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4章
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「しーちゃんが突き落とされたってどういうこと?!」
母からの電話に信じられず、オウム返しした。
「と、とにかく、警察に来て! お父さんもすぐ来るから合流し、して……」
電話口から漏れる母の焦燥感。
会社の時計を一瞥する。
昼休み終了まで後四十分だ。
確実に昼休みの間に会社に戻るのは無理だろう。
内容が内容だ。
「おい、高村、お前、顔色悪いぞ」と上司に声をかけられる。
手の力が段々抜けていく。
落としそうになった携帯を上司が掬い上げる。
「携帯落としそうだぞ。どうした?」
「い、いもう、とが……が、がっこうで、つ、つきおと……」
妹が学校で突き落とされたと言いたいが上手くいえない。
呼吸が荒くなり肩で呼吸する。
「妹が学校で突き落とされたんだな? どこの誰だ?」
「わ、わかり、ません……」
声が弱々しくなる。
「とにかく早く妹のところへ行きなさい。後の仕事はいいから。とりあえずどうなったか報告できそうなら言ってくれ」
「はい」
早退して車で母に言われた病院に向かう。
正直今思うとよく車の運転ができたと思う。
一刻も早く向かいたかった。
――一体なにが起きたの?
――妹が突き落とされたって? 一体誰?
警察に着くと、玄関で両親が待っていた。
父も仕事を早退して抜け出した。
私達家族は受付で名前を告げ、ある所に案内された。
遺体の安置室だ。
担任がそわそわしながら動き回っていた。
「高村さんが……」
担任の言葉がつっかえて要領得ない様子に私は腹立たしさが湧く。
「妹が突き落とされたってどういうことですか? 先生は何もしてないんですか?」
担任の顔が冷や汗出ていた。
まるで決まり悪いと言わんばかりに。
「高村さんは、た、田丸くんに、高村さんが断るからこうなったんですよ!」
声を裏返しながら責任転嫁する発言。
「ふざけんな! 娘が何したんですか? 逆に田丸というやつに普段からやられてるのは娘ですよ! ちゃんと言ってください!」
父が問い詰める。普段冷静な父が興奮気味で冷や汗ものだった。
「それは……」
担任はまだ言おうとしない。
ただ田丸が絡んでるのは確実だった。
「いい加減にしてください! ちゃんと説明してください! 汐里が突き落とされたってどういうことですか?」
両親と私達に囲まれて問い詰められる担任。
「それは……今言えません。上と相談してから詳細をお話します。中に入ったらわかりますよ。では失礼します」
担任は安置室を後にした。
安置室に入ると妹が安らかに眠ってた。
「しーちゃん?! 分かる? 私、おねーちゃんよ!」
顔を触ったら冷たかった。
声かけても反応しない。当然だ。
「何で? 突き落とされたって?」
「落ち着きなさい」
取り乱す私に父が冷静になるように嗜める。
「だって、しーちゃんが!」
冗談だと言って欲しい。
今でも覚えてる。
言い訳ばかりで何が起きたか説明しない担任。
警察署の方が私たちのもとへ来た。
お悔やみの言葉の後、会議室のような場所に案内され、事のあらましを聞かされた。
――田丸は妹を教室の窓から突き落とした。
修学旅行の班決めで妹のグループに田丸が入ることを断った。
それに逆上して妹を窓から突き落とした。
強く頭を打った上に血が出てたという。
教室は三階。
あんな上から落とされた妹はどうも出来なかったのだろう。
ましてクラスメイトも田丸の腕力に勝てなかったのだろうか、止めるにも止められなかったのだろう。
担任は「何してるんだーやめなさい」と言うだけで、何もしてなかったという。
妹のクラスはもちろん、学校で騒ぎになり、警察や救急車が来た。
すぐに学校から私たち家族へ連絡がきた。
「田丸は逮捕されないんですか?!」
「現段階ではなんとも……」
「人が一人死んでるんですよ!」
私達家族が詰めるように警察に尋ねるが、言葉を濁すばかりだった。
なぜ皆んな言葉を濁すんだ。
苛立ちと焦燥感、喪失感。このやり場のない感情をどこにぶつけたらいいのか?
