月見坂高校アマ無は訳あり

クリヤ

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(3)楽器をやめた訳

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 「うちが、ど~んと一発シメてやろうか?」
 「それは、ダメ」
 「なんでだよ! あんなヘナチョコ野郎、すぐだぜ?」
 「ミズキ、それは問題になりますよ?」
 「そう! 同じ生徒だったらさ、ど~んでもいいんだけど」
 「教師だと悪りぃやつでも、ダメってことか?」
 「教師っていうか、ああいう卑怯なやつはダメだね」
 「あいつ、卑怯なのか? だったら、ますます……」
 「そういうのは、最終手段にしましょう」
 「それに、あたしたちは何もされてないでしょ?」
 「んじゃ、ササキちゃんがほかの先生に言うとか?」
 「サトウちゃんね。困ってることを、自分から言える子ならね」
 「え? 困ってるって言えないやつがいんのか?」
 「それは、いるでしょう」
 「じゃあ、困りっぱなしじゃねぇか」
 「まぁ、そうだね。卑怯なやつは、そこにつけ込む」
 「まぢか! じゃあ、どうすんだよ?」
 「なんとかしないといけないのは、たしかですね」

 音楽室に入った時に、サラは見てしまった。
 生徒の体に後ろから腕をまわそうとしている田川を。
 サラたちが現れたことで、慌ててその腕を引っ込めていた。
 そして、それをごまかすように強い態度を示したようだった。

 (ああいう人間には、吐き気がする)
 サラは中学時代を思い出していた。

 「はい! そこ! ズレてる!」
 「すみません!」
 「ちゃんとみんなの音聞いて」
 「はい」
 「もう一度、初めから。さん、はい」

 中学で始めた楽器。
 音楽は好きだったし、金管はサラに合っていた。
 木管だったら、ぷすぅとしか出ない音。
 金管なら、どの楽器だって好きな音が出せた。
 歌が好きだから、本当は合唱部に入りたかった。
 けれど、朝練は家が遠いサラには難しかった。
 放課後練しかない吹奏楽部。
 (どっちも音楽だし、いっか)
 そんな軽い気持ちで始めた楽器は、サラを魅了した。

 
 2年までは、気の合う部員たちと無関心な顧問の元で楽しくやれていた。
 ところが、3年になって新しい顧問がやってきた。
 前の学校でも吹奏楽部の顧問をやっていたらしい、新顧問。
 「今年はコンクールで必ず金を取る」と一方的に宣言した。

 元々、音楽が好きで集まった吹奏楽部。
 だが、あまりコンクールに興味はなかった。
 むしろ、文化祭での定演や運動部の応援など楽しむ演奏がしたかった。
 本気で演奏家を目指す子たちは、すでにプロに習っていた。
 だから、部活は楽しい息抜きの場だった。

 それなのに……。
 新顧問は、パートごとにテストを始めた。
 クリアした子としない子。
 明らかに優劣をつけた。
 気に入らない子には、嫌がらせをくり返す。

 「おまえは、自分だけ目立とうとするな!」
 「はい」
 「『はい』ってことは、目立とうとしてんのか?」
 「いえ」
 「どっちだ?」
 「目立とうとはしていません」
 「オレに口答えすんのか?」
 「していません」
 「それが口答えなんだよっ!」

 お気に入りの子には、『指導』と称してべったり張りつく。
 それこそ、その子の体に腕をまわして嬉しそうに。
 逆らうことをしない、おとなしい子には特に。

 「うん。合ってるんだけど、もうちょいこうだな~」
 「あ、はい」
 「いや、違う違う。こうだよ」
 「……はい」
 「髪の毛、邪魔そうだな。結んでやるよ」
 「え? あ、でも……」
 「いいから、遠慮すんなって」

 必要のない接触が多い。
 そう、さっきの田川のように。

 「先生、それって『指導』じゃなくない?」

 気持ちの悪い『指導』とやらに、嫌気を覚えていたサラ。
 ある日。
 そんな言葉が、口からこぼれ出ていた。

 次の日。
 音楽室の前に張られた大きな模造紙。
 朱色の墨で書かれた達筆な文字。

 『次の者、授業以外での音楽室への入室を禁ず』

 そこには、サラの名前とサラに賛同した部員たちの名があった。

 公立校で、そんな理不尽がまかり通るはずがない!
 抗議にいったサラたちに、顧問はひとこと、こう言った。
 「二度とオレに逆らわないって誓約書を書けば、外してやるよ」
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