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ルミニス大聖堂に戻ると、本当に巨獣ベヒーモスが暴れまくっていた。
ナイトや自称勇者たちがヤンキー顔負けに総がかりで袋叩きにしようと試みるも、筋肉質な体に剣も魔法も歯が立たず、次々と吹っ飛ばされては戦闘不能に陥っている。
「あいつら、普段は偉そうにしているくせにガチで役に立たないわね」
シスターの一人が不甲斐ない勇者たちを毒づく。だが、それも仕方がない。巨獣ベヒーモスと言えばモンスターの中でもかなりの上位にいるバケモノだ。
「このままでは、大聖堂が……」
皆が絶望に浸っていると、ハンネマン学園長とマリア、そしてミリーが到着する。
「うわ、なんですの、あのバケモノ⁉」
「ベヒーモスよ。勇者でも苦戦する、最悪なモンスター」
「なんでそんな危険なモンスターがここに……?」
「さあ、熊でも民家に押し寄せる時代だから、似たような感じであいつも食い物でも探しに来たんじゃないの?」
学園長はいくらかヤケクソ気味に答える。
「とにかく絶望しているヒマは無いわ。マリア、秘蹟の力を使って、あのバケモノを倒してきなさい」
「ま、マジで言ってるんですの?」
「マジに決まってるじゃない。大聖堂がぶっ壊されたら、あなただけじゃなくて私たち全員が詰みになるわよ」
「そんな……」
マリアは言葉を失う。大聖堂近くでゴジラのように暴れる巨獣。こいつを放っておけば、大聖堂も間違いなく破壊される。それは決して許されることじゃない。
「うわああああ!」
ベヒーモスに吹っ飛ばされた勇者がマリアたちの近くに叩きつけられる。血を吐く勇者に修道女が駆け寄り、回復魔法をかけていく。
咆哮を上げる巨獣。その視線は、大聖堂へと向かっていた。その姿を見たマリアの中で、何かがブチンと切れた。
「ふっざけんじゃ、ねえですわああああああ!」
マリアは大暴れするベヒーモスに向かって駆けていく。
「おい、あのコ……!」
「バカかよ、死んじまうぞ!」
周囲からマリアに戻るよう声がかけられる。だが、つい先ほどに大聖堂で赤っ恥をかいたマリアは、ものすごいスピードでベヒーモスに突っ込んでいく。
「え? なんかすごく速くないですか?」
思わずミリーが訊くと、学園長が答える。
「きっとあの力はパンチだけじゃなくて、足にも適用出来るってことね」
その言葉通り、魔力を宿したマリアはとんでもない速度でベヒーモスへと突っ込んでいく。傷だらけになった勇者たちが、訳も分からずドン引きした目で高速移動するマリアを見つめる。
「わたくしの大事な場所を、奪うんじゃねえええええですわ!」
高く跳んで、拳を振り下ろす。
突き出される拳――刹那、強烈な爆発音とともに強い光が発せられる。誰もが目を閉じて、何が起こっているかも分からずにその轟音に耳を塞いだ。
ドッゴオオオオオオン!
「うわあああ!」
勇者たちが爆風で吹っ飛ばされる。しばらくして音が止むと、嘘みたいな静寂が終わった。
「一体、何が……?」
煙が晴れていくと、巨大なクレーターの前に立つ白魔導士の背中が見えた。煙を上げるクレーターの中心には、真っ黒につぶれた巨獣の残骸があった。
「嘘、だろ……?」
勇者の一人が言う。目の前のシスターは一人で、それもたった一撃でベヒーモスを倒したのだ。信じられないのも無理もないだろう。
「やった。あの女の人が、モンスターを倒してくれたぞ……!」
誰かがそう言ったのを皮切りに、我を忘れていた人々が歓声を上げていく。
周囲の人々が歓喜に湧くのに気付いて、ようやくマリアもハッとした。
「これ、わたくしがやったんですの?」
黒焦げの巨獣は、クレーターの真ん中でつぶれたまま煙を上げている。爆弾でも使って凶悪な魔物を駆除したみたいな光景だった。
「そうよ、あなたがこの街を救ったの」
振り返ると、知らぬ間にハンネマン学園長にミリー、そしてエテルナ・ルクス学園の生徒たちが集まっていた。
「ありがとう、シスター・マリア。あなたのお陰で、私たちの大切な場所を守ることが出来ました」
「え? でも、わたくし……とにかく無我夢中で。それに、聖痕の儀では最悪の結果に終わりましたし……」
「いい、シスター・マリア? 誰もが生きたい人生をそのままに生きることなんて出来ないの。あなたがどのように感じようとも、神はその力を授けた。それがすべてよ」
学園長はかつて「詰んだわね」と言った時と同じ顔で言う。
「でも、こんなのって、こんなのって……大聖女じゃありませんわよ?」
「いいじゃない、今は多様性の時代なんだから。轟腕のシスター・マリア――あなたはこれから先、そんな二つ名で呼ばれるわ。もしかしたら、この先の未来でもずっと」
「そ、そんなの嫌ですわあああ!」
大聖堂の前に、マリアの悲痛な声が響く。
聖地の危機を救ったのも束の間、マリアの人生にはさらなる黒歴史が刻まれた。のちにこの日に起きた「聖痕の儀失敗事件」と「ベヒーモス一撃必殺事件」は、セットで後世へと語り継がれていく。
轟腕のシスター・マリア――彼女が世界中に知れ渡る、ほんの少し前の話であった。
