日本鬼士 -JAPAN・Alternative・SAMURAI-

きりたぽん

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第七話 大天使vsサムライ

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 ◇◆ ロシア シベリア流刑地 地下施設


「ギシィィィィギジィィィィ!!」

蛸か烏賊か、そうとしか表現できないおぞましく不味そうな魚介類らしき怪物が、見た目にふさわしい、生ゴミめいた断末魔を残して消滅しました。

怪物が残した肉片群が散らばる凄惨な光景の中であっても『大天使』ミカエルの神々しさは失われません。

むしろ、ある種の絵画のような美しさすら感じられる光景です。

そこに『白夜十字団』団長であるアテナが現れました。

「ミカエル様!!御無事でしたか!?よかった………」

「シスターアテナ。息が上がっていますよ。どうかしましたか?…それにほかの『白夜十字団』の皆さんは」

「くっ、皆は……勇敢に戦い、敵にちから及ばずっ……か、神の身許に!!おのれっ鎮西蜂郎ぉ!!」

「そうなんですか?残念でしたね」

「………はい、それでミカエル様。魔導書は?」

「あと一歩遅かったですね。まぁ…しかし次の転移場所は分かりますから問題はありません。場所は……なになに…この座標は…成程、ロシアの首都ですか、すぐに向かいましょうシスターアテナ」

「そうですね……でも、その前に実は…私、すごーい天使であるミカエル様に懺悔したい事があるのです」

「珍しい…というより初めてですね。なんでしょうか私で良ければ何なりと」

アテナはニヤリと微笑むとその顔を覆うバイザーに手をかけて……

「ふふふっ、実は私は、私の正体はなんと!ザグゥ!!?」

しかし、何かしらを話し終える前に、アテナは天から飛び降りてきた蜂郎ハチロウが握る藤色の刀で、背中から胸を貫かれました。

蜂郎は、地表から地下施設の天井までの断層を破壊して、此処まで降りてきたのです。

アテナは、ふわりとした金髪を床に広げるように血を吐き倒れます。

信じられないという顔をしたアテナは、最期の力を振り絞り自身の血で何かを床に書くと力尽きました。

「大丈夫ですか?シスターアテナ。今から修復しま…おっと?」

ミカエルは奇襲攻撃にも動じず、普段と変わらぬ調子で仲間を蘇生しようと近づきます…が、その途中で蜂郎の斬撃を受けて壁まで吹き飛ばされました。

「な、ないすぅ……はっくん…ミカエルざまぁ……でも……分体……が……隠蔽…私のけいかくが………だめぽ…」

何事かを呟きながらアテナは今度こそ本当に息絶えます。
一方で壁に激突したミカエルは何の痛痒も感じていないのか、足取り確かに立ち上がると、一定のリズムで両手を叩く……

