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クリヤ

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第2章 訪れた過去

(5)ブルーベリーゼリーの煌めき

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 ある日の夕方。
 晩ご飯の支度をしながら、それとなく、ショウゴは過去の話を切り出す。
 今日のナオキは、暇なのか、ショウゴの背中にべったり張りついている。

 「ナオキの高校の時の話、聞きたいな」
 「……え? つまんないよ」
 「つまんなくない。ナオキのことなら、知りたいもん」
 「ん~、部活もやってなかったし……」
 「バイトは?」
 「禁止だった」
 「好きな人は、いた?」
 「う~ん、いたけど」
 「その話、聞きたい」
 「ダメ。オレが、今、好きなのは、ショウゴだけだし」
 「え~っ! いいでしょ。妬かないから!」
 「妬かないって言い切られると、むしろ言いたくない」
 「ふふ。じゃあ、妬くかも」
 「じゃあ、ダメ」
 「なにそれ、イジワルじゃん!」
 「オレは、ショウゴの話が聞きたい。オレのこと、好き?」
 「うん。すっごく」
 「どこが?」
 「たぶん、ひと目惚れみたいな感じ?」
 「じゃ、顔ってこと?」
 「ははは。顔は、もちろん好きだけど」
 「ほかには?」
 「雰囲気とか……、あ、匂いが好き」
 「匂い? オレ、特に、なんもつけてないけど?」
 「いい匂いだよ、ナオキの匂い。エッチな気分になる」
 「そんなこと言われたの初めて。なんか嬉しいかも」

 ショウゴは、ナオキに、うまく、はぐらかされた気がした。
 ナオキと話すのが楽しくて、つい目的を忘れてしまう。
 グイグイとしつこく聞くことはできる。
 そうすれば、もしかしたら、答えてくれるのかも知れない。
 けれど、それで嫌われるのは、絶対に嫌だった。

 (だけど、好きな人はいたんだ……。なんか悔しい)
 (でも、当たり前だよね? 過去は、ボクのものにはならない)
 (分かってるけど、その過去、上書きしたい……)
 (どうすれば話してくれるかな? やっぱり、アレを使う?)

 すっかり、ショウゴは、酒入り菓子の虜になっていた。
 少しのお酒で、ナオキの本音が聞ける。
 嫌われるかもと怯えずに済む。

 (クセになっちゃいそう。ナオキ、ごめん!)

 一応、謝罪の気持ちは持ちつつも、どこかで喜ぶ自分がいる。
 ショウゴは、それを自覚しながらも、やめられなかった。

 「あれ? また料理?」
 「ううん。ゼリー作ってる」
 「まぢで? オレ、ゼリー、好き。最近、どしたの?」
 「う、うん。簡単なお菓子だったら、作れるなって」
 「そっか。楽しみにしてる」

 おやつを楽しみにしているナオキに、チクリと罪悪感を覚える。
 だが、それ以上に、ナオキのことを知りたい気持ちが強くなる。

 (ナオキが、すんなり教えてくれないのが悪いんだよ?)
 (だって、知りたい。好きなんだもん!)

 好きなら、何をしてもいいわけではない。
 ショウゴの理性は、そんなことは、とっくに分かっていた。
 脳内から何かおかしな物資でも出ているのではないか。
 そう思うほど、ナオキのすべてに執着している。
 ショウゴは、そんな自分を止められなかった。


 ***

 風呂からあがると、ナオキに部屋に誘われる。
 最近は、長い海外ドラマに、ふたりでハマっている。
 ナオキの部屋は、あいかわらず、いい匂いがする。
 その匂いは、ショウゴの腹の奥にズクンと熱い火をつける。
 すぐにでも、ナオキにキスしたい気持ちをどうにか鎮める。

 「ナオキ、ゼリーできたよ」
 「キレイな色だな。ブルーベリー?」
 「うん。今は、生のブルーベリーが売ってるから」
 「うまそう。食べていい?」
 「どうぞ。はい、紅茶も」

 季節は、すっかり夏らしくなって、風呂あがりのナオキは薄着だった。
 首筋がしっとりと濡れて、色気があふれて見える。
 ゼリーを食べた喉元が、波のようにうねる。
 ショウゴは、ゴクリと自分の喉が鳴る音を聞いた。

 (うわっ。ボク、めっちゃ、やらしい)

 あわてて、ショウゴもゼリーをほおばる。
 ブルーベリーの甘酸っぱさを引き立てるようなラム酒の香り。

 (あれ? 結構、お酒っぽい香りが残ってるなぁ……)
 (ナオキは、気づいちゃわないかな?)

