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コイバナ AI
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休みを挟んで学校へ行く。肝試しの余韻はまだ残っていた。
幽霊を見てしまった――そんなことを言っても、一体誰が信じてくれるだろう。それでも女性の霊を見たのはわたしだけじゃない。夜見川君にも「彼女」の存在ははっきりと認知されていた。
夜見川君からは本物の幽霊に会ったことは黙っているように言われたけど、なんだか秘密を共有しているみたいで嬉しかった。
給食後の昼休みになると、騒がしい教室で志穂ちゃんと雑談していた。話題はもちろんこの前の肝試し。わたしが幽霊を見たこともそうだけど、志穂ちゃんと竹川君が何があったのかも気になっていた。
それにしても、あの夜のことは何度振り返っても夢みたいに感じる。夜の峠でみんな一緒に笑い合ったこと、満天の星空とさざ波の音……。あの出来事が無ければ、わたし達の距離はここまで近くはならなかったんだろうと思う。
志穂ちゃんがちゃっかり手に入れた、余り物のゼリーを口にしながらニコニコと口を開く。
「ねえ、亜衣ちゃん。この前の肝試し、ほんっとに最高の思い出になったよね。中学生最後の夏にこれだけドキドキ出来るイベントにあえるなんて思わなかったよー」
「そうだね。わたしも楽しかった」
わたしは頷きながら、昨日のことを思い出す。幽霊のことはまだ胸にしまっているけど、彼女の言葉がずっと意識の片隅に残っていた。
好きな人と一緒にいられる時間を、大切に……。ありきたりにも聞こえて、それでいてどこか未来のわたしにとって大切な意味を持ちそうな言葉。これは何かの予言なのだろうか。そんな考えさえ浮かんでくる。
「亜衣ちゃん、大丈夫? なんか意識が飛んでるっぽいけど」
知らずに魂が遠いところへ出かけていると、志穂ちゃんに話しかけられて現実に引き戻される。
「あ、ごめん。なんか、ボーっとしてた」
「しょうがないよね。深夜まで起きていると、一日挟んだぐらいじゃ体のリズムがおかしいままの時もあるし」
天真爛漫な笑顔を見せる志穂ちゃんは、ナチュラルに庇護欲を刺激する無防備さがあった。だからこそ男子に一番人気なんだろうなと思う。
志穂ちゃんの笑顔を見ていると、彼女もあの夜に特別な経験をしたんだろうな、という風には思う。それが何かは分からないけど、志穂ちゃんにとっても何かが変わるきっかけになる夜だったに違いない。
わたしもあの夜について語ってみる。
「楽しかったよね、本当に。みんなでバカみたいに笑っちゃったし、普通に生きていたら、あんな思い出は作れないよね」
「だよね、だよね」
「それで、志穂ちゃんは竹川君と何かあったの? 再会した時、なんかすごくいい感じだったよね?」
わたしはずっと気になっていたことを口にしてみる。そうすると志穂ちゃんの目がキラキラ光った。なんか、そういう仕掛けのオモチャみたい。
「バレた?」
「うん、バレた。っていうか、隠す気ないよね?」
わたしがそう返すと、志穂ちゃんが「へへへ」って笑う。なんていうか、ニヤニヤが止まらない感じで。
「付き合うことになったの」
誰と、なんて訊く必要もない。どちらかと言えば「ああ、やっぱり」という感じで志穂ちゃんの言葉を聞いていた。
「あの、お化けの顔が印刷されたTシャツを見て悲鳴を上げたって話があったじゃない」
「ああ、あったね」
オチが分かったら「バカみたい」って言われそうな話。その間、わたし達は本物の幽霊に会っているんだけど。
「あれ自体はバカみたいって大笑いして終わったんだけどさ、その前に竹川君があたしのことを守ってくれたの」
「へえ」
あの竹川君が。まあ、元々正義感の強い男子だったし、想像するのは難しくない。
「何も言わないであたしを自分の後ろに下がらせて、自分は戦うつもりで身構えてたの。それを後ろから見ていたら『わーなにこれ、超カッコいい』って思っていて」
たしかに好きな人がそんなことをしてくれたら、嬉しくない女なんて一人もいないだろうなとは思う。そういうドラマみたいなことが本当に起こる星のもとに生まれている人なんだろうな。
なぜかヘコんでいるわたしをよそに、目をキラキラさせた志穂ちゃんが話を続ける。
「あたし、ついにこの前の夜道で告っちゃった!」
「え、マジで?」
思わず大きな声が出て、わたしはしまったとばかりに声を小さくする。教室が騒がしくて良かった。誰にも聞かれて……ないよね?
