【完結】死んだあの子が会いに来ました

月狂 紫乃/月狂 四郎

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急接近する二人 Gaku

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 どうしてこうなった。

 植村志穂さんと手を繋いで、夜の峠を歩く。本当は俺手作りのインチキクジで上城亜衣さんとペアになるはずだったのに。

「竹川君、あたし怖いのって苦手だから何かあったら助けてね」
「え? ああ、ああ……」

 猫なで声の植村さんにテキトーな返事をする。その顔は控えめに言ってもアイドル級だ。だけど、俺が期待していたのはこの笑顔じゃない。

「今頃、夜見川と上城さんはどうしているかな?」

 暗闇の中を進みながら言う。夜見川・上城ペアとは時間差でのスタートになっており、コースも微妙に違う。理由はそうでもしないとすぐに四人が合流してしまうからだ。

 それがダメってわけじゃないけど、四人で騒がしく心霊スポットを歩いていくのでは肝試しにならない。だからゲーム性を活かすためにも、チームで別行動になるよう工夫がなされている。

 とは言っても、心霊スポットに幽霊がそうそう出てくるはずもなく、ただの深夜に散歩をしただけで終わる可能性も十分にある。当初の俺としては上城さんとくっつきたかっただけだから、それでも全然良かったんだが……。

「ねえ、竹川君。こんな夜道を二人っきりだなんて、なんかドキドキしちゃうよねえ」
「ああ、まあそうだね」

 ピッタリとコアラのようにくっついてくる植村さんはすっかり甘えモードに入っている。気分はいいんだけど、その一方でこの人が上城さんだったらという気持ちが無くも無い。

 二人で夜の峠を歩きながら雑談する。

「竹川君って、好きな人はいるの?」
「好きな人? まあ、それは、その……」
「え? マジで? 本当にいるの? ウソーどうしよう~?」

 暗闇の中で女性の人影が悶える。いや待て。まだ何も言ってないだろ。

「いいよ。あたしも竹川君のこと、気になってたの。これを機に、お互いお試し期間なんてどう?」
「いや、その……」
「ありがとう! それじゃああたしのこと、大切にしてね!」

 安西先生、試合終了です。俺は一言も発することなく、勝手に植村さんに告白したことになって受け入れられたらしい。

 そんな、バカな……。

 逆転されたセルのような俺の思いとは裏腹に、植村さんが甘える猫のように俺の腕に巻き付いてくる。

 もうこれは逃げられないんだろうか。いや、クラスのアイドルのような存在にそのような想いを抱くのも贅沢すぎるのかもしれないけど。

 そんなことを思っていると、また植村さんが口を開きはじめる。

「ねえ、このままだとゴールに着いちゃうね」
「うん、まあいいんじゃないか?」
「そんなのヤダよ。もっと、竹川君と一緒にいたいっていうか……」

 そう言って植村さんは俺の手を引く。見つめる目が月明かりで輝いていて、目が合うと思わずドキッとした。

「せっかくだからさ、もっと二人っきりになりたいな」

 そう言って手を引く植村さんは、海とは反対方向にある森を眺めていた。

「いや待て。遭難するぞ。なんかいるかもしれないし」
「深いところまで行かなければ大丈夫よ。お願い、今は二人っきりになりたいの」
「ええ~」

 そうは言いながらも、俺はなあなあで森の方へと引っ張られていく。別に俺は隠れて植村さんとエロいことがしたいわけでもないし、二人っきりになるんだったら海側の方が安全じゃないか? って思ったけど植村さんは問答無用で森の方へと進んでいく。

 夜の森、心霊スポット以前に猛獣が出てくるような気がする。熊に会ったらどうしよう。いや、ここいらで熊に遭遇したっていうニュースは聞いたことがないけど。

 とにかく、植村さんは誰にも見られないところで俺と二人っきりになりたいらしい。気持ちは分からないでもないけど、なんだか悪いことをしているみたいで落ち着かない。

 森に入って割とすぐに、休憩ポイントのような東屋あずまやがあった。屋根とベンチがあって、そこだけ木が刈られているお陰で夜空の星を見上げることが出来るようになっている。

 七夕はとっくに終わっているけど、夜空に輝く無数の星々の姿は圧巻だった。

「綺麗だな」
「でしょう? ここなら二人で素敵な時を過ごせるかと思って」

 そう言って植村さんが微笑む。無垢な笑顔に当てられて、思わずドキッとした。さっきまでの強引なやり方に面食らってはいたけど、考えてみれば植村さんはウチの中学で一番人気のある美少女だった。

 胸のペンダントが月明かりを反射している。その効果もあって、植村さんの姿はいつも以上に神秘的な感じがした。

「実は竹川君のこと、ずっと好きだったんだ」
「……そうだったんだな」
「あたしの気持ち、今まで気付いていた?」
「え? いや、まあ……なんていうか」
「ありがとう。ずっと両想いだったんだね、あたし達」

 勝手に会話を打ち切られてしまったけど、悪い気はしなかった。そうか、このクラスのアイドルはずっと俺のことが好きだったのか。不思議と愛されていると分かると、それを受け入れてあげたくなるものだ。やり方はだいぶ強引だったけど。

 でも、二人きりで夜道を歩いたり、お互いを気遣ったりする時間というものは本当に男女の距離を急激に縮めるものなのかもしれない。その証拠に植村さんとこの先もずっと一緒にいつづけることが、そう悪くないように感じはじめていた。

 ――もしかしたら、俺にとってのヒロインは上城亜衣ではなく植村志穂だったのか?

 今日の今日までは上城さんの方が好みだったけど、今なら……。

 そんなことを思った瞬間、植村さんの表情が急に歪んだ。

「ひっ……!」
「え? どうした?」

 植村さんは声も出ないようで、何かに対して非常に怯えていた。その指は、俺の背後を指し示しているようだった。

 嫌な予感。振り向きたくない。だけど、そうもいかない。俺はゆっくりと後ろを振り返った。

「えっ」

 東屋あずまやの屋根に、何かがぶら下がっている。全体的に白くて、ワンピースのような服。黒くて長い髪が風にそよいでいた。

「おい、これはマジの……」

 白い女性らしき何かは、虚ろな目で俺たちを見下ろしていた。
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