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王様ゲーム AI
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翌日の放課後、わたし達は志穂ちゃんの家に遊びに来た。つまりは竹川君と夜見川君も誘って四人で集まることになったんだけど……なんだか、志穂ちゃんの目がキラキラしすぎていてちょっと怖い。なんて言うか、いたずらっ子が何かよろしくないことを考えているって感じで。
昨日下校する時の「偶然」もなんだか怪しいし、今日も何か企んでる気がする。
志穂ちゃんの家はお金持ちって聞いたことがあるけど、いざその家に来てみるとたしかにセレブ感というか、いかにも高い家具を揃えていますって感じだった。
リビングのテレビも大きいし、家族でかけるテーブルも高そうな木材で作られていて、表面が磨き上げられている。あれって紫檀って言うんだっけ? テレビでしか見たことが無いからあんまり知らないけど。
志穂ちゃんの部屋に入ると可愛いクッションがいっぱいで、床に座布団を敷いてみんなで輪になる。竹川君が持ちこんだジュースを紙コップに入れて配り、夜見川君は無駄にクールな感じで座っている。
わたしは志穂ちゃんの隣で、少し緊張しながら高そうなお菓子を摘む。昨日の夕陽に照らされた帰り道のことを思い出すと、なんだか頰が熱くなる。
だけど、すぐにそんなことを気にしている場合ではなかったと気付かされる。志穂ちゃんはジュースを飲むと、アルコールも入っていないのに目がすわっている感じになる。
「よーし、みんな集まった。せっかくだからゲームしようよ。王様ゲーム」
「えー?」
あまりにも唐突な流れに、わたしは思わず不服の声を漏らす。
志穂ちゃんはそんなわたしのことを気にもせず、王様ゲームの説明をはじめる。
「これからクジを引いて、王様を引いた人が命令を出すの。ルールはそれだけ。とっても簡単。でも、王様の言ったことには絶対に従わないといけない。いい?」
「いや待て、死ねって言われても俺は死ぬ気はないぞ」
「はい出ました極端な意見。そんな命令出すわけがないでしょ? あくまでゲームとして成立する命令だけ。そんなこと、いちいち言わせないでよね」
夜見川君の言葉に、志穂ちゃんがわざとらしく肩をすくめる。牽制の意味合いが強かったのか、夜見川君もそれ以上は言い返さなかった。
でも、さすがに死んだりはしないだろうけど、負けたら何をやらされるんだろう? そう考えると、少し怖くなった。
竹川君は乗り気で、「いいね、盛り上がりそう」と楽しみにしている感じだった。夜見川君もさっきので気が済んだのか、「まあ、いいけど」とだけ答えて、それ以上は何も言わなかった。
ここでわたしは、ふと嫌な考えが降ってきたことに気付く。
「これってさ、きわどい命令とかはないよね?」
「大丈夫だよ。もちろん軽めで」
志穂ちゃんが任せとけとばかりに微笑むけど、その自信が逆に怖い。ひとまず、人生初の王様ゲームが始まった。
最初の命令は無難だった。竹川君が王様で「一番がジュース飲む」と言い出した。いや、さっきから飲んでるじゃん。しょうもなさすぎる命令を出したせいで、みんな力が抜ける。
「岳、さすがにそれは無いわ」
珍しく夜見川君がツッコんで、みんなで笑った。でも、こんな命令でいいんだったら全然怖くないかも。
次の王様は志穂ちゃんだった。
「三番がみんなにお菓子配る!」
三番はわたしだったので、そんな命令でホッとする。夜見川君が王様の時も、「二番が面白い顔して」と軽い命令で、竹川君が変顔したらみんなで大笑いになった。
まあ、中学生の王様ゲームなんてこんなもんだよねと思っていると、志穂ちゃんが二回目の王様を引いて空気が変わる。なんかニヤニヤしているし、嫌な予感……。
「よーし、じゃあ王様の命令。一番と四番が、手を繋いで部屋を一周!」
クジはわたしが一番で夜見川君が四番だった。
え、待って……。急に鼓動が高まっていく。顔をあげると、いたずらっぽい笑みを浮かべた志穂ちゃんと目が合ってドキっとした。
志穂ちゃんの目がどこか意味ありげに輝いてる。竹川君が「おー、いいね!」と茶化す中、わたしは顔を赤くして夜見川君を見た。彼も少し照れくさそうな顔をしてから、「じゃあ、行くか」と手を差し出す。
その手が温かくて、昨日の下校時を思い出す。心臓の鼓動はますます早くなっていく。
夜見川君の手を握る。その瞬間に胸がドキドキして、歩くのもぎこちない。部屋を一周する間、志穂ちゃんが「かわいいー!」と拍手して、竹川君が「夜見川、意外と積極的じゃん」と笑っていた。なんだか、見せ物にでもされている気分。まあ、それが罰ゲームなんだろうけど。
トクトクと早くなる心音が、夜見川君の手を通じてバレてしまうのではないかと心配になる。
夜見川君の手は少し汗ばんでいて、それが嫌っていうよりも好きって気持ちの方が圧倒的に勝ってしまう。他の人なら絶対にそんなことは思わないのに。
たかだか手を繋いで歩き回るだけで、一日分のエネルギーでも使い果たしたような気分になった。重圧から解放された瞬間、全身にどっと疲れが押し寄せる。
だけど、王様ゲームはまだ終わらない。
次は竹川君の王様になった。なんだか気持ち志穂ちゃんと同じ悪代官みたいな顔になっていて、わたしの中で嫌な予感がジワジワと沸いてくる。
「ふっふっふ。俺もさっきのを超える命令を出してやるぞ。覚悟しろよ、夜見川と上城さん」
「ようし、シャイな二人が一気にくっついちゃいそうなとびっきりの命令を出してやりなさい!」
悪ノリした志穂ちゃんが竹川君を煽る。ちょ……やめて。クラスのアイドルは知らぬ間にすっかり悪役キャラの人格に変わっている。
さっきのを超える命令って……。ねえ、竹川君。あなたはわたし達になにをさせるつもりなの?
そんなことを思っていると、竹川君が命令を発表する。
「ようし、それじゃあ二番が王様の膝に頭を乗せて休憩」
「いや、あたしなんだけど」
志穂ちゃんが即答して、みんなで爆笑になった。
「まったくもう。これがやりたかったんでしょう?」
志穂ちゃんが竹川君の膝に頭を乗せて、「うーん、固いからあんまり快適とは言えない感じ」と苦笑いする。当の竹川君は顔が真っ赤になっていた。
「もうちょっと真ん中の方がいいかも」
「バ……アホ、やめろ。膝枕じゃなくなるだろ!」
みんなでまた大笑いする。たしかに、膝と膝の間にはもうちょっと柔らかいものがあるけど。
恥ずかしいなりにそんな会話が出来て羨ましいな。わたしはそんなことにですら嫉妬を覚えてしまう。
そんな中、今度は志穂ちゃんの三回目を引く。
「一番と二番が、十秒間すっごく近くで見つめ合って」
それを聞いた瞬間、またわたしの心臓が跳ねる。
クジを見ると、夜見川君が一番でわたしが二番だった。夜見川君と目が合って、心臓が止まりそうになる。
「はいはい、じゃあスタートで!」
準備する間もなく、わたし達は勝手に目が合ってしまう。夜見川君の瞳が、真っ直ぐで、ドキドキが止まらない。
たったの十秒が永遠みたいで、一気に頰が熱くなる。視線を逸らしたくなるのに、逸らせない。油断すれば、好きって言っちゃいそう……。ようやく時間いっぱいやりきって解放されるけど、高鳴った心臓が鳴り止まない。あのままいけば心臓発作で死んじゃったかもしれない。
だけど、悪ノリした志穂ちゃん&竹川君コンビは止まらない。
次は竹川君が王様になって極めつけの命令を出す。
「それじゃあ、二番と三番がポッキーゲームだ」
「ポッキーゲーム?」
意味の分からなかったわたしはオウム返しに訊き返す。
「簡単に言えばな、ポッキーゲームっていうのは二人でポッキーの端と端をくわえて、お互いがポッキーを食べ進めていく遊びだ」
え? えええええ~!?
何その恥ずかしすぎる遊び。そ、そんなの……いやらしすぎるよ!
わたしはゲームの聞いただけで顔が熱くなった。そんなエッチなゲーム、許されるの?
そんな思いも知らずに、竹川君が続きを言う。
「勝敗は先に口を離した方が負けになる。言ってみればチキンレースみたいなものだな」
わたしと夜見川君は思わず見つめ合う。わたしの持っているクジは三番。夜見川君が二番を持っていた。
「わーこれ、ワクワクするね」
これは、早々にわたしの方から口を離して負けにいくしかない。だってそうしないと、キス……いやいや、その先は考えたくない。
そんなわたしの心を読んだ志穂ちゃんが言う。
「それでさ、負けた方が勝った方にチューするようにしよう」
「待ってよ、志穂ちゃんが王様じゃないでしょ?」
「そうだったな。それじゃあその案を採用しようか」
竹川君が志穂ちゃんと組んで、わたし達を絶望の底に突き落とそうとする。
負けた方が勝った人にチュー? それって、もちろん頬っぺただよね?
もう、心臓が高速のドラムみたいにドコドコ言ってるよ。どうすんのこれ。心臓発作で死んじゃいそう。
「ほらほら、観念してさっさとやりな」
一番クジを引いた志穂ちゃんは完全に他人事だった。このクジ、なんだか裏がある気がする……。
だけど、これと言って明白な証拠が無い以上、わたしもその命令に従うしかない。ふと見やると、ものすごく真面目な顔でポッキーをくわえた夜見川君が視界に映った。
また血液が顔面に集まっていく。恥ずかしいなんてものじゃない。こんなの、誰が相手だってこうなるに決まっているじゃない。どうしろって言うの……?
「はい、ポッキー、ポッキー」
志穂ちゃんが謎のポッキーコールをやりはじめる。もう逃げることは出来ない。
「んん」
ポッキーをくわえた夜見川君がわたしを促す。言葉は発せずとも「安心しろ」って言われたような気がした。そんな気がしただけだけど。
もうわたしも覚悟を決めるしかない。死ぬほど近い距離で、反対側のポッキーをくわえる。
顔がすごく近い。目を合わせられない。なんなの、これ。
「はい、じゃあスタート!」
用意する間もなく、志穂ちゃんがゲームをスタートさせる。うう、ひどい。チラっと夜見川君を見ると、ガッツリと目が合ってしまった。
「※&%*!!」
自分でも意味の分からない声が漏れるけど、ポッキーから口を離すわけにはいかない。負けたらわたしから夜見川君にチュー。それは……それは恥ずかしすぎる。無理。
ええい、もうなるようになれ!
そう思って目をつぶりながらシャリシャリとポッキーをかじっていくと、唇に柔らかい感触がした。
え? って思って目を開くと、さっきよりも近くなった夜見川君が驚きに目を見開いている。
すぐ横に座って両手で口を押さえている志穂ちゃん。王様の竹川君もお口をあんぐりと開けていた。
それもそのはず。わたしと夜見川君の唇は、ポッキーを食べ尽くして思いっきりくっついていた。
「※&%*※&%*※&%*※&%*※&%*!!」
お互いに変な声を出してパニックになる。
嘘でしょ……?
キス……しちゃった。夜見川君と……。
あまりにも突然のファーストキスに、わたしは理解が追い付かない。
ちょっと待って。なんでこんなことになってるの? いや、わたしがポッキーをすごい勢いで食べ尽くしたからか。いや、でもちょっと待って。ファーストキスって、もっとこう、ロマンチックで二人の唇が徐々に近付いてって感じじゃあ……ああああああ!
「ちょ、落ち着いて、亜衣ちゃん!」
意味不明な言語で錯乱状態へと陥ったわたしを志穂ちゃんが必死になって止める。パニックになっているのはわたしの方なのに、こんなに焦っている志穂ちゃんを見るのも初めてな気がした。
「落ち着いて。深呼吸ね、深呼吸」
そう言って志穂ちゃんはわたしの背中をさする。うう……わたし、完全に暴れた酔っ払いみたいに扱われている。
どうしてか涙がこぼれ落ちてくる。それがどこから来るものなのかも分からないけど、ただひたすらに悔しかった。
「ううー、えーん」
「ほらほら、良い子は泣かないの」
泣いているわたしを母親のように慰める志穂ちゃん。なんだこの絵。本当のわたしは、この図を幽体離脱で離れたところから見下ろして呆れている。
ひとしきり泣くと、ようやくわたしのメンタルが落ち着いてきた。鼻水まで出てきて、手渡されたティッシュにチーンと鼻をかむと、また新たに鼻水が出てくる。何から何までが最悪だった。
「夜見川君、これは責任を取らないといけないね」
真顔の志穂ちゃんが、静かなトーンで言う。視界の端に映る夜見川君が珍しく驚いた顔になる。
「ちょっと待て、俺は何も」
「亜衣ちゃんの唇を奪っておいてそれはないんじゃない? 男なら男らしく責任を取りなよ」
「理不尽過ぎる……」
夜見川君の声は消え入りそうだった。
「夜見川君、必ず亜衣ちゃんを幸せにして。絶対だよ」
「……はい」
最後の言葉はほとんど聞こえなかった。返事こそイエスだけど、ほぼほぼ志穂ちゃんに押し切られて言わされた感じがあった。かわいそうだな、と冷静な方の人格が言う。
わたしはいまだに理由の分からない涙をまだ流し続けていたけど、無理にでも夜見川君がそんなことを言ってくれたのがどこか嬉しかった。
だからどこからかはうれし涙もあったのかもしれないけど、今になってもなんで泣いていたのかは分からない。きっと、それが中学生の乙女心ってやつなんだろうなって思う。
昨日下校する時の「偶然」もなんだか怪しいし、今日も何か企んでる気がする。
志穂ちゃんの家はお金持ちって聞いたことがあるけど、いざその家に来てみるとたしかにセレブ感というか、いかにも高い家具を揃えていますって感じだった。
リビングのテレビも大きいし、家族でかけるテーブルも高そうな木材で作られていて、表面が磨き上げられている。あれって紫檀って言うんだっけ? テレビでしか見たことが無いからあんまり知らないけど。
志穂ちゃんの部屋に入ると可愛いクッションがいっぱいで、床に座布団を敷いてみんなで輪になる。竹川君が持ちこんだジュースを紙コップに入れて配り、夜見川君は無駄にクールな感じで座っている。
わたしは志穂ちゃんの隣で、少し緊張しながら高そうなお菓子を摘む。昨日の夕陽に照らされた帰り道のことを思い出すと、なんだか頰が熱くなる。
だけど、すぐにそんなことを気にしている場合ではなかったと気付かされる。志穂ちゃんはジュースを飲むと、アルコールも入っていないのに目がすわっている感じになる。
「よーし、みんな集まった。せっかくだからゲームしようよ。王様ゲーム」
「えー?」
あまりにも唐突な流れに、わたしは思わず不服の声を漏らす。
志穂ちゃんはそんなわたしのことを気にもせず、王様ゲームの説明をはじめる。
「これからクジを引いて、王様を引いた人が命令を出すの。ルールはそれだけ。とっても簡単。でも、王様の言ったことには絶対に従わないといけない。いい?」
「いや待て、死ねって言われても俺は死ぬ気はないぞ」
「はい出ました極端な意見。そんな命令出すわけがないでしょ? あくまでゲームとして成立する命令だけ。そんなこと、いちいち言わせないでよね」
夜見川君の言葉に、志穂ちゃんがわざとらしく肩をすくめる。牽制の意味合いが強かったのか、夜見川君もそれ以上は言い返さなかった。
でも、さすがに死んだりはしないだろうけど、負けたら何をやらされるんだろう? そう考えると、少し怖くなった。
竹川君は乗り気で、「いいね、盛り上がりそう」と楽しみにしている感じだった。夜見川君もさっきので気が済んだのか、「まあ、いいけど」とだけ答えて、それ以上は何も言わなかった。
ここでわたしは、ふと嫌な考えが降ってきたことに気付く。
「これってさ、きわどい命令とかはないよね?」
「大丈夫だよ。もちろん軽めで」
志穂ちゃんが任せとけとばかりに微笑むけど、その自信が逆に怖い。ひとまず、人生初の王様ゲームが始まった。
最初の命令は無難だった。竹川君が王様で「一番がジュース飲む」と言い出した。いや、さっきから飲んでるじゃん。しょうもなさすぎる命令を出したせいで、みんな力が抜ける。
「岳、さすがにそれは無いわ」
珍しく夜見川君がツッコんで、みんなで笑った。でも、こんな命令でいいんだったら全然怖くないかも。
次の王様は志穂ちゃんだった。
「三番がみんなにお菓子配る!」
三番はわたしだったので、そんな命令でホッとする。夜見川君が王様の時も、「二番が面白い顔して」と軽い命令で、竹川君が変顔したらみんなで大笑いになった。
まあ、中学生の王様ゲームなんてこんなもんだよねと思っていると、志穂ちゃんが二回目の王様を引いて空気が変わる。なんかニヤニヤしているし、嫌な予感……。
「よーし、じゃあ王様の命令。一番と四番が、手を繋いで部屋を一周!」
クジはわたしが一番で夜見川君が四番だった。
え、待って……。急に鼓動が高まっていく。顔をあげると、いたずらっぽい笑みを浮かべた志穂ちゃんと目が合ってドキっとした。
志穂ちゃんの目がどこか意味ありげに輝いてる。竹川君が「おー、いいね!」と茶化す中、わたしは顔を赤くして夜見川君を見た。彼も少し照れくさそうな顔をしてから、「じゃあ、行くか」と手を差し出す。
その手が温かくて、昨日の下校時を思い出す。心臓の鼓動はますます早くなっていく。
夜見川君の手を握る。その瞬間に胸がドキドキして、歩くのもぎこちない。部屋を一周する間、志穂ちゃんが「かわいいー!」と拍手して、竹川君が「夜見川、意外と積極的じゃん」と笑っていた。なんだか、見せ物にでもされている気分。まあ、それが罰ゲームなんだろうけど。
トクトクと早くなる心音が、夜見川君の手を通じてバレてしまうのではないかと心配になる。
夜見川君の手は少し汗ばんでいて、それが嫌っていうよりも好きって気持ちの方が圧倒的に勝ってしまう。他の人なら絶対にそんなことは思わないのに。
たかだか手を繋いで歩き回るだけで、一日分のエネルギーでも使い果たしたような気分になった。重圧から解放された瞬間、全身にどっと疲れが押し寄せる。
だけど、王様ゲームはまだ終わらない。
次は竹川君の王様になった。なんだか気持ち志穂ちゃんと同じ悪代官みたいな顔になっていて、わたしの中で嫌な予感がジワジワと沸いてくる。
「ふっふっふ。俺もさっきのを超える命令を出してやるぞ。覚悟しろよ、夜見川と上城さん」
「ようし、シャイな二人が一気にくっついちゃいそうなとびっきりの命令を出してやりなさい!」
悪ノリした志穂ちゃんが竹川君を煽る。ちょ……やめて。クラスのアイドルは知らぬ間にすっかり悪役キャラの人格に変わっている。
さっきのを超える命令って……。ねえ、竹川君。あなたはわたし達になにをさせるつもりなの?
そんなことを思っていると、竹川君が命令を発表する。
「ようし、それじゃあ二番が王様の膝に頭を乗せて休憩」
「いや、あたしなんだけど」
志穂ちゃんが即答して、みんなで爆笑になった。
「まったくもう。これがやりたかったんでしょう?」
志穂ちゃんが竹川君の膝に頭を乗せて、「うーん、固いからあんまり快適とは言えない感じ」と苦笑いする。当の竹川君は顔が真っ赤になっていた。
「もうちょっと真ん中の方がいいかも」
「バ……アホ、やめろ。膝枕じゃなくなるだろ!」
みんなでまた大笑いする。たしかに、膝と膝の間にはもうちょっと柔らかいものがあるけど。
恥ずかしいなりにそんな会話が出来て羨ましいな。わたしはそんなことにですら嫉妬を覚えてしまう。
そんな中、今度は志穂ちゃんの三回目を引く。
「一番と二番が、十秒間すっごく近くで見つめ合って」
それを聞いた瞬間、またわたしの心臓が跳ねる。
クジを見ると、夜見川君が一番でわたしが二番だった。夜見川君と目が合って、心臓が止まりそうになる。
「はいはい、じゃあスタートで!」
準備する間もなく、わたし達は勝手に目が合ってしまう。夜見川君の瞳が、真っ直ぐで、ドキドキが止まらない。
たったの十秒が永遠みたいで、一気に頰が熱くなる。視線を逸らしたくなるのに、逸らせない。油断すれば、好きって言っちゃいそう……。ようやく時間いっぱいやりきって解放されるけど、高鳴った心臓が鳴り止まない。あのままいけば心臓発作で死んじゃったかもしれない。
だけど、悪ノリした志穂ちゃん&竹川君コンビは止まらない。
次は竹川君が王様になって極めつけの命令を出す。
「それじゃあ、二番と三番がポッキーゲームだ」
「ポッキーゲーム?」
意味の分からなかったわたしはオウム返しに訊き返す。
「簡単に言えばな、ポッキーゲームっていうのは二人でポッキーの端と端をくわえて、お互いがポッキーを食べ進めていく遊びだ」
え? えええええ~!?
何その恥ずかしすぎる遊び。そ、そんなの……いやらしすぎるよ!
わたしはゲームの聞いただけで顔が熱くなった。そんなエッチなゲーム、許されるの?
そんな思いも知らずに、竹川君が続きを言う。
「勝敗は先に口を離した方が負けになる。言ってみればチキンレースみたいなものだな」
わたしと夜見川君は思わず見つめ合う。わたしの持っているクジは三番。夜見川君が二番を持っていた。
「わーこれ、ワクワクするね」
これは、早々にわたしの方から口を離して負けにいくしかない。だってそうしないと、キス……いやいや、その先は考えたくない。
そんなわたしの心を読んだ志穂ちゃんが言う。
「それでさ、負けた方が勝った方にチューするようにしよう」
「待ってよ、志穂ちゃんが王様じゃないでしょ?」
「そうだったな。それじゃあその案を採用しようか」
竹川君が志穂ちゃんと組んで、わたし達を絶望の底に突き落とそうとする。
負けた方が勝った人にチュー? それって、もちろん頬っぺただよね?
もう、心臓が高速のドラムみたいにドコドコ言ってるよ。どうすんのこれ。心臓発作で死んじゃいそう。
「ほらほら、観念してさっさとやりな」
一番クジを引いた志穂ちゃんは完全に他人事だった。このクジ、なんだか裏がある気がする……。
だけど、これと言って明白な証拠が無い以上、わたしもその命令に従うしかない。ふと見やると、ものすごく真面目な顔でポッキーをくわえた夜見川君が視界に映った。
また血液が顔面に集まっていく。恥ずかしいなんてものじゃない。こんなの、誰が相手だってこうなるに決まっているじゃない。どうしろって言うの……?
「はい、ポッキー、ポッキー」
志穂ちゃんが謎のポッキーコールをやりはじめる。もう逃げることは出来ない。
「んん」
ポッキーをくわえた夜見川君がわたしを促す。言葉は発せずとも「安心しろ」って言われたような気がした。そんな気がしただけだけど。
もうわたしも覚悟を決めるしかない。死ぬほど近い距離で、反対側のポッキーをくわえる。
顔がすごく近い。目を合わせられない。なんなの、これ。
「はい、じゃあスタート!」
用意する間もなく、志穂ちゃんがゲームをスタートさせる。うう、ひどい。チラっと夜見川君を見ると、ガッツリと目が合ってしまった。
「※&%*!!」
自分でも意味の分からない声が漏れるけど、ポッキーから口を離すわけにはいかない。負けたらわたしから夜見川君にチュー。それは……それは恥ずかしすぎる。無理。
ええい、もうなるようになれ!
そう思って目をつぶりながらシャリシャリとポッキーをかじっていくと、唇に柔らかい感触がした。
え? って思って目を開くと、さっきよりも近くなった夜見川君が驚きに目を見開いている。
すぐ横に座って両手で口を押さえている志穂ちゃん。王様の竹川君もお口をあんぐりと開けていた。
それもそのはず。わたしと夜見川君の唇は、ポッキーを食べ尽くして思いっきりくっついていた。
「※&%*※&%*※&%*※&%*※&%*!!」
お互いに変な声を出してパニックになる。
嘘でしょ……?
キス……しちゃった。夜見川君と……。
あまりにも突然のファーストキスに、わたしは理解が追い付かない。
ちょっと待って。なんでこんなことになってるの? いや、わたしがポッキーをすごい勢いで食べ尽くしたからか。いや、でもちょっと待って。ファーストキスって、もっとこう、ロマンチックで二人の唇が徐々に近付いてって感じじゃあ……ああああああ!
「ちょ、落ち着いて、亜衣ちゃん!」
意味不明な言語で錯乱状態へと陥ったわたしを志穂ちゃんが必死になって止める。パニックになっているのはわたしの方なのに、こんなに焦っている志穂ちゃんを見るのも初めてな気がした。
「落ち着いて。深呼吸ね、深呼吸」
そう言って志穂ちゃんはわたしの背中をさする。うう……わたし、完全に暴れた酔っ払いみたいに扱われている。
どうしてか涙がこぼれ落ちてくる。それがどこから来るものなのかも分からないけど、ただひたすらに悔しかった。
「ううー、えーん」
「ほらほら、良い子は泣かないの」
泣いているわたしを母親のように慰める志穂ちゃん。なんだこの絵。本当のわたしは、この図を幽体離脱で離れたところから見下ろして呆れている。
ひとしきり泣くと、ようやくわたしのメンタルが落ち着いてきた。鼻水まで出てきて、手渡されたティッシュにチーンと鼻をかむと、また新たに鼻水が出てくる。何から何までが最悪だった。
「夜見川君、これは責任を取らないといけないね」
真顔の志穂ちゃんが、静かなトーンで言う。視界の端に映る夜見川君が珍しく驚いた顔になる。
「ちょっと待て、俺は何も」
「亜衣ちゃんの唇を奪っておいてそれはないんじゃない? 男なら男らしく責任を取りなよ」
「理不尽過ぎる……」
夜見川君の声は消え入りそうだった。
「夜見川君、必ず亜衣ちゃんを幸せにして。絶対だよ」
「……はい」
最後の言葉はほとんど聞こえなかった。返事こそイエスだけど、ほぼほぼ志穂ちゃんに押し切られて言わされた感じがあった。かわいそうだな、と冷静な方の人格が言う。
わたしはいまだに理由の分からない涙をまだ流し続けていたけど、無理にでも夜見川君がそんなことを言ってくれたのがどこか嬉しかった。
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