いきなり爆弾を落とした志穂ちゃんがさらに続ける。
「うん、本当だよ。それで竹川君も『まあ、いいよ』って照れながらOKしてくれた感じ」
「そうなの。……なんだか、本当にお幸せに」
「早い早い。まだ結婚させるなってーの」
そう笑いながらも、志穂ちゃんはまんざらでもなさそうな顔だった。
志穂ちゃんの頰がピンクに染まっている。彼女でも、照れる時ぐらいはあるみたい。そりゃそうなんだろうけど。
「でも、ありがとう、亜衣ちゃん。ホントにあの夜がなかったら、あたしも勇気出せなかったかもしれない。やっぱり、あのペンダントのご利益もあったのかな? 二人で一つになるアイテム、って言われてたし」
四人で持った月のペンダント。あの日から、お守りのように身に着けている。
わたしは胸元のそれを無意識に触る。
あの幽霊に出会ってから、これがただのペンダントだとは思えないような気がしてきていた。持っていると救われるというよりは、手放したら災いが起こるみたいな、そんな意味合いで。
幽霊の言葉と重なって、なんだか胸が疼く。あの時見た幽霊は、志穂ちゃんの恋をどこかから後押ししたのかな。そうだとすると、羨ましいような、恐ろしいような。いいとか悪いとか、白黒がはっきりとつかないものだってあるんだなって思いながら聞いていた。
何とも言えない気持ちになりながらも、わたしは口を開く。
「そうだね、もしかしたらペンダントのご利益かも。志穂ちゃんの恋が叶って良かったよ」
「うんうん、そうだよね。ありがとう、亜衣ちゃん」
「……わたしもペンダントのおかげで、これからいいことがあるかも」
控えめにそう言うと、志穂ちゃんが目を輝かせながらわたしの顔を覗き込む。
「ねえ亜衣ちゃん、夜見川君とはどうなの? 昨日の夜、なんか二人ともチラチラ目が合ってたよね? もしかして、そっちもいい感じ?」
不意打ちのような言葉に、思わずドキッとする。夜見川君の横顔、手の温もり、守ってくれた背中……。考えてみたら、志穂ちゃんと恋に落ちたシチュエーションはほとんど同じだ。わたしの場合は、本物の幽霊に会ったわけだけど。
――わたし、本当に夜見川君が好きになっちゃったの?
あらためてそれを考えると、胸が熱くなり、言葉が詰まる。頰がカッと熱を持つのが自分でも分かる。
「え、えっと……そんな、別に……」
志穂ちゃんがニヤニヤしながら、わたしの肩をつつく。
「亜衣ちゃんが照れてるー! 絶対何かあったでしょ? 教えてよ、亜衣ちゃんの恋バナ!」
「ちょっと、声が大きいって」
わたしは慌てて志穂ちゃんを止める。クラスのアイドルがそんな話をしていたら、注目を集めないはずがない。
心臓がバクバクして、言葉が出ない。どうしてたった一言でここまで心が揺れ動くのか。
好きかも、何てまだ自分でも心の整理がつかないのに。志穂ちゃんの視線が拷問のように感じられて、今すぐにでも逃げ出したくなる。
「ご、ごめん。午後の授業前にトイレに行ってくるね」
そう言って、教室を飛び出す。誰が見ても分かるぐらい、わたしは露骨に逃げ出した。恥ずかしくて振り返れない。
早歩きで廊下を歩きながら、教室からなるべく早く遠ざかる。死ぬかと思った。いや、そんなことで死ぬはずがないんだけど。
歩きながら制服に隠れたペンダントをそっと握る。あの夜の言葉が、また胸に響く。あの幽霊は、わたしの未来や心までが見えていたの?
そうだとすれば、彼女には一体何が見えていたのだろう?
