4 / 43
肝試しの計画 AI
しおりを挟む
――二十五年前。
「ねえ、亜衣ちゃん。月美津峠の幽霊って知ってる?」
高校受験を控えた二学期が始まって早々に、植村志穂ちゃんが話しかけてきた。肩まで伸びた髪をいじくりまわしていたわたしは手を止める。
見た目がかわいい上にちょくちょく子犬みたいなテンションになるせいか、志穂ちゃんは男女ともに人気がある。夏休みが明けて髪が少し茶色くなった気がするけど、先生から注意されないギリギリのラインで留めているあたりはさすがだと思う。
「幽霊の話? わたしは全然知らないけど」
「えーそうなの? 女子ならその話はみんな知ってると思ったんだけど」
「はあ……」
わたしはすでに、彼女の話についていけなくなりかけている。そんなわたしに気付いたのか、志穂ちゃんが頼んでもいないのに月美津峠の幽霊について説明をはじめる。
「月美津峠ってあるでしょう?」
「うん。あの、海の近くの……?」
「そうそう。なんでもね、峠のすぐ近くの海で身投げしたカップルがいてね、あることをするとその幽霊に出会えるんだって」
「あること?」
内心「くだらないな」って思ったけど、子供の夢を壊すのもかわいそうだと思ったので志穂ちゃんの話に合わせてみる。
「うん。なんかね、男女で恋人同士が持つような物を持っていけばいいみたい。たとえば、ブレスレットとか、ペアリングみたいな」
「それを持っていくと会えるの?」
「そうなの。身投げしたカップルは禁断の恋だったか何だかで、そういう二人で一つになるようなアイテムがあると幽霊が出てくるらしいんだよね」
「アイテムって……それって、結ばれなかったカップルにケンカを売りに行ってるだけじゃなくて?」
アホくさと思いながら聞いてはいたけど、結ばれない恋で身を投げたカップルに結ばれた男女が会いに行くなんてデリカシーが無さすぎない? いや、幽霊なんて信じてないけど。
「あ、それもそうかもね」
志穂ちゃんは今それに気付いたようだった。うん、君もなかなかヤバいよ。肝心の志穂ちゃんはすぐにどうでもよくなったようで、話を続ける。
「ほら、あたし達もそろそろ受験じゃない」
「うん」
「高校に行ったら離れ離れになる可能性もあるからさ、ここで思い出作りでもしておこうかな、なんて」
「思い出作り、ねえ……」
たしかに、わたしと志穂ちゃんだと志望校が違うから別々の高校へと進んでいく可能性が高い。だからこそ卒業前に思い出作りをしておきたいって言われたら悪い気はしないけど……。
「でも、その……肝試しみたいな感じじゃなくても良くない?」
わたしは率直な意見を言った。それだったら舞浜の方にある夢の国へ行った方がずっと楽しそうだし。
「それがさ、あたしにもちょっと考えがあって」
志穂ちゃんはあたしの耳元で囁きはじめる。
「そのね、この肝試しってさ、竹川君も呼んであるの」
「竹川君って、あの竹川岳君?」
「ちょっと亜衣ちゃん、声が大きいっての。とにかくさ、今回の肝試しに竹川君を呼んで、彼にアタックしてみようと思ってるんだよね」
「アタックって……」
志穂ちゃんが言っているのは、竹川君に告白するということだろう。そうか、それでわたしに声をかけて……。
「でも、それならもっと楽しい夜を過ごした後の方が良くない?」
わたしは率直な疑問を口にする。すると志穂ちゃんは「チッチッチ」と口元で指を左右に動かす。
「分かってないなあ、亜衣ちゃんも。これは吊り橋効果ってやつだよ」
「吊り橋効果?」
「そうそう。簡単に言うとね、お化け屋敷とかにカップルで行くと、怖いドキドキと恋のドキドキを勘違いしちゃうんだよね。それで普通にデートするよりも二人の仲が急接近しやすいっていう話」
志穂ちゃんは得意げに作戦を明かした。彼女が竹川君を好きなのは知っていたけど、そんな簡単に上手くいくものなのだろうか?
