魅了なんて、オレには効かない

クリヤ

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第1章 王都脱出

(8)『森の主』と山賊退治

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 *****

 「あなたには、暗殺者としての資質があります。
  我らとともに、この世界を正して参りましょう」

 暗闇と同化したような、その男はティムに向かってそう言った。

 ***

 まだ夜も明けきらない早朝。

 王子とティムは、宿屋を出た。
 霧に包まれた森は、追っ手の目をくらませるのに最適だ。

 「ティム、次の行き先に当てはあるのか?」
 「ええ。この先に、大きめの農場があります。
  ひとまず、そこを目指しましょう」
 「なぜ農場に?」
 「食料調達のためと今夜の宿を借りるためです」
 「宿屋ではなく?」
 「昨日の様子だと、どこの宿屋も王都兵の巡回があるかと」
 「そうか、分かった」

 目の前は、数メートル先も見えない霧。
 しかし、ティムと王子は迷うことなく進んでいく。
 時々、ティムが手を握っては開く。
 そのたびに、紫色の光がボウッと手のひらを照らす。
 王子は、ただ前を向いて進んでいる。

 日が昇るにつれ、森の霧は薄まっていく。
 ガサガサ。ドスン、ドスン。
 不審な物音に、ティムがハッとしたように歩みを止める。

 「どうした? ティム」
 「しっ! 王子、隠密で。トロールです」

 ティムが指したほうに王子が目を向ける。
 木々の隙間から見える黒いかたまり。
 『森の主』とも呼ばれる毛むくじゃら。

 隠密姿勢で、弓を引き絞るティム。
 ヒュンッ!
 勢いよく飛び出した矢は、トロールに命中する。
 ところが、トロールはティムに向かって真っ直ぐに突進してくる。
 マズい!
 ティムが、弓を剣に持ち替えようとした時。
 ボワッ!
 ティムの斜めうしろから、火の玉が飛んでトロールに命中する。
 火がトロールの体毛を燃やす。
 突然の炎に、慌てて後ずさりするトロール。
 けれど、炎の勢いは止まず。
 トロールは、その場で力尽きた。

 「王子!」
 「危ないところだったな、ティム」
 「申し訳ありません。王子の手をわずらわせてしまい」
 「なにを言う。この旅に巻き込んでしまったのは、わたしだ。
  ふたりで助け合っていかなくて、どうする」
 「はい。ありがとうございます」

 その後も森の中では、クマ、オオカミ、イノシシと遭遇した。
 ネズミやカニとは違い、サイズに異変はなかった。

 「しかし、やはりおかしい」
 「なにが、おかしいのだ?」
 「これらの獣たちは、人を積極的には襲いません。
  巣穴に近づいた場合か子を守るため以外には」
 「そうか。それは、おかしい。
  獣たちはみな、我らを目指して突進してきたようだった」
 「ええ。森にも何かしら、あるのかも知れません」

 ティムは、森の中に生える草やキノコなどを集めつつ進む。

 「それも、金になるのか?」
 「もちろんです。けれど、我々にも必要なのです」
 「その草が?」
 「ええ。薬の材料になります」
 「そうか。ティムには、錬金術の心得があったな」
 「はい。かじった程度ですが」

 日が空の一番高いところに昇る頃に、ふたりは農場へとたどり着く。

 「確かに大きな農場だ」
 「ええ。王都にも、たくさんの食材を納品しています」

 さっそく農場の中へと進む。
 広大な畑には、たくさんの野菜が育てられている。
 ニンジン、リーキ、トマト、レタス、イチゴなどが見える。

 大きな建物の扉を開ける。

 「おや、こんなところに客人とは。森に迷われましたかな?」
 「そんなところだ。食材の購入と一夜の宿を頼めるか?」
 「ええ、もちろん。構いませんよ」

 農場主は、気さくに部屋を貸してくれた。
 ティムは、ここに来るまでに得た獣の毛皮やキノコなどを売っている。
 王子が炎魔法で倒したトロールの脂肪もともに。

 「あなたは、大層、腕が立つようだ。ひとつ、頼みを聞いちゃくれませんかね?
  もちろん、礼はさせていただきますんで」

 毛皮やトロールの脂肪を見ながら、農場主が言う。

 「とりあえず、話を聞かせてもらおうか?」
 「ええ。実はね、野菜ドロボウに困ってまして」
 「ほう」
 「この近くの洞窟を根城にしている山賊がねぇ。
  毎夜、野菜を盗みに現れるんですよ。
  手塩にかけて育てた野菜が奪われるのは、ガマンならねぇ」
 「その山賊を倒せと?」
 「そうしていただけると、あっしもゆっくり眠れるんですがねぇ」
 「分かった。その頼み、引き受けよう」

 農場主からの頼みを引き受けるティム。
 王子が心配そうに、ティムに尋ねる。

 「そんなことをしていて、大丈夫なのか?」
 「ええ。まだ日も高いですし。それに、金は必要です。
  金が貯まれば、馬を買うことだってできます」
 「そうか。そうなれば、早く進むことができるな」

 日が沈む前に戻るために、ふたりはさっそく洞窟へと向かう。
 農場主に教えられた道を行くと、洞窟はすぐに見つかった。
 自然の洞窟に、木の扉がつけられている。
 ふたりは、隠密姿勢のまま、扉を開けて中へと進む。

 洞窟の中は、ひんやりとしていて周りは白い石灰岩で覆われている。
 上から垂れ下がったツララのような石からは、水が落ち続ける。
 地面に盛り上がった石には、足を取られそうだ。
 ふたりは、慎重に歩を進める。
 洞窟の中は、アリの巣のように枝分かれしている。

