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冷静に説明しているのが気に入らないのかもっと焦った方が良いのでは無いかと言ってきた。


「もし家の学校の関係者じゃないんなら誰なんだ?

五十嵐の焦りようから不審者…とか言わないよな?」


不審者よりも厄介だろうな

ようやく起動したスマホを素早く操作してコール音が聞こえたのを確認するとまた周りを確認した。


『はいこちらニコの電話でーっす

わりぃなリュウのガキ、会議が長引いてまだ学校に向かう途中なんだわ。』


五コール目で出た相手は私を迎えに来る予定のニコだった。


「ニコ、緊急事態

よりによって学校にあいつが来た。」


それだけを言えば冷静に、そして真剣な声で急いでそっちに向かうから時間を稼げと言われた。

スマホ越しに聞こえるブレーキ音に驚いて大丈夫なのか聞いてもこっちの心配よりも自分の身の安全を気にしろと言われた。


『学校に一般人は?』

「たまたま一緒にいたクラスメイトが一人」


今でっかい舌打ちが聞こえた気がする

確かに私達の問題に一般の人間がいれば邪魔者扱いしたくなるのも頷ける。

でも守らない理由にはならない、何が何でも守るのが私達のけじめでもある。

通話を切って逃げ道を慎重に選んで足音を立てずに廊下を歩いていると、耳元で秋元勇利が囁いてきた。


「なあ…さっきからわからないことだらけなんだけどさ

あいつってなんなの?あんたは何者なんだよ」


流石にごまかせないよな

どうにか逃げて施設に連れて行って記憶操作のできる義獣人を探さないと。

というかそんなモンスターっていたっけな…年々義獣人は減る一方だから。


「今は逃げることだけに集中して

ニコには連絡したから後は…」



刹那



廊下の曲がり角に待ち構えるようにこちらに伸ばす腕は確実に私の喉を狙っていた。

素早く体を引いて紙一重でそれを避けると、後ろにいる秋元勇利に下がるように叫んだ。

まさか先回りされていたなんて、予想は出来ていたはずなのにだめだった。


「けけ…俺と同じなのに生意気に学校に通っているのかよ。

俺、そういうのいけ好かないんだよな」


蜘蛛のように天井に張り付くそいつは間違いなく私がグラウンドで見た緑色の髪の毛の同胞だった。

生意気に学校に行く私がそんなにおかしいのだろうか

私は十三歳の中学一年生だ、十分に学校に通う資格はある。


「悪いけど、私はあんたとじゃれている暇は無いの

一昨日来やがれ」


後ろに下がった彼の目を片手で塞いで空いた片手から鱗を飛ばした。

最近覚えた鱗の操作がまさかこんな形で実践されるとは全く予想出来なかった。

奴の両目めがけて飛ばしたからある程度の時間稼ぎは出来たはず。

秋元勇利の体を軽々と持ち上げて廊下を走ると階段の前まで来た。

ここは3階、下まで降りてできるだけ逃げ道を確保しないと

こっちには義獣人を知らない一般人がいるんだから知らないままこの出来事は終わりにしてもらいたい。







「俺を舐めないでほしいなぁ…トカゲちゃんよぉ!」



ハッとして担いでいた彼をおろすのと同時に廊下の奥から飛んできたのは粘性のある白いなにか

体に巻き付いて身動きが取れなくなった時ようやくそれが蜘蛛の糸であることに気づいた。

なるほど、あいつ蜘蛛系モンスターの義獣人ということか。

ギチギチと手を縛る糸がきつく巻き付いてきて血の流れが止まるのではないだろうか。

本当にふざけないでほしいな


「逃げてっ!外に逃げて紫の髪の毛とコートの男から離れないで!」


私の為にも逃げて化け物達の存在を忘れて欲しい

唯一動かせる顔だけでどうやってこの状況を打破することが出来るかを考える時間すらも惜しいんだよ。





「さっさと逃げろよこのノロマ野郎がぁ‼」




咆哮混じりの叫びは彼の身を震わせて怯えた顔を浮かべた。

もしかして今の私はとても怖い顔をしているのでは無いか?

もう最悪だ

せっかく普通の人間のように学校生活を送れると思ったのに同胞の襲撃のせいで全部がめちゃくちゃ

口から漏れ出る煙すらも吸い込み飲み込むと体に巻き付いた糸に噛みつき食いちぎった。

少しは動けるようになって手に巻き付いたものを掴んで皮膚まで引っ張られる感覚に顔を顰めた。


「なに人間を逃してんのよ…そんな事したら見えないところで食われちゃうよ?」


その言葉で不安になってしまう心なんて邪魔でしか無い。

捨ててしまいたい不安感は段々と大きくなって奴の横にある白い糸の玉にぎょっとした。

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みんなの感想(1件)

花雨
2021.08.14 花雨

作品登録させてもらいました♪ゆっくり読ませてもらいます♪

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