「それなら志穂ちゃんが竹川君と二人で行けば良くない?」
わたしが正論で返すと、志穂ちゃんが急に頭を下げる。
「お願い、亜衣ちゃん。そこを何とか助けて下さい! 竹川君には亜衣ちゃんも来るからって言って了解をもらってるから」
教室の視線が集まり出して、わたしは焦る。秘密の打ち合わせになってないじゃん。
だけど、当の志穂ちゃんは頭を下げたまま動かなかった。他の人は文脈も知らないから、これじゃあわたしが志穂ちゃんに謝罪させているみたいだ。
「わ、分かったからさ、一旦落ち着こう? ね?」
わたしが慌ててとりなすと、顔を上げた志穂ちゃんが半笑いになっていた。なんか、嫌ば予感……。
「そうだよね。亜衣ちゃんはとっても心の優しい女の子だもんね。亜衣ちゃんならきっと助けてくれるって信じてたよ!」
そう言って志穂ちゃんがわたしに抱きつく。いつも明るいせいか、周囲のクラスメイトも「なんだ気のせいか」とばかりにわたし達から注意を外していく。なんだか、上手く丸め込まれた気がする。
「それにさ、その月美津峠って恋の神様がいるとも言われているんだよね」
「なにそれ」
また急にうさんくさい話が出てきた。
「なんでもね、人の恋路を邪魔する幽霊の他に、結ばれなかった恋人たちを哀れに思った神様が大好きな人を引き合わせてくれるっていう伝説もあるの」
「そんな虫のいい都合ある?」
わたしはちょっと呆れながら訊く。だけどさすがはポジティブ志穂ちゃん、少しも伝説の信憑性を疑っていない。
「だってだって、それぐらいロマンチックな話があるぐらいの方がステキじゃん?」
「まあ、そう……そうなの、かな?」
「そうに決まってるよ。よし、決まり。あたし達二人とも、このイベントで恋に燃え上がろう。お~!」
「おー」
めんどくさいのでとりあえず同調するけど、かなり棒読みの答えになった。まあ、志穂ちゃんは喜んでるからいいか。
「それじゃあさ、日程が決まったらまた教えるから。楽しみに待っていてね」
「……メンバーはわたしと志穂ちゃんと、あとは竹川君の三人?」
「いや、もう一人男子を呼ぶよ。まだ誰になるかは分からないけど」
志穂ちゃんがサラッと言うので、わたしはしばらくボーっとしてから「え? もう一人来るの?」と訊いた。
「一応夜に歩くわけじゃない? わたしと竹川君がペアになったのに、亜衣ちゃんが一人だとさすがに危ないっていうかさ、一応何かあった時のために男子がもう一人必要だよね」
ああ、そうか。吊り橋効果を狙うんだったら志穂ちゃんと竹川君が二人っきりにならないと効果が望めないもんね。それに、わたしだけ現地で一人肝試しなんて流れになったら罰ゲームにもほどがある。
「で、亜衣ちゃんは誰と行きたいの?」
今度は志穂ちゃんがいたずらっぽい顔になる。誰と行きたいかってことは、つまりわたしが誰のことを好きかってことだもんね。
ただ、そういう対象の男子はまだいないのかなとも思っていた。たしかに竹川君をはじめとして、モテるタイプの男子が何人かいることは間違いないんだけど。
「うーん」
視線をさまよわせていると、壁に寄りかかっている一人の男子と目が合った。夜見川翔君。休み時間に本を読んでいるような、ちょっと大人しめの男子だ。
夜見川君はわたしと目が合うと、ちょっとだけびっくりしたような顔になって下を向いた。それを見たわたしは、なんとなしに彼をからかってみたい気分になった。
「彼なんかどう?」
わたしが遠慮がちに指さすと、志穂ちゃんは意外そうな顔で答える。
「えー夜見川君? なんかもっと人気のある男子を選ぶと思ってたけど」
「別にわたしは肝試しでカップルになりたいなんて思ってないし」
「そうは言うけどさ、彼、大丈夫かな? 出発前に大人へ相談して、肝試しそのものが中止にされそうな気もするんだけど」
夜見川君を大して知らない志穂ちゃんが失礼全開の憶測をつぶやく。夜見川君を選んだのは大した理由じゃないのに、こうやって反対されると不思議なもので、意地でも彼をメンバーへと加えたくなる。
「彼はそんなことしないよ。それに、誰と行きたいか訊いたのは志穂ちゃんじゃない」
わたしがそう言うと志穂ちゃんは一瞬だけ目が点になって、時間差でニヤニヤとした笑いを浮かべる。
「あーそうですかー。なるほどね、亜衣ちゃんはああいう人がタイプなんだねえ?」