 ゆっくり進むうちに、開けた場所に出る。
 そこには、たき火を囲む山賊たちの姿があった。

 ティムが隠密姿勢から矢を射かけようとした時。
 ヒョウッ!
 どこからか、飛んでくる矢。
 その矢が王子の太ももを貫く。
 その光景が目に入るや否や、ティムは射手めがけて矢を放つ。
 射手は、バタリとその場に倒れた。

 「王子!」
 「だ、大丈夫だ。先に、山賊どもをっ」

 怒りの炎に身をまかせ、山賊を一掃しようとティムが立ち上がる。

 「お待ちくだせぇ! あっしらは、山賊じゃあねぇ!」


 *****

 めくるめく夜を過ごした王子とオレは、睡眠もそこそこに宿を出た。
 本当は、もう少し余韻に浸って、ワインでも飲みたいところ。
 だが、王都兵の巡回ルートに長居は無用。
 霧に紛れて、さっさと出発するのが吉ってもんだ。

 オレは、凛々しい顔を作って王子を先導する。

 でも、頭の中では、昨夜の王子の姿態を思い浮かべている。
 くねくねとみだらに動く腰。
 からみついたままの尻尾。
 存分に楽しんで果てたと思ったが、目が覚めて横を見ると再び欲望が。
 人に戻った王子の艶やかな肌にも抗えない。
 つい挑んでしまい、出発が少しだけ遅れた。
 
 (二度おいしい王子。最高すぎんだろっ!)

 次の行き先を、近くの農場に決めて歩き始める。
 王子には、ああ説明したが、本当の目的は別にある。

 早朝の霧は、あまりに濃すぎて自分の足元さえ見えない。
 だが、この世界には暗視魔法が存在する。
 手をぎゅっと握って、開く。
 紫色の光が現れると、オレの目は暗視ゴーグル状態。
 霧なんか気にしなくていい程度には、見えている。
 王子は、魔法要らず。
 カッツェンは、さすがネコ。
 暗闇でも霧でも見えているらしい。

 霧が濃い日は、獣たちも外には出てこない。
 楽に進めるはずだった。が!
 まさかのトロール登場!
 もう? もうトロール? 早くね?

 トロールは、腕の長いゴリラみたいな見た目。
 『森の主』と呼ばれるだけあって、パワーがヤバい。
 山賊なんかが、トロールにやられているのを見かける。

 コイツの弱点は、炎。
 分かっちゃいるけど、この初期状態。
 炎の矢も無いし、炎魔法も習得していない。
 腕を掴まれたりしたら、骨が粉々になる。
 とりあえず、矢を放つ。
 効いてない⁉︎
 やべぇ! どんどん近づいてくる!

 ボワッ!
 オレを救ったのは、王子の炎魔法。
 なんで習得済み⁉︎
 プレイヤーじゃない王子は、ステイタスが違うのか?

 そのあとも、次々現れる獣を倒しながら。
 草やキノコも採取しつつ、前に進む。

 嬉々として、草をむしるオレを王子は不思議そうに見る。

 「それも、金になるのか?」
 「もちろんです。けれど、我々にも必要なのです」
 「その草が?」
 「ええ。薬の材料になります」
 「そうか。ティムには、錬金術の心得があったな」
 「はい。かじった程度ですが」

 そうそう!
 このゲームには、錬金術がある。
 と言っても、いわゆる調合なんだが。
 回復薬や解毒薬を作れるのはもちろん。
 作った薬は高く売れる。
 錬金術はスキルでもあるから、上げとくとレベルアップにつながる。

 農場に着いて、さっそく毛皮や肉、草やキノコを売る。
 売りものを見た農場主が、オレに向かって言う。

 「あなたは、大層、腕が立つようだ。ひとつ、頼みを聞いちゃくれませんかね?
  もちろん、礼はさせていただきますんで」

 これは、お察しの通り、サブクエスト。
 ある組織に入るために、必要なクエストだ。

 「分かった。その頼み、引き受けよう」

 もっともらしい理由を聞いて、依頼を引き受ける。
 王子は、心配そうな顔をしている。

 (そんな顔もかわいすぎる! 今夜も楽しみだ♡)

 「そんなことをしていて、大丈夫なのか?」
 「ええ。まだ日も高いですし。それに、金は必要です。
  金が貯まれば、馬を買うことだってできます」
 「そうか。そうなれば、早く進むことができるな」

 ま、ホントは馬目的じゃ無いんだけど。
 あの組織に入るため、とはさすがに言えないから。

 洞窟へは、あっという間に着く。
 よく考えなくても、裏山に山賊住んでるっておかしくね?
 ま、ゲームだとあるあるだけど。

 見慣れたかたちの洞窟。
 鍾乳洞みたいな感じか。
 水がずっとポタポタ垂れているのには、まいった。
 地面もツルツルで危ねぇ。

 そんなことに気を取られていたせいか。
 一本の矢が、王子の太ももを貫く。
 その場に倒れる王子。
 その光景を見ると、頭に血がのぼる。

 (王子を貫いていいのは、オレだけなんだよっ!)

 怒りに支配されて、射手を倒す。
 そのままの勢いで、ほかのやつらも!
 そう思った時、その声は聞こえた。

 「お待ちくだせぇ! あっしらは、山賊じゃあねぇ!」

 おっと! やべぇ、やべぇ。そうだった。
 ここで、この人と話さないと始まらない。
 あの組織加入への道が。

 (それにしても、王子)
 (痛みに苦しむ姿も、色気だだもれ。やっぱり、けしからん♡)
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