死せる勇者、魔界で生きる 〜蘇った俺はただ静かに暮らしたい〜

夢乃アイム

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第一章:再び目覚めた勇者

第十二話:断絶する信念

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 レティシアの淡い金の髪が、薄暗い魔界の空の下でわずかに輝いた。短く切り揃えられた前髪が、かすかに揺れている。

 彼女は剣を構えたまま、セリオを真っ直ぐに見つめている。

「……答えてください、セリオ様」

 その声は震えていた。しかし、それは恐怖ではなく、怒りと疑念によるものだろう。

「なぜ、あなたが魔族とともにいるのですか?」

 セリオは、目の前の少女を見つめ返した。

 彼女は成長していた。

 かつて、自分が助けたあの幼い少女——。

 故郷を魔族に滅ぼされ、絶望の中にいた彼女を、剣をもって守ったことを覚えている。

 あのときは、まだこんなに幼かったのに。

 だが、今のレティシアは、もはや守られる存在ではなかった。

 ——いつの間に、こんなに強くなった?

「答えなさい!」

 レティシアの叫びが、セリオの思考を引き戻す。

「……気づいたら、ここにいた。それだけだ」

「そんなはずはありません! あなたは正義の騎士だった! 弱き人々を守るために剣を振るっていた!」

「……」

「なのに、どうして魔族と一緒にいるのですか!? あなたが救った人々を、今度は見捨てるのですか!?」

 セリオは静かに目を閉じた。

 ——救った、か。

 確かに、あの時の彼女を救ったのは自分だ。

 だが、だからといって、今もその信念のままでいられるとは限らない。

 何より、自分はもう“人間”ではないのだ。

 今の自分に、果たしてかつてのような“正義”を語る資格があるのか?

 沈黙するセリオの横で、リゼリアが小さく息をついた。

「……面倒な子ね」

 彼女は、レティシアを一瞥する。

「セリオはもうあなたの知っている“人間の騎士”じゃないのよ。彼は死んだの。今ここにいるのは、彼の亡霊——魔界の住人として生きる者よ」

「そんなこと……認めません!」

 レティシアが剣を構え直した。

「たとえ死んだとしても、セリオ様はセリオ様です! あなたたち魔族に囚われ、操られているというのなら、私がこの手で解放します!」

「ふぅん、解放ね……」

 リゼリアは冷ややかに笑う。

「人間って、どうしてこうも身勝手なのかしら」

 次の瞬間、レティシアが地を蹴った。

 その刹那——鋭い刃が、セリオの前に迫る。

 かつて救った少女の剣が、今、自分を斬り裂こうとしていた。

 セリオは、それを迎え撃つべく、剣を構えた。
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