「いや、それは……そうじゃなくて、何て言うか、夜見川君あたりなら大して害もないだろうなって思っただけだよ」
自分でそう言ってから、わたしも結構ひどいことを口にしているなと思った。夜見川君に聞こえていないだろうかとチラ見すると、すでに彼はあさっての方向を見ていた。
視線を戻すと、小悪魔というよりはゲスっぽい笑みを浮かべた志穂ちゃんがこちらを見ていた。
「まあ、亜衣ちゃんはあたしの親友だし? あたしの人脈を使って、夜見川君を取り込むことだって出来るけど?」
「志穂ちゃん、さっきから悪役みたいになってるよ」
わたしがツッコむと、志穂ちゃんが悪代官のような笑みを浮かべたまま口を開く。
「まあ、あたしに任せておきなさい。あたしの人脈とこの計画があれば、ダブルデート成功間違いなし」
「あの……肝試しじゃなかったの?」
「とにかく、続報はすぐポケベルで送るから。亜衣ちゃんは大船に乗ったつもりで待っていてね」
そう言って一人で勝手に盛り上がった志穂ちゃんはどこかへ向かった。なんだったんだ、一体。
とはいえ、あんまり目立たない夜見川君をわたし達の肝試しに参加させるなんて可能なのだろうか。自分で言っておいて、もうちょっとハードルの低い人選にしてあげれば良かったなと思う。
夜見川君を見ると、いつものように何かの本を読んでいた。本好きの大人しい少年。そんな彼が、どちらかと言えばヤンチャな遊びに参加することなんてあるのかな?
まあ、別に夜見川君じゃなきゃダメな理由なんて何も無いし、彼が断わったらもうちょっとノリのいい男子に頼もう。
わたしだってクラスでモテていることぐらいは知ってるんだから。あとは気長に待っていよう。
「ねえ、亜衣ちゃん。月美津峠の幽霊って知ってる?」
高校受験を控えた二学期が始まって早々に、植村志穂ちゃんが話しかけてきた。肩まで伸びた髪をいじくりまわしていたわたしは手を止める。
見た目がかわいい上にちょくちょく子犬みたいなテンションになるせいか、志穂ちゃんは男女ともに人気がある。夏休みが明けて髪が少し茶色くなった気がするけど、先生から注意されないギリギリのラインで留めているあたりはさすがだと思う。
「幽霊の話? わたしは全然知らないけど」
「えーそうなの? 女子ならその話はみんな知ってると思ったんだけど」
「はあ……」
わたしはすでに、彼女の話についていけなくなりかけている。そんなわたしに気付いたのか、志穂ちゃんが頼んでもいないのに月美津峠の幽霊について説明をはじめる。
「月美津峠ってあるでしょう?」
「うん。あの、海の近くの……?」
「そうそう。なんでもね、峠のすぐ近くの海で身投げしたカップルがいてね、あることをするとその幽霊に出会えるんだって」
「あること?」
内心「くだらないな」って思ったけど、子供の夢を壊すのもかわいそうだと思ったので志穂ちゃんの話に合わせてみる。
「うん。なんかね、男女で恋人同士が持つような物を持っていけばいいみたい。たとえば、ブレスレットとか、ペアリングみたいな」
「それを持っていくと会えるの?」
「そうなの。身投げしたカップルは禁断の恋だったか何だかで、そういう二人で一つになるようなアイテムがあると幽霊が出てくるらしいんだよね」
「アイテムって……それって、結ばれなかったカップルにケンカを売りに行ってるだけじゃなくて?」
アホくさと思いながら聞いてはいたけど、結ばれない恋で身を投げたカップルに結ばれた男女が会いに行くなんてデリカシーが無さすぎない? いや、幽霊なんて信じてないけど。
「あ、それもそうかもね」
志穂ちゃんは今それに気付いたようだった。うん、君もなかなかヤバいよ。肝心の志穂ちゃんはすぐにどうでもよくなったようで、話を続ける。
「ほら、あたし達もそろそろ受験じゃない」
「うん」
「高校に行ったら離れ離れになる可能性もあるからさ、ここで思い出作りでもしておこうかな、なんて」
「思い出作り、ねえ……」
たしかに、わたしと志穂ちゃんだと志望校が違うから別々の高校へと進んでいく可能性が高い。だからこそ卒業前に思い出作りをしておきたいって言われたら悪い気はしないけど……。
「でも、その……肝試しみたいな感じじゃなくても良くない?」
わたしは率直な意見を言った。それだったら舞浜の方にある夢の国へ行った方がずっと楽しそうだし。
「それがさ、あたしにもちょっと考えがあって」
