【完結】死んだあの子が会いに来ました

月狂 紫乃/月狂 四郎

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下校時の夕暮れ AI

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 ホームルームが終わると、掃除をしてから志穂ちゃんと一緒に下校する。放課後の風もだいぶ涼しくなって、秋を感じる。

 志穂ちゃんはいつものように元気で、付き合うことを明かしたせいもあってか恋バナの続きを延々と話してくる。竹川君の照れた顔の話とか、今日の昼休みにポケベルで来たメッセージの話とか。いつもだと糖分高めで「もういいです」って言いたくなるような話も、今日は聞いてるだけで胸がざわつく。

「ねえ亜衣ちゃん。竹川君、今日の部活終わりに待ち合わせだって。楽しみー!」

 志穂ちゃんが浮かれてスキップしている。私は笑って頷くけど、心の中では夜見川君の横顔がチラチラ浮かんでくる。今日も気付けば彼を盗み見していた。彼の席は後ろにあるから見にくくて大変なんだけど、気付かれてないよね……?

 そんなことを考えていると、前方から見覚えのあるシルエットが近付いて来るのが見えた。夜見川君だ。志穂ちゃんが子犬みたいに走りだして、夜見川君を呼び止める。

「え、夜見川君じゃん。偶然だね」

 なんだか芝居くさい志穂ちゃんが声をかけると、夜見川君は表情を変えずに立ち止まる。クールっていうよりは無感動というか、この世界からちょっと離れたところで生きている人みたいな感じがする。

 夜見川君と目が合って、どうしたらいいか分からなくてとりあえず笑顔を作る。誰にでも臆さずに向かっていける志穂ちゃんが羨ましい。

「よう、これから帰りか?」
「うん。竹川君は部活で遅くなるから、二人で帰ろうって話してたの。夜見川君も一緒に帰ろう。三人で話しながら帰ろうよ」

 ものすごく自然な流れで三人での帰宅が決まった。夜見川君も嫌そうではなかったけど、こうやって断られずに仲良く帰る流れを作り出す志穂ちゃんってやっぱりすごいなって思う。

 帰り道の住宅街は夕陽がオレンジに染まって、なんだか少し特別な感じがする。この前の思い出もあって、その景色を見ているだけで青春している感じがしなくもない。三人で並んで歩くと、自然と先日の肝試しの話題になった。

「この前の肝試し、超ドキドキしたよね。竹川君が守ってくれた話、亜衣ちゃんにももっと詳しく話そうかなー?」

 志穂ちゃんがニヤニヤしながらわたしをヒジでつつく。なんだかからかわれているようで、わたしは慌てて「いや、いいよ。もう聞いたもん」と返す。視界の端で夜見川君がクスッと笑うのが見えて、それだけで胸が跳ねた。

「俺たちはうるさい二人がいないせいで静かだった。それもあって怖かったよ。上城が道草食うから、余計に時間かかったしな」

 微妙に事実を改変してくれる夜見川君に感謝しながら、「えーわたしのせい?」と笑い返す。

「道草って何してたの? 二人きりでイチャイチャ?」
「そんなわけないだと。お前と岳のバカップルじゃないんだからさ」

 夜見川君の返しで、三人で大笑いする。それからも夜の峠の話が、次々と出てくる。星空の綺麗さとか、お揃いのペンダントの話とか……。幽霊のことは、もちろん触れない。秘密の共有が二人だけの絆みたいで嬉しかった。

 肝試しの話題で盛り上がっているうちに、志穂ちゃんが急に立ち止まる。志穂ちゃんの家はわたし達のよりも学校の近くにある。

「あ、あたしはここで。じゃあね、二人とも。また明日!」

 志穂ちゃんが手を振って、振り返らずにスキップ気味に去っていく。あ、ちょっと待って……。わたしは思わず「志穂ちゃん」と呼びかけるけど、彼女は聞こえないといった風に帰って行く。いや、絶対に聞こえてたよね? わたしの声。

 これ、もしかして夜見川君と一緒になるように仕組まれた?

 確証は持てないけど、志穂ちゃんならそれぐらいやりそうな気もする。

 残されたわたしと夜見川君。急に、道が静かになる。さっきまでの賑やかさが嘘みたいで、気まずさがじわじわ広がる。

 夕陽が長く影を伸ばす。わたしはどうすればいいか分からず、地面に伸びた二人の影をじっと見つめていた。

 沈黙が続くと、夜見川君が先に口を開いた。

「岳の奴、部活で遅くなるって言ってたよな。植村も後から迎えにでも行くのか?」
「うん、そうみたい……。志穂ちゃん、急にいなくなっちゃったね」

 わたしは夜見川君を直視出来ず、地面を眺めながら答える。夜見川君の横顔が、夕陽で赤く染まってる。おとといの記憶がよみがえって、胸がドキドキしてきた。……手を、繋ぎたいかも。そう思ってから、恥ずかしくなって頭を振る。

 気まずい沈黙を埋めるように、夜見川君が小さな声で話しはじめる。

「昨日の夜、楽しかったよな。星空は綺麗だったし……。上城があんなに笑うのも初めて見た気がする」

 その言葉に、わたしはびっくりして顔を上げる。夜見川君の目が、真っ直ぐわたしを見ていて、顔が熱くなる。

「そ、そう? わたしも……夜見川君が守ってくれた時、ドキドキしたよ。ありがとう、ほんとに」

 言葉が、つい本音っぽく出てしまう。繋いだ手の温もり、幽霊の言葉……。勢いで好きって言っちゃいそうになって、慌てて口を閉じる。油断して死ぬところだった。

一人で慌てるわたしをよそに、夜見川君が少し照れたように笑う。

「いや、普通だろ。あの状況じゃ、誰だってそうするさ。でも、俺も楽しかったよ。来年も、みんなでまた行こう。たとえ、違う高校へ行くことになっても」

 その笑顔に、胸がきゅっと締まる。来年も……。そんな未来を想像すると、嬉しいのに、少し寂しい。言葉が出なくて、私はただ頷く。

 分かれ道が来て、夜見川君が手を振る。

「じゃあな。また明日」

 わたしはこみ上げる切なさに耐えながら、なんとか手を振り返した。

 ああ、ダメだ。やっぱり分かっていたけど、疑いようもない。

 ――わたしは、夜見川君のことが好きなんだ。もうどうしようもないぐらいに。

 残された道を一人で歩きながら、あの夜を回顧する。きっとあの時間は、この先の人生で最も繰り返される記憶になるだろう。こういう時間を、もっと大切にしなきゃ。

 さて、明日はどうしようか。

 きっと明日も、夜見川君の横顔をチラチラ見てしまうんだろうな。
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