 「……ショウゴ、エッチなこと、しよう?」
 「ナオキ? ゼリー、食べちゃった?」
 「うん。……おいしくて、いい気持ち」
 「エッチの前にさ、お話しない?」
 「……え~、やだ。ショウゴに、さわりたい」
 「さわりながら、お話してくれる?」
 「それなら、……いい」

 また、ショウゴを誘惑するようなトロンとしたナオキの目つき。
 その目を見ると、ショウゴは、ナオキにむしゃぶりつきたくなる。
 けれど、どうにかこらえて、話を切り出す。

 「ナオキの好きだった人の話、聞きたいな」
 「ん~、いいよ。チューさせてくれたら」
 「うん。じゃあ、高校の時、好きだった人は、どんな人?」
 「ん~と、ひとつ下の学年の子」
 「どうやって知り合ったの?」
 「体育祭で。おんなじ組で」
 「……付き合ってたの?」
 「うん、一応」
 「一応って?」
 「すぐに振られちゃった。重すぎるって」
 「どういう意味?」
 「ほら、オレ、ウザいから。ずっと一緒にいたいほうだし」
 「ウザくないよ。ボクなら、嬉しいのに」
 「ふふっ。ショウゴと先に出会ってたら、ショウゴを好きだったよ」
 「ホント? その子とエッチした?」
 「してない。したのは、ショウゴが初めて」
 「ホントに?」
 「ホントだよ。信じない?」
 「信じる……。あ、でも……」

 そう言いかけたショウゴの唇は、ナオキの熱い吐息とともにふさがれる。
 酒入りの菓子を食べたナオキは、いつもよりも興奮しているように見える。
 ナオキの唇は、すでにショウゴの好きな赤色に染まっていた。
 口内を、くまなく探っても、まだ足りない。
 ショウゴは、そんな気がしていた。
 部屋が、ひどく暑く感じる。
 Tシャツを脱ぎ捨てると、胸の突起はぷっくりと膨れていた。
 ナオキが目ざとく、それを見つけると口に含む。
 じっくりとしゃぶられると、ショウゴの腰が自然に動き出す。

 (ナオキが欲しい。今のナオキが欲しい)

 ナオキの指が、ショウゴの窪みを探り出すと自分から動かしてしまう。

 「ショウゴ、かわいい。欲しいって言ってる……」
 「うん、ボク……、ナオキが欲しい……」
 「嬉しい……。オレも、ショウゴに包まれたい」

 ゆっくりとショウゴを貫くナオキ。
 後ろから抱きしめながら、ショウゴの背中に唇を落とす。
 キュッと吸われる痛みさえも、ショウゴには、快感をもたらす。

 「……んっ、……はぁっ、ん、んくっ。……あふぅ」

 声を抑えることが、まったくできない。
 腰の動きも止められない。
 頭がぼんやりしてくる。

 (あぁ、もう。これだけで、ボクは幸せなんじゃない?)
 (ナオキと繋がっていられれば、もうなんでもいい……)

 ショウゴ自身は、とっくに達していた。
 今日のナオキは、激しい劣情を抑えるように、ゆっくりと動く。
 ショウゴを離さないという意思が伝わってくる。
 そんな気がする。
 向かい合わせになって唇を合わせても、ナオキの動きは続く。
 今までにないくらい、ナオキとひとつになっていると感じる。
 飛びそうになる意識を、ショウゴは必死に保っていた。

 サイドテーブルの上に置かれたゼリーが、紫色に煌めく。
 ぼんやりとした意識の中で、ショウゴは思う。

 (ナオキさえいれば、なにも要らない……)
 (この気持ちを伝えたい……。口に出したい)
 (でも、言ったら嫌われる? 引かれるかなぁ?)

 「ショウゴ、ホント? オレは、引かない。絶対に」
 「ナオキ……、好き……」
 「オレも。ショウゴ、嫌って言っても離さない」

 (ふふ。嫌なんて、言うはずないよ……)

 全身が震えるほどの快感に負けて、意識を手放す瞬間。
 ショウゴは、ナオキの満面の笑みを見た気がした。
 それは、ゾクリとするほどキレイだった。


 *****

 ナオキの本音が聞きたくて、酒入りの菓子を仕込んだというのに。
 ショウゴは、ほとんど何も聞き出せなかった。
 それどころか、いつも以上にとろけさせられてしまった。
 今朝は、昨日の余韻で、ショウゴの窪みはうずいたままだった。
 そっとベッドを抜け出そうとすると、後ろからぎゅっと抱きつかれる。
 そのまま、引き戻される。

 「ナオキ?」
 「今日はいいの? お守り」
 「……うん。あの、まだ、ナオキが中にいるみたいで……」
 「ふふ。でも、オレは、お守りつけたい。いい?」
 「うん。いいの?」
 「当然」

 今朝もナオキのお守りは、ショウゴの窪みにつけられる。
 じわりとしたうずきが、ショウゴを浮かれさせる。
 授業中も、机の下で、ナオキと指を絡めあう。

 キャンパスですれ違う人たちは、あいかわらずナオキを見ている。
 けれど、ショウゴは、あまり苛立ちを感じない。
 ナオキだけを見ていればいいと知ってしまったから。
 本音を聞き出す方法も知っているから。

 (ボクがナオキを好きなら、きっと大丈夫だよね?)

 人通りのない裏道を手を繋いで、ふたりでアパートへと帰る。
 ナオキの顔を見上げると、ニッコリ笑ったナオキはキスをくれる。

 (あぁ、幸せだ。ちょっと前まで悩んでたのが嘘みたい)
 (いつの間にか、ナオキの過去もどうでもよくなっちゃったなぁ)
 (なんだろ? ずっと、ふわふわしてる……)

 夏休み直前の夕方は、まだ明るい。
 じわっとした夏の湿気に包まれながらも。
 坂をおりるショウゴは、ただただご機嫌だった。
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