「今のは素晴らしい攻撃です。このミカエルをして反応できませんでした。表層に装着していた人間の顔も砕けてしまいましたね。まさにグレートです鎮西蜂郎さん」

拍手しながら、半分砕けた顔で笑顔を見せるミカエル。

斬撃を受けた顔面部分は陶器のように割れて、その中身が露わとなります……ミカエル、その素顔は鏡面状に反射する金属らしき皮膚を持つ機械の様な人形です。

暗闇に佇む異形な天使。

それに対して蜂郎は追撃の攻撃を仕掛けようとして

『時間停止』

突如、全ての現象が精巧に書かれた絵画の様に停止しました。

天井からこぼれる光や、鳥の鳴き声すら届かない、時が停止した空間に動くものはない……

その停止空間の中で唯一自在に動けるミカエルは、真珠色の物質を作成して新しい顔を繕うと、この場を立ち去るため光の翼を背中から生成します。

「しかし、申し訳ありません。流石にそろそろリリスを消去したいので、これで失礼させてもらいますね。さような」

だが、ミカエルが光の翼を広げて宙へと飛び立つ前に停止世界が軋み、異音と共に砕けました。

『―――――――――――――バジィジジジジジジジジジジジジジィ―――――――――――――』

ミカエルは表情が動かない……以前に感情がない。天使とはそういう存在です。しかしそれでも僅かに驚愕しました。

例えるなら空間に亀裂が入っているとでも言えばいいのか……蜂郎は純粋なパワーで、肉体能力だけで停止した時間を破壊しました。

力尽くで時間停止を突破した蜂郎が、ミカエルに近づき肩を掴みます。

「またれよ。まだ決着はついていない」

蜂郎が力尽くで動く度に空間の亀裂は大きくなり、遂には『時間』を制御するミカエルの権能の方が、矛盾に耐えきれなくなり破壊されました。

それは地球の回転を素手で止めるような暴挙、しかし自転を止められた地球が被害を被るのは必然です。

「この権能は……暫く使用できませんね。まったく蜂郎さん…貴方は本当に」

ミカエルを最期まで語らせることなく、蜂郎はその鉄拳をミカエルに打ち込みます。

その威力でミカエルは壁まで吹き飛ばされ激突。

ミカエルの体が壁にめり込むと地下施設全体が大きく揺れる。

「戦いとは、互いに全力を出してこそ……さぁ!死合おう!死合おうぞ!」

此処までの蜂郎の攻撃は挨拶代わり。これで死ぬなら所詮は雑魚です。

だが、蜂郎の一撃を受けてなお、ミカエルは死亡していない……それどころか無傷です。

これは、生物の耐久力を凌駕しています。

ミカエルは壁から這い出ると、手で自身の体に付着した破片を払い感情の無い瞳で蜂郎を見つめます。

「貴方の攻撃こうどうには驚きを隠せません……神が定めた人の範疇を逸脱しています。貴方は本当に人間なのでしょうか?蜂郎さん……」

「死合おうぞ!死合おうぞ!死合おうぞ!」

「はぁ……どうあっても私と事を起こしたいご様子。仕方ありませんね。いい機会だと考えましょう。少々手荒くなりますがご容赦を」

「うぬと話すことは無い!戦いとは片側が死滅するまで殲滅すること!故に見るがいい!己の!『変態ヘンタイ』!」

「へんたい?……あなたは……」

蜂郎の体を中心に紫電の嵐が巻き起こると、刹那の一瞬で嵐の中から紫色の外骨格を纏うサムライが現れました!!

サムライのアギトが開かれると暴風雨の様な衝撃波で周囲に散乱していたガラス瓶等が砕け散り、地下施設の壁が軋みます。

そしてアギトの奥、歯牙の隙間から蒸気めいたガスが噴出。その後に黄色い眼光が発光し、ミカエルを捉えます……

「うぬよ、構えよ……」
「ふぅ、やれやれです」

蜂郎は拳の骨を鳴らすとミカエルに一拍で接近、対するミカエルも背中から翼を生みだして閃光の速度で蜂郎へ推進……そして両者共に激突しました!!

互いの攻撃による衝突―――その衝撃で地下施設に深い亀裂が走ります。

その後も、二人の戦闘の応酬は繰り返されて、その度に衝撃が発生!

一瞬のうちに何百何千何万と間隔を置かずに放たれる衝撃破で、頑丈な地下施設は徐々に崩落していきます。

しかし、その最中であろうと、ミカエルの余裕は崩れません。
親しき隣人と話すように朗らかな調子で、蜂郎へ語りかけます。

「おっと、今のは惜しかったですよ蜂郎さん、本当に貴方は素晴らしいです。人間の中でこれ程の強者は二人といないでしょう。このまま貴方を他の悪魔達と同じように始末するのは少し複雑で…」
和背負いわっしょい!!」


崩落する地下施設の中を光翼で立体起動を行いながら、多彩かつ特殊な能力で縦横無尽に戦うミカエルに対して、純粋に凄まじいパワーとスピードの身体能力で強引に喰らい付き、ねじ伏せようとする蜂郎。

ミカエルが重力波を生み出せば、蜂郎は鉄拳でそれを突破します。

「おやおや、元気ですねぇ……どうでしょう蜂郎さん、貴方は十分に力を証明しました。この辺で一時休戦にしませんか?実際の所この戦いは無意味です。そして人が争うのはとても悲しいこと……我々に本来は武器等必要ありません!知性ある者は言葉でお互いに理解しあうことが出来るのですから!……人種に文化に国境など些細な問題です!我らは唯一なる神の膝元で」「わっしょい!!」

更にミカエルが時間を操り老化促進させようとすれば、蜂郎は鉄拳でそれを突破します。

「我々の十字教団に加わりませんか蜂郎さん……貴方が入団してくれるならとても心強い!……そして日本国も連合の一部として参加出来る様に共に手を取り合いましょう!主の名のもとに国の安全と領土は保障します!そして貴方達にも魔なる力も授与しましょう!……それは人間が作る科学技術などより優れた力があり」「わっしょい!!」

更に更にミカエルが空間を断絶する光を放てば、蜂郎は鉄拳でそれを突破します。

「すごいですね!一体どうしてそれほど強いのですか!素晴らしい!……しかし、惜しむらくはそれは本当の強さではありません!真の強さとは皆のため、そして正義のた」「わっしょい!!」

更に更に更にミカエルが天使の軍隊を召喚すれば、蜂郎は鉄拳でそれを突破します。

「ははは!貴方は本当におもしろい!その口は何のためについているのですか?飾りか」「わっしょい!!」

ミカエルが何かを発動すれば、とにかく蜂郎は全て鉄拳でそれを突破しました。

「………」「わっしょい!!わっしょい!!わっしょい!!」

一進一退の攻防……蜂郎が一進してミカエルが一退する戦いは徐々に接近戦へと移行します。

数瞬の攻防は、二人には永久に感じられるほどの戦闘時間です。

二人の超人同士の戦いは光速の領域で、その中で一万近い応酬が繰り返されます。

……それは一見すると互角の戦いですが、やはり近接戦闘は最強の戦士たる武士に軍配が上がりました。

ミカエルが光の剣で攻撃するより、蜂郎は常に一拍早く攻撃してミカエルを防戦へと追い込むのです。

その最中に蜂郎がミカエルの腹へと突き刺した手刀が、ミカエルの纏う電磁力による障壁をなんとなく破壊しました。

「ぬ?…なにか消えたな…」

その隙を見逃さず蜂郎は追撃でミカエルのガードを弾き飛ばすと―――拳を握りしめて、その顔に昇竜の様な必殺を叩きつけます!!

「破ぁ!!」

「なっ―――どむぅっ!?」

蜂郎によるアッパーをまともに喰らいミカエルは地下施設の天井、及び地表を突き破りウラル山脈方面まで吹き飛んで行きます。

残心するかのように蜂郎は、固く閉じられていた顎を開けると、そこから蒸気めいた白いガスを噴出させる。

その時に蜂郎は少しだけ、アテナなる聖騎士の死体が気になりました。彼女が死ぬ間際に書いたであろう血文字の『はんにんは……』に意識を奪われたのかもしれません。

しかし、それを些事と切り捨てて、蜂郎はミカエルを仕留めるため周囲の地面が陥没するほどの力で大地を蹴ります。

「逃がさぬ」

蜂郎は距離を破壊して進撃する様に瞬間移動じみた速度でミカエルが山脈に突き刺さる前に追いつき、再度攻撃を仕掛ける!―――されどミカエルは咄嗟になんとか防御しようとします!!―――しかし蜂郎はミカエルの腕を掴み大地へたたきつける!!!

その凄まじい威力で大地にクレーターが出来ます!
轟音で遠くでは一斉に鳥達が空へ飛んでいきました!
ついでに傍の寒村が消飛びました!

「近接能力がお粗末極まりない……戦国の世には、うぬより弱い武士は居なかったぞ……」

蜂郎は大地に降り立つとミカエルへ近づきます。

その瞬間

巨大なクレーター。その中央に舞い踊る砂煙から、ミカエルが光の六翼を広げて浮かび上がります。

「なんと、お見事です蜂郎さん、素晴らしい、ブラボーです。たしかに全ての攻撃を無効化する私の絶対能力が無ければ、一度くらい消滅していたかもしれませんね。……………故に『熾天使』として本気で相手をしましょう」

ミカエルは体中から凄まじい光を発すると僅かに残っていた人間の表皮を弾き飛ばしてその真の姿を現しました!

大天使の枷を外して……『熾天使』ミカエルが現れた!!

『熾天使』たるミカエルが、重力を操作して蜂郎が立つ大地……周辺の山脈ごと空中へ浮かべます!!

