が淡く光る。高度な魔法の行使に取る手段の1つ。予め道具に魔力の流れを補助する機能を持たせ、詠唱やイメージを最小限にし、魔法を使う時にはそこに魔力を流すだけで発動させる手段。

アイストスを中心に、円状に風が発生する。それはまるでソナーのように、術者に周囲の動くものの様子を伝えてくる。

「こちらの方向に走り去る人が2人、その先に更に2人。我が軍以外の人はこの4人だけです」

ガントレットを再び付けながらアイストスが報告する。

「なら、さっさと行くとするかい。4対6で私らが負けるとも思えないしね」

馬の頭をその方角に向け、嫌そうな顔をする愛馬の首筋を撫でる。

「なんだい、アインストと同じで命令に文句でもあるのかい」

女性らしからぬアルミニアの低い声に、馬があきらめたように足を動かし始める。アインストはその様子に肩を竦め、南の砦の方を一瞥しため息を付いてアルミニアに続いた。



石に腰掛けラーサムは、空を見上げている。少し前には南の空が赤く染まり、その直後の爆音で獣や鳥たちが酷く騒がしかったものの、今は一部を除き森には静寂が戻っている。
「レルが遅い」

大声こそ出さないものの、不機嫌そうなララの呟きが暫く前から続いている。

「旦那の心配はしないのか」

呆れの混じったラーサムの言葉に、ララは心外だと言う表情を向ける。

「レティウスを心配するだって、お前さんあの人の上司で親友・・・・・なんだろ」

「ああ、親友で上司・・・・・だな」

わずかに訂正し、不機嫌そうに応える。元はと言えばレティウス拾い友人付き合いをし始めたのが先で、爵位を与え、寄り親となったのは貴種・・の近くに平民がという、一部の煩い奴らを黙らせる方便のようなものだった。尤も、レティウスはそれを余計なことをしたと言い、相変わらず軽口を叩きあうものの以前より一步引いた付き合いをされている気がするのが気に食わないところではあるが。

「うちのか弱いレルと違って、殺しても死ななそうじゃないかい」

ラーサムが「確かに」と思わず頷き、「だろう」とララが自慢気な表情を浮かべる。

「よく短い付き合いなのにそういうのがわかるな」

親しい友人を取られる、とまでは思わないようだが、声色に驚きの色が多分に混じっている。

「結婚を決めさせたやつの言うセリフかい、それは」

呆れまじりのその言葉に、ラーサムは視線をそらす。

「まあ、なんだ、アイツへの反撃が主目的だったからな」

酷い言い草に、呆れの色が更に深まっていく。

「へぇ、後であの人に伝えておくとするかね。ま、種を明かすと簡単な事だよ、アタシもプロだらからね。魔法はともかく、一度抱いた・・・相手の肉体的な能力は察しがつくんだよ」

「それこそ、アイツにお前は奥さんに抱かれた・・・・んだなって言わないといけないな」
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