【了】
ナイトや自称勇者たちがヤンキー顔負けに総がかりで袋叩きにしようと試みるも、筋肉質な体に剣も魔法も歯が立たず、次々と吹っ飛ばされては戦闘不能に陥っている。
「あいつら、普段は偉そうにしているくせにガチで役に立たないわね」
シスターの一人が不甲斐ない勇者たちを毒づく。だが、それも仕方がない。巨獣ベヒーモスと言えばモンスターの中でもかなりの上位にいるバケモノだ。
「このままでは、大聖堂が……」
皆が絶望に浸っていると、ハンネマン学園長とマリア、そしてミリーが到着する。
「うわ、なんですの、あのバケモノ⁉」
「ベヒーモスよ。勇者でも苦戦する、最悪なモンスター」
「なんでそんな危険なモンスターがここに……?」
「さあ、熊でも民家に押し寄せる時代だから、似たような感じであいつも食い物でも探しに来たんじゃないの?」
学園長はいくらかヤケクソ気味に答える。
「とにかく絶望しているヒマは無いわ。マリア、秘蹟の力を使って、あのバケモノを倒してきなさい」
「ま、マジで言ってるんですの?」
「マジに決まってるじゃない。大聖堂がぶっ壊されたら、あなただけじゃなくて私たち全員が詰みになるわよ」
「そんな……」
マリアは言葉を失う。大聖堂近くでゴジラのように暴れる巨獣。こいつを放っておけば、大聖堂も間違いなく破壊される。それは決して許されることじゃない。
「うわああああ!」
ベヒーモスに吹っ飛ばされた勇者がマリアたちの近くに叩きつけられる。血を吐く勇者に修道女が駆け寄り、回復魔法をかけていく。
咆哮を上げる巨獣。その視線は、大聖堂へと向かっていた。その姿を見たマリアの中で、何かがブチンと切れた。
「ふっざけんじゃ、ねえですわああああああ!」
マリアは大暴れするベヒーモスに向かって駆けていく。
「おい、あのコ……!」
「バカかよ、死んじまうぞ!」
周囲からマリアに戻るよう声がかけられる。だが、つい先ほどに大聖堂で赤っ恥をかいたマリアは、ものすごいスピードでベヒーモスに突っ込んでいく。
「え? なんかすごく速くないですか?」
思わずミリーが訊くと、学園長が答える。
「きっとあの力はパンチだけじゃなくて、足にも適用出来るってことね」
その言葉通り、魔力を宿したマリアはとんでもない速度でベヒーモスへと突っ込んでいく。傷だらけになった勇者たちが、訳も分からずドン引きした目で高速移動するマリアを見つめる。
「わたくしの大事な場所を、奪うんじゃねえええええですわ!」
高く跳んで、拳を振り下ろす。
突き出される拳――刹那、強烈な爆発音とともに強い光が発せられる。誰もが目を閉じて、何が起こっているかも分からずにその轟音に耳を塞いだ。
ドッゴオオオオオオン!
「うわあああ!」
勇者たちが爆風で吹っ飛ばされる。しばらくして音が止むと、嘘みたいな静寂が終わった。
「一体、何が……?」
煙が晴れていくと、巨大なクレーターの前に立つ白魔導士の背中が見えた。煙を上げるクレーターの中心には、真っ黒につぶれた巨獣の残骸があった。
「嘘、だろ……?」
勇者の一人が言う。目の前のシスターは一人で、それもたった一撃でベヒーモスを倒したのだ。信じられないのも無理もないだろう。
「やった。あの女の人が、モンスターを倒してくれたぞ……!」
誰かがそう言ったのを皮切りに、我を忘れていた人々が歓声を上げていく。
周囲の人々が歓喜に湧くのに気付いて、ようやくマリアもハッとした。
「これ、わたくしがやったんですの?」
黒焦げの巨獣は、クレーターの真ん中でつぶれたまま煙を上げている。爆弾でも使って凶悪な魔物を駆除したみたいな光景だった。
「そうよ、あなたがこの街を救ったの」
振り返ると、知らぬ間にハンネマン学園長にミリー、そしてエテルナ・ルクス学園の生徒たちが集まっていた。
「ありがとう、シスター・マリア。あなたのお陰で、私たちの大切な場所を守ることが出来ました」
「え? でも、わたくし……とにかく無我夢中で。それに、聖痕の儀では最悪の結果に終わりましたし……」
「いい、シスター・マリア? 誰もが生きたい人生をそのままに生きることなんて出来ないの。あなたがどのように感じようとも、神はその力を授けた。それがすべてよ」
学園長はかつて「詰んだわね」と言った時と同じ顔で言う。
「でも、こんなのって、こんなのって……大聖女じゃありませんわよ?」
「いいじゃない、今は多様性の時代なんだから。轟腕のシスター・マリア――あなたはこれから先、そんな二つ名で呼ばれるわ。もしかしたら、この先の未来でもずっと」
「そ、そんなの嫌ですわあああ!」
大聖堂の前に、マリアの悲痛な声が響く。
聖地の危機を救ったのも束の間、マリアの人生にはさらなる黒歴史が刻まれた。のちにこの日に起きた「聖痕の儀失敗事件」と「ベヒーモス一撃必殺事件」は、セットで後世へと語り継がれていく。
轟腕のシスター・マリア――彼女が世界中に知れ渡る、ほんの少し前の話であった。
【了】
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