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第32話

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「結局いつ頃目覚めるの?」

「ウチにも分からん。基本的に効果時間は30分やからその位に目覚めるんちゃうかな」

 と二宮さんが答えたタイミングと同時に悠理が目覚めた。

「二宮!!」

「いたいいたいいたいいたい!!!!潰れる潰れる!!!」

 起きて早々に悠理は二宮さんの頭を掴み、全力で捻りつぶそうとしていた。

「やめてあげて悠理くん!二宮さんも悪気があってやったわけじゃないんだろうし」

 そう小野田さんが懇願すると、無言で二宮さんの処刑を中断した。

「あら」

 加賀美が悠理を見て笑っていた。悠理の顔が真っ赤だったのだ。

 もしかして

「なあ悠理さんや。体が動かなかっただけでさっきまでの出来事大体知ってるんだろ?」

「ば、馬鹿!んなわけねえだろ!さっきまで薬飲まされて気絶してたわ」
 珍しく分かりやすいことで。

「うんうん。せっかくの小野田さんからの膝枕だったんだものな?十分堪能したかい?」

 俺は小声でそう聞いた。

「はあ。絶対に言うなよ」

「はいはい。ただ加賀美には普通にバレてるからな」

「そういうことです」

 悠理に気付かれないように背後から迫っていた加賀美が声をかけた。

 いやあいつもなら気付いていたんですけどねえ。

「黒須さんなら私としても大歓迎ですよ。頑張ってください」

「頑張ってねじゃねえよ勝手に決めつけんな」

 悠理が加賀美からお墨付きを貰ったところで今回の研究所巡りは終了した。

 ちなみに、あの話をしている時に二宮さんは小野田さんの横で何かを勘付いたような顔をしてニヤニヤしていた。

 とは言ってもあの人は基本的にアホなので多分間違った結論に達していることであろう。


 加賀美の会社見学に訪れてから約一週間が経った頃、俺と加賀美はとある問題を抱えていた。

「悠理くん。おはよう!環だよ!」

「よ、よう。ちょっと用事があるから隣のクラスに行ってくるわ」

「え、ちょっと待ってよ!」

 こんな光景がこの一週間ほど繰り返されている。

「どうするよ」

「変に意識してしまいましたね。これじゃあ一歩後退です」

「せっかく膝枕まで進んだのにな」

「全くです。このままだと最初に逆戻りになってしまいます。だから膝枕しませんか?」

 椅子に座り膝をぽんぽんと叩く加賀美。

「今のどこに繋がりがあったんだよ。そして俺の首を壊す気か」

「大人しく従ってもらえるのであれば大助かりでしたのに」

「まあそんなことはどうでもいいんだ。さっさとくっつけようぜ」

 顔が分からなくなってからは鳴りを潜めていたが、悠理は結構なむっつりだからな。

 今回はどうにかなっても次回が絶対に起こる。

 そうなったら正直面倒だ。

「じゃあ黒須さんは任せました」

「了解」

 俺たちは二手に分かれ、ケアをすることになった。

「というのが事の顛末なんだが。早くくっつけよ。そして好きなだけ膝枕してもらえ」

「こういう話を本人の前でするんじゃねえよ…… というか膝枕は所望してねえ」

 顔を若干赤くしながら反論する悠理。なるほど。君の気持ちはよくわかった。

「にしてもお前ら最近普通に仲いいよな。前と違って二人でいることも結構多いし」

「そんなことはねえ。あいつは俺の事を好きだが俺はあいつのことが嫌いだ」

「そうですかい」

「単に利害関係がよく一致しているからだよ」

 主にお前らの関係について。

「まあ俺と加賀美についてはどうでもいいんだ。本題はお前らだ」

「ということでこんなものを提案する」

 俺はあらかじめ準備してあった画像を見せる。

「これは何だ?」

「最近ここら辺に出来たというケーキバイキングの店だ。元々アメリカで人気だった店なんだが、初めてこの日本に上陸したというわけだ」

「それがどうしたんだ?」

「お前らには是非二人で行ってもらいたいと思う」

「何のために?」

「お前ら結局二人っきりでどこかに行ったことが無いだろ?」

 小野田さんと悠理は俺と加賀美が居る時以外基本的に一緒にいることが無い。

 だからこそ、俺たちに気を使っているのではないかという話だ。

「まあそうだな」

「ちなみにケーキは小野田さんの大好物だそうな。ただ、普通なら一緒に行くはずの加賀美という女はケーキがあまり好きではない。そこで、お前が行くんだ」

「この感じだと小野田にも既に伝えてありそうだな」

「当然。小野田さんは悠理が行く前提で加賀美が説明している」

「つまり逃げ道というものは無いんだな?」

「ああ。もし来なかったらお前の家を二宮花に教えた後、襲撃させる」

「くっ、分かったよ」

 ということで初デートが決まった。
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