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あなたは俺が守る
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先生は屋上で静かに泣いていた。フェンスの向こうに広がる青空。それがこんなに恐ろしく見えることもそうないだろう。
「先生!」
飛び降りる可能性を考えて思い切り声を張った。絶対に飛び降りなんかさせないよう、追い付くと全身を抱きしめる。
「ちょ……須藤君、何を……!」
さすがに驚いたのか、いきなり抱きしめられた先生は涙がすっかり引いたようだった。
「先生はあんな悪口を書かれるような人じゃないです! お願いです、飛び降りなんて絶対にやめて下さい!」
「えっ? え……?」
おそらく人生でMAXの声量を出した懇願は、黒蜜先生を大いに戸惑わせていた。
「だい……大丈夫だから。飛び降りなんかしないから、信じて。ね?」
指導者の顔に戻った先生の言葉で、俺は彼に自殺の意志がないことを理解した。こっぱずかしいが、彼女を失うよりよっぽどマシだった。
「あの、落ち着いて、ね? 私は飛び降りるつもりなんて全然ないから」
いまだに残る涙の跡を拭うと、先生と俺はゆっくりと話し合った。
「昔、悲しいことがあってね。それを思い出したせいか、ちょっと悲しくなっちゃった」
「そうなんですか」
「うん。だけどもう大丈夫。須藤君がこうやって追いかけて来てくれたし。なんだか、ごめんね」
先生が照れくさそうに笑う。過去に何があったのか気になるところだけど、今は関係がない。俺は先生のメンタルを回復させる方向に舵を切った。
「きっと松本たちの仕業です。あいつら、先生が美人で人気者になったからって妬んでいるんです」
「そうなの。私なんか妬まなくたって、十分にかわいいのにね」
先生は遠い目をして言う。こんなに人がいいからターゲットになるんだよとは思いつつ、そんな彼女が好きなんだよなと変なジレンマの間で密かに苦しむ。
「俺にとって、先生は本当に大事な存在です」
「うん」
「先生が小説を褒めてくれて、本当に嬉しかったです」
「うん」
「だから、俺はもっと先生に自分の作品を読んでもらいたいです。それこそ、今度は感動の涙が止まらないような作品を」
自分で言っていてひどくキザなセリフだなとは思いつつも、要は俺にとって黒蜜先生は大切な存在なんだ。それをどうしても知ってほしかった。
「ありがとう。私も須藤君が追いかけて来てくれて、本当に嬉しかった」
先生が微笑むと、また目尻から涙が溢れだした。
「私ね、昔に『もう誰も自分のことなんて必要としていないんじゃないか』って思っていた時期があったの。あの時は毎日死んでしまいたくて、毎日生きていることがつらかった」
「……」
「だけどね、結局、そんなことって誰にでもあるんだよね。ある時点でそれに気が付いて、開き直ったら復活出来た。ずいぶん前に克服したつもりでも、やっぱり心の傷ってどこかに残っているのかもね」
「俺が」
気が付けば口が勝手に動いていた。
「俺が、黒蜜先生を守ります。どんなことがあっても、絶対に」
言ってから、まるで告白みたいな言葉を発したことに気が付く。だけど、言ってしまったものは仕方がない。
「嘘じゃないですよ」
「疑ってないよ」
先生が泣きながら笑う。必死になっていた自分に気付いて恥ずかしくなる。
「ありがとう」
先生が涙を拭った。
「でもね、私だってそんなにきれいな生き物じゃないんだよ」
ふいに先生が今までに見せたことのない表情をした。彼女の言っているように、人間には誰だって後ろ暗いことの一つや二つぐらいはある。
先生は迷った末に、何かを俺に伝えようとしているようだった。それを感じ取った俺は、静かに先生の話へと耳を傾けた。
「先生!」
飛び降りる可能性を考えて思い切り声を張った。絶対に飛び降りなんかさせないよう、追い付くと全身を抱きしめる。
「ちょ……須藤君、何を……!」
さすがに驚いたのか、いきなり抱きしめられた先生は涙がすっかり引いたようだった。
「先生はあんな悪口を書かれるような人じゃないです! お願いです、飛び降りなんて絶対にやめて下さい!」
「えっ? え……?」
おそらく人生でMAXの声量を出した懇願は、黒蜜先生を大いに戸惑わせていた。
「だい……大丈夫だから。飛び降りなんかしないから、信じて。ね?」
指導者の顔に戻った先生の言葉で、俺は彼に自殺の意志がないことを理解した。こっぱずかしいが、彼女を失うよりよっぽどマシだった。
「あの、落ち着いて、ね? 私は飛び降りるつもりなんて全然ないから」
いまだに残る涙の跡を拭うと、先生と俺はゆっくりと話し合った。
「昔、悲しいことがあってね。それを思い出したせいか、ちょっと悲しくなっちゃった」
「そうなんですか」
「うん。だけどもう大丈夫。須藤君がこうやって追いかけて来てくれたし。なんだか、ごめんね」
先生が照れくさそうに笑う。過去に何があったのか気になるところだけど、今は関係がない。俺は先生のメンタルを回復させる方向に舵を切った。
「きっと松本たちの仕業です。あいつら、先生が美人で人気者になったからって妬んでいるんです」
「そうなの。私なんか妬まなくたって、十分にかわいいのにね」
先生は遠い目をして言う。こんなに人がいいからターゲットになるんだよとは思いつつ、そんな彼女が好きなんだよなと変なジレンマの間で密かに苦しむ。
「俺にとって、先生は本当に大事な存在です」
「うん」
「先生が小説を褒めてくれて、本当に嬉しかったです」
「うん」
「だから、俺はもっと先生に自分の作品を読んでもらいたいです。それこそ、今度は感動の涙が止まらないような作品を」
自分で言っていてひどくキザなセリフだなとは思いつつも、要は俺にとって黒蜜先生は大切な存在なんだ。それをどうしても知ってほしかった。
「ありがとう。私も須藤君が追いかけて来てくれて、本当に嬉しかった」
先生が微笑むと、また目尻から涙が溢れだした。
「私ね、昔に『もう誰も自分のことなんて必要としていないんじゃないか』って思っていた時期があったの。あの時は毎日死んでしまいたくて、毎日生きていることがつらかった」
「……」
「だけどね、結局、そんなことって誰にでもあるんだよね。ある時点でそれに気が付いて、開き直ったら復活出来た。ずいぶん前に克服したつもりでも、やっぱり心の傷ってどこかに残っているのかもね」
「俺が」
気が付けば口が勝手に動いていた。
「俺が、黒蜜先生を守ります。どんなことがあっても、絶対に」
言ってから、まるで告白みたいな言葉を発したことに気が付く。だけど、言ってしまったものは仕方がない。
「嘘じゃないですよ」
「疑ってないよ」
先生が泣きながら笑う。必死になっていた自分に気付いて恥ずかしくなる。
「ありがとう」
先生が涙を拭った。
「でもね、私だってそんなにきれいな生き物じゃないんだよ」
ふいに先生が今までに見せたことのない表情をした。彼女の言っているように、人間には誰だって後ろ暗いことの一つや二つぐらいはある。
先生は迷った末に、何かを俺に伝えようとしているようだった。それを感じ取った俺は、静かに先生の話へと耳を傾けた。
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