魅了なんて、オレには効かない

クリヤ

文字の大きさ
6 / 41
第1章 王都脱出

(6)暗殺指令

しおりを挟む
 *****

 ティムに守られるようにして、王子は道を急ぐ。
 行き先は決まったものの、王都からは、かなり離れた国。
 急ぐに越したことはない。

 夕日は、みるみるうちに沈む。
 あたりは、闇に包まれていく。

 「ティム、足元さえ見えない。灯火を使ってもいいか?」
 「そうですね、念のため、光明のほうがいいかも知れません」

 王子が、左手を握りしめて開く。
 その手に、白い光の玉が浮かぶ。
 その玉をいく先に向かって投げるように離す。
 50メートルほど先で止まった光が、あたりを照らす。

 「さぁ、まいりましょう」

 その光の玉に向かって歩き出そうとした時。
 光の下に、数人の人影が現れる。
 キョロキョロとあたりを見回して、何かを探しているようだ。
 
 「やつらは?」
 「おおかた、追いはぎの類いでしょう」
 「王都に近い、こんなところで?」
 「ええ。やはり、何かがおかしい」
 「ティム、いかがする?」
 「回避することもできますが、ここはとりあえず」

 ティムが隠密姿勢から、弓を使う。
 暗闇の中から飛んできた矢に、なす術もなく人影はバタバタと倒れる。

 「うっ!」

 ティムの背後で、小さなうめき声がする。

 「王子!」

 王子が首を押さえて、しゃがみ込んでいる。
 急いで反対側を向いたティム。
 少し離れた場所に、すかさず矢を放つ。

 ヒュン! ……ドサリ。
 矢が空を切る音がして、何かが倒れる音が微かに聞こえる。
 すべての敵を倒し、ティムは王子に駆け寄る。

 「王子!」
 「……ティム。すまない、足を引っ張るとは」
 「いいえ、王子。敵を見逃したわたしのせいです」
 「うっ」
 「今、癒しをかけます」

 ティムの手のひらが緑色に光る。
 その手を王子の傷ついた首筋に近づける。
 光に包まれた傷は、じわじわと治っていく。
 緑色の光が消えるとともに、傷もキレイに消えていた。

 「ありがとう、ティム」
 「いえ、このようなことは二度と」
 「長い旅だ。そう気負っていては保たない」
 「はい」
 「それに……」

 ティムの耳元に口を寄せた王子がささやく。

 「癒しの魔法って、気持ちいいから好き。
  ティムが体の中に入ってくるのと同じ感覚がする」

 顔を赤らめる王子に、ティムはにっこりとほほ笑む。
 そして、治したばかりの首に舌を這わせる。

 「あぁ、いやっ、傷が開いちゃう」
 「大丈夫。癒しの魔法は、完璧です」

 ティムが王子の首を堪能し終えると、ようやくふたりは立ち上がる。
 手を繋いで歩き出す。
 王子は、ティムに甘える声で言う。

 「ティム。体の中の火にも癒しをかけて。早く宿屋に行きたい」
 「王子。わたしもです。今しばらく、ご辛抱を」

 先ほど倒した敵に近づき、装備をはぎ取り、懐を探る。
 追いはぎの懐に、およそ似つかわしくないものを見つけて手が止まる。
 それは、一枚の紙片。
 
 「なぜ、追いはぎが紙など?」
 「おかしいですね。中を見てみましょう」

 ティムが慎重に、折りたたまれた紙を開く。

 「これはっ……!」

 紙に書かれていたのは、短い指令。

 【王子が逃亡。見つけ次第、始末しろ。従者も逃すな】

 「どういうことなんだ? なぜ、わたしの命を狙ってる?」
 「父は、これを予見していました。
  そして、わたしに『王子をお助けしろ』と」
 「しかし、わたしの命を奪って、誰になんの得があるというのだ」
 「分かりません」
 「おかしな婚約破棄から始まって、次はこれか」
 「ええ。父からは、避難通路を使って王子を逃がせとだけ」
 「もしやグリュンの姫は、何かを知って……?」
 「あり得ます。やはり、グリュンへ急ぎましょう」

 気持ちだけは、前へ進もうとするものの。
 思わぬ時間をくってしまい、闇夜がふたりの行く手を阻む。

 「街道沿いにある小さな宿屋を知っています。
  ひとまず、そこを目指しましょう」

 ティムが王子の手を引いて、そう提案する。

 「分かった。まかせる」

 そう言った王子の瞳には、心なしか期待の色が浮かんでいた。


 ***

 王子が光明を使うと、その光の下に追いはぎが現れる。
 光明は、遠距離の発光魔法。
 灯火は、自分の真上を照らす発光魔法。
 街灯などない、この世界。
 月の出ない夜は、真っ暗になる。
 発光魔法は、夜に行動する時には必須の魔法だ。

 旅の至るところに現れる、山賊、追いはぎ、野盗。
 こいつらは、プレイヤーにとっては、やはり収入源。
 プレイヤーレベルに合わせた装備をつけて現れてくれる。
 倒して装備品を自分で使うもよし、売るもよし。
 おいしい敵と言っていい。

 「ティム、いかがする?」

 王子が心配そうに聞いてくる。

 「回避することもできますが、ここはとりあえず」

 ここはもちろん、いただいちゃいます!
 隠密&遠距離攻撃なら、余裕だろ!
 オレは、次々と弓を引き絞り、敵を倒す。
 よっしゃ、最初から装備品ザクザク。
 敵が倒れる姿が、金に見えるぜ~!