志穂ちゃんはあたしの耳元で囁きはじめる。
「そのね、この肝試しってさ、竹川君も呼んであるの」
「竹川君って、あの竹川岳君?」
「ちょっと亜衣ちゃん、声が大きいっての。とにかくさ、今回の肝試しに竹川君を呼んで、彼にアタックしてみようと思ってるんだよね」
「アタックって……」
志穂ちゃんが言っているのは、竹川君に告白するということだろう。そうか、それでわたしに声をかけて……。
「でも、それならもっと楽しい夜を過ごした後の方が良くない?」
わたしは率直な疑問を口にする。すると志穂ちゃんは「チッチッチ」と口元で指を左右に動かす。
「分かってないなあ、亜衣ちゃんも。これは吊り橋効果ってやつだよ」
「吊り橋効果?」
「そうそう。簡単に言うとね、お化け屋敷とかにカップルで行くと、怖いドキドキと恋のドキドキを勘違いしちゃうんだよね。それで普通にデートするよりも二人の仲が急接近しやすいっていう話」
志穂ちゃんは得意げに作戦を明かした。彼女が竹川君を好きなのは知っていたけど、そんな簡単に上手くいくものなのだろうか?
「それなら志穂ちゃんが竹川君と二人で行けば良くない?」
わたしが正論で返すと、志穂ちゃんが急に頭を下げる。
「お願い、亜衣ちゃん。そこを何とか助けて下さい! 竹川君には亜衣ちゃんも来るからって言って了解をもらってるから」
教室の視線が集まり出して、わたしは焦る。秘密の打ち合わせになってないじゃん。
だけど、当の志穂ちゃんは頭を下げたまま動かなかった。他の人は文脈も知らないから、これじゃあわたしが志穂ちゃんに謝罪させているみたいだ。
「わ、分かったからさ、一旦落ち着こう? ね?」
わたしが慌ててとりなすと、顔を上げた志穂ちゃんが半笑いになっていた。なんか、嫌ば予感……。
「そうだよね。亜衣ちゃんはとっても心の優しい女の子だもんね。亜衣ちゃんならきっと助けてくれるって信じてたよ!」
そう言って志穂ちゃんがわたしに抱きつく。いつも明るいせいか、周囲のクラスメイトも「なんだ気のせいか」とばかりにわたし達から注意を外していく。なんだか、上手く丸め込まれた気がする。
「それにさ、その月美津峠って恋の神様がいるとも言われているんだよね」
「なにそれ」
また急にうさんくさい話が出てきた。
「なんでもね、人の恋路を邪魔する幽霊の他に、結ばれなかった恋人たちを哀れに思った神様が大好きな人を引き合わせてくれるっていう伝説もあるの」
「そんな虫のいい都合ある?」
わたしはちょっと呆れながら訊く。だけどさすがはポジティブ志穂ちゃん、少しも伝説の信憑性を疑っていない。
「だってだって、それぐらいロマンチックな話があるぐらいの方がステキじゃん?」
「まあ、そう……そうなの、かな?」
「そうに決まってるよ。よし、決まり。あたし達二人とも、このイベントで恋に燃え上がろう。お~!」
「おー」
めんどくさいのでとりあえず同調するけど、かなり棒読みの答えになった。まあ、志穂ちゃんは喜んでるからいいか。
「それじゃあさ、日程が決まったらまた教えるから。楽しみに待っていてね」
「……メンバーはわたしと志穂ちゃんと、あとは竹川君の三人?」
「いや、もう一人男子を呼ぶよ。まだ誰になるかは分からないけど」
志穂ちゃんがサラッと言うので、わたしはしばらくボーっとしてから「え? もう一人来るの?」と訊いた。
「一応夜に歩くわけじゃない? わたしと竹川君がペアになったのに、亜衣ちゃんが一人だとさすがに危ないっていうかさ、一応何かあった時のために男子がもう一人必要だよね」
ああ、そうか。吊り橋効果を狙うんだったら志穂ちゃんと竹川君が二人っきりにならないと効果が望めないもんね。それに、わたしだけ現地で一人肝試しなんて流れになったら罰ゲームにもほどがある。
「で、亜衣ちゃんは誰と行きたいの?」
今度は志穂ちゃんがいたずらっぽい顔になる。誰と行きたいかってことは、つまりわたしが誰のことを好きかってことだもんね。
ただ、そういう対象の男子はまだいないのかなとも思っていた。たしかに竹川君をはじめとして、モテるタイプの男子が何人かいることは間違いないんだけど。
「うーん」
視線をさまよわせていると、壁に寄りかかっている一人の男子と目が合った。夜見川翔君。休み時間に本を読んでいるような、ちょっと大人しめの男子だ。