それは両親も同じだ。
母からの電話に信じられず、オウム返しした。
「と、とにかく、警察に来て! お父さんもすぐ来るから合流し、して……」
電話口から漏れる母の焦燥感。
会社の時計を一瞥する。
昼休み終了まで後四十分だ。
確実に昼休みの間に会社に戻るのは無理だろう。
内容が内容だ。
「おい、高村、お前、顔色悪いぞ」と上司に声をかけられる。
手の力が段々抜けていく。
落としそうになった携帯を上司が掬い上げる。
「携帯落としそうだぞ。どうした?」
「い、いもう、とが……が、がっこうで、つ、つきおと……」
妹が学校で突き落とされたと言いたいが上手くいえない。
呼吸が荒くなり肩で呼吸する。
「妹が学校で突き落とされたんだな? どこの誰だ?」
「わ、わかり、ません……」
声が弱々しくなる。
「とにかく早く妹のところへ行きなさい。後の仕事はいいから。とりあえずどうなったか報告できそうなら言ってくれ」
「はい」
早退して車で母に言われた病院に向かう。
正直今思うとよく車の運転ができたと思う。
一刻も早く向かいたかった。
――一体なにが起きたの?
――妹が突き落とされたって? 一体誰?
警察に着くと、玄関で両親が待っていた。
父も仕事を早退して抜け出した。
私達家族は受付で名前を告げ、ある所に案内された。
遺体の安置室だ。
担任がそわそわしながら動き回っていた。
「高村さんが……」
担任の言葉がつっかえて要領得ない様子に私は腹立たしさが湧く。
「妹が突き落とされたってどういうことですか? 先生は何もしてないんですか?」
担任の顔が冷や汗出ていた。
まるで決まり悪いと言わんばかりに。
「高村さんは、た、田丸くんに、高村さんが断るからこうなったんですよ!」
声を裏返しながら責任転嫁する発言。
「ふざけんな! 娘が何したんですか? 逆に田丸というやつに普段からやられてるのは娘ですよ! ちゃんと言ってください!」
父が問い詰める。普段冷静な父が興奮気味で冷や汗ものだった。
「それは……」
担任はまだ言おうとしない。
ただ田丸が絡んでるのは確実だった。
「いい加減にしてください! ちゃんと説明してください! 汐里が突き落とされたってどういうことですか?」
両親と私達に囲まれて問い詰められる担任。
「それは……今言えません。上と相談してから詳細をお話します。中に入ったらわかりますよ。では失礼します」
担任は安置室を後にした。
安置室に入ると妹が安らかに眠ってた。
「しーちゃん?! 分かる? 私、おねーちゃんよ!」
顔を触ったら冷たかった。
声かけても反応しない。当然だ。
「何で? 突き落とされたって?」
「落ち着きなさい」
取り乱す私に父が冷静になるように嗜める。
「だって、しーちゃんが!」
冗談だと言って欲しい。
今でも覚えてる。
言い訳ばかりで何が起きたか説明しない担任。
警察署の方が私たちのもとへ来た。
お悔やみの言葉の後、会議室のような場所に案内され、事のあらましを聞かされた。
――田丸は妹を教室の窓から突き落とした。
修学旅行の班決めで妹のグループに田丸が入ることを断った。
それに逆上して妹を窓から突き落とした。
強く頭を打った上に血が出てたという。
教室は三階。
あんな上から落とされた妹はどうも出来なかったのだろう。
ましてクラスメイトも田丸の腕力に勝てなかったのだろうか、止めるにも止められなかったのだろう。
担任は「何してるんだーやめなさい」と言うだけで、何もしてなかったという。
妹のクラスはもちろん、学校で騒ぎになり、警察や救急車が来た。
すぐに学校から私たち家族へ連絡がきた。
「田丸は逮捕されないんですか?!」
「現段階ではなんとも……」
「人が一人死んでるんですよ!」
私達家族が詰めるように警察に尋ねるが、言葉を濁すばかりだった。
なぜ皆んな言葉を濁すんだ。
苛立ちと焦燥感、喪失感。このやり場のない感情をどこにぶつけたらいいのか?
それは両親も同じだ。
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