 「うっ!」

 (うん? あれ? なんで王子、ケガしてんのぉ~!)
 (マズい、マズい。)
 (装備品ゲットに夢中で、王子のこと忘れてた!)
 (ぎゃ~! オレの推しに傷がぁぁぁ!)
 (まぢでコロス!)

 オレは、反対側に向かって矢を放つ。
 命中して倒れる敵。

 (ふんっ! オレの王子に手を出すからだ!)

 「王子!」
 「……ティム。すまない、足を引っ張るとは」
 「いいえ、王子。敵を見逃したわたしのせいです」
 「うっ」
 「今、癒しをかけます」

 癒しの魔法は、いわゆる回復魔法。
 他人にかけられる遠距離回復魔法を、癒しと呼んでいる。

 「癒しの魔法って、気持ちいいから好き。
  ティムが体の中に入ってくるのと同じ感覚がする」

 癒しで回復した王子は、オレにこんなことをささやく。

 (このかわいいエロさは、どうしてくれよう!)

 オレは、治したばかりの首筋を舐めまわす。
 うん、甘い。甘すぎる。

 「あぁ、いやっ、傷が開いちゃう」

 さらに王子は、いやらしい声でオレに言ってくる。

 「大丈夫。癒しの魔法は、完璧です」

 しばらく、王子の首から離れられないオレ。

 (まったく、けしからん王子だ♡)

 「ティム。体の中の火にも癒しをかけて。早く宿屋に行きたい」

 さらにさらに、追い討ちをかけてくる。

 オレは、ぎゅいっとなる体をぐぐぐっと押さえ込み。
 カッコいいセリフを吐く。

 「王子。わたしもです。今しばらく、ご辛抱を」

 
 それから、倒した追いはぎの装備を、はぎ取る。はぎ取る。

 (金だ、金だ~! ん? 紙?)

 追いはぎの懐から発見された紙。

 (なんだ、これ?)

 一周目の時に、こんな紙を見つけたことは無い。

 (これって、王子の暗殺指令じゃね? なんで?)

 ゲームの世界に迷い込んだオレ。
 だけど……。
 この世界は、ゲームとすべて同じってわけじゃない?
 そもそも、従者ティムなんていないんだから当たり前か。

 そういえば、ティムの父親のオッサン。
 色々知ってるみたいだったなぁ。
 あのオッサンも、ゲームには出てこなかったんだよなぁ。
 う~ん。

 ここで悩んでも答えなんか出るわけない。
 愛しい王子とのめくるめく夜を期待して、旅を続けよう!

 「街道沿いにある小さな宿屋を知っています。
  ひとまず、そこを目指しましょう」

 王子のベッドの上でのあられもない姿を思い浮かべて。
 鼻歌が出そうになるのをこらえつつ。
 オレは、そう王子に提案する。

 「分かった。まかせる」

 王子らしくキリッとした発言。
 だけど、繋いだ手をいやらしくからませてくる王子。

 (宿屋に着いたらすぐに、ベッドに連れ込んで。ふふふ)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

【完結】婚約破棄された辺境伯爵令嬢、氷の皇帝に溺愛されて最強皇后になりました

きゅちゃん
ファンタジー
美貌と知性を兼ね備えた辺境伯爵令嬢エリアナは、王太子アレクサンダーとの婚約を誇りに思っていた。しかし現れた美しい聖女セレスティアに全てを奪われ、濡れ衣を着せられて婚約破棄。故郷に追放されてしまう。 そんな時、隣国の帝国が侵攻を開始。父の急死により戦場に立ったエリアナは、たった一人で帝国軍に立ち向かうことにー 辺境の令嬢がどん底から這い上がる、最強の復讐劇が今始まる!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

私を追放した王子が滅びるまで、優雅にお茶を楽しみますわ

タマ マコト
ファンタジー
王国の茶会の場で、マリアンヌは婚約者である王子アレクシスから突然の婚約破棄を告げられる。 理由は「民に冷たい」という嘘。 新しい聖女リリアの策略により、マリアンヌは「偽りの聖女」として追放される。 だがマリアンヌは涙を見せず、静かに礼をしてその場を去る。 辺境の地で彼女は小さな館を構え、「静寂の館」と名づけ、紅茶と共に穏やかな日々を過ごし始める。 しかし同時に、王都では奇跡が失われ、作物が枯れ始めていた――。

欠席魔の公爵令嬢、冤罪断罪も欠席す 〜メイリーン戦記〜

水戸直樹
ファンタジー
王太子との婚約――それは、彼に恋したからでも、権力のためでもなかった。 魔王乱立の時代。 王も公爵も外征に出ている王都で、公爵令嬢メイリーンは“地味な婚約者”として王城に現れる。 だが、王太子は初顔合わせに現れなかった。 にもかかわらず、記録に残ったのは「公爵令嬢の欠席」。 抗議はしない。 訂正もしない。 ただ一つ、欠席という事実だけを積み上げていく。 ――それが、誰にとっての不合格なのか。 まだ、誰も気づいていない。 欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。

処理中です...