「ぬぬぬぅ……?」

「これより先は神の如き力をご教授しましょう。……まずは逆巻く天地をご堪能ください」

ミカエル、その力の行使による余波で、天変地異が起きたように周囲の地面が陥没して、さらに連鎖で山が崩れて地形が変貌していきます。

突如としてこの世の終わりの様な災厄に見舞われたその場所に住まう生物たちは必死に逃げまどいますが、やがて地面に飲み込まれて消えていきました。

しかし、それらには一顧もせず、熾天使ミカエルはそのまま蜂郎を大地ごと大気圏外に放出しました。

「…なに?」

ロシアから一瞬で大気を突破して無重力の宇宙に弾き飛ばされた蜂郎は、凄まじい加速で彼方へと吹き飛ばされる!―――のを防ぐため背中から蒸気めいたガスを噴出して加速を停止させます。

そのまま蜂郎はグルグルとその空間で可笑しな回転を繰り返して天地逆巻くような砕けた大地の激流を泳ぎ切る。

―――そしてそのまま宇宙を揺蕩う……

「―――――」

蜂郎は『ぬぅ…地球は丸い』と言いましたが発音ができませんでした。

一方で光の翼で流星の様に飛翔してきたミカエルは、蜂郎を念力弾で攻撃しながら宇宙空間でも流暢に言葉を紡ぎます。

「おやおや、ずいぶんと難儀しているご様子ですねぇ蜂郎さん……宇宙は初めてですか?貴方サムライと接近戦は怖いですからね、この距離からお命を頂戴します」

ミカエルは光の翼を推進力にして、蜂郎の周囲を飛び回りながら光の剣を無数に生み出すと五月雨のように射出して攻撃。

続けざまに『次元を切り裂くディメンション円盤ザッパー』を放出!

更に万象は塵となり光すら捕える必殺の『超重力の暴君ブラックホール』を生成して周囲のデブリごと蜂郎を消し去ります!

しかし、ミカエルの攻撃は全て通用しませんでした……なぜなら彼は鎮西蜂郎だからです。

「……どうなっているのですか?蜂郎さん貴方の体は」

実は蜂郎は他者からの攻撃で傷がついたことがありません。……幼少時から蜂郎に目を付けていた利理子リリスは、おそらく蜂郎自身が許容しない限り蜂郎へダメージを与えることはできないと考えています。

仮に蜂郎を倒そうとするなら、自傷か或いは自刃するような状況に追い詰めなければならないと彼女は予想しています。

「破ぁ!!」

そのまま蜂郎は内側から力でブラックホールを突破しました。

あらゆる物を滅ぼす虚無の摂理を、純粋な力技で破壊します。

本来であれば破壊不可能なブラックホールを破壊した余波は、すべて術者に返されます。

「ガッギギギ…グ………やれやれですね」

ミカエルは内側から何かが荒れ狂うように奇怪な動きをして……しかし、一瞬で元に戻りました。

「……このくらいでは弱すぎましたか、では次は本気で…!?」

蜂郎は、背中から昆虫の或いは悪魔の様な蒸気状の翼を生み出すと異常な推進力でミカエルを捕えます。

背後から胴体を抱きかかえられたミカエルは抵抗しますが、蜂郎の凄まじい腕力で拘束されて身動きが取れません。

「……私をどうするつもりなのですか?」

『宇宙空間は苦手なのでな……酔う』

そのままミカエルは、脳天から地面へ墜落するように月へと直撃しました。

衝撃で月の岩石が舞う中で、抵抗するミカエルを蜂郎は月の大地に押さえつけます。

『うぬよ…己の一撃、とくと喰らうがいい…』

「無駄です!!……貴方の力は確かに素晴らしいが…私には神より与えられし絶対無敵の加護が!!」

蜂郎は片手で拳の骨を鳴らす動きをして拳を握りしめる。

そこに込められたエネルギー総量は凄まじく、空間が許容しきれずに歪み軋みひび割れるほどで……一瞬だけミカエルは自身の無敵性を忘れかけました。

蜂郎には身体能力の限界値が存在しません。
何故なら、無限に等しい永久機関を生まれた瞬間に内蔵していたから、体内で……魂魄から常時無限に溢れ続ける全てを滅ぼす破壊力。

其処から繰り出される攻撃は全てを無塵にする攻撃力へと変換される。それを込めて蜂郎は熾天使に拳を撃つ……!!