学校のチャイムが鳴りはじめる。トイレに行く時間はもうない。だからわたしが逃げたことはとっくにバレている。戻ったら志穂ちゃんとどんな顔で会えばいいんだろう。その場に夜見川君がいなくて良かった。
まだ中学校生活は半年ある。この気持ち、どうしようかな。
あの時の夜見川君を思い浮かべて、頰がまた熱くなる。きっと今日も、その横顔をチラチラ見てしまうんだろうな。
幽霊を見てしまった――そんなことを言っても、一体誰が信じてくれるだろう。それでも女性の霊を見たのはわたしだけじゃない。夜見川君にも「彼女」の存在ははっきりと認知されていた。
夜見川君からは本物の幽霊に会ったことは黙っているように言われたけど、なんだか秘密を共有しているみたいで嬉しかった。
給食後の昼休みになると、騒がしい教室で志穂ちゃんと雑談していた。話題はもちろんこの前の肝試し。わたしが幽霊を見たこともそうだけど、志穂ちゃんと竹川君が何があったのかも気になっていた。
それにしても、あの夜のことは何度振り返っても夢みたいに感じる。夜の峠でみんな一緒に笑い合ったこと、満天の星空とさざ波の音……。あの出来事が無ければ、わたし達の距離はここまで近くはならなかったんだろうと思う。
志穂ちゃんがちゃっかり手に入れた、余り物のゼリーを口にしながらニコニコと口を開く。
「ねえ、亜衣ちゃん。この前の肝試し、ほんっとに最高の思い出になったよね。中学生最後の夏にこれだけドキドキ出来るイベントにあえるなんて思わなかったよー」
「そうだね。わたしも楽しかった」
わたしは頷きながら、昨日のことを思い出す。幽霊のことはまだ胸にしまっているけど、彼女の言葉がずっと意識の片隅に残っていた。
好きな人と一緒にいられる時間を、大切に……。ありきたりにも聞こえて、それでいてどこか未来のわたしにとって大切な意味を持ちそうな言葉。これは何かの予言なのだろうか。そんな考えさえ浮かんでくる。
「亜衣ちゃん、大丈夫? なんか意識が飛んでるっぽいけど」
知らずに魂が遠いところへ出かけていると、志穂ちゃんに話しかけられて現実に引き戻される。
「あ、ごめん。なんか、ボーっとしてた」
「しょうがないよね。深夜まで起きていると、一日挟んだぐらいじゃ体のリズムがおかしいままの時もあるし」
天真爛漫な笑顔を見せる志穂ちゃんは、ナチュラルに庇護欲を刺激する無防備さがあった。だからこそ男子に一番人気なんだろうなと思う。
志穂ちゃんの笑顔を見ていると、彼女もあの夜に特別な経験をしたんだろうな、という風には思う。それが何かは分からないけど、志穂ちゃんにとっても何かが変わるきっかけになる夜だったに違いない。
わたしもあの夜について語ってみる。
「楽しかったよね、本当に。みんなでバカみたいに笑っちゃったし、普通に生きていたら、あんな思い出は作れないよね」
「だよね、だよね」
「それで、志穂ちゃんは竹川君と何かあったの? 再会した時、なんかすごくいい感じだったよね?」
わたしはずっと気になっていたことを口にしてみる。そうすると志穂ちゃんの目がキラキラ光った。なんか、そういう仕掛けのオモチャみたい。
「バレた?」
「うん、バレた。っていうか、隠す気ないよね?」
わたしがそう返すと、志穂ちゃんが「へへへ」って笑う。なんていうか、ニヤニヤが止まらない感じで。
「付き合うことになったの」
誰と、なんて訊く必要もない。どちらかと言えば「ああ、やっぱり」という感じで志穂ちゃんの言葉を聞いていた。
「あの、お化けの顔が印刷されたTシャツを見て悲鳴を上げたって話があったじゃない」
「ああ、あったね」
オチが分かったら「バカみたい」って言われそうな話。その間、わたし達は本物の幽霊に会っているんだけど。
「あれ自体はバカみたいって大笑いして終わったんだけどさ、その前に竹川君があたしのことを守ってくれたの」
「へえ」
あの竹川君が。まあ、元々正義感の強い男子だったし、想像するのは難しくない。
「何も言わないであたしを自分の後ろに下がらせて、自分は戦うつもりで身構えてたの。それを後ろから見ていたら『わーなにこれ、超カッコいい』って思っていて」
たしかに好きな人がそんなことをしてくれたら、嬉しくない女なんて一人もいないだろうなとは思う。そういうドラマみたいなことが本当に起こる星のもとに生まれている人なんだろうな。
なぜかヘコんでいるわたしをよそに、目をキラキラさせた志穂ちゃんが話を続ける。
「あたし、ついにこの前の夜道で告っちゃった!」
「え、マジで?」
思わず大きな声が出て、わたしはしまったとばかりに声を小さくする。教室が騒がしくて良かった。誰にも聞かれて……ないよね?
