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7章 中年は色々頑張ってみる

第71話 今は使われない手法って話

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魔法陣の本が届いた後、ウキウキしながら神殿を訪れた。
それは魔法陣さえ使えれば、生活魔法で苦労することはない。

マッチがなくても魔力で火がつけられるし、水も生み出せる。
これはかなり大きい。生活の質が格段に上がる。

そのためには闇魔法が必要なので、今日は神殿にウカンデさんを訪ねてきた。
本に書いてあるいくつかの魔法陣をフェダに作ってもらった小さな鉄板に刻んでもらおうと考えていたからである。

神殿にあるウカンデ神殿長の部屋を訪ねた。

「おぉシュウさんか、やっと来やがったか。」

<ん?>

「お主ニテから伝言を聞いて来たわけではないのか?」

私は訳が分からないまま『えっ?』ととりあえず伝言は聞いていないことをアピールしてみた。
というのもウカンデさんが伝言を頼んだのはついさっきの事らしく、
ちょうど私が来るのとすれ違いになってしまっていたらしい。

「これでお主にようやく『洗礼』を刻めるぞい!」

私はその言葉を聞いてかなりびっくりした。
『もう一度魔法を使えるようになれる』可能性がそこにはあったからだ。
とりあえずウカンデ神殿長の話を聞くことになった。

どうも、ウカンデ神殿長は前回『洗礼』を刻めなかったことで、
既に寄付金を貰っていることと、自分が未熟なんじゃないかといろいろ調べていたらしい。
そこで未熟な神官が行っていた今では使われない手法を王都の教会に尋ねていたらしい。

王都の禁書庫にもそんな情報はなかったはずなので、私は半ば聖痕はあきらめていた。
しかし、ウカンデ神殿長の話では、王立図書館以外にも実はエリス教本部にも別の図書館があるらしい。
教会の神官たちが書き留めたものや、一部禁制となっている神事などの蔵書があるらしい。
私が教会本部に行ったのはリリスに吹っ飛ばされに行っただけだったので、
あそこに書庫があるなんて知らなかった。しかも王立図書館にない本もかなりあるようだ。

ウカンデ神殿長が調べてくれたのは魔法に頼らない聖痕の刻み方や魔法陣の書き方。
実は聖痕も広い意味では魔法陣といえるもので、闇魔法を使わずともそれが刻めるというのだ。

話をさらに聞くと、まずはインクを作る必要がある。
インクとなるは魔石を砕いて粉状にしたものと木を燃やした炭を粉上にしたものを、
薬草の汁で練ったもの。
これにより魔法陣を描けるインクが完成する。
要は、魔石の粉が魔力の通り道になることで、魔力を流すと結果的に魔法陣が発動できるというもの。

もう一つは文字通り、魔法陣を刻む方法。これはいわゆるタトゥ。
いわゆる入れ墨である。

先に書いたインクで魔法陣を体に彫る。
すると闇魔法で体に『洗礼』を与えたのと同じことになるという事だった。
但し、闇魔法で刻んだものと違い、一生不変。
つまり、一度『初級』を刻んでしまえばずーーっと『初級』のままという事らしい。
ウカンデ神殿長のプライドをかけた調査は、結果的に今では魔法でできるため使われなくなった手法を
引き出してくれる結果となった。

「というわけじゃからお主に刻んでやろうと思ってな。」
そういいながら少し小ぶりのナイフのようなものを神殿長は取り出した。

「ちょっちょっと待っていただけますか!」
私は急いでウカンデ神殿長を制止する。

「どうした?出血大サービスじゃお主がわしから与えられた土魔法の印を刻んでやろう。」

ウカンデ神殿長はニヤニヤとナイフを振りかざしている。
しかしここで私だけが知っている問題がある。
土魔法が使えるのは非常にうれしい。しかしそれは『上級』。
空間魔法や聖魔法、闇魔法を使おうと思えば『特級』を刻まなければならない。
しかし、ウカンデ神殿長は『上級』を刻む気マンマンなわけである。

しかもナイフで・・・

私は現世ではタトゥなんて入れたことはない。
だから道具なんてよく知らないのではあるが、多分ただのナイフじゃない。
なんか剣山の針が先に付いたような器具だった気がする。

「神殿長。ご確認いただきありがとうございます。しっしかし、少し待っていただけませんか?
私は痛いのは苦手でございます。今しばらく心の準備を、というかその作成されたインクとやらで
チャラというのはどっどうでしょう?」

私の額からは冷や汗が流れる。
ウカンデ神殿長は少し、残念そうな顔をしながら、
『まぁ彫る手間がなくなるならいいじゃろう。』という事で納得してくれた。

王都に行けば、私が王都の禁書庫で書き写した『特級』の聖痕があるはず。
それを刻めればまた以前のように魔法を使えるようになる。
その可能性の為にも今は『上級』を刻むわけにはいかないのである。
聖魔法も闇魔法も、そして一番大事な空間魔法も使えなくなってしまうから。

ウカンデ神殿長とのやり取りを終えて、そのインクの入ったポーション瓶らしきものを受け取り
私は神殿を出た。『これで洗礼の件はチャラじゃからな~』と部屋を出る時に念を押されたので、
笑顔で、お礼を告げて家に戻った。
一応、このインクにも使用制限があり1か月程度しか使えんからとインクの材料と製法を書いた紙を一緒に渡してくれた。
ああ見えてウカンデ神殿長いい人。エリス教会の秘蔵レシピをくれたわけだから。非常にありがたい。

とりあえず家に戻り、インクを大切に仕舞って、取り合えずフェダの所に行ってちょっと特殊なタトゥ用の針を注文した。
それは縫い針の非常に短いものを6本くらい等間隔で束ねて、柄を付けてもらう感じにした。
『なんじゃこれは?』とフェダに聞かれたが、『体に絵を描く道具?』と答えると、すごく不思議そうな顔をされた。
鍛冶ギルドを出ると、ニテとあったので、伝言を聞いた。
ちょうど行き違いになって先ほどウカンデ神殿長とお会いしたことを伝えると『なぁんだ~』と安心された。

時間的には夕方ほどだったので、晩御飯を一緒に食べようという事になって冒険者ギルドで晩御飯を食べた。

このままチェスターに居たい自分と、ブランディング領でのことを思いながら、
どうしたいか悩むしかなかった。
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