「無駄です『神』の権能は絶対!!」

ミカエルはすべての攻撃を無効化できる。故に凄まじい威力の物理攻撃を当然のごとく無力化する―――――前にその機能が軋みそして破壊されました。

「なっ―――!?」

ミカエルごと殴られた月は、自身と同質量を圧縮して人型に固めた生物に、光の速度で穿たれた様なダメージを受けます。

具体的に言えば月の球体は、玉子を落として潰れた形になりました。その影響で体積の38%が自重を振り切り宇宙空間に散らばります。

しかし、それでも直接攻撃されたミカエルよりはマシでしょう。

「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」

ミカエルは絶叫する、これは彼が創造されてから初めての事です。
ミカエルの胸には穴が開き、金属のような表面はひび割れてその内側から光が漏れ出ます。

天使に痛覚はない、しかし無敵のはずの肉体は今、理不尽に破壊されました。

本来どれだけ強い攻撃、たとえ全次元の全宇宙が崩壊しようと傷がつくことなど想定されていないのに……まるで絶対無敵と言う機能ごと破壊された様な衝撃で、魂そのものが砕けたかのような苦しみは熾天使ミカエルに一時的な撤退を選択させます。

だがしかし、蜂郎は逃がさず天使の羽を掴み、月面にたたきつけると、そのままミカエルの頭を踏みつけて光の翼を次々と引き剥がします。

「ああああああああああああああああああぁ!?」

さらに蜂郎はミカエルの体に蛇のように絡みつき右足を捻じ折り、引き千切ります

そして顎を開いて、ミカエルの右足を喰わんとする……だがしかし、右足は塩の結晶のようになると砕けて消えてしまいました。

(天使は喰えぬか……なんと)

ミカエルは光の剣を杖代わりにして片足で立ち上がりますが、蜂郎は淡々と虫の様にさらなる追撃を行います。

『ハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチ
ハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチハチィ!!』

「なあああああああああ!?」

凄まじいラッシュで、原型を留められないほどの損傷を受けるミカエル、それでも離脱のために唯一残った一枚の羽に引っ張りあげられるように宙に浮かび上がります。

その動作は非常に弱弱しく光の羽で飛ぶというよりかは、まるで磁石に吸い取られる空き缶の様な有様です。

だからと言って慈悲をかけるような蜂郎は居ない、武士の情けは死んだ相手にのみ適用されるのです。

悪魔めいた蒸気状の翼で追撃すると、その推進力でミカエルが残す四肢全てを斬り裂きました。

「なァ!?―――がぁ!?」

蜂郎はそのまま、宇宙空間へ散らばった月の残骸にミカエルを押さえつけると、藤色の脇差を生成してその腹を何十何百と突き刺します。

蜂郎は頭の片隅で利理子が「ミカエルのライフは0よ♪もっと追撃♪」と笑顔で囃し立てるのを幻視したが無視しました。

「―ヤメテ――くださイ―し―天使ガ―死ぬ――ひどい」

ミカエルは何とか動いていますが、内側からの光は今にも消えそうなほど小さくなり、蜂郎は決着の予感を覚えます。

しかし、それでもミカエルはまだ奥の手を残していました。

崩れそうな体を支えながらミカエルはそれを使用します。

「――『他次元転送』」

『ぬぬぬぅ、なに…?』

ミカエルは蜂郎に直接次元の裂け目を作り出し別の時空、別の世界へと転送します。














 
  ◇◆ ???



蜂郎が転送された場所それは、宇宙誕生前の原初の世界。何もない……空白ですら此処には存在しない。

その世界は物質、空間、時間、重力、次元の断層すら未だ不明。

宇宙と言う虚無の世界すらなく、光も闇もない世界は見るという行為すら出来ない、此処では空間を進むことも、時間が進むことも無い。

そもそも何かが存在することもあり得ない。

蜂郎の感覚では転送されて一瞬だったが、ひょっとしたら数億年たっていたかもしれない。時間がそもそも存在しないので個人の感性によるのだ。

『ぬ?…なんだ』

しかしやがて無に耐えきれなくなった何かが、それを引き起こした。

宇宙誕生の『ビッグバン』

必然的に蜂郎はそれに巻き込まれた。
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