いきなり爆弾を落とした志穂ちゃんがさらに続ける。
「うん、本当だよ。それで竹川君も『まあ、いいよ』って照れながらOKしてくれた感じ」
「そうなの。……なんだか、本当にお幸せに」
「早い早い。まだ結婚させるなってーの」
そう笑いながらも、志穂ちゃんはまんざらでもなさそうな顔だった。
志穂ちゃんの頰がピンクに染まっている。彼女でも、照れる時ぐらいはあるみたい。そりゃそうなんだろうけど。
「でも、ありがとう、亜衣ちゃん。ホントにあの夜がなかったら、あたしも勇気出せなかったかもしれない。やっぱり、あのペンダントのご利益もあったのかな? 二人で一つになるアイテム、って言われてたし」
四人で持った月のペンダント。あの日から、お守りのように身に着けている。
わたしは胸元のそれを無意識に触る。
あの幽霊に出会ってから、これがただのペンダントだとは思えないような気がしてきていた。持っていると救われるというよりは、手放したら災いが起こるみたいな、そんな意味合いで。
幽霊の言葉と重なって、なんだか胸が疼く。あの時見た幽霊は、志穂ちゃんの恋をどこかから後押ししたのかな。そうだとすると、羨ましいような、恐ろしいような。いいとか悪いとか、白黒がはっきりとつかないものだってあるんだなって思いながら聞いていた。
何とも言えない気持ちになりながらも、わたしは口を開く。
「そうだね、もしかしたらペンダントのご利益かも。志穂ちゃんの恋が叶って良かったよ」
「うんうん、そうだよね。ありがとう、亜衣ちゃん」
「……わたしもペンダントのおかげで、これからいいことがあるかも」
控えめにそう言うと、志穂ちゃんが目を輝かせながらわたしの顔を覗き込む。
「ねえ亜衣ちゃん、夜見川君とはどうなの? 昨日の夜、なんか二人ともチラチラ目が合ってたよね? もしかして、そっちもいい感じ?」
不意打ちのような言葉に、思わずドキッとする。夜見川君の横顔、手の温もり、守ってくれた背中……。考えてみたら、志穂ちゃんと恋に落ちたシチュエーションはほとんど同じだ。わたしの場合は、本物の幽霊に会ったわけだけど。
――わたし、本当に夜見川君が好きになっちゃったの?
あらためてそれを考えると、胸が熱くなり、言葉が詰まる。頰がカッと熱を持つのが自分でも分かる。
「え、えっと……そんな、別に……」
志穂ちゃんがニヤニヤしながら、わたしの肩をつつく。
「亜衣ちゃんが照れてるー! 絶対何かあったでしょ? 教えてよ、亜衣ちゃんの恋バナ!」
「ちょっと、声が大きいって」
わたしは慌てて志穂ちゃんを止める。クラスのアイドルがそんな話をしていたら、注目を集めないはずがない。
心臓がバクバクして、言葉が出ない。どうしてたった一言でここまで心が揺れ動くのか。
好きかも、何てまだ自分でも心の整理がつかないのに。志穂ちゃんの視線が拷問のように感じられて、今すぐにでも逃げ出したくなる。
「ご、ごめん。午後の授業前にトイレに行ってくるね」
そう言って、教室を飛び出す。誰が見ても分かるぐらい、わたしは露骨に逃げ出した。恥ずかしくて振り返れない。
早歩きで廊下を歩きながら、教室からなるべく早く遠ざかる。死ぬかと思った。いや、そんなことで死ぬはずがないんだけど。
歩きながら制服に隠れたペンダントをそっと握る。あの夜の言葉が、また胸に響く。あの幽霊は、わたしの未来や心までが見えていたの?
そうだとすれば、彼女には一体何が見えていたのだろう?
学校のチャイムが鳴りはじめる。トイレに行く時間はもうない。だからわたしが逃げたことはとっくにバレている。戻ったら志穂ちゃんとどんな顔で会えばいいんだろう。その場に夜見川君がいなくて良かった。
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