夜見川君はわたしと目が合うと、ちょっとだけびっくりしたような顔になって下を向いた。それを見たわたしは、なんとなしに彼をからかってみたい気分になった。
「彼なんかどう?」
わたしが遠慮がちに指さすと、志穂ちゃんは意外そうな顔で答える。
「えー夜見川君? なんかもっと人気のある男子を選ぶと思ってたけど」
「別にわたしは肝試しでカップルになりたいなんて思ってないし」
「そうは言うけどさ、彼、大丈夫かな? 出発前に大人へ相談して、肝試しそのものが中止にされそうな気もするんだけど」
夜見川君を大して知らない志穂ちゃんが失礼全開の憶測をつぶやく。夜見川君を選んだのは大した理由じゃないのに、こうやって反対されると不思議なもので、意地でも彼をメンバーへと加えたくなる。
「彼はそんなことしないよ。それに、誰と行きたいか訊いたのは志穂ちゃんじゃない」
わたしがそう言うと志穂ちゃんは一瞬だけ目が点になって、時間差でニヤニヤとした笑いを浮かべる。
「あーそうですかー。なるほどね、亜衣ちゃんはああいう人がタイプなんだねえ?」
「いや、それは……そうじゃなくて、何て言うか、夜見川君あたりなら大して害もないだろうなって思っただけだよ」
自分でそう言ってから、わたしも結構ひどいことを口にしているなと思った。夜見川君に聞こえていないだろうかとチラ見すると、すでに彼はあさっての方向を見ていた。
視線を戻すと、小悪魔というよりはゲスっぽい笑みを浮かべた志穂ちゃんがこちらを見ていた。
「まあ、亜衣ちゃんはあたしの親友だし? あたしの人脈を使って、夜見川君を取り込むことだって出来るけど?」
「志穂ちゃん、さっきから悪役みたいになってるよ」
わたしがツッコむと、志穂ちゃんが悪代官のような笑みを浮かべたまま口を開く。
「まあ、あたしに任せておきなさい。あたしの人脈とこの計画があれば、ダブルデート成功間違いなし」
「あの……肝試しじゃなかったの?」
「とにかく、続報はすぐポケベルで送るから。亜衣ちゃんは大船に乗ったつもりで待っていてね」
そう言って一人で勝手に盛り上がった志穂ちゃんはどこかへ向かった。なんだったんだ、一体。
とはいえ、あんまり目立たない夜見川君をわたし達の肝試しに参加させるなんて可能なのだろうか。自分で言っておいて、もうちょっとハードルの低い人選にしてあげれば良かったなと思う。
夜見川君を見ると、いつものように何かの本を読んでいた。本好きの大人しい少年。そんな彼が、どちらかと言えばヤンチャな遊びに参加することなんてあるのかな?
まあ、別に夜見川君じゃなきゃダメな理由なんて何も無いし、彼が断わったらもうちょっとノリのいい男子に頼もう。
わたしだってクラスでモテていることぐらいは知ってるんだから。あとは気長に待っていよう。
9
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
黒に染まった華を摘む
馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。
高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。
「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」
そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。
彼女の名は、立石麻美。
昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。
この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。
その日の放課後。
明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。
塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。
そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。
すべてに触れたとき、
明希は何を守り、何を選ぶのか。
光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる