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悪意の朝
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何も起こらないことを願ってはいたけど、事件はすぐに起こった。
朝に学校へ来ると、黒板に消えないマジックでイタズラ書きがしてあった。それだけならまだいい。問題はその内容だった。
『黒蜜凛は誰とでも寝る黒いハニトラ女』
『ビッチ』
『死ね』
『生徒に媚び売ってんじゃねーよカス』
『童貞にチヤホヤされて調子に乗っているヤバい教師』
他にも目を覆いたくなるような罵詈雑言が書かれていた。
教室はざわついていた。誰が書いたのか、マジックで書いたのか迷惑だなとか、そんなことだ。
いや、待てよ。このままホームルームが始まったら先生がこの誹謗中傷を目にしてしまうことになる。なんで消さないんだよ。
「おい、江藤。あれを消すぞ」
問答無用で友人の江藤を借り出す。江藤も内心これはマズいと思っていたのか、何も言わずに協力してくれた。
それにしても厄介なのは、チョークで書かれていないせいで落書きが消えないことだった。これだとエタノールでも使わないと落ちないだろう。
ふと松本を見ると、まったく他人事というていで森内と一緒に喋っていた。その口元にかすかな意地の悪い笑みが浮かんでいたのを見逃さなかった。犯人はきっとあいつだ。
クソ、それにしても落ちないな。こりゃ化学室からエタノールでも拝借してくるしかないか。そう思った時、黒蜜先生が教室へ入って来てしまった。
「あら、須藤君に江藤君。今日はどうしたの?」
俺らがあまりに必死こいて黒板を消そうとしていることが奇妙に映ったのか、黒蜜先生は不思議な顔で小首を傾げていた。
「あ、この、それは……」
俺たちは必死こいて取り繕おうとするが、時すでに遅し。黒蜜先生は悪意の塊を見てしまった。
「これは……」
先生がフリーズして棒立ちになる。純粋無垢な彼女にとって、これだけの悪意をぶつけられたことはあるまい。
「先生、それってきっとただのイタズラだよ。気にすることなんてない」
動けなくなった先生に松本が声をかける。白々しい。お前が書いたのはここにいるクラス全員が知っている。だけど、これ以上不用意に先生を傷付けたくなかった。
「そう……まあ、きっと、そうなんだと思います。相当頭の悪い奴がやったと思いますけどね」
さりげなく松本に反撃しておく。だけど、それどころじゃない。
ふいに先生がポロポロと泣き出す。
「あ」
もう、何て声をかけたらいいのか分からなくなった。
「ごめんなさい」
先生は顔を手で覆ったまま教室を出てしまった。
最悪だ。黒蜜先生を傷付けてしまった。
「あーあ。ホームルームどうするんだろ。こんなこと書かれたぐらいで泣くなんて豆腐メンタルじゃないの。一応はプロでしょ?」
松本が聞えよがしに言う。俺は思わず彼女を睨んだ。
「何よ。あたしは一般的なプロ意識の問題を言ってるの。自分の仕事を放り投げるなんてプロじゃないよ」
本音を言えば殺してやりたいところだったけど、そんなことをやっている場合じゃない。
今の先生は死ぬほど傷付いている。元々子供みたいなところがあっただけに、愛情も受け取れれば悪意もダイレクトに伝わってしまうタイプのはず。
「クソ女」
そう吐き捨てると、俺は先生を追いかけた。松本は何も返さなかった。
どうでもいい。先生を追いかけないと。
朝に学校へ来ると、黒板に消えないマジックでイタズラ書きがしてあった。それだけならまだいい。問題はその内容だった。
『黒蜜凛は誰とでも寝る黒いハニトラ女』
『ビッチ』
『死ね』
『生徒に媚び売ってんじゃねーよカス』
『童貞にチヤホヤされて調子に乗っているヤバい教師』
他にも目を覆いたくなるような罵詈雑言が書かれていた。
教室はざわついていた。誰が書いたのか、マジックで書いたのか迷惑だなとか、そんなことだ。
いや、待てよ。このままホームルームが始まったら先生がこの誹謗中傷を目にしてしまうことになる。なんで消さないんだよ。
「おい、江藤。あれを消すぞ」
問答無用で友人の江藤を借り出す。江藤も内心これはマズいと思っていたのか、何も言わずに協力してくれた。
それにしても厄介なのは、チョークで書かれていないせいで落書きが消えないことだった。これだとエタノールでも使わないと落ちないだろう。
ふと松本を見ると、まったく他人事というていで森内と一緒に喋っていた。その口元にかすかな意地の悪い笑みが浮かんでいたのを見逃さなかった。犯人はきっとあいつだ。
クソ、それにしても落ちないな。こりゃ化学室からエタノールでも拝借してくるしかないか。そう思った時、黒蜜先生が教室へ入って来てしまった。
「あら、須藤君に江藤君。今日はどうしたの?」
俺らがあまりに必死こいて黒板を消そうとしていることが奇妙に映ったのか、黒蜜先生は不思議な顔で小首を傾げていた。
「あ、この、それは……」
俺たちは必死こいて取り繕おうとするが、時すでに遅し。黒蜜先生は悪意の塊を見てしまった。
「これは……」
先生がフリーズして棒立ちになる。純粋無垢な彼女にとって、これだけの悪意をぶつけられたことはあるまい。
「先生、それってきっとただのイタズラだよ。気にすることなんてない」
動けなくなった先生に松本が声をかける。白々しい。お前が書いたのはここにいるクラス全員が知っている。だけど、これ以上不用意に先生を傷付けたくなかった。
「そう……まあ、きっと、そうなんだと思います。相当頭の悪い奴がやったと思いますけどね」
さりげなく松本に反撃しておく。だけど、それどころじゃない。
ふいに先生がポロポロと泣き出す。
「あ」
もう、何て声をかけたらいいのか分からなくなった。
「ごめんなさい」
先生は顔を手で覆ったまま教室を出てしまった。
最悪だ。黒蜜先生を傷付けてしまった。
「あーあ。ホームルームどうするんだろ。こんなこと書かれたぐらいで泣くなんて豆腐メンタルじゃないの。一応はプロでしょ?」
松本が聞えよがしに言う。俺は思わず彼女を睨んだ。
「何よ。あたしは一般的なプロ意識の問題を言ってるの。自分の仕事を放り投げるなんてプロじゃないよ」
本音を言えば殺してやりたいところだったけど、そんなことをやっている場合じゃない。
今の先生は死ぬほど傷付いている。元々子供みたいなところがあっただけに、愛情も受け取れれば悪意もダイレクトに伝わってしまうタイプのはず。
「クソ女」
そう吐き捨てると、俺は先生を追いかけた。松本は何も返さなかった。
どうでもいい。先生を追いかけないと。
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